ガルメニ人参上 3
アイリーン達は捕獲したガルメニ人を伴ってスターキッドへと戻っている。
あの狭い路地から繁華街のアーケードを通ってライフスターの外郭に駐機しているスターキッドへ戻ってくるまでの間ガルメニ人は大人しかった。
まるで本当の目的がここにあるかのように。
今は休憩室を外側からロックしてオビス司令官と九論が取り調べをしている。
ガルメニ人が暴れだして手が付けられなくなったらスターキッドAIが睡眠ガスを流しオビス司令官毎眠らせる手はずになってる。
「オビス司令官は何で基地の警察に引き渡さなかったんだろう」
昴くんは最初から疑問に思っていたことをアイリーンに聞いてみた。
その質問を横で聞いていた新月さんが答える。
「昴くんが思っている警察組織のことを基地では警備隊と言ってます。地球上での常識が基地では通じない事がたくさんありますのでその都度覚えるようにして下さい、それとさっきの質問についてですけどオビス司令官はこの基地が人類排斥派によって乗っ取られているのではないかと考えてるみたいです。末端の警備隊までとは思ってないようですが警備隊に引き渡しても上からの命令で彼らにとって都合が良い事しか表には出ない、彼らにとって都合が悪い事であるならば闇に葬り去られると考えたのでしょう。そういう理由て誰にも邪魔されないスターキッドの中で自ら尋問することにしたのです。だからガルメニ人が直ぐに歩くことが出来て助かりました。そうでないと…」
(新月さんの長い話が始まってしまったわ、それで昴くんはうちに聞いたのね)
アイリーンは新月さんの話しに割り込む。
「そうだよねガルメニ人に対して新月さんが放った素晴らしい宴会芸を披露した瞬間、うちは殺ったって確証を持ったんだけどね」
「違うよ愛鈴あれは隠し芸って言うんじゃないかなあ。スーっと動いてスパンと投げ飛ばす。目にも止まらない早業でかっこ良かったなあ」
「二人ともそういう時は『凄い特技をお持ちなんですね』って言うのですよ」
新月さんがあなた達わざと言ってるでしょうと言いたげな眼差しをしてる。
しかしアイリーンの目論見は成功した。
昴くんは小さくジェスチャーを交えながら言う。
「合気道って言うんですよね、静かに佇んで向かって来た相手を一瞬でのしてしまったのには驚きました。尊敬します、僕も教えて貰ったら出来るようになりますか」
アイリーンは新月さんを同情の眼差しで見つめた。
「あれは自己流の護身術なのですよ、固有の武術名は使わないし私は習ったこともないです」
新月さんは首を横に振る。
「新月さんが武道の達人だったりしたらね相手がどんな重犯罪者だろうと少しでも怪我をさせたらこっちの過剰防衛になってしまうんだって、理不尽だよねこっちも傷付いて『殺されそうになったから仕方なく』って言い訳してもなかなか信じてくれないんだって、だから武術名は出してはいけないのよ、けーさつに聞かれた時は宴会芸ですって言うのよ」
アイリーンは憮然とした表情で昴君に言う。
「だから護身術って言うんだね」
昴くんは納得出来ない思いで納得する。
「そうね昴くんが最後まで根をあげないと言うのなら教えてもいいですけど、途中で投げ出さないと約束できるなら教えます。中途半端に覚えてしまうのはとても危険なんですから」
「分かりました。全力で頑張りますから教えて下さい、ねえ愛鈴も一緒に習おうよー」
昴くんがアイリーンの袖を引く。
「そんな風に遊びを誘ってる子犬みたいに見つめてもうちは習い事をする気なんてさらさらないからね」
アイリーンは面倒と言わんばかりにサラリとかわす。
「あら、先生はアイリーンさんにこそ習ってもらいたいのですけど、別に技を覚えてもらわなくてもいいのです。アイリーンさんには心の在り方と精神力を高める修練をしてもらいたいのです。昴くんと一緒にぜひ参加して下さい」
「うげー、本当はうち体がめっちゃ弱くて運動とか控えないといけないんです」
(何が悲しくて昴くんと一緒にお稽古ごとを受けなくっちゃいけないのよ、昴くんも余計なことを言い出したものよね)
「あんまり見え透いた嘘をつくのは良くないですよ、苦し紛れの逃げ口上にしか聞こえませんからね」
「仕方ないわねうちも新月さんみたいにパッパッて動けるようになりたいかもね、もしかしたらテレポートも上手くいくようになるのかなあ」
「もちろんですよ」
珍しく新月さんが長いお話しを始めない。
(あれー、新月さんがやけにあっさりした返事だけだなあ)
「新月さんお腹でも痛いんじゃないの大丈夫?」
「アイリーンさんが心配してくれるなんて思わなかったです。意外と優しかったのですね」
「『意外と』は余計なんじゃないかなあうちの気遣いが空振りに終わっちゃったじゃない、でも何かあるんでしょ。うちがキャプテンなんだからね」
アイリーンが少し大きくなった胸を張って見せた。
「そうねキャプテンだったですね…あのガルメニ人を2人が尋問してるでしょう、スターキッドのキャプテンとして最初だけでも立会った方が良くないでしょうかと言いたかったのです。でも危険が伴いますから躊躇していました、だからと言って全員で並ぶのも何か愚かしい行為だとは思わないですか」
〈ここは僕が見てるから大丈夫ですよ、あのガルメニ人は今まで一言も喋ってませんね、キャプテンがカツ丼でも差し入れしたらペラペラと喋り出すかも知れませんよ〉
(Aちゃんってどこで取調室にはカツ丼って覚えたのかしら)
「わかったわAちゃんもそう言うのなら皆で挨拶しに行きましょうね」
「僕も行くの?」
昴くんはガルメニ人の姿が苦手らしい。
「当たり前だの…よ!さあ行くって決まったんだからぐずぐずしないでさっさと行くわよ、男の子でしょ怖がったりしたらダメよ」
アイリーンは昴くんの手を取ってコクピットを出る。
その後を新月さんが微笑みながら付いて行く。
休憩室の鍵を外側から開けて、さっさと入る。
「九論差し入れ持って来たわよ。あっごめんなさいオビス司令官も居たんだった。いつもの調子で入ってしまったわ」
「気を付けなさい。そう言う所が注意力散漫なんですよ。ここには凶悪犯の容疑者も居るでしょう」
新月さんが半分本気で怒ってきた。
「分かったわ今度から気を付ける。もうこんな事は二度と起きないでしょうけど」
アイリーンが新月さんに詫びながら持ってきたカツ丼を昴くんに渡す。
「こいつ何も喋らないらしいじゃないの、定番のカツ丼を目の前に差し出したら涙を流して自白するんじゃないかってAちゃんが言ってたわ」
「こいつの前にカツ丼を置きなさいよ」
アイリーンが昴くんにだけ聞こえるくらいの小声で言う。
(えっ!僕に押し付けるのさっき僕に『怖がったりしたらダメよ』って言ってたじゃん)
昴くんが目で訴え返す。
「昴くんはうちを守るナイトになってくれるんじゃなかったの?」
「愛鈴さんはこういう時ばかり卑怯な手を使うんだね。よく覚えておくよ」
昴くんは観念してテーブルにカツ丼を置こうとする。
(このガルメニ人は甲冑を脱いだままになってるけど…外甲殻人種って、これはいわゆる裸の状態なんだよな黒光りしてる硬質の外皮って見ようによっては…いやいや考えないようにしよう、それに顔はどう見ても恐ろしい以外の感じはしないし、たしか人喰いのガルメニって異名を持っていたんじゃなかったかなあ。今は大人しくしてるけど、ちょっと油断するとあの口がガバッと開いて僕のことを頭から噛るんだ)
先に座っていたオビス司令官が体を避けてくれたのでテーブルに置いたカツ丼をガルメニ人の方へ押しやった。
昴くんが一人恐怖の妄想をしているとガルメニ人が丼を押し戻してくる。
(あれ?カツ丼は食べられないのかな)
昴くんがどうしたものかと丼に手を伸ばした時、首筋からスーちゃんが姿を現してあろうことかガルメニ人に手を振った。
手招きしてる様にも見える。
それを見た時、その場の全員がスライムの理解不能の行動に驚き一瞬だけ反応速度に遅れが生じた。
ガルメニ人がそれを予知出来たのかは分からないが丼へ伸びてきた昴くんの手を掴み自分の方へ引き寄せ大きく開いた口……の中から髪の毛が薄水色で耳のとがったった妖精としか思えない小人が出てきてあろうことか昴くんの口に吸い付く。
一瞬後アイリーンが先に反応する。
「昴くんから離れなさい!この変態の…ガルメニ人…よね」
アイリーンの気勢が挫けた。
ガルメニ人の口から出てきた妖精?と目があった瞬間、体内の全ての怒気が抜かれ優しい気持ちが溢れてくる。
(精神支配!)
そう思ってもどう対処したら良いのか分からない。
とりあえず目を閉じた。
「えっ!」
唇を吸われる感触に失態を犯した事に気付き目を開け抵抗しようとするけど力が入らない。
(これはヤバイ状況よね、新月さんに怒られるのを恐れる前に助けてもらわないといけないわ)
新月さんに助けを求めようと手を伸ばした時、唇が解放される。




