81.誰が船長なんだって! 2
宣子さんと翔はロボットタヌキ・サティワンに連れられてかぶと山がある水縄山地から飛び立った日本支部の移民船に乗っていた。
案内された部屋でサティワンから翔に船長就任の依頼がある。
何か裏があるのではないかと考えた宣子さんか理由を問いただす。
「翔さんがスターキッド副操縦士の昴さんと精神的にリンクされたでしょう、1度リンクすると緊急時には無意識で繋がって助けを呼ぶことができるのですよ。昴さんからアイリーンさんオビス司令官に繋がります。これ以上の守護神になれる方は他にはいません。ちなみにスターキッドAIは東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地メインコンピューターアシュラとリンク出来るんじゃないかって噂がありますね、ボクはそんなこと全然、全く知りませんけど、そんな憶測があることを昴さんに教えてあげた方がいいかと思いますよ」
サティワンはしてやったりって顔つきをしてただのロボットではないことをアピールしてきた。
「そんなこと聞いてないわよ翔ちゃんは聞いていたの」
「聞いていたと言うか……知らされたみたいなもんだけどなんとなくわかる気がする」
「そんなんで大丈夫なの、受け入れられるの」
「これが一番いい方法だと思う」
「私たちの両親とは別々に生活することになるのよ」
「いつでも会いに行けるよ、何だったら今から行ってみる」
「行けるの」
「たぶん、船長になったら何だって出来るよ」
(何でもは出来ないでしょう)
宣子さんは密かに思った。
「じゃあタヌキさん船長しますから権限を下さい」
翔が言う。
「タヌキじゃなくサティ・ワンとお呼びください、これからは翔さんも宣子さんを見倣って僕のことを崇めたててちやほやしてもらいたいものです。翔さんのこれまでの行いを見てますと船長にするのは何かどこかで選択肢を間違えたような気がして不安になってきましたが、緊急時にはアシュラが優先的に助けてくれることに期待しましょう。それでは出掛けますよ付いて来て下さい」
翔は宣子さんと手を繋いだままサティワンに付いて行く。
次に入った部屋は附室の様で一見して縦横4mで正面壁が全面モニター、左右の壁には扉が1枚づつあり左側の扉を開けて入るとそこがいかにも艦橋ですと主張する機器が整然と並んでいた。
艦橋では5人の支部員が席に着いて作業していたが翔たちが入室すると立ち上がりお辞儀をする。
宣子さんの翔を握る手に力が入るので顔を見てみるとかなり緊張した面持ちになっていた。
「大丈夫だよ、僕に任せて」
(宣ちゃんには虚勢に聞こえるかも知れないけど、僕には分かってしまう皆が僕の配下になるんだって)
サティワンが艦橋後方の扉を開けると通路になっている。
(何故、後方と分かるのかって? 艦橋に居る人達に向かって指示を出している人の背中側だからだよ)
後日この話を信子さんにしたところ、あそこの人達は直に外を見てるわけではなかったので全員後ろ向きに座っていたかもしれないわよと指摘された。
少し歩いて右側扉を開け中に入るとそこは床と壁、天井までが鏡で囲まれた小部屋?(何せ全面鏡張りなので広さの把握が出来ない)になっていて左側が白いカーテンで更に3つに仕切られている。
「それでは翔さんと宣子さん1人づつこの全身スキャナーに入ってもらいます。イスに座ったらテーブルに手をついて真っ直ぐ前を向き自己紹介を始めて下さい」
タヌキはそう言って翔をフィッティングルームにしか見えない箱へ案内した。
「仰せのままに」
翔が入ってカーテンを閉めようとする。
「カーテンはそのままでいいですよ中で服を脱いだりしませんから、あっ、靴は脱いで下さい!」
「もっと早く言って……」
翔は靴を脱いだ後、靴下を履いた足で床に付いた靴跡を消した。
その様子をタヌキと宣子さんがジト目で黙って見ている。
「どうした? 何かおかしな事でもしたかなぁ、ちょっと待ってて直ぐに終わらせて交代するから」
翔はモタモタして時間を取ったのを責められているのかなと思う。
「それじゃあ次は私の番ね、やり方は一緒でいいのよね」
宣子さんの時間差行動は常套手段になっていた。
何か行動するときはまず他の人を先にやらせてそれを参考にして自分が行う。
失敗する可能性を限りなく少なくする方法なのだろうけど僕はこのやり方をあまり好きにならない。
無事に登録が済んでさてこれからどうしようかと翔が宣子さんに話をしだした時、サティワンが2人の前に立ちはだかった。
「それでは船長、最初のお仕事を始めましょうか。副船長も一緒にお願いします」
宣子さんはビクッとして後ろを振り返るが当たり前だの様に……誰も居ない。
「今、何て言った! ふ、副船長って誰のことよ」
イヤイヤする子供の様に頭を振っている。
「ほら、最初のお仕事ですよ」
サティワンが船長の翔を見て言う。
翔は行動を起こす。
「宣子さん大丈夫だよ、いつも一緒にいるから……ぼ、僕に任せて」
翔が自信なさげに励ましてここぞとばかりに肩を抱き寄せる。
「最初の仕事って……何をさせる気ですか」
宣子さんがサティワンに尋ねる。
「ここまで来たらまな板の上の(恋)とあきらめておとなしくしてもらいましょうかね」
悪代官のような返事が返ってきた。
信子さんは順応するのが早い。
「えっ、鯉じゃなくて恋なのね、うふふ…恋は包丁よりも強いって事を身を切って教えてあげるわってね、大人しく調理なんかされてやらないこれからは今まで以上にジタバタしてやるわよ」
「まず最初は船内に向けた就任挨拶が定番になりますけどね、その次がこの船を含め各国9ヶ所から飛び立った移民船の代表者会議です」
サティワンは馬耳東風とばかりにマイペースで話を続ける。
(この船に乗っている一般人に挨拶なんて出来る訳ないじゃない、こんな中学2年生が船長と副船長やってるなんて知れたら暴動が起きるわ、絶対に嫌よ)
「そうね、最初は両親に会いに行くわ、翔ちゃんもそれでいいでしょう、ちょっと何をボーッとしてるのよしっかりしなさいよね」
翔は立ったままボーッと半分寝そうになって夢の中みたいなところで考えていた。
(地球上の何もかもなくなってしまったのか?家も学校も建物もこの船に乗らなかった人達も、じゃあ僕たちはこれから何のためにどこで生きていくんだろう、学校が無くなったんなら勉強をしなくて良いんだよな……永遠に続く冬休み)
「これから先の事を父さんと母さんに会って説明しましょうよ」
翔は宣子さんに話し掛けられて正気に戻る。
(宣子さんは順応するのが早すぎないか)
「そうだね船長就任のあいさつは僕がするより父さんから言ってもらえると良いかもね」
「相談には行くけど船長になったって言ったらダメよ、翔ちゃんを船長にするくらいなら自分がなるって人がたくさん出てきて想像したくもないことが起きるわ、絶対にそうよ、だからそんなことは言ってはダメ、ただ、そうね昴くんの出生の経緯と迎えのことを簡単に説明して私たちは関りを持ってしまったことにするのはどうかなあ……それでいいでしょう」
「うん、宣ちゃんがそう言うのなら間違いないと思うからいいよ」
「サティワンそう言うことになったので今から皆が居る所に連れて行ってくれるかしら」
「了解です、副船長命令として承ります。それと翔さんのことを艦橋では船長と呼んでくださいね、ちゃん付けで呼んでも艦橋の皆は気にしないと思いますけど士気が低下しますのでお願いします。あと、そうですね私たちに対する敬称も付けないで下さい」
「わかりました」
宣子さんは素直に応じた。
(呼び方なんかどうでもいいわ、それよりこれからどうするかよ就任挨拶を何とかする方法を考えて、それから先は生徒会と同じ事をすればいいってことじゃないよね)
サティワンが『それでは案内いたします』と先頭に立って歩きだす。
入ってきた扉から通路に出て艦橋とは反対方向へ歩く。
避難してきた人たちがいる居住区へ向かっているのだろうと宣子さんは信じたい。
だけど自分が極端な方向音痴であることを知っているのでちょっと不安になったりする。
(方向音痴のロボットなんかいるわけないと思うけど、サティワンったら結構ふざけているところがあるから安心できないのよね)
さっき聞き流してた説明の中でこの船は全長15km 幅2.5km定員8千人とか言ってたのを思い出す。
宣子さんはまさか歩いて向かう気じゃないでしょうねと更なる不安に襲われた。
サティワンが通路の終わりを告げる扉を開けた時、翔と宣子さんはすくみ上がりお互いがつかんだ手の感触を再確認する。
目の前には果てしなく暗い宇宙が広がっていた。
「大丈夫ですよこれは艦橋防衛システムの1つですから、ここを少し歩くと普通の廊下になります。ただし権限が付与されていない人が歩くと宇宙に放り出されますけどね」
サティワンが振り返りもせず平然と言う。
宣子さんは恐れていた事が現実になった気がして翔に強く寄り添った。




