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「ねぇ、やはりこちらのブルーガーネットとブルーダイヤモンドのネックレスの方がいいんじゃないかしら?
ファニーリさんのほっそりとした首回りをごちゃごちゃさせるより、シンプルがいいと思うの。
それにドレスとの色味も統一感が出るじゃない」
「そうですね。
確かに坊ちゃまがお選びになった黄色のトルマリンとシトリンのチョーカーも若い方に人気のデザインですが、ファニーリ様が着用されるドレスと合わせますと全体的に少し黄色味が強い感じもいたしますね」
「でもユージンはファニーリさんの瞳の色と合わせて用意したのだろう?」
「あらそうなの。
じゃあおばあ様のティアラを作り変えたイエローダイヤモンドのネックレスとイヤリングのセットはどうかしら。
それかボジヴォイ女帝から頂いたインペリアルトパーズは少し落ち着いた色味だから、ドレスとも合うと思うの」
「両方お持ちいたしますね」
目の前には特定の地区のみで産出される希少な青いガーネットを中心に、ダイヤモンドの中でも最も価値が高いとされるブルーダイヤモンドが周りを取り囲む立体的なデザインのネックレス。
隣国の元皇帝から結婚祝いに頂いたものらしい。値段なんてつけられない。
さらに宝石の中では比較的最近発見されたために流通数が少ない、鮮やかなイエロートルマリンとダイヤモンド、さらに幸運をもたらす石として人気があるイエローシトリンが首元から輝かせるチョーカーネックレス。
とある有名ジュエリーデザイナーの作品で、このデザイナーの品物は王族御用達のアイオーン商会でしか購入できないらしい。
「そういえば私たちが出会ったのも学園の舞踏会でしたね」
「そうだったね。
いきなりドレス姿の君が僕にダンスの申し込みをするんだもの。とっても吃驚したんだ」
「だって貴方を一目見た瞬間にビビっと運命を感じたのよ!
他の誰かに取られてしまう前にどうしても私のものにしたかったの」
「当時、貧乏男爵家の三男坊だった僕なんて誰の目にも止まっていなかったよ。
まさかダンス終わりの場でプロポーズまでされるなんて驚いたもんだよ」
ハッハハと、鼻の下のちょびヒゲを撫でながら男性が朗らかに笑う。
その隣で目鼻立ちのはっきりとした美しい女性が優雅に紅茶を傾ける。
「ファニーリさんは今学園の二年生でしょう?入籍は卒業後ということでいいのかしら。
それとも在学中に籍だけは入れて、発表とお披露目は卒業後にする?」
「僕たちはヴィオラの希望で、舞踏会の次の日に入籍したんだよ。両家の両親が結婚に同意してくれたからね。
僕たちは今すぐでも数年後でも、ファニーリさんが僕達の家族の一員になってくれることは大歓迎だから、まずはファニーリさんのご両親に話を聞いてからにしようね。
ユージンもそれでいいだろう?」
「ああ、それで構わない。とりあえず今度ファニーリの家に挨拶に行ってくる」
「挨拶に行くなら、私たちも一緒に行ったほうがいいんじゃないかしら?
だって大事な娘さんをお嫁にもらうわけだし」
「いや、いきなり大人数で押しかけるほうが迷惑だろ。
両家の顔合わせはあちらの都合を聞いてから日時は決めるつもりだから」
目の前には眩しいほどに輝きを放つアクセサリーと、最高級の茶葉で淹れられた香り高い紅茶、食べるのを躊躇うほどの美しいケーキ。
…ああ、紅茶が美味しいな。
美味しいはずなのに、香りや味がしないのはなぜだろう。
そして首が重い。怖い。今度はいくら?
「ドレスとの色味の相性はいいんだけど、ファニーリさんの顔立ちにイエローダイヤモンドはすこし派手かしら」
「ではイヤリングを外して、ネックレスだけはいかがでしょう」
「それだと少しさみしくないかしら。
せっかくの舞踏会ですもの、誰よりも可憐で美しい姿にしてあげたいわ」
「ではこちらのインペリアルトパーズのネックレスはいかがでしょう。
色味やデザインはイエローダイヤモンドよりは落ち着いているものの、石の大きさと輝きはそれ以上のインパクトを与えます」
「こちらもいいわね。ファニーリさんの魅力をより引き立てているわね。
ファニーリさんはどちらが好みかしら?」
夫人が祖母から譲り受けたイエローダイヤモンドのティアラを作り変えたネックレスとイヤリング、ブレスレットのセット。
ご夫婦の結婚披露でつけた思い出と伝統が詰まったもの、プライスレス。
世界の流行を作り出すと言われるボジヴォイ女王からユージン様誕生のお祝いで贈られた皇帝の名を持つインペリアルトパーズ。
数年前に起こった大地震で世界で唯一のインペリアルトパーズが産出される地が海に沈み、今ではもう入手不可能と言われている幻の宝石。
どちらが好み?
え、何を選ぶの?誰が?私が?
「本当なら様々な原石を取り寄せるところから始めたかったわ。
でも舞踏会は明日なんだもの。今からじゃ間に合わないわ」
「確かに明日の舞踏会には間に合わないけど、これからファニーリさんが着るドレスやそれに合わせた宝飾品を今から作ればいいんじゃないかい?」
「それもそうね!今からオーダーすれば冬の舞踏会には間に合うわ。
明日からさっそく各所に声をかけなくちゃ」
「ファニーリさん、騒がしくてすまないね。
こうしてユージンが素敵なお嬢さんを僕達に紹介してくれたことが、とても嬉しいんだ。
これからゆっくりでいいから家族として仲を深めていければいいと思っているよ」
優しい笑みにつられて、私も笑う。
テーブルを挟んだ先のご夫婦、隣に座る夫婦の息子、そして私の瞳が交差して、笑い声が混ざり合う。
それでも頭の中は絶賛混乱中だった。
え、私は一体何処で、誰と、何をしているのだろう。
そもそも私は、え、…ファニーリって誰だっけ。




