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ガルメニ人なんだよね 1

 その時ガルメニ人の口の中に戻っていく小人の髪の色は薄水色ではなく薄桃色に見えた。

 アイリーンはハアハアと口で息をしながら袖口で唇を何度も拭き取る。

 気分は最低ではなくて…。

(この気持ちって何なんだろう、ボーッとして気持ち良いかも)

 横を見ると昴くんも頬を紅潮させてボーッとしてる。

(昴くんも気持ちが良かったのかしら、何だか頭も回らないわ)

「おい、お前達大丈夫なのか間接キスくらいでボーッとしてないで正気に戻れよな、それとも生気を吸われてしまったのか?」

 九論が心配そうにでも少しからかう様に言う。

「間接キスって誰と誰が?」

 昴くんがまだ正常に戻ってない状態で聞いたけど、言いながら我に返り赤く染めてた頬の色を顔全体に広げアイリーンに目をあわせる。

「そんな訳ないでしょうノーカンよノーカン、うちは生気を吸い尽くされて干からびてしまうんじゃないかと恐ろしかったのよ、絶対に甘い口づけなんかじゃなかったわ」

 アイリーンは昴くんではなく他の皆に向かって言う。

(確かにそうね気持ちは良かったよでも何かしらの薬物的な物だと思うわ)

「あれどうしたのよみんな青ざめているわよ、うちも昴くんも何ともないわ大丈夫だから心配しないでよ」

「アイリーン昴くんも本当に大丈夫なの何ともない様子ですけど少し安静にしなさい後遺症が出るかも知れませんわ、それに少し二人とも雰囲気が変わったみたいよ」

 新月さんが真剣に心配している。

(大人達はうちと昴くんを守れなかった事に責任を感じてるのかしら、まあ、大丈夫だったのも結果的にだけどね)

「ご馳走さまでした」

 ガルメニ人が口を開く。

「初めて口を開いたかと思えば『ご馳走さま』ですか」

 オビス司令官は呆れて力が抜けてしまう。

 このガルメニ人を一発殴る位では収まらないほど怒りが溢れ出していたから。

「はい、お二人ともここ数十年で一番美味しかったです」

 ガルメニ人は悪びれた素振りも見せずにいけしゃあしゃあと言う。

「やっぱり僕たちの生気を吸い取ったんだ」

 昴くんが泣き出しそうになったけど、その表情は少し若返った様に見える。

「あっ、あんたうち達の年齢も吸い取ったわね」

 その言葉にアイリーンと昴くん以外の大人達が二人とガルメニ人を交互に見やり少し羨ましそうな表情を見せた。

「お二人の命に影響が出る様なことはないです。まあ、お二人とも私の加護で不老に近い状態にはなりましたけど不死にはなってませんので」

 ガルメニ人というか、ガルメニ人の開いた口の中から声が聞こえてくる。

 ガルメニ人の中に別の妖精人が居ることを知ってはなおさらだ

「はあ、不老の加護を授けたから感謝しなさいとでも言いたいのですか、僕は普通に歳を取ってロマンスグレーの老人になって余生を送るのが夢だったんですけど」

 昴くんが普通に怒ってる。

 でもそれを聞いた全員は少し怒りの方向がずれているのではないかと思う。

「細かい事は別にして喋れるようになったのなら最初の目的通り、こちらの質問に答えてもらいたい」

 オビス司令官は疲れた表情を見せながらも気を取り直そうと努力した。

 アイリーンと昴君くんは一時的に取調室となった休憩室を後にしてる。

 当然のようにカツ丼はアイリーンの手の内にあった。

「お腹が空いたよね?ねえ、昴くんも!」

 そう言ってアイリーンが強要したのには間違いない。

 誰も手を付けてないカツ丼を調理室へ持って行き、二人で分け合って食べる。

「お腹が空いたよねぇ、昴くん」

 アイリーンが冗談みたいに言って昴くんを肘で小突く。

「さっき食べたでしょう。おばあちゃんじゃないんだからしっかりしてよね」

 コクピットへ2人して入った後も冗談を言いあってもつれている。

「これからどうしようか、何かしなければいけない事があったように思うのだけど」

 昴くんはアイリーンと2人だけになったコクピットに居るのが落ち着かない。

「キスしようか」

 アイリーンが唐突に言う。

「な…な、な、なにを言い出すの、いきなり」

 昴くんは慌てふためき後退る。

「だってさ、さっきのあれ間接キスとか言われるし、本当にあれがキスだったのかどうか分からないでしょう、だからよ…本当のキスってものをしてみない、どうかなあ」

 これがちょっと前のアイリーンだったら有無を言わさず押し倒していたに違いない。

 だから称賛に値するほど成長したと言ってあげてもいいのだけど…。

「駄目だよ、キスってものはね、愛し合う恋人同士がムード溢れる雰囲気になった時に自然と引かれ合って行う行為であって『キスしようか』『そうだね』とか言いながらするものではないと僕は思うね。だから今キスをしてもそれは本当のキスとは言わないんじゃないかと思うよ」

(そうか、何かしなければいけないと思ってたこの気持ちは…もう一度キスをしたいと思ってたんだ!ヤバイ ヤバイ ヤバイ、落ち着け~、落ち着くんだ)

 昴くんは何とか理性を保った。

「愛鈴はさっきさカツ丼を半分だけ食べたじゃない、中途半端な量しか食べなかったのでもっと欲しがってるのじゃないかなぁ、何か簡単に食べられる料理を作って来ようか」

 昴くんは無理矢理な理由を押し付けてみた。

「やっぱりいいや、うちはそれほど欲しいわけでもないみたい、でも何か物足りないのよね」

「ずっと気になってたんだけどアイリーンってさ自分のことを何で『うち』って言ってるの」

 昴くんは何でもいいから集中できる別の話題を探す。

(今さら何を言い出すのよ、でもまあいいか)

「2才くらいだったかなあ、公園で一人で遊んでいると大人たちがいつも言ってくるのよね『家はどこなの』『家の人は』って、だからうちはいちいち聞かれるのが嫌になって先に自分から言うようになったんだよ『うちはあっち、うちはひとり』ってね、そのうち自分のこともしばらく『うちはひとり』って言ってたのを覚えてるわ、それにね…あっやっぱりいいわそう言うことよ」

(2才って…、どんな家庭環境だったんだろう、いつも1人で寂しかったんじゃないかなあ)

「そんな悲しい過去があったなんて知らなかったよ、これからは僕がずっと一緒に居てあげるからさ『うちはひとり』なんて言わずに『私』って言うようにしようよ」

「『私』ねそうね、イノマンも出て行った事だし、うちも16お嫁にも行ける年になったしそろそろいい機会かもね」

(ヤバかった!アイリーンが反応しなくて助かったよ『僕がずっと一緒に居てあげるから』なんてプロポーズみたいなことを言ってしまっちゃったよ。あー恥ずかしい)

「アイリーン……」

(あれ、僕は何でアイリーンって口走ったんだ?頭の中でも愛鈴じゃなくてアイリーンって呼んでたみたい…)

「昴くん?どうしたのよ顔つきが変よ、輪郭がぼやけてるよ」

 アイリーンがそう呼び掛けている内に昴くんがぐんぐんと大人の表情になっていく。

 体つきもふた回りほど大きくなって着ている服が小さくなったように見える。

「これって、光学擬態じゃない!お兄ちゃんがやってるところを見たことがあるのと同じよ、昴くんよね返事して!」

「ア、アイリーン……」

 昴くんが大人びた表情と声で口を開く。

(ダメ、昴くんの中でお兄ちゃんが覚醒してるの?昴くんが消えちゃうのは嫌よ!)

 アイリーンは昴くんに抱きついて激しく唇を吸う。

 昴くんは夢のようにまどろんだ領域で前世の魂、石井光一が出てきているのを知覚する。

 そして自分は消えて無くなるんだと自覚した。

 でも消えて無くなるにしても、色々な疑問を解消してこの世に未練を残したくないと思い、光一さんの魂にしがみつき抗う。

『スバル…くん、アイリーンは君を選んだんだね、少し残念だ…だから君に全てを託して私は…』

(愛鈴さんの叫び声が激しく聞こえてくる)

「昴くん!昴くん!戻ってきて!すーばーるーくん」

「あ、愛鈴……?あ、頭が……クラクラする」

「良かった。昴くんよね?」

「僕だけど、僕じゃないような気がするよ」

「石井光一さんって分かる?お兄ちゃんのことなんだけどさ、表に出てこようとしてたみたい」

「うん、意識の底で会ったと思う。後は任せたみたいなことを言ってたんだけど、愛鈴さんに呼ばれたんでその後を聞けなかったよ」

「そうなのね悪いことをしたのかしら、でも昴くんが昴くんのままで良かったよ。それでお兄ちゃん怒ってなかった?」

「怒ってはなかったと思うけど寂しそうな気持ちが伝わって来たよ」

「今度また少しでも光一さんの気配を感じたら教えてね。次は慌てずにゆっくりお話ししたいから…」

 アイリーンは昴くんに気付かれないように背中を向けて涙を拭った。

(お兄ちゃんごめんなさい、心が追いつかないよー)

「うん分かったけど今の様子ではしばらくは出て来ないと思うよ、次に気配を感じたら必ず知らせるから約束する…」

(光一さんはもう出て来ないんじゃないかな、最後の言葉を聞き逃したけど、でも愛鈴にはとても言えないよ)

「それで昴くんその姿って元に戻せそう?」

 昴くんの姿は石井光一の特殊能力である光学擬態によって大人びた姿になったままになっていた。

「僕には無理だよ」

(ごめん愛鈴、本当は出来そうな気がするんだけどそうなると光一さんが全ての能力を僕に譲って消えてしまったことまで言わないといけなくなりそう、だからこのままにしとくよ、それにせっかく君より年上になったんだ。見た目だけはだけどね、これからは僕がリードしていくよ)

「そうなのね仕方ないかあ、でもそっちの方もカッコ良くて好きよ、それでその姿は何歳なの?」

「愛鈴は何歳の僕が好きかい?」

 アイリーンと昴くんはコクピットの中で二人して顔を赤らめている。

 スターキッドAIの存在をすっかり忘れて。

 〈僕は嫉妬してもいいのかなあ〉

 スターキッドAIが二人の間でわざと大きな声を張り上げた。

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