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「今回も余裕だったみたいね、キプリングさん」
「全然余裕ではありません。
しかし学園生活がかかっていますので、必死にはなります」
教師の一人から受け取った試験結果の紙。
今回も頑張って勉強したおかげか、順位は学年三位となっている。
とりあえず一安心。
これで夏季休暇を安心して迎えられるものである。
「そう言えば舞踏会のお相手は決まったの?」
「いえ、今回も友人たちと参加しようかと思っております」
有り難いことに、あれからチラホラと一緒に舞踏会に行かないかと同じクラスや他クラスの男子生徒たちからお誘いを受けた。
もちろん丁重にお断りさせて頂いた。
誰でもいいからパートナーが欲しいという熱意が怖かった。
「ご家族と参加される方もいるから、今回も賑やかになりそうね」
そうなのだ。
一応学生たちが主役の舞踏会であるものの、生徒たちの家族であれば参加することはできる。
親同士の交流や、学園側との懇談の場に使われているが、参加される親族はあまり多くはない。
家の両親も参加を希望するものの、遠方であることや日程の関係で一度も参加したことはない。
教師に一礼して、テクテクと校舎内を歩く。
もう今日の予定は全て終わりで、学園敷地内に建つ寮へと戻るだけ。
窓から見える中庭には多数の生徒たちがなにやら楽しそうに会話を楽しみ、校舎内に残る生徒たちもいつもよりもソワソワした様子である。
聞こえるのは舞踏会や、ドレス、お相手といった内容が多い。
ちなみにオリヴィアさんの親族も参加を見送るということだった。
あれからオリヴィアさんとは学園内で直接声をかけるタイミングが見つからなかったものの、手紙のやりとりをさせてもらっている。
もちろんオリヴィアさんはフェルナンド王子殿下に舞踏会の誘いをかけ、断りの返事をもらえたことに安心していた。
しかし個性的なキャラクターを忘れ、黙っていれば人目を引く容姿を持っているオリヴィアさんだ。
多数あったパートナーの申し込みの中から三人のパートナーを決めたらしい。
そう三人。まさかの三人。
伯爵様からの指示かと聞けばそうではなく、未だにパートナーが決まっていないメリッサさんに対する嫌がらせらしい。
ちなみに残念ながら従姉のメリッサさんの見合いは縁を結ぶことが出来なかったらしく、
今度の舞踏会で未来の旦那候補を捕まえようと意気込んでいるらしい。
が、舞踏会の開催まであと半月ほど。
誰からの誘いもなく、そして色よい返事を貰えていないそうだ。
頑張れメリッサさん。
陰ながら応援しております!
「っ、!?」
考え事をしながら歩いていたのがいけなかったのか。
いきなり通り過ぎようとした教室の扉が開き、そしてそこから伸びてきた腕によって私はそのまま教室内へと引き込まれた。
ぼすん、と何か硬いものに額をぶつける。
「悪いな、驚かせて」
私の腕を引っ張り、私の額を強打した胸板を持った人間ユージン様は、悪びれる様子もなく、謝罪を口にした。
「…普通に声をかけていただけると嬉しいのですけども」
「俺だって普通に声をかけたいさ。
ただ、他の連中に俺がここにいることを見つかると面倒なんだよ。
特にこの時期は」
「女性におモテになる方も別の苦労があるのですねぇ」
私にはまったく予定にない苦労である。
いや、一人言葉が通じなかった同級生がいたが、そういえば最近彼が家の都合で休んでいると彼と同じクラスの友人が言っていた。
自首したのか、逃亡したのか、捕まったのか。
「人の誘いを一蹴した女には言われたくないな、ファニーリ」
「……?」
はて、何か誘われたことがあったかなぁ、と記憶を遡ってみるものの、該当記憶なし。
そのままの視線を人間ユージン様へと向ければ、重いため息が私の頭上に落ちてきた。
そう言えば、なぜ人間ユージン様とこんなに距離が近いままなのだろうか。
と、後ろへ下がろうとも、下がれなかった。
「あの、なにをしてらっしゃるんですか?」
先程から人の頭に手を置いたり、腰回りを確認したり、ついでに髪の毛に指を絡めたり。
「ちょっといろいろと最終確認だ。
ちなみにこの靴履けるか?」
知らぬ間に背後に用意されていた椅子に座らされ、あれこれ考える間もなく靴を脱がされ、そのまま人間ユージン様が持つ真新しい靴を履かされていた。
そしてそのまま、立て、歩けと言われ、無言で言われた通りにすれば、また椅子に座らされて、元々の靴を履かされた。
人間ユージン様は懐から紙とペンを取り出し、何かをサラサラと書いていく。
立ったまま書けるなんて器用だなぁ、と、妙に関心しながら待っていれば、気づけば座っている椅子の隣にサイドテーブルが置かれており、テーブルの上には温かい紅茶とお菓子が置かれている。
いや、だから、誰が、いつの間に?
もちろん教室の中を見回しても私と人間ユージン様以外はいない。
でも先程まではなかったはずのティーセットが、こうして目の前にはある。
ま、いいか。
これは深く考えてはいけないことなのだろう。
むしろ私にとっては有り難いことだ。
今日のお菓子は匂いから一口サイズのリンゴパイらしい。
サクサクのパイ生地の中には、程よく食感の残ったリンゴ。
ああ、とても美味しい。
「これを頼む」
人間ユージン様が書き終えた紙を入れた封筒を、自身の背後へ翳せば、スッと手紙が消えた。
否、消えたわけではない。
背後に控えていた人間が手紙を受け取っただけである。
あれ、でも、おかしいなぁ。
いるはずの人間の姿が見えないなんて。
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