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第15話 旅支度と明かされる制服の秘密

「うーん」


 女神様と王都行きを決めた、ピクセス村での最後の夜。

 寝床の上で私は頭を悩ませていた。

 

「女神様、本当に私が決めちゃっていいんですか?」


 私が呼びかけると、女神様はこちらへ振り向いた。

 女神様はどこか楽しそうな表情で、私の問いかけに頷いている。

 村長さんの家を離れてから今に至るまで、女神様の機嫌はとても良さそうだった。

 その理由は村長さんが別れ際に放った一言が原因で、私の今の悩みの種でもあった。



   ◇   ◇   ◇



「女神様の名前ですか?」


「えぇ、契約した眷属は女神様の名前を決めることが許されているそうですよ。眷属が歴史に名を残す時は、女神様もその時の名前を残されたそうです」


 村長さんの言葉を聞いて、女神様と出会った日のことを思い出した。

 

 女神様に名前を尋ねた時に悩んでいたのはこういうことかぁ。

 今の女神様には名前がないってことだったんだね。


「ちなみに女神様には今までどんな名前があったのですか?」


「そうですね、水の女神様は他の女神様に比べて穏やかだったようで、眷属の方もあまり歴史に名を連ねていないのですが、有名所ですと……」


 村長さんが過去の女神様の名前を述べようとしたところで、女神様に両耳を塞がれた。


「め、女神様?」


 女神様の突然の行動に驚く間もなく、私は耳を塞がれた状態で頭を左右に揺さぶられた。

 どうやら女神様は、私に過去の名前を知られたくないみたいで、私に名前が聞こえないように必死になって頭を揺さぶり続けた。

  

「わ、わかりましたから、聞きません! 聞きませんから! 頭を揺らさないでください!」


 私が名前を聞かないことを約束すると、女神様は頭を揺らすのをやめてくれた。

 だけど、両手はすぐに声を防げるように、私の耳に添えられていた。

 よっぽど昔の名前を聞かれたくないらしい。 


 ほんとは女神様がどんな風に呼ばれていたか聞きたかったんだけどなぁ。

 それにしても、まだ頭がぐわんぐわんする……。


 村長さんも女神様が嫌がっているのを見て、この話題を切り上げることにしたみたいだ。

 村長さんは最後に一言だけ私に告げて、それを聞いてから私たちはお暇した。


「アマネさんも、女神様のお名前を考えて差し上げないといけませんね」



   ◇   ◇   ◇



 で、今に至るわけだけど。


 女神様はいいって言ってるけど、本当に私が名前を決めちゃってもいいのかなぁ。

 女神様の名前決めなんて大層な役割、私には荷が重いよ……。

 女神様もなんだかさっきから楽しそうにしてるし……。


 水の女神様だからウンディーネとか? 安易すぎるかな。

 じゃあそこからウィーネとかディーネとか?

 そもそも、あれって精霊だっけ。うーん。

 水と関わる名前がいいのかな。


「水……水……」


 いい名前が浮かばず、うんうん唸っているとソフィエが水差し片手に心配そうに私の部屋に現れた。


「ソフィエ、どうしたの?」

 

「アマネが苦しそうに水、水って呻いている声が聞こえたから」


「あ、違うの。苦しんでたわけじゃないよ」


 私の独り言は部屋の外まで響いていたらしい。

 

 その後も私は唸り続けて、ソフィエに続いてダンさんとリリアさんまでもが、水差し片手に私の部屋に現れた。

 私はそれほどまでに深刻そうな様子だったらしい。 


 結局、その夜はずっと唸りながら考えていたけど、女神様の名前を思いつくことはなかった。

 


   ◇   ◇   ◇



 次の日、女神様と村を旅立つ朝。

 

 私たちは王都行きのための身支度を整えていた。

 とは言っても、大体は魔法の帽子の中に入れて持っていくことにしたので、そんなに準備することは無い。

 普通の旅支度と違って、帽子の中にポンポンと突っ込むだけなのがとても楽だった。

 私はこの不思議な帽子のことを魔法の帽子と呼ぶことにした。

 もちろんマントは魔法のマント。

 シンプルが一番。ネーミングセンスなんて私には無かった。


 帽子の中に保存の効く数日分の食材と、簡単な調理器具、毛布や魔石のランプ、宿泊のためのお金などを突っ込む。

 これらは全て、ダンさんが用意してくれたものだった。

 いつかちゃんとお返しすることを誓い、私はありがたくお借りすることにした。

 

 あとは村長さんから、この前討伐したハイウルフの素材とやらも受け取ったので、それも突っ込む。

 最初は価値もわからないから要らないとお断りしたんだけど、どうしてもと言われて、特に価値のある牙と魔石をいただくことになった。

 

 この世界では魔石は人々の暮らしの中で欠かせないもので、私の世界でのガスや電気の代わりなどに使われている。

 魔石は採掘のほかに魔物を狩ることで手に入れることができるみたいで、その場合は魔物の大きさや希少度によって、魔石の価値は変わるらしい。

 そんな感じで、この前討伐したハイウルフの魔石はそこそこのものらしく、この先何かの役に立つかもしれないとのことで、私が受け取ることになった。

 

 帽子の中に突っ込むだけの荷造りを終えた私は、魔法の帽子とマントを手に取って、身につけようとする。

 ところが、傍で荷造りを眺めていた女神様に袖を引っ張られて遮られた。


「女神様? どうしました?」


 私が尋ねると、女神様は机の上にある制服を指差す。


「あ、忘れてましたね」

 

 制服もギュウギュウに畳めば帽子の中に入るかな。


 机の上に置きっぱなしだった制服を手にして、帽子と見比べる。

 すると、またもやグイグイと女神様が袖を引っ張ってきた。

 

「どうしました?」


 女神様は制服を手に取り、私の前で合わせるようにして、ぐぐっと押しつけてくる。


「これを着ろってことですか?」


 ニコニコしながら女神様はうんうんと頷いた。


「いや、だめですよ。 これは大事な服なんですよ。道中で汚しちゃいますよ」


 制服を着れないことを伝えると、女神様は私に制服を押し付けて、部屋を飛び出してしまった。


 いきなりどうしたんだろう?


 追いかけたほうがいいのか一瞬迷ったけど、女神様はすぐに部屋に戻ってきた。

 戻ってきた女神様の手には、水差しが握られていた。

 水差しの中には森で取れた果物で作った、果実水が入っている。


「なんで?」


 意味がわからなくて、思ったことがそのまま口をついて出た。

 だけど、女神様は困惑している私のことを全く気に留めていない。

 女神様は私の元へ戻ってくると制服の袖を手に取り、そこに果実水をかけ始めた。


「ちょ、ちょっと女神様!? 何してるんですか!」


 慌てて女神様から制服を引き離したけど、私の制服は果実水でびちょびちょになっていた。


「あああ、なんてことを……」


 目の前で果実水を吸い、色鮮やかな染みを作り始めている制服を前にして、少しだけ涙目になった。

 女神様は私とは対照的に、とてもいい笑顔だった。


 突然のことに言葉を失った私は、抗議するつもりでジーッと冷ややかな視線を女神様に送り続ける。

 だけど、女神様に私の静かなる抗議はちっとも伝わらなかった。

 女神様は何事もなかったかのように、制服に広がる染みを指差した。


 また女神様に制服をぐちゃぐちゃにされると思ったので、私はかばうように制服を抱きしめた。

 だけど、女神様は制服に何かするつもりは無いらしく、両手を振って否定している。

 そして、改めて女神様が制服を指差すので、制服を女神様から守るようにして、おそるおそる目を向ける。


 すると、制服に広がっていた染みが、ゆっくりと小さくなっていった。

 

「……なにこれ」


 ついさっきまであった果実水の染みは徐々に小さくなって、最後には跡形もなく消え去った。

 染みの合った箇所を触ってみたけど、ベタついた様子も無く、完全に元通りになっている。


「……もしかしてこの刺繍のおかげですか?」


 私は制服の端に目立たぬように刺繍されている模様を指差す。

 女神様は私の質問に対して、胸を少し逸し、指を一本立てて横に振っている。

 まるで『これだけじゃないのよ』とでも言いたげのご様子。


 次に女神様は腕を構えて、シュシュっとシャドーボクシングをするように右腕を前に繰りだす。

 それを終えると、今度は両手を胸の前に持ってきて、手のひらを向かい合わせてグッと押し込む。

 そして、手を腰に当ててから胸を大きく逸して、こちらに誇らしげな表情を向けた。

 

 ……どうしよう、さっぱりわからない。


 やりきった女神様は、何かを期待するようなキラキラする視線を私に向けている。


「あの、女神様さっぱりわかりません」


 いくら考えてもわからなそうなので、私はすっぱり答えた。


 私の反応に女神様は驚きに目を見開き、まるで『ガーン』と聞こえてきそうな表情を浮かべていた。

 女神様はがっくりと俯くが、それも束の間。

 すぐ顔を上げて、頭を振った女神様。

 再度、何かを伝えようと試みることにしたみたいだ。


 立ち直った女神様がマントを指差す。

 そして、指を一本立ててから、指先から水を出して、マントにかけた。 

 マントにかかった水は弾かれて、すぐに消え去った。


「へーこのマントってこんな感じで魔法を防ぐんですね」

 

 女神様はまた先程のように両手を向かい合わせて、グッと抑える動作をする。

 私は少し考えて、閃いた。

 

「魔法を抑えるってことですか?」


 女神様は意図が伝わったことが嬉しいみたいで『それだ!』というように私を指差した。

 そして、また制服を指差し、先程のシャドーボクシングみたいな動作を行う。


「……マントが魔法で、制服はパンチ? この場合は物理的な攻撃? を抑えてくれるってことですか?」


 すると、女神様は『正解!』と言いたげな顔で頭の上に丸を作った。


 へぇー、なるほどこの制服を着れば物理的な攻撃から身を守ってくれるのかぁ。

 正直、魔法のマントより安心感があるね。

 

 ……。


「って、めちゃくちゃすごいじゃないですか!」


 私が叫ぶと女神様は満足そうに頷いていた。

 

 結局、私は女神様の提案通り、汚れが勝手に落ちて、物理攻撃を軽減してくれるようになった制服を身につけることにした。


 久しぶりに制服に袖を通す。

 女神様のおかげ(?)で魔改造されているけど、着心地は全く変わっていなかった。 

 久しぶりの制服に、なんだかほっとする。

 次にマントを背中に回しかけて、魔法の帽子を被る。

 マントはいい感じにローブのような長さにして制服が隠れるようにした。

 帽子はぶかぶかになりそうなくらい大きいのに被ってみるとぴったりだった。

 本当に不思議だ。


 ……制服に、マントに、魔法使いの帽子って、コスプレみたいだね。

 

 自分の装いを想像すると思わず苦笑いを浮かべそうになるけど、女神様は親指を左右二本立てて褒めてくれた。

 最後に私の身の丈ほどある杖を手にとり、お世話になった部屋を見回してから、部屋を後にした。



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