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織田真の場合3

   3

 娘が生まれて15年。娘の(さき)は典型的な反抗期を迎え健全に成長してきた。

 私の創った世界は私がその事に気づいたからと言って何か変わった様子もなく、ただただ平凡な日常が過ぎていった。

 創造主だと気付いたあとは娘だけでなとく、生きとし生けるものすべてが素晴らしいもののように感じられ、蚊でさえたたくのをためらっていた。

 今でもなるべく無駄な殺生はしないようにしている。たまに街で困っている人などを見かけると助けずにはいられなくなり、妻からも「娘が生まれるとこうも人が変わるのか。」と言われる始末だった。

 家族で旅行に出かけた時も、自分が創ったのであれば全部わかってしまうのではと不安に思ったが、初めて行く場所は新鮮な気持ちになれた。自分が創ったといってもその記憶はないのだ。

 それからは家族でいろいろなところに行った。娘が小6の時には海外旅行にも行った。景色や料理に妻も娘も喜んでいたし、その顔を見れたのがとてもうれしかった。

 最近は家族で外食に行くのも娘に嫌がられるが、それも愛おしく感じてしまう。娘とはそんなものだ。

 恵美は少しでも家計の助けになればと、パートを始めた。ありがたい話だ。

四十ををこえるとこのマンションまでの坂が少しきつくなってくる。が、健康のため、長生きするためと、タクシーなどは使わず必ず歩いていくことにしている。


 私が死んだら全部消えるのだ。


 家に帰るとちょうど夕食の用意をしているところだった。キッチンから妻と娘のキャッキャと楽し気な会話が聞こえた。

「ただいまー。」

 キッチンにつながるドアを開けると、とたんに表情を曇らせる娘が目に入った。でも、一瞬でも笑顔が見れた。今日はいい日だ。

 家着に着替えていると

「ごはんよー。」

と妻の声。三人で食卓を囲んだ。娘は私が座った時には半分近く食べ終えていた。まあいい。幸せな生活だと思う。

「また、旅行にでも行きたいね。」

恵美が誰にともなく言った。今の仕事がひと段落すれば行けるかもしれない。

「そうだね・・」

「部活が忙しい。」

バッサリ切られた。咲はご飯をせっせと口に運んでいる。ナントカ言うスポーツの部活に入っているようだ。たくさん食べても太らないほど、まあまあきつい部活らしい。

「あそこにもう一度いきたいなあ。ほら、山頂で日の出を見たぁ・・、そう『長山』だ。」

おでこを指で三回つついて思い出した山の名前を妻に向けて指さした。

「どこって?」

妻が驚いた顔で聞き直して、一瞬手を止めてこちらを見ている。

「『長山』だよ、夜中登るのはきつかったけど、あの朝日はきれいだったな。」

「バカじゃないの。」

咲は食べ終えた食器を重ねて立ち上がった。

「お父さんにそんなこと言わないの。」

恵美はいつも味方してくれる。しかし、変な空気を感じながら食事は終わった。


 寝る前に軽い頭痛を覚え、キッチンで頭痛薬を飲んでいると、妻が後ろを通りながら言った。

「『長山』?誰と行ったのかしらね?」

前言撤回。いい日ではなかった。


◇◇◇


 頭痛薬の影響か、ぼんやりした頭で目が覚めた。

 今日は会社が休みで良かった。咲はもう部活に出かけたらしい。恵美は私のために朝食を配膳してくれている。

 テレビではいつものニュースをやっていた。水色のスーツを着た女子アナが今日の天気を伝えていた。

「あれ、なんかこのアナウンサー顔が変じゃないか?」

いつもの席に座りながら何となく話した。恵美は目玉焼きを私の前においてから画面を見て

「疲れているんじゃない?」

と答えた。声のトーンで昨日のことをまだ怒っているのが分かる。疲れていると判断されたのはアナウンサーなのか私なのかは分からないまま朝食を終えた。

 まだ頭もはっきりしないので、午前中ぐらいは寝ていたいが、恵美に家事を任せて寝ているのも空気が悪くなりそうだ。買い物でも行ってくれれば。

「ちょっと買い物に行きたいんだけど。」

恵美からの話に二つ返事でOKを出した。これでしっかり休める。かるく皿を洗ってから再びベッドに入った。


 目が覚めると頭の痛みはすっきりなくなっていた。キッチンで昼食を作っている音とにおいがする。

「あら、起きて大丈夫?よく寝てたけど。」

「うん、大丈夫。ちょっと頭が痛かったんだけど、寝かせてもらってすっきりしたよ。」

「そう、よかった。」

ほっとした様子だ。

昼食を食べながらテレビを見ていた恵美が、急にこちらを向いて

「『長山』!思い出した。咲がつらいって大泣きしたのよね。」

「そう。思い出した?大泣きした後、朝日を見て機嫌が直ったんだよ。」

「そうそう。この後何食べる?ってね。」

「そう!そのあと食べた朝ごはんがうまかったなあ。それからいくつも山をのぼっただろ。」

「忘れてたのよね。ごめんなさい。」

「いいよ。いいよ。でも本当にどこか旅行にでも行きたいね。」

「もう山登りは私が無理。別の所にしましょう。」

 結局、咲の部活次第ということになった。こうなるとほぼ行けないも同然だ。


◇◇◇

 

 それから十日が過ぎ、また頭痛がしたので今度は会社を休んだ。「何か食べたほうがいい」と恵美がおかゆを作ってくれた。あまり味も感じない。

 朝食を食べ終えて寝室に戻ろうとしたとき

「今日の天気、どうなのかしら?」

と、恵美がテレビをつけた。後ろ手にドアを閉めようとするとテレビからおかしな電子音のような音が聞こえた。頭がズキリと痛む。

リビングにもどると、

「午後から雨なのね。」

妻はテレビを見ながら独り言を言っていた。


「ピロロロローー。」


テレビの中のアナウンサーがそういった。

いや、アナウンサーなのか?この前、妻に疲れていると言われたそのアナウンサーには顔がなかった。そもそも骨格から違った。まん丸の頭に黒い丸が三つついている。体は円柱形でいつものイメージカラーとか言う水色をしていた。手も足もない。「ピロピロ」言う声に合わせて顔の下のほうにある黒い丸が上下に伸び縮みした。

「頭痛も気圧のせいかもしれないわね。」

そういって振り返った恵美の目のあった場所には二つの黒い穴があった。

目の前が真っ暗になり後ろに倒れていく感じがした。


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