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拾われた聖女は、正体を隠した腹黒騎士様に奪われる  作者: 礼(ゆき)
本編

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20/20

20,雨と雷と暖炉の炎

 私を拾ってくれた村を含む一帯が国領地から父の領地と変えられることになり、父はその村近くに屋敷を建てることにした。


 屋敷を建築中、何度も村へ足を運んだ。娘を助けてくれてありがとうと、お嬢様に父は会うたびに頭を下げた。村長は娘の偉業に驚き、村近くに屋敷を建てる話に喜んだ。


 素直なお嬢様は、きょとんとその様子を見つめていた。村の好青年とも仲良くしているそうで、平穏に暮らし、妹のような彼女が幸せそうで良かった。

 好青年を気に入った父が、屋敷ができたらこっちで働かないかと誘っており、お嬢様にも一緒においでと声をかけていた。


 屋敷を建築する期間、王都滞在中はダレン様の屋敷に父も住んだ。娘婿の屋敷だからかまわないだろうと父に押し切られ、ダレン様はなぜか複雑な顔をしていた。


 母の墓地は王都にあり、父と共にお参りに行く。一人で行くこともあれば、ダレン様と行くこともあった。行きたくなったら、母を訪ねるように、足を運んだ。

 父もダレン様も私の行動をそっと見守ってくれた。


 私は聖女の仕事を継続しつつ、旦那様となったダレン様の屋敷で暮らす。式はもう少し先である。父の件が落ち着くまで、私たちは色々なことがお預けだった。

 

 父がそばにいるだけで、ダレン様が緊張しているのがおかしかった。父が声をかけるたびに、「はい」と返事を返す人形のようであり、私は笑いをかみ殺すので精一杯だった。本当に、上官と部下だったのだとその姿から、知るのだ。

 その割に、お酒が入ると砕けた会話が交わされ、日常との差も興味深い。


 ダレン様は忙しい。

 騎士をやめ、文官として魔法省に復帰した今、彼は目まぐるしく、帰宅時間も夜遅いことが増えた。


 ミザリーも私の秘書を辞し、魔法省に戻っていった。


 週に何度か、魔法協会に貴族の屋敷へ訪問する以外私の仕事もなくなった。騎士団長の娘と知れた私の役目が、子どもをもうけることにうつっているらしく、そのために仕事量が調整されているのだとミザリーは最後に言っていた。


 どこまでも人に絡めとられているものの、私の望むことと同じなので、何も言う気はなかった。


 屋敷が完成次第、喧騒は興味がないとばかりに、父は領地の屋敷へと移っていった。ダレン様の屋敷で働いていた侍女と執事、料理人を一人ずつ連れて行く。これより一年か二年で、雇い入れる近隣に住む村の者を教育するためでもある。





 夕刻から空がぐずつき始めた。あっという間に暗澹とした雲が広がり、雨が降り始めた。真っ暗となり、大粒の雨が屋根や窓を叩き始める。


 雨が降ると一気に温度が下がる。肌寒さに、暖炉に火をくべた。


 パチパチと爆ぜる音。炎の先がゆらりゆらりとそよぐ。薪をくべると、ベージュの木肌を赤黒く焼き、燻された煙が暖炉の煙突へと流れる。


 熱を頬に受ける。懐かしい熱さだ。


 私は、ダレン様がいつもの座る大ぶりの一人掛けの椅子に座った。夕食も一人食べ終え、湯あみも済ませ、寝衣にも着替えている。テーブルにはワインとグラスも用意した。後はダレン様を待つばかりである。

 椅子に座っても伝わってくる熱にうとうとする。ほんの少しだけ、休むつもりだった。




「ナンナ、ナンナ」

 肩をゆすられる。

「起きなさい。ここで寝ていたら、風邪をひくよ」


「んっ……」

 目をすっと開く。

 ここはどこかしら……。

 椅子の肘掛けが目に入る。もたれるように眠っていたようだった。

 ダレン様の椅子だと、思い至る。


 ゆっくりと顔をもたげると、帰ったばかりと思しきダレン様が立っていた。

「ああ、寝てしまっていたのね」

「疲れているなら、先に休むか」


 肘掛けに両手を乗せて、背を伸ばす。見上げると、背もたれに手を添えたダレン様の顔が近い。


「いいえ、お帰りなさいませ」

 笑むと、笑い返してくれる。


 ざざーざざーと雨が降る。部屋に稲光が走り、雷鳴が続いた。窓へと二人自然に目が向く。


「雨ですね」

「雨だな」

「初めてお会いした時も雨でしたね」


 懐かしい。一年前なのに、何年も前のように思えてくる。

 私は、席を立った。

「どうぞ、お座りください」

 隣席に移ると、ダレン様が椅子に座った。


 暖炉の火が揺らぐ。私が添えた薪も真っ黒に染まり、火につつまれている。

「私、あの時、男の子と間違われたのですよね」

 ふと思い出しておかしくなる。なにをしていればいいのか、どこにいればいいのか分からなくて、膝を抱え、暖炉の前にすわりこんでいた。

 貴族の女性を見慣れたダレン様からしたら、村娘など、男の子に見えて当たり前だ。

 

 肘掛けにゆったりと身をまかせ、ダレン様がくすりと笑った。

「俺が、女と男を見間違えると思うか」

 ダレン様の手がワインの瓶に伸びた。手元に寄せて、コルク栓を抜く作業を始められる。

「最初に、自分の口で、あなたを小僧と呼ぶことで騙したんだよ」


「騙す? どなたを?」

「自分をだ」


 自分を騙す?

 父が、無責任に女性に手を出すことを嫌っていたからでしょうか。


「最初から、あなたが女性だと分かっていたよ。女性と男性では、体のつくりが違う。深夜に部屋にいて、あんな滑らかな背は女性だとすぐ分かるさ」

 ダレン様の表情は満足そうだ。手酌でワインを飲み始めた。

「わかっていらして、小僧と呼ばれたのですか」


「そう。団長は怖いからな」自嘲を浮かべる。「俺は団長が怖い」


 そう言えば、父がいる間、ダレン様は屋敷にいても終始緊張されていた。父の方がくつろぎ、ダレン様が執事のように見えてしまった。


「そんなに怖いのですか」

「ああ、恐ろしいよ。あなたに触れようとしたら、殺されそうだった」

「まさか」

 くすくすと笑ってしまう。ダレン様の口元も柔らかくほころぶ。


「俺は、あなたと過ごす、穏やかなひと時が好きだ。暖炉の前で、こうやって、何気ない会話が本当に……」

「私もこのひと時が大好きですよ」


 あなたと同じ気持ちだと心底伝えたかった。こうやって、別々の肉体を持って生きていることが不思議な気持ちになってしまう。もし人生で額縁に入れて飾ることができる一瞬を選べと言われたら、私は、暖炉の前にあなたといるこの時を挙げたい。


「俺は、この穏やかな時間の中に、溶けてしまいたいと思うことがあるよ」

 ほんのりと胸があたたかくなる。


「なのに、いつも私だけ先に居室を追い出されますよね。先に寝なさいって、まるで子供のようだわ」

 ダレン様がふふっと笑う。

「最後は、一人になりたかったのですか」  


「いや、あなたとずっと一緒にいたいよ。今日からは、一緒に……」

「はい」

「俺の寝室でかまわないだろう」

「はい」


 父が村近くの新たな屋敷に移り住んだ最初の夜。私は初めて、ダレン様と共に、暖炉のある居室を出た。















最後までお読みいただきありがとうございます。

ブクマと評価いただけたら、励みになります。

よろしくお願いします。


次の異世界恋愛小説は現在書いている長編小説が書き終わり次第書きはじめます。150話執筆済なので、もうすぐ書き終わると思います。


明日からは、なろうユーザー同士で二つ名をつける遊びの中で書いた小説の投稿を始めます。4人の男子が主人公です。途中TSして2人女の子になり、恋愛要素ありの冒険譚になります。


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最後までお読みいただきありがとうございました。



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― 新着の感想 ―
[一言] 本当に読んで嬉しくなるような展開でした。
[一言] 楽しく読ませていただきました。ダレン様目線とか他の視点がもう少しあっても面白かったかなって思いました。また別の作品も読ませて貰いたいと思います。ありがとうございました。
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