復帰
「心配をかけたね」
エンティはギルドで三人を見つけて、そう声をかけた。
「エンティ、お前もう大丈夫なのか」
真っ先にドランが駆け寄ってきた。
「まだ、完全に立ち直ったとは言えないけど。いつまでも引きこもっているわけにもいかないしね」
エンティは笑顔で答える。
「本当に?」
フィルイアルはエンティの手をすっと握った。
「あの時のことを思い出しても、普段と同じでいられるの」
そして、潤んだ瞳でエンティを見た。
「問題ない、とは言い切れないけど。うちのクランは僕がいないと成り立たないよね」
「言うじゃねえか。まあ、それは否定できねえけどな」
珍しく強気なことを言うエンティに、ドランは面白い物を見たかのように言う。
「言葉足らずだったかな。正確には、誰かが欠けてもうちのクランは成り立たない、と言うべきだったかな。替えが効かないっていうと、一見凄い事のように聞こえるけどね。裏を返せば、それは一人でも欠けたら崩壊するっていう危うさでもあるかな」
「そうかもしれないけど、あなたが無理をしなくてもいいのよ」
フィルイアルが握っている手に力が入った。
「少し、ギルドの仕事から離れて色々と考える時間もできたからね。おかげで、初心に戻ることができたよ。やっぱり、僕は誰かを助けられるようになりたい。それは、今でも変わらないよ」
エンティは握られた手を一瞬だけ強く握り返すと、空いている方の手でそっとフィルイアルの手を引き離した。
「みんなが、僕に背中を任せるのに不安があるって言うなら、僕はこのクランを辞める。それでも、冒険者は続けていくつもりだよ」
エンティは三人をゆっくりと見渡すと、はっきりとそう言った。
「お前なぁ。さっき、自分がいないとこのクランは成り立たないとか大口叩いたばかりだろ」
それを聞いて、ドランが呆れたように言う。
「わたし達の背中を預けるなら、あなたとドラン以外に考えられない。そうでしょう、姉さん」
「もちろんよ。それに、あなたが指示してくれないと効率が悪いのよね。ドランの指示も悪くはないけど、あなたに比べると、ね」
ミアに同意を求められて、フィルイアルは大きく頷いた。
「おいおい、俺は専門外なんだぜ。エンティと同レベルを求められても困るんだが」
「……ありがとう。そろそろ僕らも大きな依頼を受けても問題なさそうだけど、どうかな、ドラン?」
エンティは並んでいる依頼を軽く見渡した。
「随分とやる気だな。まあ、俺らも大きい依頼受けても良い頃合いかもな。とはいえ、そう都合よくでかい依頼なんかあるわきゃねえか」
ドランもエンティと同じように依頼を確認するが、これといって目を引くような物は見当たらなかった。
「景気の良い話をしているな」
「あ、先生」
聞き覚えのある声に振り返ると、クラースが立っていた。
「お前も一人前の冒険者だ。もう俺がお前に教えることはないから、その呼び方はよせ」
「それでも、僕にとって先生であることは変わりませんから」
「全く、律儀なものだな。そこがお前らしいともいえるが。それよりも、大きい依頼を受けたいと話していたな」
「え、ええ」
クラースがそんなことを言うとは思わなかったこともあって、エンティは妙に感じていた。
「お前達さえよければ、俺達の依頼を手伝ってもらいたいと思ってな」
「ちょ、ちょっと。勝手に決めないでよ」
クラースの背後からシャハラが顔を出した。
「このギルド最速でランクCに到達したクランだぞ。それでも不服だっていうのか」
「実力は、問題ないと思っているわよ。でも……」
シャハラはそこで言い淀んだ。どうやら、以前フィルイアルに絡んだことを気にしているらしい。
「難易度の高い調査依頼を受けていたんだが、間が悪い事に別の依頼を受けていた他の仲間がすぐに戻って来れない状況になってしまってな。さすがに二人でこの依頼をこなすのは中々難しくて困っていたところだ」
そんなシャハラに構わず、クラースは話を進めた。
「ですが、僕達はCランクですよ」
「それでも、他のCランクに比べれば頭一つ、いや、それ以上に抜けているのは間違いない。無理にとは言わんが、手伝ってくれると助かる」
「僕は構わないというか、むしろ喜んで引き受けたいところですけど」
エンティはそこで、三人の方を見る。ドランとミアは問題なく受け入れてくれるだろうが、フィルイアルはシャハラといざこざを起こしている。
正確には、シャハラが一方的に絡んできた、といった方が正しいが。
「高ランクのクランの方から、そのように評価されているとは光栄です。その申し出、是非ともお願いしたいです」
だが、エンティの予想に反してフィルイアルはそう言った。
「フィル、いいのかい」
「ええ。それに、大きい依頼を受けたいって言ったのはあなたでしょう」
「それは、そうだけど」
「それに、あなたの先生には私もお世話になったわ。恩を返したいと思っているのは、あなただけじゃないもの」
「ありがとう。先生、お願いしてもいいですか」
「こちらがお願いする立場なんだがな」
エンティが頭を下げると、クラースは立場が逆だと苦笑していた。
「この際、背に腹は代えられないわね。お願いしてもいいかしら」
話がまとまってしまったこともあって、シャハラは仕方ないというように言う。
「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」
それを受けて、フィルイアルは笑顔でそう言った。
「俺ら、蚊帳の外だな」
調査依頼に向かう道中で、ドランが隣にいるフィルイアルにそう言った。
「まあ、仕方ないわね。正直、私はシャハラさんとどう接していいものかわからないし」
フィルイアルは控えめな声で答える。
「それで、先生。今回の依頼はどういったものですか」
「調査依頼だが、これまで三組のクランが派遣されて誰も戻ってきていないらしい。それ故に相当厄介な魔物が潜んでいると予想はされているが……」
クラースはそこで言葉を止めた。
「とはいえ、最初はDランク、次はCランクが派遣されていたことを考えると、ギルドとしてもそれほど脅威とは考えていなかったようだ。だから、俺達にお鉢が回って来たわけだが」
「そうですか。でも、僕達でお役に立てるかどうか」
事態が思っていたよりも深刻だったので、エンティは固唾を飲んでいた。
「お前達の実力はある程度把握しているし、何より最速でランクCまで駆け上がった。下手な連中よりも当てになると思っているさ」
「なら、その期待に応えないといけませんね」
「そう気負わなくてもいい。だが、当てにはしている」
「はい」
こうしてクラースと同じ依頼を受ける事になるとは思っていなかったこともあって、エンティは気持ちが高揚しているのがはっきりとわかった。
「本当なら、あなたにはうちのクランに入ってもらいたかったけど」
「わたしがいないと、うちのクランは成り立ちませんから」
「へぇ、言うわね。でも、あなたにはそれを言っていいだけの実力があるわ」
ミアがそう言うと、シャハラは意外そうな顔になっていた。
「もっとも、うちのクランは誰が欠けても成り立ちませんけど」
「これはしてやられたわね」
ミアがそう言うのを聞いて、シャハラはたまらず笑い出していた。
「着いたようだな」
クラースが足を止めると、眼前には大きな洞窟穴が広がっていた。
「これは思っていたよりも厄介かしらね。というか、慣れていないと洞窟内で迷子になりかねないわよ」
「そうだな。低ランクのクランだと、この依頼は難しいだろうが……ギルドに依頼が行った時点で正確な情報が伝わっていなかったかもしれんな」
「でも、ここで尻込みしていても仕方ないわ。あなた達、覚悟はいいかしら」
シャハラは四人に声をかける。
「もちろんです」
フィルイアルが返事をすると、シャハラは小さく頷いて洞窟に足を踏み入れた。
「行くぞ」
それに続いて、クラースも洞窟に入る。
その後に続くように、四人も洞窟に足を踏み入れた。




