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憂人の結末  作者: 森山
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内心テンション高めの私とは対照的に、オリヴィアさんは大きなため息を落とす。

その表情には呆れと、嫌悪と、自虐が含まれているように見えた。


「あんなオッサン連中見ても楽しくないですよ?

むしろ頭の中、ヤバいですからね。

そもそも十数年前に孕ませた娼婦の子供――私を探した理由が、私を王家に嫁がせるためですよ!?」

「…ん?……王家に嫁がせる?」

「ちょっと前に隣国で平民出身の女とその国の王子が結婚したじゃないですか。

あれを再現させようと、わざわざ堕胎されたはずの子供を、されていない可能性に賭けて国中から探したんですよ!? その行動力と頭やばくない!?」


わぁ、一か八かの大博打。

オリヴィアさんを発見した伯爵様は引きがお強いようで。

じゃない。

え、ちょっと待って欲しい。理解が追いつかない。


確かに一年程前に、隣国でその国の王子――確か、王位継承権第五位か六位を持っている王子様と、平民出身の女性が婚約を発表して、こちらの国内でもちょっとした話題になったことを覚えている。


オリヴィアさんと同じように、平民として生まれ育ったのちに貴族の家へと引き取られ、同じように貴族が多く通う学園に通い、王子様と出会ったと、当時の新聞に書かれていたはずだ。

さらにその女性と出会った当時の王子様には幼少期からの婚約者がいたものの、なんやかんやあり、元平民女性が王子の新しい婚約者となったのだ。


「…え、あの、私の記憶では、確かに王子様とその女性の方は結婚されたはずですが、王子様は王位継承権を放棄して一臣下となりましたよね?」


そう。隣国の王子は、()王子なのだ。

一応婚姻前にその王子自らの申し出によって王族から離れ、臣下降下したと発表されているものの、

実際は除籍処分が下されたという噂がある。

冷静になって考えてみれば、婚約者がいるにも関わらず他の女性――元平民の現妻に手を出すとか王子以前に人間としてアウトだと思うし、

そもそも婚約者がいることを知っていたにも関わらず、王子に近づいた現妻の行動も疑問だらけである。

そんな二人が学生とはいえ、小さくはない騒動を起こしたことに対する処罰だったのではないかと言われている。


さらに風の噂で、元王子夫妻の良好関係は長く続かなかったとかなんとか。


「それを何度も何度も何度もオッサンには言ってるんですよ!

でも〝あっちの娘は駄目だったがお前なら大丈夫だ!〟〝お前は王子の嫁になる運命なんだ〟って言葉が通じないんですよ」


…伯爵様は、一体どんな未来を望んでいるのか。

そもそも同じ学園内にいるフェルナンド王子殿下には正式な婚約者の発表はされていないものの、すでにその座には人間ユージン様の妹様が座ってらっしゃる。

フェルナンド王子殿下の兄二人は既に結婚されているし、下の弟はまだ五歳だ。

どこに王子の嫁になる運命があるのか?

それもあの突飛なキャラクターで。


「…あの個性的なキャラクターは伯爵様のご指定ですか?」

「そう。隣国の人がこんなキャラだったらしく、王子陥落にはこれしかないとかアホなこと言い出した」


どうしましょう。

私も本当に伯爵様は阿呆なのかもしれないと思ってきた。  


「そもそも私、申し訳ないですけどフェルナンド王子、タイプじゃないんですよ。

ナヨナヨヘラヘラしてるじゃないですか」

「…誰に対しても公明正大で、物腰柔らかなお方ですね」

「それにあのキャラでウザ絡み続けたら、ナヨナヨ王子を落とせそうな自分が怖い」


王子殿下は押しに弱く、流されやすい性格だと王子の類友が愚痴っていた気がするが、

気のせいだったことにしているので、オリヴィアさんも是非ともその才能は王子の周辺では自粛していただきたい。


「私はもっと男臭くて、押しが強い人がいいんですよ!

同年代の男子はどうも子供っぽ過ぎるというか、大人の男性に比べて貫録も余裕も、色気も足りないんです。

もちろん市井の男に比べれば成熟している人が多いですけど」


そういってオリヴィアさんは、遠くを見つめる。

まるでその視線の先には想い人がいるかのようで、憂いを帯びた横顔が美しい。


「…これからもあの(・・)オリヴィアさんでいるのですか?」


貴族のマナーや常識などに囚われない天真爛漫さをもって、高位貴族――本命はフェルナンド王子殿下の周りを飛び回る、操られた人形。


「今すぐ辞めて元の生活に戻りたいですけど、一応あのオッサンと血がつながった娘である事実からは逃げられないですし。

それにこの生活も慣れればそれなりに楽しいんですよ。

勉強はあんまり好きじゃないし、堅苦しい上下関係はしんどいですけど、あのオリヴィアでいる間はそういうのは無視出来るからその点だけはラッキーです」


オリヴィアさんがカラカラと、全てを諦めた顔を隠すように笑う。


「それに王子殿下、来年卒業じゃないですか。

ついでに監視役の従姉も卒業するんですよ。

あ、今日の見合いが成功すれば、卒業前に辞めるかもしれないですよね」


未だに女が男に交じって勉強することをよく思わない考えを持つ人間は一定数存在していて、縁談がまとまり次第、家の意向で学園を途中で辞める同級生を何人も見送った。

ただ伯爵様の思考回路が理解できないため、私からは何ともいえない。


「ま、しばらくは大人しく言うことを聞いてますよ。

ということで、私はそろそろ寮に戻ろうと思います」


ふと時計を見ると、この場所に立ち止まってからだいぶ長い立ち話をしていたらしい。


「愚痴聞いてもらってスッキリしました」

「あの、オリヴィアさんの迷惑じゃなければ、またお見かけした時にお声をかけさせていただいてもよろしいですか?」


オリヴィアさんの現状、しがない男爵家の娘である私にはどうしようもできない。

それでも今日みたいに愚痴を聞くことは出来るし、

何よりももっとオリヴィアさんと話をしてみたいと思う私がいる。


「別に構いませんけど、メリッサが近くにいる場合はあの(・・)オリヴィアでの対応になりますよ?」

「むしろそれが楽しみなんです。

あの、来月のお誕生日会の招待状忘れずに送ってくださいね」


結構楽しみにしているのだ。

冗談とか、この場のノリだと流されないように念を押す。


「…ガチ?」


今度の休みにプレゼントを探しに街へと出よう。

どんな品物を贈ろうか。

一緒に渡す花束にはどんな花で何色がいいか。

わくわくとした私の気持ちが伝わったのか、オリヴィアさんが驚き顔からお腹を抱えて笑いだす。


「第三寮の五〇三号室です。

招待状以外のお手紙の受け付けておりますので」


恋文と脅迫文は遠慮いたしますが、それ以外は喜んで。

同じ学生同士で文通をしてはいけない決まりなんてないのだ。

出来ればメリッサさんの今日の見合い内容を詳細に。

もちろん結果もわかり次第伝えてほしい。早急に。


「それ、メリッサの報告書じゃん。やば、笑い過ぎてお腹痛いし。

第三の五〇三ね、分かった」


待ってますからね。忘れないでくださいね。

私は何度も念を押し、寮へと走るオリヴィアさんの背中を見送った。

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