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「私が君を抱くことはない」と言い続けた私の末路~堅物女騎士はうっかり助けた魔導士に溺愛される~  作者: アオイ


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17.精霊姫

 目の前の姫君は、光に透けるような美しいシャンパンゴールドの髪に、見る者が魅了されそうな輝きを放つシャンパンピンクの瞳を持ち、とても人間業では成し得ないほどに美しいドレープの淡いグリーンのドレスを纏っていた。

 思わず私は見惚れて初動が取れなかった。


「さあルーク様、ワタクシと共に精霊界へ参りましょう!」

 姫君はルークに向かって手を差し出した。


「えっ、嫌です。それより何で来たんですか?早く帰って下さい」

 ルークはいつもの調子で申し出を一刀両断した。


「は?精霊姫であるワタクシが参りましたのよ?」

 なんと!姫君は精霊姫らしい。そう言えば以前、精霊姫の婿にと誘われたと言っていたな。これがその相手か。それにしても姫君として大切に育てられ、相手に拒否されたことなどないのだろう。しかも、人間からは崇められるような存在である精霊のお姫様だ。


「だから何です?僕には相手が精霊だろうと魔神だろうと関係ないですけど」

 精霊と相反する魔神と比べられ、さすがの精霊姫も引き攣っている。


「姫様、ルーク様もあのように仰っていますしここは穏便に退散いたしましょう」

 背後の美しい銀髪の従者が耳打ちしている。彼は精霊姫の護衛兼お世話係なのだろうか。常識が通じそうで何よりだが、彼の胃もまた心配になる。まあ精霊だからお得意の治癒術で治してしまえるのだろうかとどうでもいいことを考える。


「嫌よ!ワタクシのフィアンセはルーク様って決めてるのっ!それにルーク様の強大なお力を取り込むことは、精霊界にとってもプラスになるでしょう?」

 精霊姫の言葉に、従者の眉間に深い皺が寄る。

「ルーク様のお力を取り込むなどと。それは出来ないと陛下や王太女様からも言われてますでしょう」

「何でよっ、皆ワタクシがルーク様と結ばれることが気に入らないんでしょ。お父様は純血主義が過ぎるし、お姉様は羨ましいだけだわ」

「違いますっ!!」

 従者が強く言い聞かせるが、精霊姫は言うことを聞かない。


「あの、そういうことは精霊界(おうち)でやってくれませんか」

「!?」

 ルークの言葉に、全員がハッとしてルークを見詰めた。

 精霊姫を前にしてここまで平然としているこの図太い神経は賞賛に値する。


「それにしても、何故今ここにルークがいると…」

 思わず口にすると、精霊姫が今初めて私に気がついたようにこちらを向いた。

「あらあなた、ルーク様の護衛騎士の方?ルーク様の居場所なんて簡単に分かりますわ。だって、ルーク様にお渡しした精霊石を辿れば良いのですもの」

 私は思わず自分の鞘に収まっている精霊石を見た。

「ちょっと、何故あなたがそれをお持ちですの?それはルーク様の物ですわ」

 まさか、精霊姫が今日偶々この時間に来てくれたから良かったものの、少しズレていたら私一人で対峙していたというのか……。考えたくもないな。


「これは僕がディアにプレゼントしたので、ディアの物です」

「そんなっ、一介の人間風情には過ぎたるものですわ」

 仰る通りだ。私もそう思う。しかし、ルークから漂ってくる空気がどんどん重くなり剣呑になってきている。ここで私まで精霊姫を肯定してしまっては、とんでもないことになりそうだ。

「いい加減、口を閉じて帰ってくれませんかねぇ?」

「姫様、帰りましょう。これ以上ここに居るのは良くない。早く人間界の時間を戻して下さい!!」

 従者の顔色が悪い。彼には分かるのだろう、ルークがキレるといくら精霊とはいえただではすまないことを。

「帰るのならルーク様も一緒です!さあルーク様、こちらへ!!どうしてもと言うなら、とりあえず護衛騎士の方も一緒で構いませんわ」


「だから、ディアを護衛騎士呼ばわりするなっ!」

 ルークが叫ぶと、爆風に似た魔力が吹き荒れた。しかし、それは私の知っている風魔術ではなかった。風魔術はこんなに黒くない。

「ぐっ、ううっ…くっ……」

 精霊姫を護るように術を展開し前へ出た従者が胸を押さえて蹲った。

「ちょっと、どうしたの?一体何が?」

 精霊姫は困惑し、何を悟ったか急に私を睨みつけてきた。

「あなたですのね。おそらくあなたがルーク様を惑わし、このような蛮行をさせているのですね。こんな場所にルーク様を置いてはおけませんわ」

 精霊姫の瞳が一際輝いたかと思うと、光の波動のようなものがわたし目掛けて放たれた。


「うっ……」

 咄嗟に魔剣を鞘ごと翳し防御の構えをとり、波動を受け止める。幸いルークが施してくれていた魔術が効いているのか、何とか無傷で凌げている。

 魔剣を抜いても良かったのだが、万一精霊姫を傷つけて大ごとにはしたくない。あくまで彼女は精霊であって、打ち倒すべき魔獣ではないのだから。

「ディアに手を出すなっ!!」

 ルークの激しい威嚇に従者は完全に地に伏し、精霊姫は攻撃を続けられずその場に崩れ落ちた。


「あなた、僕のことを精霊王から聞いてないんですか?それとも覚えきれないほど馬鹿なんですか?じゃあ仕方ありませんね。身をもって知ってもらいましょう。これから先は全て精霊界側の責任です。あなたが無知だったこと、あなたを止めれなかったこと、そして僕の最愛のディアを傷つけようとしたこと。これがあなたの犯した至上最悪の罪です」

 ルークの威圧が恐ろしいことになっている。もし魔王が降臨したとしたらこんな感じだろうか。

 いや、私は怪我一つ負っていないからそこまで怒らなくても…などと言える状況では無かった。

「ひっ、姫様……」

 倒れた従者が悲愴な声を出す。

 肝心の精霊姫は腰が抜けたのか動けないでいた。


 ルークは精霊姫の前まで来ると、その腕を持ちあげた。

「えっ」

 強力な攻撃魔法を予想していたようだが、あくまで優しい扱いに精霊姫はホッとした表情を浮かべた次の瞬間。

「きゃぁっ……、ナ、ニを…、ぐっ……」

 ルークの触れているところから黒い煙があがり、更に精霊姫の肌がどんどん黒く変色していく。

「おっ、お赦し…下さい。どう、か、お赦…、し…を」

 いつの間にか這いずって来た従者がルークの足にしがみつきながら赦しを請うている。

 しかしルークはそちらを見ようともしない。

 何だこの地獄絵図は。

 気付くと精霊姫の左腕は完全に黒くなっていた。その変色はいよいよ心臓付近まで広がって行く。


「もういいっ、やめろルーク!!」

 気付けば叫んでいた。

 私の声に一瞬ピクリと反応したようにも思えたが、ルークは手を離さないしこちらを振り返らない。

「クソッ」

 私は魔剣を剣帯に装着し、ルークの元へ駆け出した。そして両手でルークの顔を掴み、私の方へ向かせ昏く沈む瞳を覗き込んだ。

「ルーク、魔力の放出を止めろっ!」

 相手を傷つけることに集中しているルークとは、まだ目線が合わない。これは使いたく無かったが致し方ない。

 私はルークとしっかり正面から向き合い、限りなく顔を近付け思いっきり、額に頭突きした。


「!?」

 やっとルークが魔力の放出を止め、精霊姫から手を離した。

 精霊姫はその美しい顔の一部まで黒ずんでしまっていた。

「姫様っ……」

 従者が這いずったまま精霊姫の元へきて、なけなしの力を振り絞って治癒術をかけていく。


「っていうか、頭突きって。普通ああいう時は口付けするのが定番じゃないですかぁ」

 やっといつもの調子に戻ったルークが拗ねている。

「定番なんて知らんっ。痛いのはお互い様だ」

 私は思わず自分の額を撫でる。どれだけ身体を鍛えても、額は鍛えられんな。


「もう、赤くなっちゃってるじゃないですか。僕には物理攻撃なんて効かないんですから、気をつけて下さいよ。痛い思いをするのはディアだけなんですから」

 文句を言いながらルークが額に治癒魔術をかけてくれる。

「ん?痛みで止まったんじゃないのか?」

「違いますよ。気付いたらディアの顔が目の前にあって、期待して目を閉じたら唇に来ないからおかしいなと思って止めました」

「はぁ!?」

 こんなヤツに必死で主の命乞いをしていた従者が可哀想だ。ふと精霊界の二人の存在を思い出す。


「なっ、何ですのコレは!?どうして、ワタクシの腕が…顔が…。治癒が効かないなんて……」

 精霊姫はパニックを起こしている。

「一体何をしたんだ?」

 ルークを見ると、冷ややかな目で二人を見下ろしている。


「だから言ったでしょう。精霊王は僕を取り込むつもりなど無いと。むしろ取り込めないんですよ。僕は精霊と相容れない闇属性も持ってますからね。それを分かって貰うために、純粋に闇の魔力のみを込めてあなたに触れたんです。膨大な魔力を持つ僕を精霊界に留め置いたら、どんどん闇に侵食されますよ。僕の闇とあなた方の光、どっちが勝ちますかね。試してみます?」

「ひっ…」

 ルークはニヤリと笑い、精霊姫は本気で怯えていた。

 どうしてだろう、皇宮に忍び込み人間に無用の干渉をしてきた精霊姫よりそれを退けようとするルークの方が悪モノに見える。


「もう赦してやれ…」

 あまりにも哀れだ。

「ディアは優しすぎます。あなたが狙われたんですよ」

「だから、当事者の私がもういいと言ってるんだ。幸い怪我は自分で付けた額の赤味だけだし、それも既に治してくれただろ」

「そうですけど」

 ルークは不服そうにしつつも受け入れたようだ。


「じゃ、そこの二人もう帰っていいですよ。これに凝りて、二度とディアに手出ししないで下さいね。次は国ごと消しますよ」

「はっ、はいぃ……」

「大変…申し訳ございませんでした」

 精霊姫が身をすくめ、従者が土下座で謝罪した。

 そして二人は支え合ってホウボウの体で帰って行った。


 二人の姿が消えると、何事も無かったように周囲の時が動き出した。

「ふぅ、一時はどうなるかと思いましたが」

「まあな。それより、姫君の腕や顔を治してやらなくて良かったのか?」

「何で治す必要が?」

「いや、逆恨みされて戦争の火種にならないか?」

「大丈夫ですよ。あの姫、第5王女で大した力はありませんし。それに最初に精霊界(そっち)の責任だって言いましたからね。まあ万一攻めてきたらむしろ好機です。僕はまだ赦してませんから」

 精霊界も恐ろしい男を敵に回したものだと同情する。しかし一番の被害者は、知らないところで精霊界との確執を作られた帝国ではないだろうか。

 私は思わず天井を仰いだ。

お読み頂きありがとうございます。

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