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憂人の結末  作者: 森山
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はじめましての方、お久しぶりの方こんにちは。

新しい連載はじめました。

ゆるい目で見てくださると嬉しいです。

「………」

「………」


驚きに見開かれた4つの瞳が私を見て、私もその瞳のついた二人の顔を見返した。

そして、私は一拍置いて、ふふふと、笑った。


「あら、お邪魔してしまいましたね」


夏の匂いを含んだ風が心地よく通り、それでいて太陽の日差しを遮る大きな木のそばにあるお気に入りのベンチで本を読んでいた。

先程食べた昼食でお腹は満腹で、ベンチに座ればすこしだけ眠くなったけど、それでも本を開けばそんな眠気なんて吹っ飛んだ。


本を読み始めてまだ数分。

その本に挟んでおいた栞が、ベンチの脇の植え込みを風によって飛び越えてしまったのだ。


あの栞はついこの間届いた家族からの手紙に同封されていたもので、10歳になった妹が自ら育てた花を押し花にして、栞に加工したものだと手紙に書いてあった。


そんな大切な栞である。

無くしてしまっては大変だと、慌てて立ち上がり、腰の高さほどの木々を覗きこんだ。


その先に見たものは、芝生の上に寝転ぶ女子生徒と、その女子生徒の上に覆いかぶさるような体制をした男子生徒である。


ついでにちゃんと風に飛ばされた栞も見つけた。


私はふふふとこぼした笑みのまま、植え込みの途切れた部分から身体を滑り込ませ、絡み合う男女へと近づいた。

私の動きに、ピクリと男性の肩が跳ねたものの、二人は声を出すことを忘れてしまったかのように、私の動きを見つめるだけである。


本来であればこんな二人の世界に乱入するのは気が引ける。

それでも妹の手作り栞をこのまま地面に置いておけば、また風のいたずらによってどこかへ行ってしまうだろう。

そうなってしまえば探すのが大変だ。


私は女子生徒の頭付近にある植木の根本に落ちていた栞を拾い上げ、ぺこりと二人に頭をさけだ。


「お邪魔いたしました。ごゆっくり」


そして先ほどと同じように植木の隙間に身体を滑らせて、元いたベンチへと座り直し、脇に置いた本を手にとった。

どこまで読んだかしら、と。

もう目が文字を追い出せば、先程の光景など綺麗さっぱり忘れてしまった。



「……おい、」

「……………」


ああ、やはりカミルはリリの手を取ったのね。

そうよね、やっぱり。

親の仇を討つのがこの旅の目的であっても、その間に築いたリリやビック、ペジノとの友情が、カミル自身の復讐心を上回ったのよね。

ああよかったわ。

え、ちょっと待って、ペジノの動きが怪しい。

まさか、ペジノって!?

いやよ、そんなの、待って作者さん!

4人の友情にヒビを入れるつもり!?


「っ、おい!ファニーリ・キプリング男爵令嬢!」

「……?」


なんとなく自分の名前が呼ばれた気がして、本から目を上げれば、太陽を背後に従えた人がこちらを見下ろしていた。

顔の表情はこちらからは逆光になっているからよく見えないが、体格や着用している服からして同じ学園に通う男子生徒である。

それもとても苛立っているらしい。

はて、と首をかしげても、今の状況がさっぱり理解出来ない。


「貴女はファニーリ・キプリング男爵令嬢で間違いないか?」

「え? ええ、間違いありませんわ」

「先程のことは誤解である。あれは木の根に躓いた彼女を転ばぬように俺が反射的に支えたものの、彼女がうっかりと俺の首に手を回したせいであのように芝生に転がることになっただけだ。

決してやましい関係でもないし、こちらには卑しい気持ちなど一切ないし、むしろそう誤解されるだけで虫唾が走るほどに不快だ。

よって先程見たことは他言無用。

理解したか? ファニーリ嬢」


男子生徒は早口でそんな言葉を吐き出し、私から視線を外すことなく見下ろしたままである。

とりあえず、広げていた本をそのままに、私は疑問を口にした。


「えっと、何を他言無用にすればよろしいのでしょう?」


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