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「私が君を抱くことはない」と言い続けた私の末路~堅物女騎士はうっかり助けた魔導士に溺愛される~  作者: アオイ


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11/22

11.思惑

◇◆で視点が変わります。前半はディアナ、後半はルークです。

 ルークと別れてから、私は寮で着替えて騎士団のトレーニングルームへ向かった。

 今日は存分に筋肉を虐め抜くと気合を入れてトレーニング器具に重りを増やしていく。

 大腿四頭筋、広背筋、大胸筋、上腕二頭筋……と大きな筋肉から順番に鍛えていく。

 周りは同じような女騎士達で、中には見知った顔もある。

 自分で決めたメニューをこなしながら、区切りの良い所で水分補給のために壁際に設置されたベンチに腰掛けた。


「ディー、久しぶりね。調子はどう?」

 近衛騎士団に所属するエライザ=グリフォールが声を掛けて来た。

「調子はまあまあだ。エラは変わりないか?」

「ええ。最近は皇女殿下の外遊もないし、平和そのものよ」

 グリフォール一族もライバーン一族と同じく代々騎士を輩出する家系だが、力こそ全てのライバーン一族とは違い剣技における優雅さも追及している。だからこそ、近衛に選出される者が多いのだ。

 我が兄も一応近衛だが、武勇に優れた第二皇子殿下に優雅さよりも純粋な強さを見込まれて選出された。

 エラは私より2つ年上で所属の年数も長いが、お互い一族の繋がりで騎士団所属前からの旧知の仲だ。

「そうか、それは良かった」


「って言うか、良くないのは貴女でしょう!今さっきそこで噂を聞いて腰を抜かしそうになったわよ」

「噂?」

「何でも、ただでさえ話題の、()()魔導士団長と付き合ってるんですって?」

「どこでそれをっ!?」

「どこも何も、皆言ってるわよ。騎士団では難攻不落のディーがついに陥落しただの、魔導士団ではありえないペアリングとか、その辺のご令嬢に至っては『ディー様ぁ!!』、『ルーク様ぁ!!』って二つに分かれて阿鼻叫喚よ」

 エラの話に私は頭を抱えた。

 お試しで付き合うことになってまだ数日、こんなにも噂がまわるのは早いのか。誰だ、最初に広めたヤツ。キースか?いやそれより先に知っていたのは研究棟の受付か?

「いや、ちがっ……ちがわないか。でも、今はお試し期間なんだ。とりあえず不可抗力で付き合うことになった」

「はあ?どういうことよ」

 私はエラにも、キースに話した内容を話した。


「なるほどね。魔剣のことは近衛の方にはまだ話が回って無かったわ。う~ん、確かに不可抗力と言えばそうかもしれないけど、結局頷いたのは貴女でしょ。ちゃんと責任取ってあげなさいよ」

「いやしかし、お試しということはいつか終わりがくるもので」

「ばっかねぇ~、入手難易度の高いものばかり引っ提げて囲い込んでくるような男が、貴女を手放す気なんて最初からある訳ないでしょう。いい?貴女はもう既にアリ地獄に入っちゃってるの。あとはいつの間にかズブズブ沈んで行って更に抜け出せなくなって最終的に捕食されるのよ」

「捕食……私は死ぬのか」

「そういう意味じゃないわよ。ったく、ちょっと相手の団長が可哀そうになってきたわよ」


 エラの言葉に、私はかなり動揺した。これはお試しであってお試しでは無かったのか?

 分からない。確かにサンドドラゴンの皮だけでなく、精霊石という在り得ない国宝級のものまでもらってしまっている。しかも魔剣も、通常こんな短時間で簡単に完成できるものじゃない。入念な準備と下調べに、そもそもそこに至るまで膨大な量の知識を詰め込む努力の時間。

 私は既にルークから、形に出来ないものも含めるとあまりにも多くのものをもらってしまっている。

 これに報いるには、私の一生を捧げても足りないということか…。

 そこに考えが至ると、私の顔面は蒼白になった。


「ちょっ、ディー?大丈夫?ちょっと虐め過ぎたかしら」

 エラが俯いた私を覗き込む。

 キースにも同じ話をしたが、この考え方は無かった。やはり女目線と男目線では違うのか。

 ルークの私への思いは『刷り込み』では無かったのか。これはエラにも聞いてみるしかあるまいと、私は意を決してキースに言われたことを話した。


「あ~アイツ、何てことしてくれてんのよ」

 今度はエラが頭を抱えた。

「で、ディーは告白してくれた相手のっ…めんどくさいからルーク君ね。ルーク君の言葉より、()()()()()()キースの言葉を信じるのね」

「えっ?」

 エラの言葉は私でも分かるほどに刺々しい。


「ねぇディー、冷静に考えてみて。例えば貴女に勝負を挑んできた騎士が二人いて、一人は仮令貴女に敵わなくても真っ向から勝負を挑んでくる。かたやもう一人は、あなたが真っ向勝負を受けているところに横槍を入れるように攻撃してくる。後にあなたが信頼するのはどちら?」

「無論言うまでもない、前者の真っ向勝負を仕掛けてくる騎士だな」

 私は迷うことなく答えた。

「そっ、ルーク君とキース、どちらを信じるかは既に答えが出ているのよ」

「なっ!?」

 騎士の決闘とこんな色恋沙汰を一緒にして良いものか悩むが、ルークの気持ちを軽く考えすぎていたのは確かだ。となると今朝私は、自分が思う以上にルークを傷つけてしまっていることにようやく気が付いた。


「そもそも、どうして貴女はこう男女の心の機微に疎いのかしら」

 エラがため息を吐く。

「いや、私は元々生涯独身で騎士として生きて行くつもりだからな。正直、他のことはどうでもいいんだ」

「そうね、貴女の人生だもの。それは誰にもどうしようもないと思うわ。でも、貴女に真剣に告白してくる相手を軽んじていい理由にはならない。相手が真剣にきたなら、真剣に返さないと。それが、あなたの大好きな騎士道精神でしょ」

 全くその通りだった。


「大体ね、騎士道精神云々の前に、女としてムカツクのよ!そんだけのスペックを持ってて色恋事に興味ありませんって。自分のコンプレックスを補おうとして頑張ってる女を馬鹿にしてるとしか思えないっ」

 エラがどんどんヒートアップしていくが、私には何のことか分からない。

「エラ?」

「ハァ、化粧で胡麻化さなくても整った顔立ち、引き締まってスレンダーな肢体のくせに出るとこは出てるし、ライバーン家特有の燃えるような赤い髪は動く度に艶めかしく輝くし、本当なんなの?」

 エラは何に怒っているのだろうか。

「いや、私の顔立ちなど目が鋭すぎて特に男性には忌避されるものだろう。胸だって本当はもっと筋肉に変えたくて、私の悩みの種だ」

「キーッ!!何?私に喧嘩売ってんの?勝負なら受けて立つわよっ!!」

「いいのかっ!模擬試合なら大歓迎だ!!」

「ばかっ!!」

 思わず喜んで立ち上がると頭をグッと押さえつけられてベンチに戻された。何故だっ!?


「まったく、嫌味も通じないなんて心根まで真っ直ぐなんだから」

「褒められてるのか?」

「ええそうよ。一度ドレスを着て夜会に出てみればいいのよ。そうすれば、世間の貴女の正しい評価が分かるわ」

「そういうものか」

「きっと貴女の切れ長の瞳に睨みつけられたい御仁が列をなしてダンスを申し込みにくるわよ」

「酔狂な者がいるものだな」

「その筆頭と今お付き合いしてるんでしょ」

 

 ふとにっこり笑うルークが浮かんだ。

 別に睨まれたい訳ではなさそうだが、ただいつも目が合うだけで嬉しそうだ。

 今度出会った時は、もう少し真摯に向き合い寄り添ってみようと思った。



◇◇◇◆◆◆



 ディアと別れてから、僕はまず『チアーズ』という酒場に向かった。

 もちろんお酒を飲むためじゃない、あることを確認するためだ。それには少しでも早い方がいい。時間が経つと薄れてしまう。


「確かここだな。店の人居てくれるといいけど」

 僕は『close』の札が掛かった扉を開け、中に入った。

「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」

 少し待つと、奥の厨房から音がして中年の男性が出て来た。

「何だ?うちは夕方からしか開かないよ」

 ちょっと不機嫌そうだ。朝の仕入れや仕込みの邪魔でもしたかな。

「あの、ちょっと先輩に忘れ物を取ってくるよう言われちゃって」

 僕が魔導士団長だってことは、まだ一般の人達にはあまり知られていない。

 着任して日が浅いのもあるし、そもそも騎士に比べて魔導士は圧倒的に外に出ないから認知度が低いのだ。

 僕は自分の見た目を利用することにした。若さとこの細さで新兵に見えるはず。


「ああ、特に忘れ物は無かったように思うが、一体何を忘れたんだ?」

「いえ、細かい物で説明もしにくので、先輩が座ってた席の辺りを確認させてもらっていいですか?」

「ああそりゃ構わないけど、あんたも大変だな。で、先輩って誰だい?」

 ヨシ、うまく信じてもらえた。

 僕は弱々しい新兵を演じながら、サラリと目的の人物の名前を告げる。

「キース先輩です。えと、キース=グニル」

「ああ、そういや昨晩も来ていたな。キースさんは大体いつもの席に座るから、昨晩も確か……」

 男性はカウンターから出て、席の方を指さす。

「そこの壁際から二番目のテーブルだ。二人掛けの手前の方な。俺はちょっと厨房にもどるからよ。確認が済んだら勝手に出て行ってくれよ」

「はい。分かりました。ありがとうございます」

 僕は殊勝に見えるように頭を下げた。

「いいってことよ。新人さんか?大変だろうが、頑張んな。良かったらいつか飲みに来てくれよな。まあ、先輩の行きつけの店なんて来にくいか、ガハハハ」

 そう言って男性が厨房に消えたのを確認して、僕は素早くキースが座っていた席に移動した。


 床付近を探す振りをして態勢を低くすると、キースの座っていた椅子に手の平を当て魔術を発動する。

 暗がりの中にぼんやりと暗褐色の光が灯るが、幸い厨房からは死角だ。

 発動したのは記憶や記録を辿る闇魔術。

「良かった。キースの後にまだ誰も座ってない」

 僕は瞳を閉じ、瞼の裏に昨日の記録を何倍速もの速さで再現する。

 そこにはキースと、愛する僕のディアのやり取りが映し出されている。


 ディアは僕との関係をキースに話したんだ。

 でもきちんと秘密は守ってくれてる。律儀だな。

 温かな気持ちになれたのはここ迄だった。

 その後、魔術のレベルを上げ残留思念まで読み取っていく。


「へぇ、やってくれましたね」


 確かに、ディアが僕に対してまだ愛情より戸惑いが大きいのは僕も分かっていた。

 しかしそれを間違った方向へ導くのは如何なものか。

 全てを視て、今朝のディアの不可解な発言の真意が分かった。


「なるほど。まだまだ、僕の本気が伝わって無いようですね」

 まずはディアの誤解を解くのが先決だ。キースの始末はそれからだ。

 薄暗い店内で、僕は人知れず笑みを深めた。




お読み頂きありがとうございます。

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