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意外な一面

「しっかし、勢いとはいえとんでもない約束しちまったな」


 この街でも高級店舗として名高いアローズの前で、ドランはミアを待っていた。十代の少年がいるのは場違いと思われるのか、店に出入りする客が物珍しそうにドランに視線をやっている。


「まあ、ミアが受け入れてくれたのも計算外なんだよな。素っ気ない態度だったけど、意外とそういったことに興味があるのかもしれないが。というか、そろそろ来てくれねえと、客の視線が痛いの何の」


 ドランは小さく息を吐いた。フォール商会が管轄する店にドランいるのはおかしなことでないが、それを一々説明して回るわけにもいかない。


「おっ、ようやく来たか……って、何であいつらまでいるんだ?」


 ミアの姿を確認するものの、その隣にエンティとフィルイアルがいたのでドランは怪訝な表情になってしまう。


「待たせた?」

「いや、別にそこまで待ってないが……何で、お前らが一緒にいるんだ」


 ドランはエンティとフィルイアルを交互に見た。


「何やら面白そうなことしようとしてるって聞いたわよ。それを私達抜きでやろうとするなんて、薄情じゃないかしら」


 フィルイアルは少しだけドランに詰め寄る。


「ミア?」

「出かけようとしたら、姉さんに見つかって、それで根掘り葉掘り聞かれて」


 ミアは最初一人で来るつもりだったのか、少し申し訳なさそうな表情になっていた。


「あ、別に責めているわけじゃねえよ。予定が少し変わったけど、やることは変わんねえし。で、エンティは何でいるんだ。お前こういうことあまり興味なさそうだが」

「いや、僕もよくわからないんだよ。今日は酒場の仕事も休みだし、いつも通り魔術の勉強でもしようかと思っていたら、突然フィルがやってきて……」


 エンティは連れてこられた理由が全くわかっていなかった。


「あんた、行動力あり過ぎるだろ」


 ドランは半ば呆れ返っていた。


「褒め言葉として受け取っておくわ」


 フィルイアルは悪びれることもなくそう言った。


「まあ、いいか。入るぞ」


 ドランは全く躊躇することなく店内に入る。


「ここ、この街でも屈指の高級店よね。そんな店に躊躇なく入る辺り、度量があるわね」


 フィルイアルはドランの素性を知らないこともあって、感心するように言った。

 エンティはドランの素性を説明するか迷ったが、本人に断りもなく言うのはどうかと思い口を出さなかった。


「坊ちゃん、いらっしゃい。お待ちしておりました」


 ドランの姿を見るなり、店員が丁寧に頭を下げた。


「おいおい、坊ちゃんは止めてくれよ。で、例の物は問題なくできているか」

「はい。それはもう問題なく」

「悪いな、俺の我儘に付き合わせて」

「いえ。ところで、そちらは例のご学友ですか」


 店員は三人の方に目をやった。


「ああ」

「ほう、なるほど。坊ちゃんが目をかけたくなるのもわからないではないですね」

「余計なことはいいから、例の物を」

「こちらになります」


 店員は丁寧に折り畳まれた服をドランに手渡した。


「助かったよ、引き留めて悪かったな。仕事に戻ってくれ」

「はい、ご学友とごゆっくり楽しんでください」


 店員は一礼すると、仕事の方へ戻っていった。


「坊ちゃんって、あなた、この店の関係者なの」


 フィルイアルが不思議そうな顔をする。


「ん? ああ……まあ、そんなとこかな。あんたらなら、話してもいいか。俺の親父は、フォール商会のトップなんだよ。次男だから、後は継げないけどな」


 ドランは少し躊躇したものの、あっさりと真実を告げた。


「平民にしては博識だと思っていたけど、それなら納得できるわ」


 フィルイアルは納得したように頷いた。


「ま、そんなことはどうでもいいだろ。そろそろ本題に入ろうぜ。ミア、これに着替えてくれるか」


 ドランはミアに服を手渡す。


「綺麗、でもわたしに似合うかどうか」


 服を受け取ったミアは、そう呟いた。


「いいから着替えろって、そこに試着室あるから」


 ドランは試着室を指差した。


「わかった」


 ミアは頷くと試着室に入る。


「楽しみね。ミアが綺麗になるのもそうだけど、あなたの審美眼もね」


 フィルイアルは楽しそうにドランの方を見た。


「期待してくれていいぜ。結構自信あるんだよ」


 それを受けて、ドランは自信ありげに答えた。


「こんなヒラヒラな服、似合うの」


 試着室の中からそんな声が聞こえてくる。


「大丈夫だって」

「わかった」


 しばらくすると、ミアが試着室から出てきた。

 露出は控えめな青いドレスで、清楚な雰囲気のあるミアにはぴったりだった。


「……驚いたわね。ミアはお洒落すれば化けると思ってたけど、ここまでとは思わなかったわ」


 フィルイアルが感嘆の声を上げた。


「僕はこういったことには疎いけど、ミアがとても綺麗だってことはわかるよ」


 エンティは青いドレスのミアに見惚れてしまう。


「俺の見立てに狂いはなかったな。と、まだ鏡見るなよ。ほれ、これ付けろ」


 ドランはミアの背後に回ると、その頭にウィッグを被せた。


「えっ、何?」

「よし、鏡見てみろ」


 ドランはミアの肩を掴むと、鏡の前まで連れて行った。


「……これが、わたし?」


 鏡を見たミアが息を呑んだ。


「わたしじゃ、ないみたい」


 ミアは信じられない、というように鏡や全身を見回していた。


「思った通り、長い髪も似合うな」

「そうだね」


 エンティはドランに同意するように言った。髪の長さが違うだけでここまで雰囲気が変わることにも驚かされていた。


「何か気になるところあるか」

「全体的に問題ない。でも……」


 ミアはそこで言い淀んだ。


「何だよ、遠慮しなくていいぞ」

「胸元をもう少し、きつくして欲しい」


 ドランに促されて、ミアは言い難そうに言う。


「やっぱり胸締めてたのか。少し不自然な感じしてたから、そうじゃないかって思ってたが」

「剣を振るうのに邪魔だから」

「あまり締めすぎると、体に悪いぞ。それに、その服は動いても胸が邪魔にならないようにできてるから問題ないぜ」


 それを聞いて、ミアは小首を傾げていた。

 そして思いったように軽くしゃがんだり立ち上がったりする。


「本当、全然邪魔にならない」

「あんたは剣を使うことを第一に考えるからな。その点も踏まえて用意させてもらった」

「そこまで考えて……ありがとう」


 ドランが細かい気遣いをしてくれたことに、ミアは礼を言う。


「フィル?」


 エンティはフィルイアルが小刻みに震えていることに気付いて、何事かと声をかけた。


「ミア、あなた……」


 フィルイアルが絞り出すような声を出した。


「ね、姉さん?」


 そのただならぬ様子に、ミアは何事かとフィルイアルに近寄った。


「あなた、また大きくなったんじゃないの」


 フィルイアルはミアの両肩をしっかりと掴むと、見たことがない形相で言った。


「えっ? な、何のこと?」


 ミアは思わず後ずさりしそうになるが、肩を掴まれているせいでそれもできなかった。


「私は、全然大きくならないのに」


 フィルイアルは消え入りそうな声で言った。


「えっ、えっ?」


 ミアは何がなんだかわからない、という表情になっていた。


「フィル、落ち着いて。一体、どうしたんだい」


 ただならぬ様子に、エンティはミアの肩を掴んでいるフィルイアルの手に自分の手を重ねた。


「どうして、どうしてミアばっかり胸が大きくなるのよ。私は、全然大きくならないのに」

「は?」


 それを聞いて、エンティは間が抜けた声を上げていた。

 そして、自分でも気付かないうちにフィルイアルとミアの胸元を見比べてしまう。今まで気にしたことはなかったが、確かにミアの方がフィルイアルよりも大きいように思えた。


「エンティ、今私とミアの胸を見比べたでしょう」


 フィルイアルが睨むようにエンティを見る。


「い、いや、そんなことは……」


 エンティは訳が分からなくなって、しろどもどろになっていた。


「何だよ、あんたにもそんなとこあるんだな。俺は胸の大小で魅力が変わるとは思わんが」


 そこで、ドランが声を上げて笑い出した。


「うっ……」


 フィルイアルは言葉を詰まらせていた。


「それにエンティ、無意識だったとはいえお前も悪いぜ。たかが胸の事と思うかもしれんけど、気にする人は気にするからな」

「あ、はは。気を付けるよ。フィル、ごめん。僕が軽率だったよ」


 正直納得できない部分もあったが、この場を納めるためにもエンティはそう言った。


「ごめん、あなたが悪いわけじゃないのにね」


 エンティに謝られたことが効いたのか、フィルイアルはしゅんとなってしまう。


「姉さん、手、放して」

「あ、ごめん」


 ミアに言われて、フィルイアルは慌てて手を離した。


「でも、姉さんの意外な一面が見れた」

「ミア」


 ミアが少しからかうように言うと、フィルイアルは赤面していた。


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