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目の前には淡いピンク色のドレスを着たお人形のような可愛らしいマドリーヌ様が隠せない好奇心を目に私を見ている。
ちなみにユージン様はご友人達に拉致された。
私もそのパートナーを努めている女性たちに拉致された現在。
「ファニーリさん、不躾なお願いで申し訳ないのだけど、一度くるりと回ってくれないかしら?」
「え、ええ、構いませんわ」
妹マドリーヌ様の要望に私はテーブルから少し離れた場所でくるりと一回転。
すると私の動きに合わせてドレスが円形に広がり、ドレスに縫い付けられた小さな宝石たちが照明反射して、キラキラと光る。
「噂では聞いていたけど、本当にドゥラン諸島の絹は素晴らしいのね。それにこの染色技術、やはり世界一と噂されるだけの美しさだわ」
「生地自体が発光しているように見えます!」
「島独自の製糸撚糸技術がその光沢を生み出していると聞いたことがあるわ。
それにこのデザイン、最近隣国でも流行り始めたドレスの型ね」
「これから我が国でも流行るのは間違いないわ。ファニーリさんの美しさに、きっとこの会場内のご令嬢たちがこぞって仕立て注文するはずね」
「でも今の私には似合わなそうです。身長が低いから、上手く着こなせる自信がないです」
「私も胸の大きさがより強調されて、アンバランスになりそうね」
今我が国の中でご夫人ご令嬢のドレスといえば、スカートの中に骨組みを仕込んで円形に膨らませるのが一般的だ。
しかし私が着ているドレスと言えば、腰から広がる直線的なラインが美しい形をしている。
そしてユージン様の瞳の色と同じ、深い青色から濃い紫色へとグラデーションのドレス。
確かに想いあった人同士で、お互いに身に纏っている微笑ましい光景を何度か目にしたことがあるものの、あくまでドレスの挿し色や、ハンカチーフ、アクセサリーなどという小物系が多い。
今の私のようにドレス全体で相手の色を主張するなんて、ロリペタ好きの先輩の言う通り〝異常〟だと同意見である。
じゃあなぜ私はこれを着ているのかって?
コルセット気絶から目覚めたらすでにドレス着用済みで、一人で脱ぎ着不可能だったため、着用続行という選択肢しか無かったのである。
大きな声で言おう、ユージン様の色のドレス着用に私の意志は存在しない。
「瑠璃紺の深い色味とファニーリさんの白い肌がお互いを引き立てているし、肩から胸のドレープの曲線が滑らだわ」
「ファニーリさん、背中がとても綺麗です!」
「あら、本当。まるで吸い付きたくなるような肌だし、その谷間がそそられるわ」
え、とか、あの、とか、くすぐったい、とか、揉むのはちょっと、とか、背中に指を滑らせないで、とか。
私の言葉などまったく聞こえていない女子三人は私を撫で回す。
あ、スカートをたくしあげるのはだめですってば。
「全くお兄様ったら、家に届く婚約話に見向きもしなかったのはファニーリさんがいたからなのね」
「王都にいる美女美少女たちは全て把握していたつもりだったのに、リプセット様ったらずっと隠していらしたのね」
「隠したくなる気持ちもわかりますよ。こんなにお綺麗なんですもん、餓えた男たちの目を欺かないとすぐにでも連れ去られちゃいますよ」
ちょっと、ロリっ子さん。
顔に見合わない下衆い事をいうのをやめてくださいな。
そして私は綺麗ではない。ドレスが綺麗なのだ。
ついでに普段の私は特に美人でも不細工でもない、平均的な少し薄い顔立ちだ。
そして今日の私はリプセット侯爵家の何本ものブラシを操り、何色のも色味を喧嘩もせずに私の顔に塗りたくった魔女たちの技術力のおかげである。
私もはじめて鏡を見て絶句したほどである。
「是非ともまた我が家にいらしてね、ファニーリさん。ゆっくりお話したいわ」
「こうして出会えたのは何かの縁ですし、お茶会の招待状を贈ってもいいかしら?」
「私も来期にこの学園に入学予定なので、よろしくお願いしますねファニーリ先輩!」
気付けばホールの音楽が代わり、ダンスのために中央にいた生徒たちの移動が始まっていた。
ダンスのために各々のパートナーの元へと向かう三人のご令嬢を見送り、ポツンとなったタイミングでふうっと詰めていた息を吐く。
「……」
周りをぐるりと見渡すものの、ユージン様の姿は見えない。
先ほどのご友人たちと会話が弾んでいるのか、また別の人に捕まっているのか。
本当ならばユージン様を探しに行くなり、この場所で迎えが来るのを大人しく待っている方がいいのだろう。
そうわかっていながら私はホール中央から背を向けて、外のテラスへと足をすすめた。
去年まではデザートを食べながら壁際から楽しそうに過ごす他の生徒たちの様子を見ているのが好きだった。
私には自らその輪の中に加わろうという勇気も行動力も、ついでに体力も人脈もなかったけども、それでも同じ空間にいれただけでよかったのだ。
夏の匂いが濃くなった夜の風に、室内からの軽やかな音楽と、生徒たちの声が届く。
元々あまり社交的な性格ではないのだ。
こちらに建前上友好的に接してくれる人相手でも、緊張はするし、そもそも自分よりも身分が高い方々に粗相をしないか不安と隣合わせだった。
それにきつく締められるコルセットと、たくさんの含みをもった視線。
きっとあの場所に留まり続ければ、ユージン様との関係を問いただしたい女子生徒や、興味本位の男子生徒たちに突撃されただろう。
さらに多くはないが、生徒たちの保護者だって参加しているのだ。
ユージン様に娘を推したい人間にとっては目障りで、縁を繋ぎたい人間にとって、私は獲物になる。
正直こうなる未来が分かっていたから、ユージン様の誘いに素直に頷きたくなかったのだ。
私が望んだわけじゃない、私はどこぞの変態に脅迫されてここにいるのだ。
それなのにーー。
「…結局放置ですか」
落ちた声音に、私が自分が思った以上に拗ねていることを知った。




