14.特務課
毎日投稿してきましたがストックがきれたので、これからは少し日が空いての投稿になるかもしれません。
訓練場での一件を終えて、私達はやっと魔術研究棟へやってきた。
長い、おそろしく長い一日だ。
まずは受付兼事務室の前を通るが、先日のような手続きは求められずそのままルークの研究室へと連れて行かれた。
しばらくすると研究室のドアがノックされ、魔導士副団長付きのメイヤー氏が書類を抱えて入って来た。
「失礼します。ディアナ様の入館証作成のための書類をお持ちしたので、ご記入お願いします」
相変わらず彼は忙しそうだ。
私は直ぐに書類に目を通し、必要事項を記入した。
「ありがとうございます!では早速団長の承認をもらって、入館証をお持ちしますね」
書類を受け取るとまた慌ただしく出て行った。
団長と言えば…。
「ルークはもう魔導士団長ではないのだな」
「ええ。今は特務課の課長です。団長は昨日辞任しました。あっ、ディアは団長の僕の方が好きでしたか?もしそうなら今から撤回してきますけど」
「いや、いい」
「そうですか」
おかしい、とにかく会話の内容がおかしい。
団長とはそんな気軽になったり辞めたり出来るのか?そもそも、ルークが一つの業務課をすぐに作れるのがおかしいんだ。
「なぁ、何でこんなあっさり新しい課を作れるんだ?団長の件もそうだし、失礼を承知で言うが皇帝陛下はルークに甘くないか?」
「ん〜、でも十分な対価は払ってますよ。これ迄の僕の研究成果は勿論、今回は残ったサンドドラゴンの皮や余分な魔石とかを差し出したりして」
完全に賄賂だった…。いや、皇帝陛下相手だから献上ってことでいいのか?
「まあ多分、僕の機嫌を損ねて他国に行かれても困るからじゃないですか?少し前にも褒章として皇女殿下を降嫁させるって話が出ましたけど、それは褒章にならないって言って断りましたしね」
「なっ!?」
なんと不敬極まりない!!
「すぐに父に頭を押さえつけられて謝罪させられましたけど」
ルークはその場面を思い出して不服そうに口を尖らせていた。若干、ウェブスター長官の胃が心配になった。
「お前、よく生きてるな。普通は謝って赦されることじゃないぞ」
「そうですか?まあでも実際不敬で罰せられても、誰も僕を傷つけることなんて出来ませんしね。仮令義父が責任を問われても、義父を連れて何処かへ転移してしまえば良かったですし。そう言えば若干、宰相閣下の顔が引き攣っていておかしかったなぁ」
本当に規格外だ。
ルークに常識を説くのは、誠に不本意ながら無駄な努力としか思えない。
「まあそんなことより、せっかくですから初任務はどこに行きたいですか?狩ってみたい魔獣とかいます?」
流してしまって良いことではないが、狩りたいモ丿はと問われると好奇心が勝ってしまう。
「やっ、その、なんだ」
「ふふっ。この時期のオススメはホーンラビットの角とか、ジュエルロータスの花弁採集などはいかがですか?」
ぐっ、どちらも捨てがたい。
ホーンラビットはすばしっこく狩りがいがあるし、ジュエルロータスは様々な薬の原料になり皆に重宝される。
「まずはホーンラビットで腕鳴らしがいいですかね?大抵は群れで生息していますから、魔剣を使いこなす練習にも向いてますし。ああ、でも強さのレベルとしては物足りないですかね」
「いや、そんなことは無いが」
「では早速、地図を確認していきましょうか」
私はルークに付いていき、帝国全土の地図が広げられてたボードの前へ移動する。
「それにしても、移動はどうするんだ?魔導士団の馬車を借りていくのか?」
「いや~、馬車でディアとゆっくり時間を過ごすのも魅力的なのですが、それだと御者がいたり何なりで二人きりじゃないじゃないですか。だから適当なところまで辻馬車で行って、目立たない所でサクッと転移しちゃおうかなと」
まあ、サッと行ってサッと帰って来るならベストな判断だと言える。
「しかし、それではルークばかりが負担じゃないのか?それにむしろ私がいない方が…むぐ」
ルークの人差し指が私の唇に押し付けられ、黙らされた。
「ディ~ア、僕は貴女といるために特務課を作りました。貴女がいない方がいいなんてことは絶対無いんですっ!それから僕の魔力は有り余っていて生まれてこの方使い切れたことが無いので、負担なんてことありえません。もしそこまで言うのなら、出先で僕に不測の事態が起きた時の帝国との連絡役とでも考えてくれたらいいですから」
「…っわかった」
指が離れ返事をする。
「もしまた同じようなことを言い出したら、次はコレで塞ぎますからね」
そう言ってルークは私の唇を押さえていた指先を自分の唇に当てた。
「ふふっ、間接キスですね」
「ばっ……」
思わず恥ずかしくなって怒鳴りつけようとするが、扉がノックされメイヤー氏が戻って来た。
「お待たせしました。ディアナ様の入館証です!」
「あっ…ありがとう」
「もし何か事務的なことで分からないことがあれば、いつでも声を掛けて下さい。ではこれで」
メイヤー氏は嵐のごとく去って行った。ルークの後任の団長はきちんと書類仕事も熟して、彼の仕事が少しでも減ればいいと他人事ながら思った。
「さてと、転移魔術がバレない程度には日数を使って狩りをしないといけないですから、ついでに観光とかしちゃいます?行きたいところとかありますか?」
転移魔術を隠したいルークの事情を考えると仕方のないことだが、どうも任務にかこつけて遊びの要素を入れることが私には受け入れにくいと、慣れるには時間がかかると思っていた…この時までは。
「それから今後狩猟・採集に行くにあたって、ディアに身に着けて欲しい装備があるんですけど」
「ん?なんだ」
装備という単語に、しっかり聞こうと向き直る。
「これなんですけど」
ルークが差し出した掌に小さな魔石が乗っていた。
「ディアはピアスって付けたことあります?」
「いや、そもそもアクセサリー類を付ける習慣が無くてな」
基本アクセサリー類は戦いの邪魔になると思っている。
まあ家族や恋人がいる者は、首から下げたロケットにその写真を入れて肌身離さず持っていたりするが、私にはこれまで全く縁のないものであった。
「そうですか。これはただのアクセサリーでは無く、魔具です。なので付けて下さいね」
ルークは右手で向かい合った私の左耳たぶに触れた。
「ちょっとチクッとしますけど、浄化しながら行うので化膿したりはしません。治癒魔術もいいんですけど、折角開けたピアスホール迄消えちゃいますからね」
一瞬の痛みの後、私の耳に淡い紫色のピアス型魔具が装着された。
「これはどういった魔具なんだ?」
「はい、簡単に言うと通信機です」
「通信機?」
「ピアスに触れて『ルーク』と呼んで頂ければ僕の魔具に繋がって、どれだけ離れていてもまたどんなに強烈な嵐や吹雪の中でも会話が出来るようになります。ほら、僕の左耳にも深紅のピアスがありますでしょう?」
ルークが左の髪を軽く掻き上げ、左耳を見せてくる。確かにある。まるで私の髪色のような真っ赤な……そうか、私のこのピアスもルークの髪色だと今更ながらに気付く。
『ディア、どうしました?』
目の前で話しているはずなのに、ルークの声がもっと近く耳元に直接響くように聞こえる。
「いや。なるほど、ルークの側からもこのように通信が来るのだな」
『ですので、戦闘中でも街中でもいつでも連絡下さい。特に、男に飲みに誘われたり、告白されたり、万一襲われそうになったり、それから……』
「いやもういい、分かった。必ず連絡するからっ」
どうやらルークは先日のキースとの一件を未だに根に持っているようだ。しばらくはネチネチと言われてしまうのだろうか。軽率な自分が恨めしい。
『ルーク、これからよろしく頼む』
早速左手でピアスに触れ、通信試験を行う。
右手は剣でふさがるため左側なのがありがたい。
そんなところも配慮してくれたのかと、少し嬉しくなって思わず顔が綻ぶ。
『はい、こちらこそ』
返された微笑みに、ドキリとあまり感じたことの無い鼓動がした。
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