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門番

「そういえば、君と二人だけで行動するのは初めてかもしれないね」


 エンティは隣にいるミアに話しかける。


「そうね」


 ミアはいつものように淡々と答えた。傍から見ると愛想がないようにも思えるが、ミアとも付き合いが長いから僅かな表情の変化が何となくわかるようになっていた。


「それにしても、君があそこまでフィルに厳しく当たるなんて、思いもしなかったよ」


 毎日のようにくたくたになって帰ってくるフィルイアルの様子を見て、ミアがエンティが思っているよりも厳しくしていることが容易に察せられた。


「……本当は、姉さんに前衛をやってほしくないと思ってる。でも、姉さんは言い出したら聞かないから」


 ミアはやれやれ、というように答えた。


「はは、違いないね。でも、僕らのクランなら、前衛二人、後衛二人でちょうど良いバランスじゃないかな」

「だから、姉さんとわたしで上手く連携を取れるように訓練した。わたしは姉さんを守るために剣を振るってきたし、姉さんは自衛のための剣。だから、そういった概念を取り払うことから始めた」

「そうだったのか。前にゴブリンやスライムを討伐した時は、そんなに問題があったようには思えなかったけど」

「あれはお互いに好き勝手にやっていただけ。連携となると、また違ってくる」

「そういうものかな。でも、フィルとミアなら問題なくやれると思うよ」


 エンティは実際に連携を取るということがいまいち理解できなかったが、それでもフィルイアルとミアなら上手くやれるだろうと確信していた。


「あなたに言われるまでもない」


 それを聞いて、ミアは僅かに笑みを浮かべていた。


「しかし、門番とはねぇ。まあ、毎日仕事をするわけにもいかないけど。まさか、冒険者ギルドに穴埋めを依頼するとは思わなかったよ」

「早々事件が起こるとも思えないけど、油断は駄目」


 ミアに言われて、エンティは頷いた。

 今回の依頼は門番の代理だったが、わざわざ四人でやるほどの仕事でもないということで二人だけで依頼を受けていた。

 もちろん、フィルイアルとドランも別口の依頼を受けている。


「エンティ」


 何かに気付いたのか、ミアが小声で囁いた。


「どうしたの」


 エンティが聞き返すと、ミアは視線を遠くにやった。エンティがその視線の先を追うと、岩陰の奥に人影らしいものが見えた。


「わざわざ隠れているってことは……」

「何かしら、よくないことを考えているかも」

「先手を取るかい」

「まだ、そうと決まったわけじゃない」

「なら、様子を見ようか」


 二人はそう結論を出すと、岩陰の様子を注視する。


「今日は門番が休みの日だと聞いていたが、よもや代理が年端もいかないガキとはな。これはついているな」

「確かにな。余程人手が足りないらしい」

「なら、予定通りにやるとしようか」

「よし、仕掛けるぞ」


 岩陰には四人の男達が隠れていた。何が目的なのかはわからないが、この街に強引に侵入することが目的のようだった。

 一人の男が岩を蹴って飛び上がると、ナイフを勢い良く投げつけた。それは正確にエンティとミアの胸元目掛けて飛んでいく。


「任せて」


 ミアはそれに気付いて、エンティに目配せする。


「わかった」


 エンティも気付いてはいたものの、ミアに任せた方が早いと判断して任せることにした。

 ミアは剣を軽く振るうと、飛んできた二本のナイフを叩き落とした。


「おい、冗談だろ」


 自分が投げたナイフを簡単に叩き落されて、男は驚愕していた。そもそも、ミアがいつ剣を抜いたのかすら見えなかった。


「どうする、一旦引くか」

「いや、相手は二人だ。四人でかかれば何とかなる」


 一瞬怯んだものの、数の上で優位なことから引くという選択をしなかった。

 四人は続け様に岩陰から飛び出すと、一気に門に向かって走り出す。


「一人でやれるかい」

「さすがに四人は厳しい」

「わかった」


 ミアは勢い良く地面を蹴ると、男達との間合いを詰めた。


「なっ」


 よもやミアの方から近付いてくるとは思わなかったのか、男達は息を呑んだ。

 ミアはその隙を見逃さない。

 先頭を走っていた男に向けて、足元を薙ぐように剣を振るった。


「中々やる」


 剣を振るわれた男は、大きく飛び退いてミアの剣をかわす。


「だが、一人で飛び出してきたのは愚策だな。四人に囲まれてどうにかなると思うか」


 男達はミアが只者でないと察して、取り囲むように陣形を組んだ。

 大きい武器を持ち込めなかったのか、全員がナイフを構えている。


「さすがに一人だと厳しい。でも……」


 ミアはちらっと後ろにいるエンティに目をやった。


「全く、勝手に飛び出して取り囲まれても困るんだけど」


 エンティは愚痴っぽく言うものの、ミアが全く考えなしに飛び出していったとは思っていなかった。正直なところ、ミアなら四人相手でも一方的に倒してしまうような気すらしていた。

 実際、ミアと相手の技量差は大きく、一対一ならまず相手にならないと言ってよかった。

 だが、相手は長年組んでいるのか、連携を取ることに長けていた。

 一人がミアの隙を作るように動いて、残り三人がその隙を突くように攻撃する。さしものミアも、この連携を捌くのは困難だった。


「お前の技量は大したものだ。だが、一人で飛び出したのがまずかったな」


 男の一人が勝利を確信したようにナイフでミアの胸元に突き付ける。邪魔が入らなければほぼ間違いなくミアに突き刺さっていただろう。


「ライトニングブラスト!」


 だが、男はエンティが放った雷に体を貫かれて地面に倒れ込んだ。

 乱戦の合間を正確に、それも素早く狙うには氷よりも雷の方が適している。


「ある意味、自分の属性に囚われないってのは臨機応変にやれるってことなのかもね……ライトニングブラスト!」


 エンティは立て続けに雷を放った。ミアの後ろから斬りかかっていた男が雷に体を貫かれる。男は悲鳴を上げることすらせず、そのまま地面に倒れ込んだ。


「ま、魔術師までいるのか。まさか、この女が突っ込んできたのは……」

「ご名答」


 驚愕する男に向けて、ミアは剣の峰を叩きつけた。


「ぐっ」


 腹部に剣を叩き付けられて、男は悶絶する。死んではいないが、到底戦闘できるような状態ではなくなっていた。


「さて、残りはあなた一人」


 ミアは剣先を残りの一人に突き付ける。


「わかった、降参する」


 男はナイフを投げ捨てると、手を上にあげて降参の意を示した。


「賢明ね。自警団に引き渡すから、付いてきて」


 ミアは剣を納めると、男に背を向けた。


「甘い奴だな、そう簡単にこちらを信用するとは」


 それを好機とみなしてか、男は隠し持っていたナイフを手に斬りかかった。


「思っていない」


 ミアは振り返り様に剣を抜くと、男のナイフを弾き飛ばした。

 男は再度懐からナイフを取り出そうとするが、その前にミアの剣が首筋を打ち付ける。男は崩れるように地面に倒れ込んだ。


「全部演技だったのかい? さすがに肝を冷やしたよ」


 男達が全員戦闘不能になったのを確認すると、エンティはミアに歩み寄った。


「あのまま真っ向にやり合っても勝てる相手だった。でも、楽に勝てるならそっちの方がいい」


 ミアは僅かに笑みを浮かべる。


「でも、何が目的だったんだろうね」

「それを考えるのは、わたし達の仕事じゃない」

「それもそうだね」

「自警団を呼んできて。わたしは彼らを無力化しておく」

「わかった」


 エンティは頷くと、自警団を呼びに街に戻っていった。

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