ガルメニ人参上 2
4人は自分の前で皿に載せられて置かれた一切れのピザを眺めながら、思い思いの表情を隠しきれてない。
(何でだ?注文してない食べたいとも思わないピザを食べなくてはいけない理由は)
九論なんかは露骨に顔に出している。
しかしそんなことは露程にも思わずアイリーンは次の事を目論んでいた。
(確かオビス司令官は焼肉定食を新月さんはお寿司を九論はうちが知らない名前だったから何が出てくるのか期待が高まるわね、昴くんはお子様ランチ…じゃなくてカツカレーだったわ、これで焼き肉、お寿司、トンカツ、そして未知の料理が戴けるのよね、想像するだけでお腹が一杯になってきちゃったよ、うっぷ、違うこのピザ1切れ食べただけで結構な量があるのよ、あと7切れもは絶対無理なのよね)
「すみませーん、ウエイトレスさんお持ち帰り用の使い捨てタッパを貰えますか」
アイリーンは通りすがりのウエイトレスに呼び掛けた。
『タッパを貰えますか?』と問い掛けではなくて、どちらかと言えば『タッパを貰えますか!』と命令形になっているのがアイリーンらしい。
「すみませんお客様、当店ではテーブルに出された料理のお持ち帰りは出来ないようになっていますので、ご容赦願えますか」
ウサギ耳を持つウエイトレスは申し訳なさそうな仕草をする。
「タッパを五つ持ってきて貰えますか」
アイリーンは再度言い直した。
『私は負けない!』と言った面構えをしてる。
(そうよ、最初から『持ち帰るため』だとか言わなければ良かったんだわ)
「承知いたしました」
気弱そうなウエイトレスは深々とお辞儀をして戻っていく。
(これで食べ残しの問題は解決されたわ)
1人でふんぞり返ってどや顔をしていると、昴くんに話し掛けられた。
「あんまり困らせる様なことを言わない方がいいんじゃないかなぁ、可哀想だし地球人の印象が悪くなるかも知れないよ」
「うちはオビス司令官の連れだからアイン星人の振りをしてたのよ気付かなかった?それに後はお勘定して出て行くだけだし何も問題はない筈よ。あとここのウエイトレスだったらあの位の事でいちいち目くじらを立てたりしないわよ」
「昴くんの道理が引っ込みましたね。前々から思ってたのですけど、アイリーンさんは常識的な考え方より非常識な考えをする傾向が強いですから、無理を押し通すような真似は少しずつ直さないといけませんね」
新月さんさんが優しい先生らしく穏やかな口調で辛辣な内容を伝えてきた。
(うちが非常識だって、とんでもないんじゃないの皆がうちのことを子供だと思ってなめてかかってくるから強く言ってるだけじゃない)
口に出して言わなかったのは、横から昴くんに頬っぺたをつままれていたから。
「愛鈴、ほっぺたが膨らんでるよ」
昴くんは半分微笑みながらもう半分は警鐘を促すように言う。
「ヴぅ~」
アイリーンは口に出せる言葉を口にした。
程なくして皆の注文した料理とタッパーが届き、アイリーンは料理を詰め込むことに他の皆は食べることに専念する。
食事が落ち着いた頃にアイリーンが口を開く。
「オビス司令官さまごめんなさい。コスモトンネル壊しちゃった。すみませんでした」
(愛鈴って、自分の立場が悪いときはこんなにもしおらしいくなるんだ、少し可愛いかも…)
昴くんの表情を読み取った九論がこそっと言ってきた。
「日和見主義って言葉を知ってるか」
昴くんは少しほほを赤らめている。
「そんなことを言っちゃ悪いですよ」
更に小声で返す。
「アイリーンさんはTPOを考えて逆手に取っているんだと思います。相手が誰であろうと立場が悪かろうと言いたいことは言ってるでしょう」
新月さんが助け船を出してくれてる様に見えてとんでもないことを言う。
「そこでごちゃごちゃ言わないのよ、全部聞こえてるんだから恥ずかしいじゃない。うちの成長した証を見せて褒めてもらうんだから邪魔しないでよね」
(愛鈴のそれも聞こえてるんじゃないかなあ)
昴くんの心配をよそにオビス司令官が微笑みながら話し出す。
「君がちゃんと成長した姿を見れて安心したよ、コスモトンネルの事なら心配しなくてもいいです。あれは自然現象で発生しているので連盟の資産ではないし時間がたてば自己再生しますから、それにいきなり消滅する時もありますからね」
アイリーンは怒られずに済んで良かったと思うより、弁償とか言われなくて本当に良かったと思った。
(皆の料理も詰め込んでトンネルの事もお咎めなしで良かったわ~、それにしても九論が頼んでた料理がフカヒレスープだけだったとは誤算だったわね、お持ち帰り出来なかったじゃないの)
「しまった!九論のスープを見て思い出したのだけど食後の飲み物を注文してなかったわ、今からでも追加注文していいかしら」
アイリーンが重大事のように言う。
「私が知っている落ち着いた店に場所を変えたいのだがいいだろうか、少しくらいなら歩いても構わないだろう」
オビス司令官が誘ってきた。
「確かに、ここは少し騒々しいかしら」
アイリーンが賛成する。
「僕はこの通りを歩いてみたいです」
昴くんはここと、ルナ・ターミナルの繁華街を見比べてみたいと思った。
(ここから外を眺めていても人間タイプでない人が多く歩いている。お店のディスプレイも見てるだけで想像力を掻き立てられて異世界に召喚された主人公になったみたい。どれもこれも興奮してしまいそうなものばかりで面白いな)
昴くんは口に出すとアイリーンからオタク扱いされるんじゃないかと思いびびってる。
「久し振りなので私も歩いてみたいです」
新月さんも同意した。
「九論は反対しないと思うわ。だから決まりね皆で次のお店に行きましょう」
アイリーンが食事の様子を見せるためにテーブルの片隅に置いていたスターキッドAIの通信機を胸元に押し込んでいる時に喋りだす。
「できるだけ早く帰ってきて下さいよー」
「分かってるわよ暗くなる前には帰るから心配しなくていいわ」
(言ってしまってから思い出したんだけど、ここって暗くならなかったのよね、まあいいか)
今は最初に着ていた宇宙服ではなく連盟の制服になっているセーラー服に着替えていた。
昴くんがオビス司令官執務室で最初にその姿を見た時『愛鈴さん何でコスプレしてるの?』と聞いて小突かれていた。
「これから繁華街を歩こっうって時にうちだけ宇宙服を着ていたら見栄を張れないじゃない」
今5人と1台は繁華街の外れに向かって歩いていた。
結構な距離を歩いているのだけど見るものが全て目新しく誰も文句を言わない。
アイリーンは昴くんと他愛ない会話をして気を紛らわせている。
そうでもしないと、お店のウインドウに吸い寄せられる感じがして抗えないから。
アイリーンが幾つ目かの話題を昴くんに話す。
「最初はね、こいつのことAIロボットでいいと思ってたんだよ、でも良く考えると自分で歩かないじゃないロボット以下よだからAIデバイスって言うわね、デバちゃんにしようかしら」
「……」
昴くんはスターキッドAIに同情を禁じ得ない。
「……」
スターキッドAIも諦めている様子。
「ここって鎧兜を着て歩いてる人も居るんだね、ルナ・ターミナルじゃないからなのかなあ素顔を出せない人って…指名手配の犯罪者だったりしたら怖いよね」
昴くんはぼーっと歩いている様子でいて目ざとかった。
その人物は食堂を出てからずっと斜め後ろ通路の真ん中を大手を振って歩いている。
「本当ですね言われるまで気付きませんでしたわ、隠密スキルを使用してるのでしょうか、それともあの鎧に隠密機能が備わっているのか、どちらにしても普通じゃないですわね」
新月さんが疑いの眼差しで見始めた。
「もしかしてうち達、尾行されてたりして」
アイリーンの瞳が瞬時に輝きを増す。
「確認しますか」
オビス司令官が乾いた声で言う。
「危なくないでしょうか」
新月さんが少し震える声で応じた。
「新月先生…さん、やっばり怖いよね」
昴くんはまだ『新月先生』と言ってしまう。
「昴くん『新月先生』と呼んでもいいんじゃない、うち達の前ではいつだって先生みたいなことを言ってるよね」
「呼び方はどちらでも構いませんけど、当分はあなた方の先生でいるつもりですよ、それに怖くなんかありませんわよ」
「そうだろう、昔と変わってないなら武者震いの一つくらいしても可笑しくないよ」
「「武者震い?!」」
アイリーンと昴くんは同時に同じ言葉を発して水縄スカイラインを快走してた時を思い出した。
オビス司令官は皆と細い路地へ入り込む。
当然、鎧兜の人も自分は気付かれてないと思い込んでいるので用心もせず付いて来た。
オビス司令官がゆっくりと立ち止まる。
後ろに付いていたアイリーンと昴くんと九論はそのままオビス司令官の横を通り越してから立ち止まりオビス司令官と一緒になって振り向く。
その時既に新月さんは忍者の様な身のこなしで鎧兜の横をすり抜け退路を断っている。
後でアイリーンが『新月さんがテレポートしたんじゃないかと思ってしまったよ』と言った程の素早さだった。
そして事前の打ち合わせもなくそれを行った自分達の行動について、しばらくの間何かにつけて自慢している。
「・・・」
鎧兜は自分が罠にはめられた事にその時になって初めて気付く。
前に4人、後ろに女が一人。
鎧兜は少しも躊躇わず新月さんへ突進した。
「・・・」
次の瞬間、鎧兜の中身が声も上げずに地面へ叩き付けられ、その周囲に身に付けていた鎧と兜がバラバラと音を立てて落ちてゆく。
その素顔を見た5人は一瞬で青ざめる。
鎧兜の下に鎧兜を着用していた。
ではなくて、外甲殻人種だったから。
アイリーンと昴くんは初めて見るその異様な姿にポカンとしている。
「ガルメニ人か?」
オビス司令官が皆に教えてくれた。
「・・・」
ガルメニ人は何も言わない。
~ 後日談 ~
「昴くんにうちの制服着せてあげるよ……」
「ウフフ、結構似合ってるじゃない」




