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強敵

「ギルドは何やってるんだよ。こんな場所にベレスが出るなんて聞いてねえぞ」


 ドランは吐き捨てるように言った。


「さっきも言っていたけど、そんなにやばい奴なのかい」 


 エンティも厄介な相手だと感じていたが、かつて狼の群れに襲われた時とあまり変わらないような気がしていた。


「少なくとも、俺らがまともにやり合える相手じゃないぜ。むしろ、ミアがあいつの攻撃を受け流したのに驚いたくらいだ」

「本当に、どうしようもないの?」


 フィルイアルは状況が飲み込めていないのか、ドランほど深刻な表情はしていなかった。


「さっき、エンティの魔術を弾いたのを見ただろ。俺達だって、使える魔術の威力はさして変わらないから、結果は同じだぜ」

「でも、三人で一斉に魔術を使えば」

「それは、厳しいかも。僕の属性が水で、ドランは火。火と水は相性が悪いから、同時に使っても効果は薄いと思う」


 一斉に攻撃をしようと提案したフィルイアルに、エンティはそれが難しいことを説明する。


「なら、私とあなた、あるいはドランで……」

「そもそも、タイミングを合わせて魔術を使うなんてこと、僕達にできると思いますか」

「……確かに、そうね」


 エンティに言われて、フィルイアルはそれが難しいと頷いた。


「姉さん、足止めだけしてくれればいい。それで、何とかしてみる」


 三人が方針で揉めていると、ミアはそう言った。


「ミア、あれはお前が思っているほど甘い相手じゃないぜ」

「わかっている。でも、動きは見切れないほどじゃない」


 ドランが忠告するが、ミアはそれを受けて両手で剣を構え直す。


「ミアがやれる、って言うのなら勝算はあると思うわ。なら、私達でミアをフォローしましょう」


 ミアに対して絶対の信頼があるのか、フィルイアルはそれを受け入れた。


「そうだな」

「わかった」


 フィルイアルに言われて、二人は頷いた。


「なら、僕とドランは間隔を空けて魔術を撃とう。火と水は互いに打ち消し合うから。だから、ひめ……フィルの魔術を主軸にして足止めした方がいいね」

「私の魔術を? この中で一番魔術を使いこなせるのはエンティなんだから、エンティが主軸になるべきじゃないの」


 自分が主軸になるということに、フィルイアルは疑念を抱いていた。


「水と雷は相性が良いって、授業で習ったよね。火と雷も相性は悪くないし。なら、雷を主軸にするのが効率的じゃないかな」

「わかったわ」


 エンティが丁寧に説明すると、フィルイアルは頷いた。


「じゃ、俺、フィル、エンティの順で行くか」

「それで行こう」

「じゃ、行くか……フレイムアロー!」


 ドランはベレスの足元に炎の矢を放った。

 あまり効かないとはいえ、熱は嫌なのかベレスは後ろに飛び退いてそれを避ける。


「フィル」

「ええ……ライトニングブラスト!」


 フィルイアルはベレスの退路を断つように電撃を撃つ。

 飛び退いた所に電撃を撃たれて、ベレスは完全に回避できなかった。


「ギャッ!」


 ベレスは苛立ったように小さな悲鳴を上げる。その様子からするに、あまり効いてはいないようだ。


「じゃ、これはどうかな……アイシクル・ランス!」


 エンティはベレスの横両側から挟み込むように氷を二本放った。

 先程と同じようにあまり効いてはいないが、動きを止めるには十分だった。


「ミア」


 エンティがミアに声をかけると、ミアは小さく頷いた。

 動きが止まっているベレスの首筋に向けて剣を振り下ろした。


「予想以上の一撃だな……って、どうしてあれで斬れないんだよ!?」


 ドランの目にはミアの斬撃は完璧な一撃に映っていた。だから、その一撃を受けてベレスの首が繋がっている事に驚きの声を上げてしまう。

 それでもある程度の打撃になったのか、ベレスは地面に横たわっていた。


「ミアの剣は、斬れない剣なのよ」


 フィルイアルが忌々しいというように口にする。


「どういうことだよ」


 たまらずドランは責めるような口調になっていた。


「ミアが私の護衛をするって決まった時、周りがミアを疑ったの。身分の低い貴族なんか誰かにそそのかされて私を襲うに決まっている、って。だから、ミアの剣は斬れない剣になったわ」

「は? それでどうやって護衛するんだよ。そもそも、人間が鉄の塊で殴られたら無事じゃすまないだろ」

「確かに人間相手なら、それでも十分だったわ。でも、未知の魔物となると……」


 フィルイアルは唇を噛み締める。


「でも、あれだけの太刀筋で殴られたんだ。いくら魔物とはいっても……」


 エンティがそう言いかけた時、ベレスは唸り声を上げながら立ち上がる。


「あまり、効いていないようだね」


 首を回しながらこちらに唸り声を上げるベレスを見て、エンティは小さく舌打ちした。


「これはかなりまずいな……打つ手なし、か」


 ドランは焦ったように口にする。


「このままでは、ジリ貧だね。何か、手はないかな」

「こうなったら、あまりお勧めできる方法じゃないが……」


 ドランは一瞬だけ言葉を止める。


「四人で一斉に違う方向に逃げて、誰か一人が犠牲になって他の三人が助かる、くらいしかないが。もちろん、恨みっこなしで、な」


 その案が本心ではないのか、ドランの表情は苦渋に満ちていた。


「駄目よ‼」


 それを聞くなり、フィルイアルは叫んでいた。

 フィルイアルが大声を上げるなんてことはまずなかったことなので、三人はフィルイアルの方を見た。

 ミアはベレスと対峙していることもあり、一瞬だけ見ただけだったが。


「そんなことしたら、ミアがわざと残るのが目に見えているもの。そんなこと、させられないわ」


 フィルイアルは大きく頭を振った。


「悪い、そこまで考えてなかったわ」


 その言葉に納得したのか、ドランはフィルイアルに謝罪する。


「別に、わたしはそんなこと……」

「しない、って言い切れるの」


 そう言いかけたミアに、フィルイアルはやや責めるような口調で言った。


「……」


 図星だったのか、ミアは何も言葉を返さなかった。


「まあ、ドランの案は本当に最後の手段だね。それに、そんなことをしたらずっと後悔しそうだから、他の手段で何とかしたいね」


 雰囲気が暗くなりかけたこともあって、エンティは努めて明るい口調で言った。


「そうは言うがな、お前、何か良い手でもあるのか」


 エンティの口調が必要以上に明るかったので、ドランは何か良い案でもあるのかと聞いてくる。


「ミア、どれくらいなら足止めできそうかな」


 エンティはそれに答えずに、ミアにそう聞いた。


「足止めだけなら、半日でも余裕」

「そこまで足止めする必要はないよ。でも、それだけ余裕があるなら大丈夫そうだね」


 返ってきた答えが予想外だったこともあって、エンティは思わず笑いそうになっていた。


「任せて」


 ミアは小さく頷いた。

 と、同時にベレスがミアに向けて爪を振り上げた。


「……っ!?」


 それが今までよりも数段早い動きだったので、ミアは完全に反応しきれなかった。

 ベレスの爪がミアの左肩口を軽く切り裂く。


「ミア!?」


 それを見てフィルイアルが悲鳴を上げた。


「大丈夫」


 ミアは大袈裟に切り裂かれた左肩を動かして、大したことがないとアピールする。


「あの爪に、毒とかはないよね」


 エンティはドランの方を見た。傷は浅くても、毒があったりしたら大変なことになる。


「ああ、それは問題ないぜ。ベレスは毒を持っていないからな」


 ドランは大丈夫だというように頷いた。


「でも、あまり長引いたらミアも持たないからね。実戦で使うのは初めてだけど……」

「両手で魔術を使うの? そんなこと、授業ではやらなかったわよね」


 両手で魔術を使うような素振りのエンティを見て、フィルイアルは何をするつもりなのかとじっと見る。


「まあ、上手くいくかはわからないけど、ここで何もしないわけにはいかないからね」


 エンティは少しだけ笑みを見せると、ベレスに向き直った。


「アイシクル・ランス!」


 エンティが放った氷の槍が、ベレスの頭上から降り注いだ。

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