第14話 村の魔道具と王都への道
ウルフ騒動の翌日。
私と女神様は村長さんに呼び出されて、村長さんの家を訪れていた。
昨日のことについて村長さんから改めて感謝の言葉を受け取った。
怪我をした村の人も軽症で済んだとのことで、私たちに感謝していたそうだ。
「本日はお礼を伝えたかったこともありますが、別件でお話があります」
村長さんは私たちの前に大小バラバラの大きさの木箱を置いた。
木箱は程よく色がくすんでいて、なにやら年季を感じる。
「これはなんでしょう?」
「こちらは、もしこの村に再び女神様が現れ、眷属が誕生した場合に、お譲りするようにと受け継がれてきたものです」
「はぁ」
突然の話に、私は思わず気のない返事を返してしまった。
この場合の眷属って私のことなのかな。
「女神様が村人の前から姿を消し、もはや伝承の中だけの存在になりつつあった中、これらの魔道具の継承も形だけになりつつありました。それを今日この日、私の代でお役目を果たすことができ、嬉しゅうございます」
村長さんは魔道具と呼ばれたものが入っているであろう箱を撫でる。
その表情はどこか嬉しそうで、どこか遠くに思いを馳せているようだった。
「アマネ様、これはあなたのものです。受け取ってください」
「……長い間受け継がれたものを、私が受け取ってしまっていいんでしょうか」
「これまで眷属が我々の前に現れることは、一度もありませんでした。これは間違いなく、アマネ様たちが受け取るべきものです」
そうは言われてもすぐに『はい』とは言えなかった。
これまで十分良くしてもらったのにその上、代々受け継がれた大事なものまで貰い受けることに抵抗があった。
「それにこれらの魔道具はアマネ様の手助けになると思います」
「私のですか?」
「えぇ。アマネ様は帰るための方法を探すために王都へ向かいたいのですよね?」
「はい。ですが、しばらくは無理そうなんですよね?」
王都行きは同行してくれる人がしばらく見つかりそうもないとのことで、その件については保留になっていた。
「数日前のアマネ様なら無理をせず、時期を待つべきだったでしょう。ですが、眷属となった今では話は別です」
村長さんは首を横に振ってから言葉を続ける。
「ハイウルフを討伐したアマネ様と女神様なら、お二人だけでお供を伴わずとも、王都を目指すことができると思います」
「私と女神様だけでですか?」
「今のアマネ様たちなら、冒険者としてやっていくことも可能だと思います」
「冒険者ですか?」
「はい。冒険者とは、冒険者ギルドに依頼された依頼をこなすことで、生計を立てる者を指します。依頼内容は魔物の討伐が一番多いですが、護衛依頼や、調査依頼など、さまざまなものがあります」
この世界の便利屋さんみたいなものかな?
でも魔物の討伐の依頼が一番多いなら、そんな生易しいものじゃないか。
そんなものに私と女神様がなれるのかな。
「ハイウルフは新人冒険者が相手をするような魔物ではありません。ですので、アマネさんたちなら冒険者となって、十分やっていくことはできると思います。また冒険者になれば、王都での情報収集が滞った時の日銭を稼ぐこともできます」
現状は村にお世話になりっぱなしなわけだから、自分でお金を稼ぐ方法があるなら、確かにそれはありがたい。
それに村長さんが言う通り、王都へ行ったところでスムーズに帰れるとは限らないし、滞在費の問題は確かにあったと思う。
「これはあくまで選択肢の一つです。もちろん、これまで通り村で過ごしてもらっても構いませんし、時が来るまで村で過ごしていただいても構いません。ただもし、先にお二人で王都へ目指すならば、きっとこれらの魔道具はお二人のお力になると思います」
この村は好きだけど、本音を言えば私は急いで王都へ向かいたい。
だから、村長さんの言う通り、二人で王都を目指して冒険者になって、お金を稼ぎながら情報を集めるのも悪くない気がする。
ハイウルフみたいなのを倒し続けて生計を立てろって言われたら、それは無理だけど、あれは初心者が戦うような魔物じゃないみたいだし、ウルフくらいなら女神様に授かった力の扱いに慣れればどうにかなるかもしれない。
私としては悪くない。けど。
「……女神様、どうですか? 私、できれば王都へ行きたいんですけど」
控えめに女神様に尋ねてみる。
村長さんは女神様が来てくれる前提で話しているけど、果たしてどうだろう。
女神様は目を細めて、ジーっと何か言いたげな表情でこちらを見つめてくる。
ウルフの一件で危ないからって契約を渋っていた女神様だ。
やっぱり、すんなりと賛成してくれるようには見えない。
「……だめですか?」
思った通り、渋い顔をする女神様。
村長さんは二人でって言ってたけど、やっぱり一人じゃ無理だよね。
諦めかな、と思い始めたところで、女神様がため息をつくように肩を落とした。 そして隣りにいる私の肩に手を回して、私のことを手繰り寄せた。
「それでは、決まりですかな」
私たちを眺めながら頷いた村長さんが結論づける。
「いいんですか女神様? ついてきてくれるんですか?」
私が聞くと女神様は昨日のように、ツーンと顔を逸してしまった。
賛成はしてないけど、ついてきてくれるみたいだ。
「ありがとう女神様!」
なんだかんだでいつも私を助けてくれる女神様の優しさが嬉しくて、私は女神様のことを正面から目一杯抱きしめた。
女神様は私の背中に手を回して、ぽんぽんと叩いてくれた。
きっと女神様は『仕方ないわね』みたいな顔をしてたに違いない。
「では、こちらを受け取ってください」
村長さんは二つの箱を開けて中身を取り出した。
箱の中から現れたのは、魔法使いが被りそうな大きな黒いとんがり帽子と、黒いマントだった。
黒いとんがり帽子と黒いマント、どちらにも目立たない程度にアクセントに紺色の装飾が施されていて、一目見てどちらも高そうな一品に見えた。
「こちらの二つは魔道具でして、ただの帽子とマントではございません」
「魔道具ってなんですか?」
「魔道具とは道具自体が魔力を持ち、さまざまな恩恵を得ることができる道具になります」
「ということは、この帽子とマントには何か魔力が働く力があるんですか?」
「はい、もちろんです。まず、この帽子ですが」
村長さんは帽子を手に取り、それを私に手渡してくれた。
私の頭をすっぽりと覆ってしまいそうなくらい、大きな帽子だ。
これだけ大きい帽子なら、顔の日除けもできそうだった。
「一度被ると、自分の意思で外そうとしない限り外れません。風に吹き飛ばされる心配はありません」
……び、微妙。
魔力を使う割に地味な機能にどう反応すればいいか困ってしまった。
だけど、村長さんはそんな私を気にせず、話を続けた。
「そして、帽子の頭を入れる部分に収まる大きさのものでしたら、際限なく収納することができるようです」
えっ、めちゃくちゃすごいじゃん!
さっきの地味な機能とはまるで違う、とんでも機能が飛び出してきて、思わず手元の帽子に目を向けた。
「ただし、注意点としまして、生き物はいれることができませんし、なまものを入れることはお勧めしません。忘れた時に悲惨な結果になるそうなのでお気をつけてください」
日持ちしないお弁当とか入れて、忘れたりしたら大変ってことね。
便利だからといってなんでも入れてしまわないように注意する必要があるみたいだ。
「次にこのマントですが」
今度は黒色のマントが手渡される。
「装着者の意思でマントの長さを変えることができるそうです」
……魔力を使ってまでその機能いる?
またもや要点を掴めない謎機能に首を傾げたくなった。
「そして、このマントはあらゆる魔法を軽減して、身を守ってくれるそうです」
「あの、魔法って女神様が手のひらから出す水とかのことですか?」
「えぇ、その通りです。魔力を素に使役する力を魔法と言います。このマントがあれば、火の魔法や風の魔法、土の魔法といったあらゆる魔法からの攻撃を防いでくれるそうです」
すごいじゃん、このマント! だから、先にそれ言ってよ!
「こちらの注意点としましては、あくまで魔法を軽減することらしいです。とは言え大体の魔法は無効にしてしまうくらい強力な一品だと伝え聞いています」
冒険者が危険な職業だとしたら、身を守ることができるこのマントの存在はとてもありがたい。
だけど、魔物が魔法を使ってきたりとかするのかな?
「最後はこちらになります。こちらは魔道具とは違うのですが」
村長さんは最後の箱を開けて、中身を取り出す。
箱の中に入っていたのは、一本の長い木の杖だった。
杖は私の背丈ほどの長さで、杖の先端は渦を撒くように丸くなっている。
杖は全体的に物々しい雰囲気を醸し出しているけど、緑色の葉っぱが二枚だけちょこんと生えていて、堅い雰囲気をほんのちょっぴり和らげていた。
なんだかゼンマイを大きくしたみたいな杖だね。
私が呑気な感想を思い浮かべている横で、女神様はその杖を見て驚愕の表情を浮かべていた。
「女神様?」
女神様はまるで信じられないものを見たみたいに固まっていたけど、私が声をかけると首を横に振って、なんでもないように手をひらひらと横に振った。
女神様の反応が気になったけど、村長さんが杖の説明に入ったので、そちらへ耳を傾けることにした。
「こちらの杖は魔法を発動する際の補助を行ってくれます。魔法を発動する際に必要な魔力を軽減し、魔法の精度を高めてくれます」
「私が女神様のお陰で出せるようになった水も魔法なんですよね?」
「えぇ、あれも魔法の一種です。ですので、この杖を使うことで魔法を扱いやすくなると思います」
水を出す時の調整がすっごく難しかったけど、これを使えば少しはマシになるってことかな。
「これらが代々村に受け継がれた魔道具になります。ぜひ、受け取ってお役立てください」
魔道具の説明を終えた村長さんが真剣な表情を私に向ける。
これは私だけじゃなくて、村長さんにとっても大事なことだということが伝わってきた。
「……本当にこんな立派なものを受け取ってしまっていいんですか?」
「これはアマネさんたちのためにあるものです」
隣りにいる女神様にも確認してみる。
女神様も村長さんと同じように頷いていた。
「……わかりました。ありがたく使わせてもらいます」
私の返事を聞くと村長さんの表情は崩れて、笑顔になった。
「やっと、お役目を果たせたこと、歴代の村長を代表して嬉しく思います」
こうして私と女神様は村に伝わる魔道具を譲り受けて、王都を目指すことを決めた。




