第12話 狼たちとの戦いを終えて
「アマネさん! 女神様!」
ハイウルフとの戦いを終えて、湖のほとりで立ち尽くしていた私たちの元へ、ダンさんと数人の村の人たちが駆け寄ってきた。
「お二人ともご無事ですか!?」
「ダンさん、私たちは大丈夫です。少し前に全部終わりました。それよりも、どうしてここに?」
「お二人を置き去りにして、ジッとしていられるわけないじゃないですか!? あんなこと、もう絶対にしないでください!」
語気を強めたダンさんに叱られてしまった。
どうやら、ダンさんたちは怪我人を村に送り届けた後、私たちの身を案じてここまで引き返してくれたらしい。
「すみません……ああするしか思いつかなくて」
どれほど心配をかけてしまったのか、冷静になった今ならばちゃんとわかるけど、あの時は無我夢中でそれどころじゃなかった。
私が謝ると、女神様もダンさんの横へ並んで、同調するように右腕を上げていた。
どうやら、一区切りついてから、さっきまでの出来事について不満が再燃したらしい。
うぅ……女神様まで……。
「 本当に心配かけてしまってごめんなさい。……でも、私、ソフィエに約束したんです。絶対、ダンさんたちを連れて帰ってくるって」
「……いえ、こちらこそすみません。助けていただいたのは私たちなのに……ただ、ご自身のことも忘れないでください。アマネさんがご自身で言った通り、アマネさんが帰らなくて悲しむ人もいるんですから……」
女神様がまた腕を振り上げて、同意している。
今度は両手を上げて、とてもカンカンのご様子。
私は何も言い返すことができず、黙ってお叱りを受けることしか出来なかった。
うぅ……。
「でも、それとは別に感謝はしないといけませんね」
ダンさんはそう区切り、真剣な目を私に向ける。
「今回はありがとうございました。怪我をしたやつも、無事に村に帰ることが出来ました。あの時、アマネさんと女神様が来てくれなかったら、間違いなくソフィエとリリアを悲しませてしまいました」
ダンさんは私に向かって深く頭を下げた。
「……本当に無事で良かったです。それにお互い様ですよ。ダンさんと村の人たちにはとても良くしてもらっていますし、無事に終わってよかったです」
お世話になっていたソフィエとダンさん、それにこの村の人たちのことだから頑張れたんだと私は思う。
「それに一番頑張ってくれたのは女神様なんですよ。女神様なんて、最初契約するのも反対してたんですから」
私は女神様の腕を掴んでダンさんの目の前に押しやる。
私の言葉に女神様はちょっとだけ不満そうだった。
「嫌だった契約をしてまで、私のわがままを聞いて助けてくれたんです」
女神様はまだ言いたいことがたくさんあるのか、私の前でバタバタと騒いでいる。
「嫌だったのに、私をダンさんたちまで導いてくれて、たくさんのウルフを倒して、私を担いでハイウルフから守ってくれて、倒しちゃったんです」
私は騒いでいる女神様の顔を、横から見上げるようにして目を合わせる。
「私の女神様は本当にすごかったんですよ!」
私が笑いかけると、女神様はピタッと動きを止めた。
だけど、やっぱり納得できないことがあるみたいで、私のほうを向き直りポカポカと私の胸を叩き始めた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、反省しますから、許して!」
お怒りの様子の女神様に許して貰うため、私は必死に謝り続ける。
そんな私たちのやり取りを目の前で見ていたダンさんは小さく笑っていた。
「やはり、アマネさんは女神様の眷属にふさわしいお方でしたね。女神様とこんなに仲良くなれる人、他にいませんよ」
ダンさんはくくっと笑っていた。
それから、ダンさんは表情を引き締めてから、女神様を真っ直ぐに見据えた。
「女神様、この度はありがとうございました」
女神様は私を叩くのをやめて、ダンさんの言葉に耳を傾けている。
「私たちと、私たちの家族、そしてアマネさんのことを守ってくださり、ありがとうございました」
ダンさんが女神様に頭を下げた。
後ろで様子を見守っていた村の人たちも合わせて頭を下げる。
彼らに感謝された女神様はというと。
いつもみたいに手のひらを横に、ひらひらと振っただけだった。
女神様らしいね、ほんと。
私たちに感謝を告げた村の人たちは、これからそこら中で転がっているウルフを処理して、村に運び込むらしい。
「あとは私たちだけで大丈夫ですので、アマネさんたちは先に村に戻ってください。ソフィエが待っていますよ」
「そうですね。そうさせてもらいます。あとはお願いします」
私たちが手伝えることも無さそうなので、ウルフの処理はおまかせして、私と女神様は一足先にピクセス村に帰ることにした。
◇ ◇ ◇
「アマネ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
ソフィエの家に入ろうとした直前で戸が開き、ソフィエが飛び出してきた。
「わっ、いきなり飛び出したら危ないよ」
「け、けがしてない? 無事だった?」
「うん。女神様が守ってくれたから大丈夫だったよ」
私にしがみつくソフィエに無事だったことを伝えると、ソフィエはくしゃりと顔を歪めて、今日一番の大声で泣き始めてしまった。
「わ、わ、どうしたの。私たち、無事だよ。泣かないでね、ね?」
ソフィエが落ち着けるよう、ぎゅっと抱きしめながら背中をさすってあげる。
だけど、ソフィエはなかなか泣き止んでくれない。
「アマネさん……本当に無事で良かったです……」
「リリアさん、全て終わりました。もう大丈夫ですよ」
ソフィエを慰めていると、家の中からリリアさんが現れた。
リリアさんは私と女神様の無事を確認して、目に涙を貯めていた。
「本当に……よかったですっ。主人が無事に帰ってきたのに、アマネさんたちの姿が見えなくて……主人たちをハイウルフから逃すために、二人で森へ向かっていったと聞いた時は、息が止まりそうでした……お二人になにかあったらと思うと……私たちはなんてことをしてしまったのかと……」
「……たくさん、心配をかけてしまいましたね」
ダンさんの言葉通りだった。
私はたくさんの心配をみんなにかけてしまったみたいだ。
また反省しないといけないね……。
「……ソフィエ、心配かけてごめんね。もう大丈夫だよ。ダンさんも村の人たちも無事だったよ」
心配をかけてしまったことを謝ると、少しずつソフィエは落ち着きを取り戻して、泣き止んでくれた。
「……アマネ、あのね」
私のお腹に顔をうずめながらソフィエが言う。
「うん」
「父さん、助けてくれてありがとう」
「うん」
「女神様も、ありがとう」
女神様は私たちに近づいて、ソフィエの頭を撫でてあげる。
結局、ソフィエのことは泣かしてしまったけど、この子の大切なものを守れて、本当に良かったと思った。
私と女神様は無事に、ソフィエとの約束を果たすことができたのだった。




