第13話 祝杯と不機嫌な女神様
村に戻って、泣きじゃくるソフィエを慰めた後、私は村長さんに全て終わったことを報告に行った。
ダンさんからある程度話を聞いていた村長さんも、私たちのことが気が気じゃなかったらしく、やはり勝手に飛び出したことについて怒られた。
女神様も『ほーら、だから止めたのに』みたいな顔で村長さんの話に頷いていた。
私はハイウルフを倒したことと、ダンさんたちがウルフたちの処理をしていることを伝えて、応援を送って欲しいことを伝えた。
村長さんはすぐに了承してくれて、村中の力自慢たちがウルフの処理へ向かっていった。
あの大きいハイウルフをここまで運ぶのは中々骨が折れそうだったけど、村の人たちは協力して動かなくなったハイウルフとウルフを村に運び込んでいた。
そして今現在、村のあちこちで戦果となるウルフの解体が行われている。
村の広場で村の人たちがばっさばっさとウルフを捌いていた。
「うぐっ、ちょっと無理……」
目の前の光景に私は吐きそうになっていた。
お腹を開いて捌かれるウルフがグロすぎて、気持ち悪くなっていた。
口を抑え、俯く私の背中を女神様が撫でてくれる。
「アマネ大丈夫?」
心配そうに声をかけてきたソフィエの手も血まみれだ。
ソフィエは解体作業の手伝いを平気そうにしていた。
「ソフィエはすごいね……私はちょっと吐きそうだよ」
「無理しないほうがいいよ。アマネ疲れてるでしょ? 休んでていいよ」
「うぅ……ごめんね。そうさせて貰うね」
役に立ちそうもない私はソフィエの言葉に甘えて、少し休ませてもらうことにした。
うぅ……少し離れても風が血なまぐさい……。
自分の部屋に戻った私は、ウルフの解体ショーで完全にグロッキーになってしまい、寝床に飛び込み次第、すぐに眠りにつくことができた。
◇ ◇ ◇
家の外から聞こえてくるにぎやかな声で目を覚ます。
目を開けると、当たり前のように女神様が私に抱きついて眠っていた。
女神様もやっぱり疲れたのかな。
私は女神様を起こさないようにして、そっと外へ出る。
村の広場では、宴が催されているみたいだった。
どうやら解体したウルフの肉はいい食材になるらしく、あちこちでウルフの肉を使った料理が振る舞われている。
ウルフたちのせいで本来予定していた狩りは出来なかったけど、結果的には大量のウルフの肉が手に入ったので、どうせならとみんなで豪勢に宴をすることになったらしい。
もちろん、今日のウルフ騒動で大きな被害が出なかったことに対するお祝いと労いも含まれている。
とは言え、私たちの歓迎会の宴から一週間しか経っていないことから、ここの人たちはただどんちゃん騒ぎするのが好きなだけかもしれないと思ったりもする。
「お、今夜の主役が登場だぞー!」
一人のおじさんに指名されて、たちまち私は村の人たちに囲まれた。
料理を勧めてくれる人や、ウルフの件を労ってくれる人、感謝してくれる人、心配してくれる人、さまざまな理由で村の人たちに囲まれる。
「アマネちゃん、これ食べてちょうだい! アマネちゃんが取ってきてくれたウルフの肉だよ! さぁさあ!」
「アマネさんウルフの件お疲れ様! あの数のウルフを女神様と二人で倒しちゃったんだって? やっぱり女神様の力ってすごいねぇ」
「アマネさん、本当にありがとうございました……アマネさんと女神様がいなかったら私の主人はきっと……本当にありがとうございました!」
「アマネちゃん怪我はしていないかい? あんまり無茶しちゃだめだよ。 女神様が見当たらないけど大丈夫かい?」
初めての歓迎会の時とは違い、村の人たちはみんな気軽に話しかけてくれる。
たった一週間近くしか経ってない無いけど、改めてこの村に受け入れてもらえたような気がして、私は嬉しかった。
私は一週間前とは違い硬くなることは無く、村の人たちと宴を楽しんだ。
食べたことがないウルフ料理に舌鼓をうち、気軽に話しかけてくれる村の人たちとの会話を楽しむ。
村に大きな被害が出なかったことを喜んだり、ウルフとの戦いについて私と女神様は無事だったことを伝えたり、女神様がかっこよかったことなどで村の人たちと盛り上がり、会話を楽しんだ。
しばらくすると、ソフィエの家から慌てて飛び出してくる女神様の姿が見えた。
女神様は慌てたように辺りをキョロキョロしている。
楽しい気分に酔っていた私は、そんな女神様にちょっと意地悪をしたくなっちゃって。
「女神様が来ましたよー!」
と、大きな声で叫んだ。
すると村の人たちみんなが歓声をあげて、女神様のほうへ群がっていった。
女神様はあっという間に囲まれて、村の人たちの輪の中心になった。
私の時と同じく料理を勧められたり、労われたり、感謝されたり、心配されたりしている。
一週間前は村の人たちに囲まれて表情を硬くしていた女神様だったけど、今は私と同じように楽しそうに村の人たちに応じている。
なんだかその様子が今の自分と重なって見えた気がして、女神様と村の人たちのやり取りを私はいつまでも眺めていた。
◇ ◇ ◇
「もーお願いですから、許してくださいよー」
宴がお開きになり、私は女神様と一緒に部屋に戻ってきた。
女神様は私が置いてけぼりにしたことを気にしているみたいで、さっきから頬を膨らませていて、全く目を合わせてくれない。
だけど、私の傍を離れようとはしないから、嫌われたわけでもないと思う。
女神様はさっきからむくれながら、チクチクと制服に刺繍を施している。
別に意地悪して声をかけなかったわけじゃないんだけどなぁ。
今日は女神様に無理させちゃったし、どうにかして機嫌直してくれないかな。
何か無いかと唸っていると、女神様が針を動かすのをやめて、制服を広げて全体を確認していた。
「刺繍、終わったんですが?」
女神様に声をかけてみるもツーンと顔を逸らされてしまった。
こ、これは女神様、本気で怒ってる。
女神様は淡々と制服を片付けている。
そこで本日二度の閃きが私に訪れた。
「女神様、刺繍終わったんですよね? じゃあもう一緒に寝ましょうか?」
私は寝床に入って声をかける。
顔を背けていた女神様がピクッと反応した。
いつもは気がついたら寝床に忍び込まれていて、結果的に一緒に眠っていたけど、今日は私から声をかけてみた。
しばらく反応がなかったけど、女神様は顔を逸らしながら私の傍まで来ると、寝床の中でいつものように私を抱きかかえた。
不機嫌でも私を抱きかかえて眠るスタイルは変わらないのね……。
「女神様、別に意地悪したわけじゃないんですよ。女神様も疲れてると思ったんですよ。今度からはちゃんと傍にいるか、声をかけるので許してください」
私の言葉に応えるみたいに女神様は私の頭を撫でてくれた。
顔が見えないからわからないけど、許してくれたのかな? どうだろう?
女神様の温もりが伝わってきて、すぐに睡魔が襲ってきた。
さっきも睡眠を取ったのに、今日の出来事で思ってたより体力を消耗してしまっていたようだ。
私は意識を手放す前に女神様に語りかける。
「女神様、今日は、お願い聞いてくれて、ありがとうございました」
女神様は動かず、じっとしている。
私の声、聞いてくれているのかな。
「私、今日のこと、忘れませんから、いつか、女神様のおねがいも……私が……」
そこで私の体力が尽きて、眠りに落ちた。
長かった激動の一日が終わりを告げた。




