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「あの、手を離してください。
こんなところを誰かに見られたら大変なことになります」
主に私が!
嫉妬で人は壊れるんですよ!?
恋に盲目になった人間は言葉すら通じなくなるんですから!
夕方と呼ぶには少し遅く、まだ夜とは言えない時間。
変態ユージン様は教室での宣言通り、学園の敷地内にある女子寮まで送ってくれている。
当然遠慮した。断った。懇願した。全て無駄だった。
さらに逃走防止の為に鎖のように手まで繋がれた。
伝わる自分よりも高い体温に心がザワザワとして落ち着かない。
それなのにそんな私の心情をおちょくるかのように、手のひら同士がくっつくほどの強い力で握られたり、私の手の甲を撫でる指先の不規則ないたずらに反応してやるものかと必死である。
そもそもこの変態はつい先ほど、私に何をしたか憶えていないのか。
つい反射的に思い出しそうになった唇の感触に、慌てて頭を振る。
ついでに勢い良く手を振り解こうとしたものの失敗した。
ちっ、不意打ちもだめか。
「腰を抱かれる方が良かったのか」
私の一連の行動を見ていたユージン様の言葉に、離れていく変態の手を慌ててかっちりと繋ぎ直した。
腰を抱かれるくらいなら、手を繋いでいるほうが接触面積が少なく済む。
それにこれ以上近寄られると、心臓によくない。
自慢ではないが、異性との恋愛どころか、友情にさえ不慣れな私なのだ。
「そんなに心配しなくても、こんな裏道、誰とも会わないだろ」
今歩いているのは校舎から寮まで続く舗装された表道ではなく、建物の裏側にある草木が茂る迂回道。
何故か。
私がゴネにゴネたからだ。
基本的に今の時間帯であれば、帰寮している生徒が多いが、絶対とは言えない。
私のように突発的な要因で今から帰寮する生徒や、外出していた生徒が帰ってきていてもおかしくないのだ。
それにここは学園の敷地内。
いつどこで生徒教師関係者に会っても不思議はない。
「だからそもそも手を離して、ついでに距離も少し離れて歩いて頂ければ、このような足場の悪い場所を歩かなくても済むわけで――」
「俺はお前と歩けるならどんな道でも構わない」
「っ、」
「ついでに俺としては誰に見られても構わないし、むしろ見せつけたいと思っているが」
「……」
只でさえユージン様は知名度もあるし、男女関係なく注目度も高い。
そんな有名人が地味で平凡な女子生徒と手を繋いで歩いているところを目撃されたら、一気に全校生徒の話題になり、相手探しが始まるのは目に見えている。
仮にそれが私だと判明したら?
その先は怖くて想像すらできない。…やだ、泣きそう。
「お前を周りに披露するのは舞踏会に決めたからな。
とりあえず明日からも男の誘いはきっぱりと断っておけよ」
「ではユージン様からのお誘いもお断りします」
そもそも私は友人たちと一緒に参加する予定なのだ。
ユージン様の言いつけどおり、きっぱりとお断りの返事をしたのに、眉間の皺を深くした不機嫌な変態が私を見下ろす。
「ファニーリ、最後だ。
このまま舞踏会まで俺の部屋で監禁されるのと、いま素直にはいと返事をして学校生活を送るのと、どちらを選ぶ?」
いやいや。ちょっと待とう。
そもそも選択肢がおかしい。
なぜ私が拉致監禁されなくてはいけないのか。
「では言い方を変えよう。
今すぐキンプリング男爵宛てに婚約の申し込みを侯爵家から送られるのと、舞踏会の日に俺の口から申し込まれるのと、どちらがいい?」
どちらも嫌だ。どちらも遠慮する。
「ちなみに無回答、もしくはどちらも拒絶する場合は、問答無用で今すぐ俺の部屋へと拉致って、押し倒す」
「…………」
「婚約が先か、妊娠が先か、選べ」
いや、もう、だめだ。この変態。絶対やる。
「………舞踏会のパートナーを喜んで務めさせていただいきます」
そう答える以外に、道はなかった。
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