4つの選択肢 2
「ピエロさんが言う通り一枚岩ではありません。連盟の目的は『地球人類の文明を産業革命以前の状態まで戻して豊かな自然を取り戻し地球観光を再開させる』だったのです。地球人が大好きな人がいれば大嫌いな人もいました。そして無関心な人たちが一番多かったのです。今回は排斥派の宇宙人が地上で活動するハントザETという組織を取り上げ宇宙人に対する虐殺行為だ、それに間もなく地球人による宇宙侵略が始まるだろうと大袈裟に宣伝して無関心な人たちの意識操作を行ったのでしょう。排斥派が過半数以上になったので地球人類皆殺し計画が採決されたのです。ただドライアイスメテオ作戦で生き残った人については、文明を持たず原始生活するのであれば見逃すことになったのです。それと宇宙へ出た避難民は宇宙人になるのだから私たちの仲間扱いだそうです。それであの中東から飛び立った3隻の移民船は、今から約5000年前に宇宙から地球へ移民してきた宇宙人の船なのです。今も伝説として残っているのがトルコにおけるノアの方舟伝説ですね。クレタ島には10万の宇宙人が降り立ち、その人たちはギリシャ神話の神々として語り継がれています。イラクの天に向かってそびえるバベルの塔伝説は本来の天から降りて来たという表現が逆になったのでしょう。残りの6隻は後から建造されてその場で隠されたのですけど、やはり逸話になっています。サハラ砂漠のピラミッド、ドナウ川の人魚姫、メキシコマヤの創世神話、黄河の洪水伝説、水縄山地の牛鬼伝説があります。ゴビ砂漠は移民船が着地に失敗して砂漠化させてしまったと記録されていますね。遊牧民が被害にあったので移動式テントを持ってお詫びしたみたいです。そのテントは今も『ゲル』と呼ばれて使用されてるそうですよ。今回はその移民船で地球を離れ新天地を探すのです。連盟で幾つかの案を用意していて。自然の星に移住するなら文明を持たない事が条件になります。後は巨大移民船での生活か人工惑星での生活になります。連盟の地球防衛基地があるアステロイドベルトに地球人用の人工惑星建造計画があるのは知らないでしょう。今から地球を脱出した9隻の移民船に乗っている人たちの希望を聞いて行き先毎に再編成を行いそれで…」
アイリーンが新月さんの目の前で白旗(白いハンカチーフ)を振って降参してる。
「新月さん話が長いよ中学校の1時間授業じゃないんだからね、行動が先だと思うのよ、宣子さんと翔くんが乗ってる移民船水縄に行きたいんだけどスターキッドも入れるよね」
「移民船は母船ではないので外部着艦になります。あちらの支部員さんと連絡は取れてますので直ぐにでも行けます。翔くんと宣子さんにはサプライズになりますね」
新月さんは会話しながら移民船の支部員と連絡していたらしい。
「なんだか新月さんがAちゃんに似てきたように思うのだけど、気のせいよね」
アイリーンはこれからがまた大変なことになるんじゃないかなという予感がする。
スターキッドは暗い宇宙に点々と漂っている様に見える移民船団に向かって舵を切った。
移民船水縄の中では翔と宣子さんが艦橋の扉を開けた所で、通路の代わりに現れた果てなく広がる宇宙空間を目の前にして立ち尽くしている。
「大丈夫ですよ。これは艦橋防護システムの1つです。少し歩くと普通の廊下が見えてきます。権限が付与されていない人が無理して踏み出すと外に弾き飛ばされますけどね」
サティワンは恐ろしいことを簡単に言った。
翔は宣子さんと繋いだ手と反対側の手を伸ばしてタヌキ姿をしたサティワンの手を掴む。
「翔さんどうかしましたか」
「別に何も、さあ、このまま先に行って下さい付いて行くから」
翔が目を瞑って手を引かれるままに先へ進むに反して、宣子さんは目を開けたまま一糸纏わない姿で宇宙空間を歩いている自分の姿をを夢想している。
「翔ちゃん折角の宇宙空間にいるんだから、しっかり見とかないと勿体無いわよ」
「宣ちゃん僕が高所恐怖症なの知ってるでしょう」
「ここも駄目なの?」
翔の高所恐怖症は地面が遠くに見えると怖いらしい。
(小さい頃ジャングルジムから落ちたのが原因だったわね、深い海とか高い山の頂上は大丈夫だけど2階の窓辺はダメだったしね、ここは地面が見えてないから大丈夫の筈なんだけどね)
「もう普通の廊下になってるから目を開けても大丈夫よ」
「ありがとう、初めての宇宙は足がすくんで目眩がしたよ、でも恐怖心はそんなに感じなかったから慣れたらいけるかも知れない」
翔はそう言いながらサティワンと繋いでいた手を離して自分の脇腹辺りでこすってる。
「ボクの手は人間の手よりキレイですけど」
サティワンは少しばかりプンプンした。
「あっ、ごめん手が汗ばんでいたからさ…」
本当は何でも触った後にわき腹で手を拭いてしまう癖があったのだけどそんなことは言えない。
「サティワンはプンプン怒っているよりポンポコ笑っている方が素敵よ」
宣子さんが上手にサティワンの機嫌を取っている。
「そんなにおべっか使わなくても放り出したりしませんよ、あなた方は船長と副船長なんですから、まあボクの機嫌が悪いままだったら、居住区まで半日ほど歩いてもらうつもりでしたけど、少しだけ機嫌が直ったのでここからエッグに乗りましょうか」
サティワンが手を差し出して来たので翔は躊躇せず手を掴んだ。
サティワンが通路の壁を叩いて押す。
すると壁が押し開きドアの様に開いて別の部屋に入る。
そこは小さな地下鉄ホームを思わせる造りになっていて1本しかないレールの上に人が2~3人乗れそうな乗り物が3台止まっていた。
それは巨大な白い卵にしか見えない。
「2人乗り見たいですね、ボクが前のエッグに1人で乗りますから船長たちは後ろのエッグに2人で乗って下さい」
翔はまだサティワンと手を繋いだままフルフルと首を振った。
「1台に乗る」
そう言ってベンチシートの奥へサティワンを押し込んで手前に翔は座った。
無理をすればその横に宣子さんが座れなくもないが、翔は大きく足を広げて間に宣子さんを座らせている。
宣子さんは別に抵抗せず素直に座って感想を言った。
「懐かしい事をさせるのね、小学校三年生の時に家族で行った遊園地で昴くんと一緒に乗ったミニコースターがこんな感じだったかしら、あの時の昴くんの顔ったら…なかったわ」
宣子さんはクスクスと思い出し笑いをする。
(あの時は翔ちゃんが怖がって乗らなかったのよね)
「最初から宣子さんを前抱っこして座るって分かってたら、どんなに無理をしてでも僕が一緒に乗ったよ」
(今は大きくなった宣子さんを前抱っこしてる、こっちの方が断然いいに決まってる)
「大丈夫ですか、スタートさせますよ」
そう言ってサティワンはリターンキーを押した。
凄い勢いでトンネルの中を進んでいる。
時々チカチカ光るのは別の出入口があるからだろう、何回か加速と減速を繰り返す。
今度は目の前がいきなり光りで満たされる。
「着きましたよ」
ホームは終着駅を思わせるように壁で囲まれて行き止まっていた。
来た時と同じように壁を叩いて今度は手前に引くと向こう側は真っ直ぐな通路が前後に続いている。
「もしかして、この通路が艦橋から続いてるの」
宣子さんは感嘆してもいいんじゃないかと思う。
(説明では1万メートルのメイン通路が6本あるとか言ってたような…)
「ランニングにはもってこいでしょう、30分で走れたら女子日本新記録になりますよ、目指してみますか」
「10kmなんて走れないです。それよりあと何分歩けばいいのですか」
歩くのは嫌いじゃないけれど途方もない長さだと宣子さんは実感させられる。
「もう着いてますって、こっちの扉を開けるとほら…」
サティワンが更に反対側の壁を叩いて引くと向こう側には広い空間があって、ざわざわと人の声が聞こえる。
「ここでご両親を探すんでしたよね」
サティワンは四つん這いになって聞いてきた。
「何をやってるの」
「二本足で歩くと驚かれてパニックになりかねないので、極めて不本意ですが仕方なく…」
「ダメよ、こっちの方が熊にしか見えないからパニックになるわ、二本足で立ってなさいよ、着ぐるみって事にしておけば大丈夫よ」
宣子さんがサティワンの手を取って立たせる。
「有り難き幸せかな」
意味不明の言葉を漏らしながら立ち上がったサティワンの目が光って集まっている人を見渡す。
「今度は何をしてるの」
「サーチしてお2人の両親を探していまーす…で、見つかりました。それでは行きましょう」
翔と手を繋いだ宣子さんがサティワンに手を引かれて避難民の中を進む。
小さい子供たちが『タヌキだ!』と叫んだりしながら寄ってくる。
宣子さんは風船を持って来てれば完璧だったのになと思う。
翔は近寄ってきた子供たちの頭を撫でてあしらっている。
宣子さんが自分の母親を見付け声を掛けた。
「お母さん!」
その時ハンドマイクを持った4人の支部員らしい人が一斉に案内を始めた。
「新天地を求めて宇宙の旅に出る人はこちらへ集まって下さーい」
「50年後の地球で原始生活を始める人はこちらでーす」
「新しく造られる人工惑星で快適な近未来生活を他の宇宙人と一緒に送る人はこちらに集まって下さーい」
「このままどこにも行きたくない人はその場を動かないで下さい」
約3000人の避難民それぞれが描いた未来の思いに駆られて歩き出そうと4つの集団に分かれて行く。
これが新しい人類史に於ける最初の一歩なのかも知れない




