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Anecdote.08

 ぽとぽとと戻ってきた巨大なティディベアに少女は抱きついた。

「ありがとう」

 ぽつりと呟くと、ティディベアはしゅるしゅると元の大きさに戻っていった。そのまま少女の腕の中におさまる。

「終わったのか?」

 声をかけられ、振り向く。廃墟となった町に一人の男が立っていた。真っ赤な逆髪さかがみが特徴的な、血のように赤い目をした男だ。ただ右目は眼帯で覆われていて、右頬に僅かに火傷の跡が見える。

 革で出来たジャンパーを羽織った彼は、ひょいひょいと身軽に少女へと近付いてきた。光沢のある黒いズボンに取り付けられた銀色の鎖が、動きに合わせてチャラチャラと鳴る。

「フィオニトムおにいちゃん」

 男――フィオニトムを視認して、少女は頬を緩めた。花がほころぶような微笑みに、あっという間に間近まで寄ったフィオニトムは、しゃがみこんで少女と目線を合わせ、ガシガシと頭を撫でてやった。

「どうだ? 上手くいったか?」

「うん。人間は全員殺したよ」

 少女は恐ろしい事をサラッという。フィオニトムはいとおしくてたまらない、といった風に目を細めた。

「あ、でも……」

 少女が表情を曇らせる。

「どうした?」

「うん……あのね、三人かな、逃げられちゃったの」

 ティディベアを抱く腕に力がこもる。ふわふわの毛皮があご下に密着した。

 そんな少女を安心させるように、フィオニトムは優しく髪を撫でた。慈愛に満ちた微笑みが少女に向けられる。

「大丈夫。これだけ殺せば充分だ。三人ぐらいどうって事ないさ」

 次第に少女の瞳から不安の色が消えていく。

「そうかなぁ?」

「ああ、そうだよ」

「……パパ、ムーの事褒めてくれるかなぁ……」

「もちろん褒めてくれるさ」

 少女は嬉しそうに微笑む。「パパ」に褒められるその時を想像し、心が躍っているのだ。少女の気持ちが上向いた事を確認し、フィオニトムは立ち上がった。

「よしっ、じゃあ死体を回収しちゃおうか。あっちの方にトラック停めといたから」

「うん!」

 元気良く返事をして少女はまだ大きなティディベア達に指示を出してまわる。瓦礫がどかされ、ミンチとなった死体も全て拾われトラックへと運ばれていく。

 少女にばかり働かせられない。自分も動こうと思ったその時、耳につけたピアスがチリリリと鳴った。一センチ四方のダイヤ型にカットされた青ガラスを指で挟む。

「はい、フィオニトムです」

『ああ、ようやく繋がったか』

 骨を伝って聞こえてきた声に思わず背筋を伸ばした。心臓がバクバクと過剰な運動を始める。距離に関係なく、周りに聞かれる事なく会話出来るこのマジックアイテムは便利だが、相手が相手だと心臓に悪すぎる。耳に、脳に、声が響きすぎる。

「え、えーっと、何の用ですか?」

 バレているとは思うが、一応平静を装って訊ねた。

『ああ……首尾はどうだ』

「調整はバッチリですよ。何か三人ほど逃げられたみたいですけど、他は皆殺しです。これでリーダーの研究も進みますね」

『そうか』

 淡白な返事が返ってくる。いつもの事だ、フィオニトムは気にせず言葉を続けた。

「帰ったら褒めてやってくださいよ。あと、俺にもご褒美下さい」

『……この間もしてやった気がするんだが』

「いいじゃないですかー、その分成果は出してるでしょ?」

 ティディベア達が作業する中を進む。飛んでくる破片に当たらないように上手く避けながら歩いていると、比較的形が残っている建物が見えた。いや、建物ではないか、恐らくは建物の一部だ。

『……仕方ない。ハフニウムの相手をしてからだ』

「えへへ、よろしくお願いします」

 瓦礫の山を乗り越え、開きっぱなしの扉から中を覗き込む。覗いて、にぃ、と笑っていた。

「リーダー、今、五体満足の死体を見つけたんですけど――」

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