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遠征

「まさか、ドラゴンが出たなんてな」

「でも、それを倒してきたってんだから大したものよね」


 エンティ達がドラゴンを倒したという話は、あっという間にギルドだけでなく街の中まで広まっていた。


「思ったよりも話が広まるのが早いね」


 そんな様子を見て、エンティは呟いていた。状況が状況なだけに秘匿にされるかもしれないと思っていたが、ギルドは下手に隠蔽するよりも公開した方が良いと判断したようだった、


「確かにな。当初の俺らの目的は『でかい依頼を受けるよりも困っている人を助けるのを優先する』だったけど、これからはそういうわけにもいかなそうだ」


 隣に座っていたドランが微妙な表情をしていた。


「どういうことだい?」

「前々からそうだったが、俺らが簡単な依頼受けるとあまり良い顔されなかっただろ。それが余計顕著になるというか、下手したらもう受けられなくなるかもな」

「そうか。中々ままならないものだね」

「ま、俺はこうなりそうだとは思ってたがな。ミアは剣士としてならランクCに収まらんし、フィルは技量こそミアに劣るとはいえ、あの魔法……剣? っていいのか、あんなことできるのはフィルくらいだろ」

「そうだね。それに、君が目指す方向性を見極めているから僕達は迷わない」

「で、俺らが存分に力を振るえるようにお前がいてくれるわけだ」

「はは、怖いくらい噛み合ってるね」


 下手な高ランククランよりも連携が取れているように感じて、エンティは思わず笑ってしまう。


「おいおい、女の後ろに隠れてのし上がった奴がでかい顔してるな」


 そんな声がして、エンティは目線だけを声の方にやった。

 ギルドに来ているのだから冒険者であることはわかるが、他のクランと交流などほとんどしないから一々顔など覚えてはいない。

 こんな難癖をつけてくるのだから、大した成果も上げられていないのは容易に察せられた。

 エンティがドランに視線をやると、ドランはさして気にもしていなかった。


「君は度胸が据わってるね」

「そりゃまあ、な。実家にいた頃はもっとやべえ奴散々見てきたしな。ミアやフィルに至っては言わずもがなだ。多分、お前が一番気が小さいんじゃないか」

「そりゃみんなとは生きてきた環境が違うからね。まあ、理不尽にこき使われてはきたけど」


 二人は言いがかりを無視して適当な会話を続ける。この手の輩は下手に相手をすると付け上がるからだ。


「はっ、最速でランクCまで上がった挙句、ドラゴン討伐まで果たしたクランの方々は、オレらのような弱小は目にも入らないってか」


 二人が無視していたことが気に入らなかったのか、男はテーブルに両手を付いた。


「行こうか」


 エンティはそれを無視して立ち上がる。フィルイアル達と待ち合わせをしていたが、こんな状況では合流したら余計に面倒になりそうだった。


「まあ、あんた達が羨むのは理解できないわけじゃないな」


 だが、ドランは冷めた表情で男の方を見る。そんなドランに、エンティは違和感を覚えていた。普段だったら、一々こんな輩を相手にしないからだ。


「そりゃそうだ。あの二人がいればオレ達だってとっくに上に行けてるぜ。それも、女の後ろに隠れなくてもな」


 男達は下衆な笑い声を上げた。


「なるほど、そう言うことはあんたらは前衛か。確かに俺達があの二人に前衛を任せている。傍目からは女の後ろに隠れているように見えるのも仕方ないな」

「随分あっさりと認めるじゃねえか」


 ドランが自分達の言葉を肯定するようなことを言い出したので、男達は怪訝な顔になっていた。


「だが、あんたらとうちの二人が組んでも同じ結果は絶対に出せないな」

「は?」

「二人が存分に力を振るえるのは、エンティの指示や支援あってこそだ。何も考えてないあんたらに、同じことができるとは思えんが」


 ドランはゆっくりと立ち上がると、男達を馬鹿にするような口調で言った。


「ドラン、もういいよ。行こうか」

「おい待てよ、まだ話は……」


 そう言いかけた男が力が抜けたように崩れ落ちる。


「な、何だ、急に力が」

「お、おい。どうした……って」


 仲間が倒れたの見て慌てて駆け寄った男も、同じように崩れ落ちた。


「僕達に思うところがあるようだけど、自身の管理もできていないような人に言われたくはないかな。それに、君達が上に行けないのは目指す所が見えていないからじゃないかな。僕達はどこを目指すかを考えて依頼を受けているからね」


 エンティは冷たく言い放つと、ドランを促してギルドの外に出た。


「お前、頭に来るのはわからんでもないが」


 外に出た途端、ドランが呆れたように言った。


「それはこっちの台詞だよ。普段なら相手にしないだろうに、今日に限ってどうしたんだい」


 エンティはずっと疑問だったことを口にする。無理に仲良くする必要はないが、かといっていざこざを起こさないに越したことはない。


「今までなら無視していたけどな。だが、今回の件で良くも悪くも目立っちまった。ああいう輩が絡んでくるのも増えるだろう。だから、毅然とした態度を取らないといつまでも絡まれかねん」

「なるほど、そういうことか。一回跳ねつければ絡んでくるのも減るってことだね」

「まあ、な。にしても、お前強化魔術使っただろ」

「ちょっと面倒なことになりそうだったからね。さすがに強化魔術に辿り着けるとは思えないし、自己管理ができていないで終わるとは思うよ」


 ドランが相手を始めたところで、エンティは強化魔術を使っていた。あのままだと延々と絡まれそうだったし、面倒を避けるのには手っ取り早かった。


「俺が思っていた以上に厄介なことになっているし、しばらくここを離れるのは丁度良いかもな。最初は、わざわざ遠出するのも面倒だと思っていたが」

「そうかもしれないね。それにしても、鍛冶師なのに人里離れた所にいるなんて。どうやって生活しているんだろうね」

「職人気質な鍛冶師なら、珍しい話でもないな。俺としては、そんな鍛冶師とミアが面識があるってことの方が驚きだ」


 フィルイアルの剣が砕けたので、代わりの剣を用意する必要があった。

 だが、ミアがどこから剣を調達したのかと聞くと人里離れた山奥に住む鍛冶師からだという。

 並の剣ではフィルイアルの魔術に耐えられないから、それなりのものを用意する必要に迫られていた。この街は冒険者ギルドがあるから、腕の良い鍛冶師も揃っているし武器の質も良い。

 当初はそれで済ますことも考えていたが、フィルイアルが数回魔術を負荷しただけで耐えきれずに砕けてしまった。

 

「こんな剣打てるのは、相当に腕の良い鍛冶師じゃなきゃ無理ですよ」


 フィルイアルの砕けた剣を見せた時、驚いた鍛冶師はそう反応していた。


「待たせたかしら」


 遠出の準備を終わらせたフィルイアルとミアがやってきた。


「いや、ギルドの方にしばらく街を空ける報告をしていたからな。そこまで待ってないぞ」


 ドランはゆっくりと首を振った。ギルド内で一悶着あったが、わざわざ言う必要も感じられなかった。


「それにしても、この剣」


 フィルイアルは砕けた剣を鞘から抜く。


「一見すると普通の剣に見えるけど、この街の鍛冶師にも打てないような剣だったなんて」


 砕けた剣を一瞥してから、鞘に納めた。


「姉さん、しばらく魔術剣は使えないけど、問題ない?」

「問題は大ありよ。でも、みんながフォローしてくれるからそこは心配していないわ」


 フィルイアルは三人をゆっくりと見渡した。


「よく考えたら、僕はこの街を出るのは初めて……いや、初めてだね」


 

 エンティはそう言いかけて、王都に行った時のことを思い出していた。


「そうね、確かにそうよね」


 そんなエンティに、フィルイアルが意味ありげな笑みを浮かべていた。


「はは、こんなことを言うのは不謹慎かもしれないけど、楽しみでもあるよ」


 それを受けて、エンティは愛想笑いをするしかなかった。

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