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「え、なに!?
なんでファニーリのことリプセット様が抱いてんの?
え、ちょっと待って、私逢引現場突入しちゃった!?」
「ちょっと待てファニーリ、いつの間にアレと知り合ったんだ!?
そもそもアレは俺が知っている人間外生物か?」
「ええ!リプセット様ってファニーリみたいな大人しめの子がタイプだったんだぁ。
というか、ファニーリ大丈夫!?
リプセット様に脅されたりとか、無理矢理関係を迫られたりとかじゃない?」
「最近は姿を見せなくなったから安心していたんだが。
何か危害を加えられたり、暴言暴力などされてないか!?」
驚きの表情から一変、何故かお互いを貶しながら私を心配する言葉を投げかけてくる二人。
私の言葉を挟む隙すらない。
私は何とかユージン様の腕の中から抜け出し、パンパンと両手を打つ。
「紹介いたします。私の友人であるオリヴィア・パウスフィールドさん。
先日困っているところを助けて頂き、それからお手紙のやりとりをさせて頂いております」
私の紹介に、オリヴィアさんはコホンとわざとらしい咳をして、改めてユージン様に向かって貴族令嬢の礼をする。
その姿にまたユージン様は驚いた様子だったけれども、言葉を発することは無く、まじまじとオリヴィアさんを凝視している。
「そしてこちらはご存じだと思いますが、ユージン・リプセット様。
とあるきっかけでリプセット様にお声をかけて頂き、今日も寮まで送って頂いておりました」
そういえばユージン様に声をかけられたきっかけはオリヴィアさんだったことを思い出す。
巡り巡ってそのオリヴィアさんと交友関係を気づけている今。
人生とは何があるかわからないものだ。
そんな悟った私の紹介に不満顔のユージン様も、オリヴィアさんに対して貴族の礼を返す。
礼を受けたオリヴィアさんが目を三日月にし、ニマニマ笑う。
多分不満顔をしたユージン様が珍しかったのか、面白かったのか。
そんな二人が私を挟み、見つめ合うことたっぷり五秒。
先に動いたのはオリヴィアさんだった。
「ていうか、さっき人間外生物って聞こえたんですけど、それってもしかしなくても私のことですか?」
オリヴィアさんはユージン様の前で自称お転婆天然キャラを演じることをやめたらしい。
そもそも雑木林から登場したうえで、外出のために塀を乗り越えたと発言した時点でもう猫すら被れない状況だから仕方がないだろう。
「…それ以外誰がいる。
というか、そっちが素か?」
「あ、そうです。高貴な方にはこっちでもいろいろと耳障りだろうけど。
ま、私のこと人間外生物って呼んでるなら、お互い様ですよね」
気分を害した様子もないオリヴィアさんはカラカラと笑う。
そんなオリヴィアさんの様子に、ユージン様の眉間の皺が深くなる。
ユージン様にとってオリヴィアさんとは、
フェルナンド王子殿下をはじめ他の高貴貴族令息の間をふわふわと飛び回り、拒否や拒絶を尽く無視しながら、押し倒す勢いで距離を縮めようとする貴族令嬢だったのだ。
その姿がまさか偽りの姿だったなんて。
「…二重人格とかじゃないよな?」
「まさか。あのキャラは学園用ですから」
その物言いにユージン様の眉間の皺がより深くなった。
理解が追いつかないのだろう。
そんなユージン様の様子に、オリヴィアさんが笑う。
「っていうか、ここまで誰にも会わなかった?
意外とここらへんって学生たちの夜の逢引スポットになってるからさ、出会っちゃうとお互いに気まずいんだよね」
「……逢引、スポット?」
「お互いの寮室に忍び込んだりするカップルもいるんだけどさ、やっぱり部屋に行くまでが難しいし、仮に上手く部屋に行けてもやっぱり音がさ」
「………音、」
「そ。だからこの雑木林の中にある池とか、管理小屋とか。
あんまり一目気にしないカップルだと、普通に外灯が届かないそこらへんでヤッてたり」
「………ヤ、」
今私は、聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。
誰にも見られたくないからと選んだこの裏道が、まさかの逢引スポット!?
え、何も見てないですよね?誰にも見られてないですよね?
ガクガクとユージン様を揺さぶれば、顔を背けられた。
なんで!?
「パウスフィールド嬢、あまりファニーリに変なことを吹き込まないでくれ。俺が一から仕込みたいんだ」
「うわ、リプセット様ってそっち系? ファニーリ相手には難しくない?だからこそって気持ちはわからなくもないけどさ」
ちょっと、二人して何を言ってるんです?
お互いに頷きあうのはやめてください。
不快です。不潔です。
「あ、そういえば聞いてよ!
この前のファニーリに言い寄ってた銀眼鏡。
さっきトイレシーから聞いたんだけど、身代わりを自首させたらしいよ」
……ん、銀眼鏡といえば、舞踏会の勧誘された隣のクラスの同級生。
そしてオリヴィアさんの友達をナンパした去り際に高いワイン割った疑いのある彼。
え、身代わりを自首させた?
「ま、当然秒でバレたよね。
身代わりがすべてゲロって、後日親に首根っこ掴まれてオーナーのところに連行されたってさ」
バカだよねぇ、と、オリヴィアさんが笑う。
私も同意見だ。声に出して笑いはしないけど。
「…ファニーリ、言い寄られたのか?」
「そうそう。ファニーリが断ってんのに、全然言葉通じなくてさ。
気持ち悪いこと言い出したから、我慢できなくて私が口出しちゃったんだけど」
背後から落とされた先程よりも低い声にブルっと肩が震えた。
これはあまり良くない予感。
だけどそんなことに気付かないオリヴィアさんの口は止まらない。
「そういえば昨日も中庭で男子生徒に詰め寄られてなかった?
あれも舞踏会の誘いでしょ」
「…ちゃんとお断りしましたから」
ちょっと時間が掛かったものの、なんとか納得してもらえた。
だからあの、背後で冷気を出すのやめてもらっていいですか?
ついでになんで私の左手の薬指を握るんですか?
あの、そんなに力強く握られると折れます。
「リプセット様、ファニーリ泣かせたら許しませんから」
急に声のトーンを落としたオリヴィアさんがユージン様に真っ直ぐな視線を向ける。
そんなオリヴィアさんに、ユージン様も笑みを向ける。
「…というと?」
「フェルナンド王子殿下、落とします」
「っ、」
オリヴィアさんのまさかの発言に、ユージン様が言葉を失う。
未来を想像してしまったのだろう。
自分の妹がフェルナンド王子殿下を手にかける未来を。
「ファニーリのこと、よろしくお願いしますね」
「……ああ」
私を挟んだ二人が、私を無視して真剣な目で頷き合う。
とりあえず、私のお腹が我慢の限界を超えてぐぅと鳴った。
ブクマ、★★★★★評価頂けると泣いて喜びます(*゜∀゜)




