それぞれの未来へ 1
震撼する地球の世界各地に点在していた移民船で無事に飛び立てたのは全部で9隻だけだった。
それぞれの国で避難民を乗せ上空1500kmの衛星軌道上で移民船同士が次々とドッキングしていく。
この先4つの行き先毎に割り当てられた移民船に避難民が乗り移ったら目的地へ向けて出航する予定になっている。
アイリーンたちの乗るスターキッドも移民船水縄にドッキングするための態勢を整えていた。
〈僕はまたしばらくおいてけぽりですね、シクシクシク〉
スターキッドAIは移民船水縄とドッキングすることが決まった時から似たようなことをブツブツ言っている。
「うっとうしい奴め、ほら、これを作ってやったから同期を取ってみろ」
九論が胸元から人形を取り出し3Dスキャナーの上に置く。
それは1500mlペットボトルのキャップ部分に丸いレンズの頭をくっ付けて本体に長い手足を取り付けただけのシンプルな人形に見えた。
「だっこちゃん人形?」
アイリーンが60年程前に日本で流行った体に抱きつくビニール製人形のことを知っていた訳ではない。
九論がそんな物を作っていたなんて誰も知らなかったので皆の注目を集める。
「それ九論がAちゃんのために作ったの?結構可愛い人形さんね、うちも欲しいかも」
アイリーンが物欲しそうに見つめている。
「ただの人形ではない。一応通信ロボットのつもりで作った。私としては良く出来たつもりだ、外へ出て行くたびにAIから愚痴をこぼされ帰ってくるとしつこく質問される。それから解放される方法はないものかと思って作ってみた。スターキッドAI専用の通信機の試作品だ。あと、イノマンの研究になるのだがAIに思念波が飛ばせるかという実験も兼ねてるな」
「ふ~んそうなのね、良く分からないけど、でも可愛い人形かも、うちはお人形さんって持ったことがなかったからいいなぁー」
(我慢するのよ、ここで思念波通信機って何なのよって聞いたが最後九論の長いうんちくがまた始まってしまうわ)
「ではアイリーンが肌身離さず持っているといい、小型化と省エネと製作時間短縮を優先させたので自分で歩くことは出来ないのでな、その人形の手足をうまく使えば大抵の所にホールド出来るはずだ」
「それってうちが貰っていいって事だよね。ありがとう九論、大切にするよ」
〈僕からもお礼を言うよ、ありがとう凄く嬉しい。動力は光子電池だね、ここまで集めて圧縮するのは大変だったんじゃない、だいぶ前から集めていたんだよね知らなかったよ〉
アイリーンは興味津々てな感じで聞いていた。
「九ちゃんも水くさいな、動力源をチマチマ集めてたなんて、教えてくれたら隕石1個吹っ飛ばすとか太陽に突っ込むとかしてあげたのにね」
(太陽なんかに突っ込まれたらたまったもんじゃない、アイリーンに知られなくて良かったよ)
スターキッドAIは心の中で心底思う。
「ねえ愛鈴さん、あっやっぱりキャプテンって呼んだほうがいいのか、いいのでしょうか」
昴くんが改めて呼び名にこだわってきた。
「何言っているのよ今さら、うちのことは愛鈴って呼び捨てでいいわよ、さん付けはしないで」
「皆と同じようにアイリーンて呼ばれたいのかなとも思ったんだけど」
(昴くんが愛鈴って呼んでくれるおかげで、うちは故郷のことを忘れずにいられるのよ)
「昴くんは今まで通りでいいわよ、それより何か言い掛けたよね、何よ?」
「さっき光子電池って言ってたでしょう、あれってバッテリーみたいな物なのかなぁって気になって、それにスターキッドも給油とか充電とかしてないよね、エネルギー源は何かなって思ってね良かったら教えて欲しいな。後からでもいいけど聞き損なわないために先に言っておこうって思ったんだ、今までも沢山の事を聞き損なっているからさ」
アイリーンは九論をチラッと見て仕方がないかと思う。
「そういう事なら私から説明しよう」
九論が話し始めたが何かめんどくさそうな仕草をしてアイリーンを恨めしそうに見た。
「光子電池とは・・・の理論に基づき光エネルギーを結晶化させ(九論の長いうんちくがはじまったわね、昴くんが聞きたがってたんだからうちはリタイアしても良いわよね、おやすみなさい…)最低100年は稼働する。その頃になればロボット本体の寿命が尽きるからな。・・・この宇宙で使用されているエネルギー源の殆どは恒星の一部をブラックホールの原理を応用して・・・、まあ、そんなところだ」
「じゃあさ、スターキッドの機関室には閉じ込められた人工太陽があると思っていいんですよね」
「スターキッドは特別で恒星だけでなくフィルタリングした宇宙ゴミも原料としている」
九論がニヒルな笑みを浮かべながら言う。
〈厳選されたスペースデプリを光圧縮転換炉で臨界させ、更に10年かけて精錬させたものでボクの心臓部を製造したって記録されています。そこら辺のゴミと同じ扱いにしないでくださいよ〉
スターキッドAIが訂正を求めるように抵抗してきた。
「簡単には手に入らない特別な材料を使って作られたエネルギーが動力源ってことだよね、寿命も恒星と同じ程に長いんでしょう」
昴くんはさっきから瞳を輝かせている。
「宇宙空間を飛行中に原料となるデプリを回収して補充してるから半永久的と言ってもいいかも知れんな」
「凄いね、でもこんなのは地球上では実現出来ないね」
(そうだよね星のカケラなんてそんな地上には無いものね)
昴くんはスペースデブリのことを星くずと勘違いしていた。
九論やスターキッドAIが指している物は宇宙で破壊された人工衛星や宇宙船のことなのだから。
「フフフ、まだ昴くんは典型的な地球人の考え方をしているな、もう少し私たちと一緒に過ごせば理解もできるようになるだろうよ」
「ご歓談中すみません、そろそろドッキングしますので定位置に着いてもらえますか」
新月さんが話に割り込んできた。
「翔兄さんと宣子さんは艦橋には居ないんだよね、最初に会いたかったなぁ」
「会えるかも知れないですよ、今回は居住区の昇降口へドッキングしますから最初に入るのは居住区になりますね」
「えっ、そこって艦橋からかなり遠かったじゃない、何でなの」
(ドッキングの場所って艦橋付近だったはずよね)
アイリーンは不思議に思ってる。
「艦橋に近い方の接続口は移民船同士の連結で使用するそうです。そうでなくても初見さんはできるだけ心臓部から遠い位置に置くのが安全対策上必要でしょうね」
新月さんは少しでもチャンスがあると教師じみた喋りになる。
「それじゃあ昴くんは家族に、新月さんは支部の仲間たちに会うために行ってくるといい。アイリーンにお留守番と言ったら暴れだしそうだからな。私とピエロが留守番しておくよ、カメラを忘れないように持っていくんだぞ」
(九論が珍しく上機嫌?…鬼の居ぬ間に洗濯かしら?)
「2人ともあまり飲み過ぎないようにね、それとこの子にも愛称が必要よね、モニターカメラなんだから亀ちゃんって呼んでいいかしら」
アイリーンは左肩に乗せたロボットAIの頭を撫でながら言った。
〈アイリーンやめて、本当にボクのキャプテンになる人はネーミングセンス皆無なんだから、このロボットはボクのリモートカメラなんだから、僕と同じに呼んで下さいよ〉
「じゃあ、Aちゃんって呼ぶわよ」
〈本当はその呼び方も嫌なのですけどね、それ以上に酷い呼び方をされないために我慢しますよ〉
「何よそれってすごく失礼な言い方よ、うちは可愛いと思ってるんだから」
〈ハイハイ、分かってますよ〉
スターキッドAIはこれ以上言ってもこじらせるだけだと思って黙り込んだ。
「それでは行って参ります。お留守番宜しくね」
アイリーンと昴くんはルナ・ターミナルで仕入れたお揃いで色違いのSサイズのツナギを着ているのだが、手足を折りたたんで着てもまだダブダブしている。
この辺りで子供服を購入できるところはアイリーンがライフスターと呼んだ100万人が生活する人工惑星にしかない。
正式名称が東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地と長過ぎるためアイリーンがニックネームを付けたのだった。
後ろを見ると新月さんもルナターミナルで一緒に購入した品のいいリクルートスーツを着ていてかっこいい。
だけど何か後ろ髪を引かれている様に思う。
(もしかしたら新月さんは、お留守番してあの2人と飲みたかったのかな?)
「新月さんがうち達の保護者だと間違われないといいのだけど」
「かえってそっちの方が説明の手間が省けて宜しくないかしら」
「僕の両親に会った時に面倒にならないかなあ」
「その時に改めて先生ですって挨拶すればいいんじゃない」
「そんなもんかなあ」
3人がペチャクチャお喋りしながら何枚かの区画シャッターをくぐり抜けた時、居住区の巨大スペースが目の前に開けた。
「うわーっ、一体全体どうなって何人居るのだろう」
昴くんが感嘆の声を漏らす。
「この中から探すの大変だね」
「あそこに居ますよ」




