表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メダカのリタ  作者: 秋乃ゆき
4/14

蓋をする

視点:三枝明里



 2月になって今年の初雪を観測した。

強い寒波により関東南部を中心に雨や雪が降り、東京都心でも最高気温は五度と冷え込み各地で初雪を観測した。

一部の路線電車は運転を見合わせ、時刻は9時を過ぎようとしている今もまだ学級全体のおよそ4割に当たるの生徒が朝から足止めをくらっている。


 今教室にいる生徒は運良く登校できた者や親に車を出してもらった者達だ。

私は後者で、登校したはいいものの授業は始まらない。

 各教室の生徒数は疎らで各々友人と話し込んだり読書していたりスマホに熱中していたりと自由に過ごしていた。

 担任の先生からは自習を命じられたが、見張りのいない一年生のこの教室でこの時期に真面目に自習する生徒はそう多くないだろう。

 そんな中、真面目に自習している私のもとに同じクラスの沙織が神妙な面持ちで雪乃の話題を持ち込んできた。


「雪乃の噂?」


「うん。あたしはこないだ花菜がクラスの人を問いただしたってのを聞いた話……なんだけど。」


 続きの言葉に耳を傾けていると、沙織は喉に物を詰まらせたような表情をして言った。


「雪乃がその……レズらしいっていう。」


 レズとはレズビアンの略称。

レズビアンとは女性でありながら同性の女性を愛する同性愛者を表していて、一部の学校では授業で取り扱われたり、近年話題になることも増えきた性的少数者を指すLGBTの一つだ。

レズという略称は今回のようにネガティブな意味で使われることもあるため注意が必要らしい。

この高校でも以前授業で取り扱われたことがあった。


 単に同性愛者といっても蓋を開ければ細分化され多様であり、一言で説明し難い奥深さがある。

まずセクシュアリティの観点から身体的性、性自認、性的指向、性表現のそれぞれがどのように当てはまるかで変わってくる。

 そこでレズビアンを定義するなら性自認は"自身を女性であると認識していること"、性的指向は"同性の女性を好きであること"がそれにあたる。

ここでさらに身体的性、つまり身体が男性であっても性自認が女性であればレズビアンと定義される。

また性的指向が女性と男性両方であればバイセクシャルという。

 このように組み合わせは十人十色であり、セクシュアリティは当人にしか分からない要素を多分含んでいるため、簡単に他人が決められるようなものではないのだ。


「なんで? 誰がそんなこと言ってるの?」


「主にB組の男子みたい。雪乃は他人に素っ気ない方だし、あたし達女子としか連まないからとかそんなハッキリしないこと言ってたみたいだけど。」


「なにそれ。」


「前にさ、最近雪乃に興味持った男子増えてきたみたいな話したじゃん? どうせ誰かが告って振られた腹いせか何かじゃないかなとは思うんだけど。雪乃気にしてないかな……」


「んー……。」


「あたしは学校にいる雪乃しか知らないからさ、本人はそんな噂があること自体気付いてなくて、例え知ったとしても気にも留めないような気はするんだけどさ。」


――――『明里が傍に居てくれるなら何もいらない』


「まあ……。」


――――『明里が私の全てなの。』


「どうなんだろ。」


「……明里、ずっと気になってたんだけどさ。」


「なに?」


「最近雪乃と何かあったでしょ?」


「どうして?」


「何となく?」


「なにそれー。別に何もないよ。」


「最近しなくなったじゃん。ピン。」


「もともとしてたわけじゃないし、前の雪乃に戻っただけでしょ。」


「笑わなくなった気がする。」


「別にいつも笑ってるような子じゃなかった。」


 沙織はまるで私の返答なんて意に介さない様子で、その言葉は詭弁だと突き返されているようだった。


「雪乃はいつも、明里といるとき楽しそうな顔してたよ。」


「……」


「花菜も気にしてるんだよ。」


「えー。ほんと何もないのに〜。」


 別に何も無い。ただ前に少し噛み合わない言葉のキャッチボールをして、少し思いの丈を打ち明けられたことはあったけれど。

 これが沙織がいう雪乃との何かだっとして、今私の手元には返すべきボールはない。


『どこにもいかないで。』


今でも一緒にいる。お昼も今まで通り一緒に食べてる。


『嫌いにならないで』


嫌いになってない。なぜそんなことを。


 あの日のことを考えると自分の中に芽生えた"何か"が見え隠れする。

モヤがかかってよく分からないけれど、嫉妬という言葉が当てはまりそうにない。

その正体に気付いてしまうことを本能的に拒否している自分がいる。


 あの時のキャッチボールは彼女の暴投で終わったはず。

そう言い聞かせるように私は思考に蓋をした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ