12.勅令
◇◆で視点が変わります。前半はディアナ、後半はルークです。
翌日出勤すると、第二騎士団長から呼び出しがあった。
しかも余程急だったのか、持ち場に顔を出すことも出来ぬまま私は会議室に入った。
「失礼しま……」
「おはようございます!お待ちしてましたよ」
室内には朗らかに笑うルークと、渋面の騎士団長がいた。
「なっ、何故ここに…」
「ちょっとお知らせがあって。お迎えがてら来ちゃいました」
横目で団長を見るが、我関せずと言った様子で首を横に振られた。
「早速ですが、勅令を頂いてきました。『第二騎士団所属騎士ディアナ=ライバーン、本日付で魔術研究棟内『特務課』との兼務を命ずる。』ほら、きちんと玉璽も入ってますよ」
勅令の書かれた用紙をしっかり見せながら、ルークが読み上げた。
私は思わず近づいて確かめる。確かに、本物にしか見えない。
「どういうことだ?この『特務課』とは?」
「ああ、昨日作りました。正式には今日から稼働ですけど。皇帝陛下又は宰相閣下直属の部隊ってことになってまして、主な業務は稀少素材の狩猟・採集です。それに付随して通常の討伐に参加することもありますよ。あとはまあ戦争やスタンピード発生等、非常時の作戦参加ですかね」
業務内容は一旦置いて、昨日作った……だと!?
「ディー、皇帝陛下から直接の御命令だ。臣下である我々としては、色々吞み込んで従うしかない」
団長もモノ申したいことはあるのだろうが堪えているようだ。
「さっ、では早速移動しましょうか」
ルークは勅令の用紙をくるくると丸めて退室しようとする。
「えっ、団長!私の今日の業務は!?」
「あ~兼務ってことだが、主となるのはそちら『特務課』だそうだ。だから、こっちは『特務課』の仕事の無い時でいい。元々先日の討伐の際にキースに引き継いでいるだろう」
「そんなっ」
「詳しい説明は僕の研究室で話しますので、さあさあ」
ルークは上機嫌で会議室の扉を開けた。私は渋々後を付いて行く。
「あっ」
廊下の途中で、突然ルークが立ち止まった。
見ると、目の前に私の父が立っている。
「おはよう!ウェブスター団長っと、もう団長じゃなかったですね。おっ、ディアナも一緒か。これから新業務か?」
副団長である父は既に私への勅令を知っていたようだ。それより、ルークがもう団長じゃない?
「おはようございます。ライバーン副団長。本日からお嬢様をこちらでお預かりしますね」
「ガハハ、バンバンこき使ってやって下さいっ!生半可な鍛え方はしてないんで役に立つと思いますよ」
分かってはいたが、父に繊細さを求めるのは酷だった。
「父上……」
「なんだぁ?シケた顔してんなぁ。『特務課』が気に入らんか?稀少素材集めなんて最高じゃねぇか。折角魔剣を手に入れたんだろ?思う存分揮って魔獣を狩って狩って狩りまくってこいや。副団長でなけりゃ、俺もそっちへ行きたいくらいだぜ」
脳筋の父らしい言葉だ。確かに普段の私なら喜んで参加しただろう。公私を分ける気のなさそうな男と一緒でなければな。
「ハハッ。ありがとうございます。ディアナさんは居てくれるだけで十分役に立ってくれてますから」
にっこりと私の方を向いて笑うルークに、父の眉がピクリと上がる。
「ほう、噂はホントのようだな」
父の呟きに私は複雑な顔を向けた。
「まあ、お前の決めたことなら俺は信じてるからな。何かあったら相談しにこいや。そんときゃ、誰が相手でも拳で語り合ってやるさ」
そう言って父は私の頭をクシャクシャっと撫でた。
案じてくれるのは嬉しいが、何だか若干ズレている気がするところが父らしい。
「わぁ、お手柔らかにお願いしますね」
ルークは強面の父の前でも平気そうだ。むしろ何だかヤル気に満ちている。
父は再び豪快に笑い、そのまま去って行った。
「いいお義父さんですね」
「いや、さらっと義父と呼ぶな」
「え~、いいじゃないですか。どうせ時間の問題ですよ」
この自信はどこからくるのだろうか。
若干睨みつけながら団舎を出ようとすると、また人影が横切った。
「えっ、ディー、今からどこ行くんだ?もう朝礼が始まるぞ」
目の前にキースが現れた。おそらく私についての説明はその朝礼で行われるのだろう。
「ああ、ディアは今日から僕のところを手伝ってもらうことになりましたので、悪しからず」
「はぁ!?どういうことだ?そんなの聞いてねぇぞ」
キースはルークを無視して私の方を見る。
「私もさっき聞いたところだ。悪いが、詳細は団長に聞いてくれ。兼務だからこっちにもまた戻る。それまで頼んだ」
「マジか。まあ、すぐ戻って来いよ。んで、現状の共有がてらまた飲みに行こうぜ」
「新規立ち上げの部署なので、すぐに戻れるかどうかはどうでしょうね。業務終了時刻も騎士団とは違ってきそうなのでアフターは諦めて下さい」
「あっ!?」
キースの声色に苛立ちが混じる。
ルークは年下だが我々よりも上役なのにこんな態度をとるなんて、今日のキースはおかしい。なんだか荒れているようだ。
「キース、これは勅令なんだ。私も詳細をこれから聞きに行くところだから、しばらくは諦めてくれ」
「ディーがそう言うなら仕方ないけどよ」
キースが渋々頷いた。
「そうだ、ディア。今の内に取りに行った方が良い物とかありますか?今日一日はこちらに戻って来れないと思いますよ」
急にルークが話題を変えた。
「そうなのか、ではロッカールームに行ってくる。ルークは先に行っていてくれ」
てっきり昼頃までには戻れると思っていた為、このまま行くつもりだったが私は私物を取りに行くことにした。
「いえ、ここで待ってますよ。正式な入館証の手続きなどもあるので、僕が居た方がいいでしょうし。ですが、時間はあるので急がなくていいですよ」
「分かった。すまないな」
◇◇◇◆◆◆
ディアの姿が見えなくなると、僕は目の前のキースに向き直った。
「あなたとは、一度ゆっくり話をしないといけないと思ってました」
「奇遇だな、俺もだよ」
「ディアはもう僕の恋人です。変なことを吹き込んだり、付きまとうのは止めて下さい」
最初に牽制をしておく。
「付きまとってるのはどっちだ?魔剣の代償だなんて、そんなの脅迫以外の何物でもないじゃねぇか。この卑怯者っ!」
「卑怯はどっちですか、ディアに『母性愛』だとか変なことを吹き込んで邪魔するのは止めてくれませんか。そんなにディアが好きなら、正々堂々告白でもしたらいいじゃないですか」
「っ!?お前に何がわかるってんだ」
「分かりませんよ。姑息な手段に出るしかない者の考えることなんて」
確かにいくら「お試し」と付いているとはいえ、僕のとった手段は褒められたものじゃないことは分かっている。でも、僅かなきっかけやディアに知ってもらうチャンスを作りたかった。結局言い訳にしかならないけど。
「ディーは純粋だからな、腹黒いヤツに丸め込まれない様に守ってやるのが大親友の務めだろ」
「大親友ね。親友ヅラした臆病者の間違いじゃないですか」
「このっ、言わせておけばっ!!」
頭に血が上ったキースは僕の胸倉を掴み、拳を振り上げた。
「何をしているっ!!」
廊下に響く慌てたようなディアの声。僕を心配してくれているのか、それとも規律違反をしようとしているキースの心配か、前者だといいなぁと僕は振り下ろされる拳を見ていた。
大急ぎで駆け寄るディアに気付いたキースは、僕の鼻先でその拳を止めた。
惜しいっ、もう少しで僕の加護で弾いてやれたのに。
「チィッ!」
キースが僕の胸倉を離し、忌々し気に舌打ちをする。
「キース、どうしたんだ?お前今日おかしいぞ」
ここまで男二人で争っているのに、当の本人が全く気付いていないのは逆にすごい。
やっぱりディアには正攻法なんて通用しないんだと、思わず自分を肯定したくなる。
「おおっ、血気盛んな若者同士いいなぁ」
ディアの背後から現れたのは先ほど別れた副団長、ディアの父上だ。
「副団長!?」
キースが少し青褪めた。
「朝礼に来ないからと様子を見に来てみれば……。騎士による私情での暴力沙汰はご法度の筈だが?」
「……っ、申し訳…ありません」
キースは処罰を覚悟して俯いた。
「ふむ。しかし幸いここは団舎だ。街中でにもないし、相手も一般人じゃない。ここでキースに罰を与えて解散しても、どうせ街で鉢合わせしようもんならこの続きをやらかすんだろうなぁ。お二人さんはよ」
さすが副団長、分かってるな。血も気の多い騎士の集まりだ。これまでにもそんなことがあったのだろう。
「ヨシ、いっそ訓練場でこの続きをやるか?」
「はっ!?父上何をっ!?」
真面目なディアが慌てている。
「とりあえず若い奴らには模擬演習だっつって見物させるぜ。騎士と魔導士お互いがぶつかったらどんな風に戦うのか、ここにゃ実際に見た方が勉強になる連中ばっかだ。それに、騎士の中には剣を揮えない魔導士をどうしても馬鹿にする奴が一定数存在する。そんな馬鹿にする奴を魔導士も快く援護などしたくないだろうしな。騎士と魔導士、お互いを尊重する一つのきっかけになるかもしれねぇってなら、演習として申し分ないわな」
なるほど、副団長としての思惑と僕とキースの諍いに一般人を巻き込まないようにするのとでまさに一石二鳥……なかなか食えない人だ。
「分かりました。お引き受けします」
「ルーク!?いや、その、新業務はいいのか!?」
さっきまで『特務課』については戸惑っていたクセに。
ディアは何度も間近で僕の力を見ている。その強大さを知っている。ここでキースが傷つくのが嫌なのか?そんなにこのキースが大事か?
僕の心は激しい嫉妬で黒く塗りつぶされていく。
「新業務のことは大丈夫ですよ。この決闘も、どうせすぐ終わるので」
そう、僕に掛かれば一瞬で勝負など付く。この後の予定に何の心配もない。
僕の言葉にキースは射殺す勢いで睨みつけてくる。
「よっしゃ、じゃあ二人ともこのまま訓練場に行くぞ」
「ええ、分かりました」
頷いて僕は思ったより早くキースを叩きのめす機会を得られたことに、こっそりほくそ笑んだ。
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