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身分違いの交流

「姫様、大丈夫ですか」


 フィルイアルがあまりに疲れた顔をしているので、エンティは思わずそう聞いていた。


「誰が聞いているかわからないわ。学院の外では敬語を止めてフィルと呼びなさい、いいわね」

「わかり……わかった、そうするよ」


 フィルイアルに念を押すように言われて、エンティは頷く以外にできなかった。


「慣れないことをしたせいか、疲れたわね」


 フィルイアルが大きく息を吐いた。


「ひめ……フィル、明日からの授業に影響はしない?」

「ちょっと、大変かもね。でも、この程度で音を上げるわけにもいかないわ。それに、あなたも仕事をしながら授業を受けているのでしょう」

「僕は一年以上仕事を続けていたから。それに、学院に通う前はほぼ一日働いていたしね」

「そういえばあなた、自分で入学金と学費を稼いできたって言ってたわよね。誰か頼れる人はいなかったの」


 そこで、フィルイアルは思い出したかのように聞いてきた。


「僕は、物心ついた頃から親がいなかったから」


 エンティは小さく首を振った。


「そう。悪いことを聞いたかしら」

「フィルが気にすることじゃないよ。僕以外にも孤児はたくさんいたからね。珍しいことじゃないと思うよ」


 ばつが悪そうな顔をするフィルイアルに、エンティはそう言った。


「そんな状況で、どうして魔術学院を目指すことにしたの」

「僕を見出してくれた冒険者の人がいてね。その人が言うには、僕は潜在的に高い魔力を持っているから、何かの拍子に暴発してしまう可能性がある、と。だから、然るべきところに通わせて魔力の扱い方を覚えさえないと大変なことになるって……あれは、説得? だったのかな」


 その時のことを思い出して、エンティはたまらず苦笑していた。

 あの時のクラースの言葉や態度を思い出すと、説得というにはほど遠いように思えた。


「魔力が暴発するなんてことがあるのね。私達のクラスは魔力が高い人間を集めているって話だけど、私も気を付けないといけないかしら」


 フィルイアルはそんなことは知らなかった、というように言った。


「そういったことも含めて、これから学んでいくんじゃないかな。先生が言うには、魔力が暴発するのはレアケースみたいだけど」


 フィルイアルに余計な心配をかけないように、エンティは過去に自分の魔力が暴発したことがあったことは伏せた。


「そうなのね。なら、しっかりと学ばないといけないわね」

「そうだね」


 フィルイアルが真剣な顔をするので、エンティはつられるように頷いていた。


「だけど、孤児院の在り方を考えた方がいいかもしれないわね。あなたのような才能の持ち主が埋もれるのは勿体ないわ」


 不意に、フィルイアルが顎に手を当てて考え込む素振りを見せた。


「姫様?」


 その態度はまさに王族のもので、エンティは思わずそう口にしてしまう。


「だから、フィルと呼びなさい」

「あっ、ごめん。フィルの様子が王族そのものだったから、つい」

「どういうこと?」

「敢えて、言わせてもらいます」


 エンティは周囲を見渡して、誰もいないことを確認する。


「本当に、姫様は王宮を出るつもりですか」

「そのつもりよ」


 エンティの態度がただならぬものだったので、フィルイアルは呼び方や接し方を正すことをしなかった。


「正直なところ、勿体ないと思います」

「勿体ない?」


 フィルイアルは理解できない、というように首を傾げた。


「僕のような平民の意見を聞き入れる度量に加えて、自分が正しいと思ったことを行動に移せる実行力。国政に携わることも十分にできるのではないかと」


 エンティがそう言うと、フィルイアルは驚いたような顔になっていた。


「……そんなこと、初めて言われたわ」


 そして、ポツリと呟いた。


「僕は王宮や国政に詳しくないですが、姫様も国政に携わるような教育を受けてきたのでは」


 そこでエンティは疑問を抱いていた。王族に生まれ育った人間が国政に関する教育を受けていないとは考えにくい。


「私は上に兄がいるの。だから、次の国王は兄になるのが自然な流れよね。周囲も皆そう思っているみたいで、私にはそこまで期待はしていないみたいなの」

「そうでしたか」

「だから、周りは私に対しては良い所に嫁ぎなさい、とか王女なんだから政治的なことは気にしなくていい、とかしか言わなかったわ。それが気に入らないと思ったことはないけど、代わりに必要以上に礼儀作法や容姿に気を使うように要求されるようになったわ」


 そこで、フィルイアルはふっと息を吐いた。


「多分、誰かしらと政略結婚させるつもりだったのでしょうね。時々、有力貴族とのお見合いが持ち込まれたこともあったし。その気はないと突っぱねたけど」

「そうでしたか」

「そこ頃からかしらね、段々と王宮に嫌気が差してきたのは。だから、身分の低い貴族ばかりを相手にするようになって、その中の適当な相手と勝手に婚約までして……今になって思うと、浅はかだったと思うわね。でも、そのおかげでミアと会えたから、悪いことばかりではなかったけど」


 フィルイアルはどこか恥じるような表情になっていた。


「行動力があるのも考え物ですね」


 エンティは呆れた表情を表に出さないようにどうにか堪えていた。


「さすがに呆れたわよね」


 だが、フィルイアルはそんなエンティの様子を見抜いていたのか、呆れられても仕方ないわね、というような笑顔を見せていた。


「そ、それは……」


 さすがに呆れたと素直に言えず、エンティは口ごもる。


「いいわよ、無理しなくても。本人がそう思ってるのに、他人がそう思わないわけがないもの」

「すみません、本気で呆れてしまいました」


 フィルイアルの笑顔に逆らえずに、エンティは申し訳なさげに言った。


「でも、あなたがそう言うなら、少しだけ身の振り方を考え直してもいいかもしれないわね」

「どういうことです」

「少しは国政にも関心を持ってみようかな、って。私に向いているかどうかはわからないけど、視野を広げることは悪くないと思うし」


 そう口にするフィルイアルは、どこか楽しそうにも見えた。


「姫様、すみません。僕、姫様のことを全然知らないのに、勝手なことを言いました」


 そこで、エンティはフィルイアルに頭を下げた。

 このタイミングで言うのもどうかと思ったが、ここを逃したら言う機会がなくなってしまうと思った。


「別にいいわよ。むしろ、私の目を覚ましてくれてお礼を言いたいくらいよ」


 フィルイアルは一瞬きょとんとしたような顔になったが、すぐに首を振った。


「そ、そうですか。僕なんかの言葉でも、姫様の役に立ったのなら光栄です」


 少しは責められるかもしれないと思っていただけに、フィルイアルの態度はエンティにとっては予想外だった。


「はい、敬語はもう禁止。寮に戻るまでは普通に接しなさい、いいわね」

「周囲に誰もいないようですし、何より僕が気疲れしてしまうので」

「あなたと普通に接していると、案外楽しいのよ。だから、これは命令というよりもお願いに近いかしら」

「そこまで言うなら、わかった」


 エンティは渋々ながらも頷いた。

 命令ではなくお願いだと言われてしまうと、拒否することができなくなっていた。


「でも、僕と普通に接していても、そんなに楽しいとは思えないけど」

「何て言うのかしらね。あなたの考え方や生き方、そういったものがとても新鮮に見えるのよ。私が今までに会ったことがないタイプだから」

「いや、それはそうだろうけど……」


 そんなことを言われて、エンティはどう返していいものかと言葉を濁した。


「最初はちょっと行き違いがあったけど、意外と私達仲良くやれると思っているわ。これからも、よろしくお願いしていいかしら」


 フィルイアルがそう言うと、エンティにすっと手を差し出した。


「フィルがそう望むなら、僕の方こそよろしくお願いするよ」


 とんでもないことになったな、と思いつつもエンティはその手に自分の手を重ねた。それは思っていたよりも小さく、柔らかい感触がした。

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