それぞれの未来へ 2
(うぉっと、Aちゃん端末にいきなり耳元で話し掛けられるとちょっとびっくりだわね)
アイリーンはロボットAIに話し掛けた。
「何で分かるのよ」
「ほら、グラウンドで1度見てるじゃないですか、その時のデーターを元にスキャニングして見つけました。昴くんの両親と翔さんそれと氷室宣子さんとご両親が一緒にいますよ」
「ここからじゃ見えないから案内してよ、それと翔くんと宣子さんって船長と副船長じゃなかったのかしら、今忙しいはずなのに何でこんな所にいるの」
アイリーンは不思議に思ってる。
「艦橋の方は主任の福田さんが指令していて問題ないみたいですね」
「そうよね、いきなり船長やれって言われて出来るもんでもないしね、2人には悪いけどカリスマ的存在かしら」
「支部で人事担当していた福田のり子さんが艦橋主任なのです。全員の性格を把握してますからいい人事だと思いますよ、翔くんと宣子さんはキャプテンが仰る通りの抜擢だと思います。実務は殆んどしないでしょう」
昴くんはアイリーンと新月さんの意見に安心して胸を撫で下ろす。
「あっ宣子さんが居たよ、みんな一緒にいるみたい良かったわね」
アイリーンに声を掛けられて背中を叩かれた昴くんは広い部屋のほぼ中央辺りで集団の中に居る両親の元へ走り出していた。
父親らしい人がこっちに気づいて手を振り出す。
歩いて近付いていた皆は距離も近いことだし立ち止まってお辞儀で挨拶をした。
アイリーンが昴くんの後ろ姿を目で追っていると宣子さんの後ろにタヌキの置物が置いてあるのに気付く。
(何でタヌキの置物がこんな所にあるのかしら? もしかしてここが部屋の中央だって目印か何かだったりして)
違和感を覚え気になって穴が空く程見つめていると、いきなりこっちへ歩き出したので飛び上がって驚き新月さんにしがみついた。
「フフフ初めてでしたね、あれはこの船の自律思考型の管理ロボットなのです。サティワンと呼んであげると喜びますよ」
「名前を呼ぶと喜ぶ様にプログラムされているロボットなんですか、人造タヌキとか改造タヌキとかじゃないよね」
(何で人型でなくてタヌキなんだろう)
アイリーンは単純にそう思う。
「そうですね水縄の移民船が建造される時に一緒に造られた維持管理用ロボットなのですよ、船外活動が必要な時のために不自然でない姿にしてますけどまあ色々な考え方がありますね。それで寿命が長くて150年くらいですので現在31代目、自分の代で日の目を見れたのですから過去の朽ちていった仲間に敬意を払って31番目というのを名前にしたらしいのです」
新月さんが最初から知っていた情報とついさっき知った情報を合わせてアイリーンに伝えた。
「喜ぶってことは他の感情表現もあるってことなのかなぁ、とても優れたロボットなんだろうね」
「過去4500年分のバックデーターを受け継いでいますから下手すれば人間よりも感情豊かかも知れないですよ」
そうこうしているうちにロボットタヌキか目の前までやって来て立ち止まる。
「こんにちは、初めましてキャプテン・アイリーン様。新月様にはお久し振りですと挨拶致します。前回お会いしたのは15年前新月さんが成人式の時ぶりでしょうか、ご健勝そうで何よりでございます」
「相変わらず嫌みなタヌキで懐かしいですね、それに元気そうで良かったです。そうなのですねおかしいと思いました。あなたが翔くんと宣子さんを船長と副船長に任命したのですね、一緒に遊ぼうって思ってるのでしょう」
「嫌だなぁ、オモチャにしようなんてこれっぽっちも思ってませんって」
((思ってたんだわ!!))
アイリーンと昴くんは翔と宣子さんのことが心配になる。
「凄いね、とてもロボットだとは思えないわ、でもタヌキなのね」
アイリーンが感嘆の言葉を掛けた。
「ガゼルにもなれますよ、見てみますか」
「見たくないわよ、でもそれって無駄な機能じゃないかしら」
マッスルポーズを決めようとしていたサティワンは途中で挫かれて、そのままがっかりのポーズになる。
「荷物運びなんかにはかなり便利なんですけどね、宣子さんと翔さんを移民船へ案内した時はガゼルに変身して乗せてあげたんですよ、褒めてくれますか」
サティワンが自信満々の表情をしてみせる。
(この感じ何だか懐かしいわ、そうよバイオキッドを思い出すの…)
「アイリーンさん!何を泣いているのですか、涙が出てますよ、ボクが何か気に障ることを言ったのなら謝りますので泣き止んで下さい。新月さんボクは何も悪いことをしてませんよね」
(ここ最近、楽しいことや悲しいことがジェットコースターみたいに起伏に富んで起こっているから感情がおかしくなったのかも知れないわね)
「ごめんなさい、少し前まで兄妹みたいに一緒に過ごしてたバイオロイドのことを思い出したの、ありがとうって言っておくわね」
(いや~参ったな、ちょっと懐かしんだだけなのに、涙腺がかなり緩くなってきているのかしら気をつけないといけないわね)
「そうですかお気持ち察します。バイオロイドは短期間で、まあスペックにもよりますが半年くらいで完成して直ぐに人の中に溶け込んで普通の生活が送れる利点があるのですが寿命が短いのが嫌になりますよね」
サテイワンは慰めるつもりで話をしたのだけど逆効果になったみたいで、アイリーンから滴り落ちる涙の量が増えていく。
「うちは寿命が短いって知らなかったの、だから思い出すたびに後悔するのよ」
新月さんがアイリーンを抱き寄せる。
「寿命ってものはねいつ尽きるか誰にも分からないものなのですよ、健康診断であと50年は生きられますよって言われた次の日に事故で亡くなった支部員が居ました。そんなものなのですから後悔なんかしなくていいと思いますよ」
(そんなものなのかなぁ、そうよね誰にとっても事故で死ぬ時は突然なのよね、少し気が軽くなったかも、ありがとね新月さん)
「ところでアイリーンさんその肩に乗せている人形はロボットですか」
サティワンは彼女が普通の人形を身に付けて遊ぶ人ではないだろうと判断して質問した。
「これは僕のライブユニットカメラですよ、あっ僕はスターキッドAIです。知ってますよね」
「初めましてボクはサティワンです。スターキッドAIさんにはニックネームは無いのですか」
「Aちゃんよ」
アイリーンがすかさず口を出す。
「違いますです」
スターキッドAIが慌てて訂正する。
「分かりましたAさんと呼ばせてもらいます」
「そんな容疑者みたいな呼ばれ方はイヤです」
サティワンはスターキッドAIの訴えを無視して話を続けた。
前方から再会を喜んでいる昴くんたちの声が周囲の雑音に混じって途切れ途切れに聞こえてくる。
それによると宣子さんと昴くんの両親は50年後の地球に降りて原始生活を送るのを選択していたのだが、子供たちの説得を受け入れて新造される惑星に移り住む事に変更した。
そこへアイリーンたちも合流して挨拶を交わし、ハンドマイクを持った担当者にそれぞれの両親4人の行き先変更を告げる。
残念ながらここには新月さんの知合いはいなかったけど、成富支部長秘書の身分証を持っていたのでかなりの便宜を図ってもらうことができた。
「僕と宣ちゃんはこの船で生活を始めるけど父さんたちとは何時でも連絡取れるようにしとくから安心して」
翔が親たちを心配させまいと軽い口調で言う。
昴くんも別れを惜しんでいる。
「僕も一緒には居ないけれどいつも近くにいるよ、ビデオメッセージも溜めておくからね」
(まあ、同じ太陽系内に居るわけだから近くって言ってもいいよな)
「私たちは乗り換えた船で人工惑星が出来るまで長い間コールドスリープされるみたいなんだ、だからもう会えないんじゃないか」
宣子さんの父親が一番不安に思っていることを口にする。
「豊福さん達は50年のコールドスリープに入りますけど時間の概念はありません。例えるならカプセルベッドに入って目を閉じて次に目を開けた時には50年後にいるのです。夢も見ませんから本当に一瞬です。その時昴くんたちは単純計算で65才になってますが色々な時間のズレが発生してるでしょうからそんなには年を取ってないはずです。それに毎日は無理だとしてもたくさんのビデオレターを撮りますから成長の過程はご覧いただけると思います」
新月さんが分かりやすく説明して納得してもらう。
「分かりました、子供たちをこれから宜しく頼みます。でもこうして触れられるのはこれが最後かと思うといつまでも離れたくないと思ってしまいますね」
それぞれが、それぞれと抱き合っていつまでも別れを惜しんでいる。
新造惑星移住組の集団が移動を始めたので豊福家の両親と氷室家の両親は何回もこちらを振り返りながら歩いて行ったが、別の移住組が動き出したので見えなくなってしまう。
水縄の移民船を訪れていたスターキッドの面々も自分たちの未来に向けて歩き出そうとしていた。




