ガルメニ人はロースさん
アイリーンはピクシーも妖精と同じだと思っていた。
「じゃあピクシーは何だって言うの」
「私もピクシーには会ったことがないのですけど一般的には突然変異と言われています。植物や動物がある程度育った時にいきなりピクシーに変化するらしいです」
「それは凄く怖いですね、大事に育てていた盆栽がある日突然ピクシー化して歩きだしたりしたらそれはもうオカルトですよね」
昴くんが的外れなことを言ったけど新月さんとアイリーンは例えが何故『盆栽』なのと思ってしまった。
「それでそのロースってのはピクシーなのよね」
「いいえ、妖精ですね私がコスモピクシーって言ってしまいましたけど、宇宙人には妖精って言葉も概念もないのですよ、物に祈って気を宿すことが出来るのは地球人だけなのですから」
「先生、それが本当ならあのロースさんは誰の祈りで誕生したのですか、そしてどうしてここに居るのです」
昴くんが鋭い指摘を込めた言葉の矢を飛ばす。
「そうね、それはこれから解き明かしていかないといけない謎ですね。いま分かってる事はロースさんは炎属性を持っているのでフレア族だということだけです」
「じゃあ、今度会った時はフレア族のロースさんって呼べば良いんだ、更に美味しそうよだれが落ちないか心配だわ」
アイリーンが袖口で口を拭う仕草をしながら言う。
「どうしたらそんな風に連想できるのですか、冗談でも絶対に止めて下さいね」
「分かってるわよ、軽いジョークじゃない」
「少しでも信仰心がある人に聞かれたらアイリーンさんが丸焼きにされますよ、くれぐれも軽はずみな言動をしないように気を付けて下さいね」
「わかってるって、それで今は弱ってるみたいだったけど元気になったらサラマンダーとかファイヤーバードとか、あとイフリー…」
「ならないです、そう言ったのは精霊獣と呼ばれています。それは妖精とは全く別なのですよ、それでスーさんがロースさん達のその精霊獣らしいのです。それこそ今はかなり弱ってらっしゃるのだけど」
新月さんはアイリーンが少しでもスーちゃんに対して敬う態度が取れるようにと敬語で言ってみる。
「えっ、スーちゃんが精霊獣だって言うの、あのサラマンダーとかファイヤーバードとかあとイフリ…」
「ならないです。種別はフレアホースだと言ってました。それでお願いなんですけどもう少し敬うようにして下さい」
「敬う?それってどうするんだっけ、スーちゃんの前でひれ伏して大仰に仰ぎ見ればいいっていうの、アハハ、ムリムリムリそれよりさあ、昴くんんが焼かれたりしないか心配だなあ」
アイリーンはポカンと口を開いてこっちを見てる昴くんに向かってお腹を抱えて笑いだした。
「僕は大丈夫だよ、でもあんまりアイリーンがベタベタしてくると焼かれるかも知れないよ」
昴くんがアイリーンを脅す。
「アハハ座布団1枚、妬かれて焼かれたりしてアハハハハッ、お腹が…痛い、それでフレア族の精霊獣が昴くんに捕まったと思ってロースはうち達を襲ったのかなあ」
アイリーンは昴くんの首筋に手を添える。
(さっきはこの辺りから出てきてたわね)
「あなたフレアホースって名前の精霊獣なんだってね、今までスーちゃんなんて呼んでいて大変失礼しましたごめんなさい。でもこれからもスーちゃんって呼んで良いですか?いいよね」
昴くんの首筋からスーちゃんが顔を出してきた。
それから少しづつ出てきて最後は昴くんの肩の上に立つオレンジ色の焔をまとった馬の姿を現す。
(まだ完璧に元気なわけではないのかなあ)
「それが本当の姿ってわけね。確かにフレアホースって名前の方が似合いそうね、でもスーちゃんだからね」
アイリーンは意地を張った。
「フレアホースは種別名で固有名ではないのです。だからアイリーンがスーちゃんって呼べばそれが名前です」
新月さんは精霊獣に対して『スーちゃん』と呼ぶのは如何なものかなあと思いながら言う。
「僕も見たいな」
昴くんは室内監視カメラの方を向いてモニターを覗き込む。
「綺麗だね、今までありがとう。これからも宜しくお願いします…でいいのかなあ」
昴くんがフレアホースの前に人差し指を持ってくると右前足を上げて重ねてきた。
でもその瞳が『人を指差すんじゃないよ』と言ってるように見えて小指に切り替える。
フレアホースが昴くんの小指と指切りしてるように見えた。
「良かったですね、昴くんこれからも一緒に居られるみたいですよ、ロースさんが言ってたのに昴くんの寿命が尽きるまでは側を離れないかも知れないらしいです。自分がもっと早くフレアホースに会えてたら連れて帰れてたのにって残念がっていました。若い地球人を気に入って良かったとも言ってます。地球人はロースさん達を生み出してくれる唯一無二の特別な存在らしいからです」
新月さんはアイリーンから話が長いと言われる前に言葉を切る。
「だいぶ分かってはきたけどまだ分からない事の方が多いわね、とりあえずはあと二つだけ教えてもらえるかしら、フレアホースはいつからスターキッドの中に居たの、何でボロ雑巾みたいになって通路の片隅で隠れる様にしてたの、ロースさんは何でガルメニ人の甲殻に入っていたの」
アイリーンは一つ目を省略して二つ目は指を2本立てて聞く。
そして質問は二つと言いながら指を3本立て三っつ目を聞いてきた。
「私はまだ詳しく教えてもらえていないので説明できる範囲で返事します。ロースさんを含めた妖精さん達は精霊獣フレアホースさんを人質に囚われて反抗出来なかったみたいです。
そして外甲殻甲虫人の脱け殻に入るように指示されてそのまま閉じ込められたそうです。実行犯が誰なのかはまだ分かっていません。犯人が太陽系のホログラフィーを示してポイントを付け、そこへ跳ぶように命令して妖精さん達を全ての戦艦に分けて乗船させました。それから指示された場所へ跳んだのですけど、その時にフレアホースさんの気配が消えてたのに気付いたので一番元気にしてたロースさんだけが探すために密かに脱出したと聞きました」
新月さんが話し終えるのを待ってたようにアイリーンが手を上げる。
「どこへ跳んだのか分かりますか」
「時間的逆算でアステロイドベルトの木星側境界線当たりじゃないかと推測しました」
「それはいつ頃になりますか」
「基地への攻撃が始まる数日前だろうと言ってました」
「うちがスーちゃんと出会ったのが2年前よおかしくないかしら…もしかしてスーちゃん、時間も跳んだってことになるのかしら、だからあんなにボロボロになってたんだわ」
アイリーンは最後を自分の仮説で締め括った。
「そうかも知れませんね」
今度は新月さんが話を早く終わらせようとする。
「うち達がスーちゃんと一緒に基地に行くって分かってたのかしら、ロースさんって強運の持ち主なのね、それに鎧兜は無断で着込んだんでしょうね、何で着たのかは本人に聞かないと分からないわね、結構天然な妖精さんかもだわね、うちも早く会ってみたくなっちゃったわ」
「そうなのです。あなた達を呼びに来たのでした、軽く説明してから連れてくるようにオビス司令官から言われて呼びに来たのです。すっかり遅くなってしまったので早く戻らないといけません。あと、あっちに行ってからロースさんの前で失礼なことは言わないと約束して下さい」
「分かってるわ、でも今まで散々言いたい放題だったけど良かったの、フレアホースさんなんかはボロ雑巾呼ばわりしてたんだけど、そんなことやあんなことが知られたらロースさんからローストにされちゃわないかしら」
「ばかなこと言ってないで休憩室へ行きますよ」
アイリーンはコクピットの操縦席に深く沈み込み、出航準備のチェック項目が流れ行くディスプレイを眺めている。
(あの時、新月さんは笑いながら怒っていたけど、まさかスターキッドを下りるなんか思ってもみなかったよ)
翌日の早朝、まだ日も昇りきってない時間に(この人工惑星基地は自転してるので表層に居れば朝日と夕日が見れるんだよね)スターキッドは新月さんとピエロを基地に残したまま発進準備に取り掛かっていた。
新月さんの環境モニターシートにはオビス司令官が座っている。
オビス司令官を横目で伺いながらアイリーンは1人で物思いに耽っていた。
(まあ、あの時オビス司令官が新月さんに新たな任務を与えたんだから仕方ないと言えばそれまでなんだけど、新月さんも成富支部長から『辞令を頂くまでは昴くんの側を離れません』って抵抗してたみたいだけど、結局上司の上司には勝てなかったね、権力には合気道も役に立たないか、うちも良く覚えておくことにするよ、しかし、これは困った事になってしまったのかもだわ)
「キャプテン・アイリーン…」
オビス司令官のことをどうしたものかと考えている時に本人から呼び掛けられて心臓が口から飛び出しそうになる。
「ハイッ!オビス司令官。何でしょう」
アイリーンはスクット立ち上がって敬礼をした。
「だから、さっきも言ったように私は司令官ではなくなるのですから、そしてここではあなたが最高指揮官のキャプテンなんです。私に敬意を払う必要はありません。それから皆さんには本当に迷惑を掛けてしまう事になり申し訳なく思っています」
「だから、さっきも言ったように何度も謝る必要なんかない。そして昴くんスターキッドの中では役職名を使わないルールになっていた筈ではないのかな」
九論がオビスさんに対して尊大な言葉を使い、更におちょくってる風に言うので聞いている方は心臓に悪い。




