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拾われた聖女は、正体を隠した腹黒騎士様に奪われる  作者: 礼(ゆき)
本編

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6/20

6,聖女不在事情

 帰宅時間になると、いつも日はとっぷりと暮れている。一日が終わった、そして明日また同じ一日が繰り返される。鎖につながれたように、私の自由はない。


 協会の事務所近くに私専用の部屋が用意されていた。扉で仕切られた二間は、一部屋が座学の勉強と応接用の執務室、もう一部屋が私の仮眠と着替えを目的とする休息室となっている。


 白いローブを脱ぎ、街へ出歩く少女たちと同じような衣装に替える。聖女を象徴する衣装で出歩けるほど私も度胸がない。ダレン様のお屋敷から協会までは、街になじむ服装で移動させてもらうのは、せめてものみみっちい抵抗だ。勘弁してくださいと泣きついた。


 安息室で着替え終え、ミザリーが軽食を持って現れる。

「お疲れ様です。迎えの馬車が到着するまで今しばらくお待ちくださいとのことです」


 私は、休息室の二人掛けの丸テーブルに座った。目の前に、パンとあたたかいスープ、フレーバーティーが注がれた華やかな茶器が置かれる。村で食べていたより数倍良い食事なのに、これで軽食なのだから、身分や立場による食事の差を思い知らされる。


 空腹には勝てず、私は食べ始めた。

「……忙しいわね……」

 満ちてくると、愚痴が漏れる。


 ミザリーが座学の間に外出できる奉仕活動を入れてくれて、私の気を紛らわせる予定を組んでくれる。ベール案を出してくれたのも彼女だ。水や毛布など、なにかと気遣いを示し配慮してくれていることはありがたい。でも、つらいことはつらい。


「協会に所属し、動ける聖女様が、ナンナ様だけですので、ご負担をおかけします」

 彼女が悪いわけではないのに、いつも申し訳なさそうに謝ってくれる。


「いいのよ。あなたが組んでくれる予定のおかげでもっているようなものだわ」

「いいえ、本来はこのような無茶な要求はありえません。ご無理をかけられているのは私もよくわかっております。本当に大変なのは聖女様です。私は聖女様が少しでも楽になるよう努められれば、本望なのです」


 いい人だと思う。あれもこれもと言い出しかねない協会と私の容量の狭間に立って調整してくれる。尽くしてくれる理由があってもよさそうだけど、彼女は、これが仕事ですからといつも笑うのみだ。


「騎士などで魔力を使う人々はいても、どうして聖女はこんなにもいないのかしら」

 不思議だった。私以外の聖女といまだ会ったことがない。


「以前はそれなりにいたのですよ。今も女性で魔力を持たれている方はいるのでしょうけど、聖女にはなりたくない、させたくないという貴族が多いのです」

「やはり、忙しいからですよね……」

 貴族のお嬢様が、こんな激務をこなす必要なんてないわよね。馬車馬のように働くんですもの。


「激務になってしまっているのは、聖女不在が長かったからです。以前、聖女という職は、魔力を有する貴族の女性の箔付けとして好まれておりました。結婚までの腰掛けにちょうどよかったのです」

 あまりの現状との違いに私はピンとこない。ミザリーは苦笑して話し続ける。


「それが二十年前、魔獣が森の奥深くで大量発生し、その討伐に多くの騎士と聖女が駆り出されました」


「魔獣? 魔獣ってそんなにたくさんいたの?」

 村に住んでいる限り、稀に聞くことはあっても、頻繁にその存在に触れることはなかった。村の畑にあらわれたのが珍しい。過去、見たことがあるのは一度きり。それも森の中だ。あれは二度と見たくない……。


「います。正確には、いました。

 詳細が伏せられた国民には、魔獣が出やすくなったので森の奥への侵入禁止措置が取られただけですからね。聖女様が存じ上げないのも当たり前です。

 発生から二十年経過し、大方駆除されています。ご安心ください」


 ミザリーは柔らかく笑んだ。


「その魔獣の大量発生により、駆り出された聖女が魔獣の瘴気にやられ、命を落としました。平民出の聖女の訃報でも、貴族たちはこぞって聖女にした娘たちを引き下げてしまいます。残った少数の平民出身の聖女様達もさらに命を落とし、数年前から聖女不在という事態に協会は陥ってしまっていたのです」


「私もいずれ、魔獣の討伐に駆り出されるのかしら……」

「いえ、もうそこまで魔獣の数は残っておりません。魔獣討伐の前線に立つ騎士の団長様もいらっしゃいますので、そう遠くないうちに、終焉を迎えます」


「では、私は、何のために?」

「平和になった後に、再び聖女を目指す貴族の子女を呼び戻すための広告塔ですね。後は、平民達への奉仕活動を通して、魔法協会や国、魔法省、教会などの慈善活動の象徴です」


 カップに口をつける。どうやら、私はよく分からない事情で利用されているらしい。


「こういう慈善活動は、貴族の女性達に人気だったのですけど、魔獣討伐の際にできた悪印象が払しょくしきれず、困っていたのです。

 ですが、こうやって聖女様が、聖女として人気を博してくだされば、再び目を向けてくれる貴族の女性もいるかもしれません。それまで、一緒にがんばりましょうね」

 笑顔で締めくくられ、私は逃れられないということだけ、痛感した。


 迎えの馬車にはミザリーと乗り込んだ。馬車に揺られ、ダレン様の屋敷へ向かう。


 屋敷を不在することが多いダレン様の仕事を使用人もよくわかっていない。忙しく屋敷にも戻れないのだろうという認識だった。前線と王都を行ったり来たりする生活を続けているとミザリーに聞いたが、箝口令が敷かれているので黙っているようにと念を押され、私も使用人には何も言わない。


 主人のいない屋敷では使用人が暇を持て余していた。私を預かると言ったのも、こういった暇を持て余している使用人たちに活気を持たせる側面があったようだ。


 使用人たちは、仕事に張りが出たことを喜んでいた。私が聖女であることは伝えられているらしい。彼女の教育を手伝うよう主人から伝えられ色めき立っていた。もちろん、うちに聖女がいることは黙っているようにとダレン様は念を押していた。


 到着するとミザリーも一緒に屋敷に入る。使用人に迎え入れられる際の対応なども見られ、注意される。


 その後、屋敷で用意される夕食を共に食す。その場で私に食事の作法を教えるためだ。その点は使用人たちも理解しており、協力してくれている。


 いただく食事は豪華だ。前菜から始まり、順々に食事が並べられて行く。食事の作法は必要になるからと手厳しい。こころもち、食べた気がしないまま終わるのが常だった。


 食事を終え、あたたかいミルクティーを飲みながら、食事作法の振り返りをしていたら扉が開いた。珍しく、ダレン様が屋敷に帰ってきた。


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