13.決闘
訓練場に入ると、第二騎士団の面々がざわつく。
それはそうだろう、朝礼の途中にいなくなった副団長が思わぬ人物達を連れ帰って来たのだから。
しかもそこにはこの場に似つかわしくない魔導士の青年がいる。
一体この中の何人が、この若い魔導士が今話題の魔導士団長だと分かるだろうか。
「なんだ、ディー。まだ出発してなかったのか」
団長が呆れ顔でこちらを見てくる。今しがた私の処遇を伝達し終えたところだったのだろう。何だか、私も気まずい。
「それからライバーン副団長、一体何のつもりで?」
「いや、せっかくなんで騎士VS魔導士の演習をだな」
「おおっ!!!」
副団長である父の言葉に、団長は眉間を押さえ脳筋な団員達は大いに盛り上がった。
団長はちらりと横目でルークを見、その眼がやる気に漲っているのを確認して諦めたようだった。
「んじゃ、こっからは仕切らせてもらうぜ」
父の言葉と共に、団員達が広がり闘いの場を設ける。
十分な空間が出来上がると、ルークが徐にローブを脱ぎ私に手渡した。
「すみません、持っておいてくれませんか?着たままだと、他の方たちに魔導士の動きが見えないので」
無詠唱の魔術は見えるも見えないも何も関係ないと思うのだが、とりあえず上司の言うことなので素直に受け取った。
「余裕だな。生身を晒して無防備じゃないのか」
「ウェブスター殿、防具は必要か?」
「大丈夫です。必要ありません」
キースの挑発も父の申し出も、ルークは一蹴する。
「けっ」
キースの態度が明らかに悪すぎる。
「キース、防具を付けて模擬剣を二本持ってこい」
「二本?父上、何を!?」
「いいからいいから」
父は一体何を企んでいるのか、キースが準備を終えて戻ってきた途端二本の内の一本をルークに投げて渡した。
「形だけでも構えて下さいや。それから、ウェブスター殿には極力攻撃魔術の使用は控えてもらいたい」
父はとんでもないことを言い出した。
「それでは魔導士との勝負にならないではないですかっ」
私は反論するが、父はこちらに掌を向けて制してきた。
「分かりました。確かに、遠隔攻撃では意味が無いですもんね」
「ご理解頂けて何より。あとはまあ、あんまり折らんでやって下さいや」
「それは…剣をですか?それとも?」
ルークの問いに父はニヤリと笑って審判の位置についた。
数メートル空けて対峙する二人。ルークは余裕の表情で、キースはいつも以上に真剣な表情だ。
父が手を上げると、訓練場がシンと静まり返った。
キースはいつもの構えを取り、ルークも剣の切っ先をキースに向ける。
あんな細腕で、中堅以上の力量を持つキースと剣で勝負するなんてと僅かな不安を覚える。
「始めっ!」
その言葉を合図にキースは一息に距離を詰めルークに切りかかったが、ルークはタイミングを合わせ僅かに土煙をあげつつ地面を滑るように後退しキースの勢いを削いだ。
ルークはキースの剣を自身の剣で受け止めたように思ったが、そこもまたキースの剣を流す様に自身の剣から滑らせて無効化した。
うまく切り結べなかったキースはその場でたたらを踏み、崩れそうになった体勢を軸足で支えて一旦ルークから距離を取った。
「何だ今のは?」
キースの呟きは他の団員の心境と同じだろう。
「何だと思います?」
ルークはにこにこ笑っている。
「クソッ、もう一度だ」
キースは地面を強く蹴り、ルークの懐付近に潜り込みルークの剣を持つ手目掛けて斜め下から切り上げようとした。
しかしルークは再び地面を滑るように移動してかわした。よくよく見てみると、ルークは地面から浮いている。そして剣と反対側の掌を地面に向けていた。
「ぶわっ」
ルークを追いかけようと方向転換のため足を踏ん張ったキースが、そのまま転倒した。
皆何事かとキースの足元をみると、そこは泥濘んで沼のようになり、キースの足首から下がすっかり沈んでいた。
「てめっ、何をっ…冷てっ!?」
ルークは尻餅をついたキースの頭から洗面器一杯分ほどの水を掛けた。
「何すんだよっ!遊びじゃねぇんだぞ」
「ええ、遊びじゃないですよ」
「そこまでっ!ウェブスター殿の勝ちだ」
「はっ!?何でですか!俺はまだ戦えます」
キースが喚くが、父は首を横に振る。
「あ〜、他の団員も分かってねぇようだから、何をしたか説明頂けますかい?」
父はガシガシと頭を掻いてルークに頼んだ。
「いいですよ。まずはじゃあ何故今終わったか、見て頂きますね」
言い終わった途端ルークは剣をキースに向けたが、その剣全体からパチパチと軽い音がして微量だが放電しているのが分かった。
「これ単体では低級魔獣を感電させるのも難しい低レベルの雷魔術です。でも、ただでさえ足を取られて逃げられない今のあなたは、頭部という人間にとってとても大事なところが濡れています。僕はこの剣先であなたに少し触れるだけで、致命傷を与えられます」
「!?」
「それから、あなたの剣戟を避けるために僕は足と剣に風魔術を纏わせていました。浮遊することで移動速度を上げ、一撃目を受け止めた際もあなたの剣を滑らせて薙ぎ払いました。二撃目も同じように避けつつ、あなたが踏み込んで来る箇所を水魔術で泥濘ませました。しっかり踏み込んだせいで、抜けなくなったでしょう?」
「くっ!」
「見事に攻撃魔術なしで勝ちましたな」
父の言う通り、ルークは補助的な魔術でうまく誘導していくだけで勝った。
「やべぇ、魔導士強すぎだろ」
「何か騎士として自信無くすわ〜」
団員の声が漏れ聞こえてくる。若干皆の心が折れ気味だ。
「ああ、大丈夫ですよ。僕みたいに複数属性を使える魔導士は少ないですし、更に他属性の魔術を同時発動出来る魔導士はもっと少ないですからね。討伐における主戦力は、やはり騎士の皆さんです」
ルークの言葉に、皆一応ホッとした空気が流れる。一部を除いて。
「クソっ、一太刀も浴びせられなかった」
「仕方ありませんよ。あなたディアよりも弱いですから。だからこそ親友ポジで自分を納得させようとしてたようですが、そんな中途半端な覚悟じゃ本当に欲しいものなんて手に入れられませんよ」
「ムカつくな〜、最初から才能も何もかも持ってるお前にゃ言われなくねぇよ」
「僕には何も無いですよ。ディアだけが僕の全てで、生きる意味です」
「あ?」
ルークとキースは二人で何やら語っているが私には分からない。それよりも、キースは未だ泥濘みにハマっているが大丈夫なのだろうか。
「さてと、魔導士団長クラスの強さが分かったところでせっかくだから、攻撃魔術も拝ませてもらいたいがいいですかい?」
「はっ?もう終わりでは…」
父を見るが、冗談を言ってるような顔つきではなかった。
「僕はいいですけど、今度こそ折れちゃいますよ。心が」
言いながらルークは風魔術でキースを浮き上がらせ泥濘みから足を抜いて地面に着地させた。
「おっと」
キースは助けて貰えたことに驚いていた。
「ああそうそう。今度また僕とディアの邪魔をしたら、これくらいじゃ済ませませんから」
「ほぉ、どうしてくれるんだ?」
ルークがスッと手を動かすと、訓練場の地面がキースを中心に盛り上がり一瞬でキースを包みこんだ。
唖然とするキースの顔部分だけ露出した土塚のようなものが出来た。
「何だこれは!?出せっ、出せよ!」
キースは藻掻こうとするが、ビクともしない。
「土魔術でこんな風に動きを封じることが出来ます。まあ、顔まで覆って窒息を待つのであれば立派な攻撃魔術になるでしょうか」
「おお〜やるねぇ。じゃ、今度は俺が相手だ。騎士も鍛え方次第で魔術を打ち破るとこを見せとかにゃ、若いもんが可哀想だろ」
「なるほど。では今度は攻撃魔術も使用可能ですか?」
「おお、いいぞ。かかってこいや」
ルークはすぐにキースの魔術を解いて解放すると、そちらには見向きもせず再び開始位置についた。
「では皆さん、壁際に寄って下さい」
そう声を掛けると、訓練場に拡がった人垣の前に防御壁を張った。
「これで皆さんに魔術が飛び火することはないんで、安心して下さいね」
父も位置に着くが、その手に握られているのは父愛用の大剣だった。模擬剣とは違い真剣な上にその重量で相手を押し潰すことも可能で、一般の魔導士からしたらたまったもんじゃないだろう。
しかもしれっと身体とブレイド部分への強化を行っている。
「滅多にない機会なもんで、婿殿(予定)の力量を試させてもらうぜ」
私情塗れだった。何で私の周りにはこういう男連中ばかりなんだろう。ああ、脳筋だからか。
「行くぞっ」
父が大剣を振りかぶって動くと、ルークが魔術で土壁を作った。しかし父は一薙ぎでそれを粉砕する。
ルークは滑るように下がるが、それ以上のスピードで父が追撃する。
父は大剣を振り上げ切りかかろうとしたが、何かに気付いて地面に剣を刺した。
「おっと危ねぇ」
見ると、父の足元は凍っていた。危うく滑って転倒するところだ。この隙にルークは父から距離を取りすぐさま無数のこまかな風刃を浴びせた。
父は氷を利用してスライディングし、風刃を除けながら氷の範囲外に出る。
そのタイミングを見計らい、ルークは火炎放射のように炎を放った。しかし父はその炎を見極め自分の目の前で真っ二つにして炎を両脇に流した。強化魔術を施しているとはいえ無茶苦茶だ。
「さすがに熱っちぃな。……っ!?」
体勢はそのままに咄嗟に飛び退くと、そこには地面から鋭く尖った土の槍が父の胴辺りを目掛けて生えていた。
「ハッ、未来の舅に対して容赦ねぇな」
「手加減なんてしたら怒りますでしょう?」
「違ぇねぇ。ヨッ」
またその足下に氷の礫が激突する。
次に氷の礫に加えて火球も乱れ打ちする。除けたり大剣で弾く度に二つがぶつかり辺りは水蒸気で覆われていく。
二人の姿が見えなくなった次の瞬間、おそらく風魔術により水蒸気が吹き飛ばされ決着が見えた。
ルークが父の背後に回り、その首に氷の刃を突き付けていた。
「降参だ」
「はい」
二人は武器を下ろし離れた。
「結局本気じゃ無かったな」
「あれ、分かっちゃいました?」
「雷魔術を使わなかったろう。あれだけは剣で弾けないからな」
「あなたを傷つけると大事な人が悲しむと思いまして」
「舐められたもんだな。だがまぁ」
「合格ですか?」
父は答えず、しかしニヤリと笑う表情は肯定しているようだ。
「あ~、そういう語らいはよそでやれ。見ての通り剣術と強化術を極めて行けば、多少の魔術は切ったり弾いたりできる。しかし雷魔術だけは剣を通って感電するからな、絶対手を出すな。それだけはしっかり肝に銘じておくように」
「はいっ!!」
団長の無理やりなまとめに、団員の気合の入った声がする。
「それじゃ僕達はもう行きましょうか。お義父さんにも認めて頂けましたし、戦った甲斐がありました」
呆然とする私の手から、ルークはローブを受け取って羽織った。
何だ?この当事者の私が除け者にされている感じは。勝手に外堀を埋められていくような感じは。これこそが、エラの言っていたアリ地獄の真っただ中ということか……。
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