誰が船長なんだって! 2
宣子さんと翔はロボットタヌキ・サーティワンに連れられてかぶと山がある水縄山地から飛び立った日本支部の移民船に乗っていた。
案内された部屋でサーティワンから翔に船長就任の依頼がある。
何か裏があるのではないかと感じた宣子さんか理由を問いただす。
「翔さんがスターキッド副操縦士の昴さんと精神的にリンクされたでしょう、1度リンクすると緊急時には無意識で繋がって助けを呼ぶことができるんですよ。昴さんからアイリーンさん、オビス司令官に繋がります。これ以上の守護神になれる方は他にはいません。ちなみにスターキッドAIは東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地メインコンピューターアシュラとリンク出来るんじゃないかって噂がありますね、ボクはそんなこと全然、全く知りませんけど、そんな憶測があることを昴さんに教えてあげた方がいいかと思いますよ」
サティワンはしてやったりって顔つきをして、ただのロボットではないことをアピールしてきた。
「そんなこと聞いてないわよ翔ちゃんは聞いていたの」
「聞いていたと言うか、知らされたみたいなもんだけどなんとなくわかる気がする」
「そんなんで大丈夫なの、受け入れられるの」
「これが一番いい方法だと思う」
「私たちの両親とは別々に生活することになるのよ」
「いつでも会いに行けるよ、何だったら今から行ってみる」
「行けるの」
「たぶん、船長になったら何だって出来るよ」
(何でもは出来ないでしょう)
宣子さんは密かに思った。
「じゃあタヌキさん船長しますから権限を下さい」
翔が言う。
「タヌキじゃないし、これからは翔さんも宣子さんを見倣ってサティワンと呼んでもらえますか、翔さんを船長にするのは何かの選択肢を間違えたのではないかと不安になってきましたがアシュラを信じましょう。それでは出掛けますよ付いて来て下さい」
翔は宣子さんと手を繋いだままサティワンに付いて行く。
この部屋にはモニター以外の壁面に1枚づつ扉があり、左壁の扉を開けるとここが如何にも艦橋ですと主張する機器が整然と並んでいる。
機器の前には多種類の動物型ロボットや何人かの支部員が席に着いていたが、翔たちが入室すると立ち上がりお辞儀をした。
宣子さんの翔を握る手に力が入るので顔を見てみるとかなり緊張した面持ちをしてる。
「大丈夫だよ、僕に任せて」
(宣ちゃんには虚勢に聞こえるかも知れないけど、僕には分かってしまう皆が僕の配下になるんだって)
サティワンは艦橋の後方の扉を開けて進む、(何故、後方と分かるのかって)普通に機器の並び方を見て判断した場合でだ。
そこは床と壁、天井までが鏡で囲まれた小部屋?(何せ全面鏡張りなので広さの把握が出来ない)で左側が白いカーテンで更に3つの小部屋に仕切られている。
「それでは翔さんと宣子さんお一人ずつこの全身スキャナーに入ってもらえますか、そしてテーブルに手をつき前を向いて自己紹介して下さい」
タヌキはそう言って翔と宣子さんをフィッティングルームにしか見えない所へ案内した。
「仰せのままに」
翔が入ってカーテンを閉めようとする。
「カーテンはそのままでいいですよ、中で服を脱ぐ事はありませんから、あっ、靴は脱いで下さい!」
「もっと早く言って…」
翔は靴を脱いだ後、靴下を履いた足で床に付いた靴跡を消した。
その様子をタヌキと宣子さんがジト目で黙って見ている。
「どうした?何かおかしな事でもしたかなぁ、ちょっと待ってて直ぐに終わらせて交代するから」
翔はモタモタして時間を取ったのを責められているのかなと思う。
「それじゃあ次は私の番ね、やり方は一緒でいいのよね」
宣子さんの時間差行動は常套手段になっている。
何か行動するときは、まず他の人を先にやらせてそれを参考にして自分が行う。
失敗する可能性を限りなく少なくする方法なのだろうけど僕はこのやり方をあまり好きにならない。
無事に登録が済んで、さてこれからどうしようかと翔が宣子さんに話をしだした時、サティワンが2人の前に立ちはだかった。
「それでは船長最初のお仕事を始めましょうか。副船長も一緒にお願いします」
宣子さんはビクッとして後ろを振り返るが当たり前だ…誰も居ない。
「今、何て言った!ふ、副船長って誰のことよ」
イヤイヤする子供の様に頭を振っている。
サティワンは船長の翔を見て目で訴えた。
(ほら、最初のお仕事ですよ)
翔は行動で応じる。
「宣子さん大丈夫だよ、いつも一緒にいるから…ぼ、僕に任せて」
翔が自信なさげに励ましてここぞとばかりに肩を抱き寄せる。
「最初の仕事ってのは何をさせる気ですか」
宣子さんがサティワンに尋ねる。
ここまで来たらまな板の上の(恋)と宣子さんは順応するのが早い。
(えっ、鯉じゃないかって、うふふ…恋は包丁よりも強しってね、大人しく調理なんかされてやらない、これからは今まで以上にドタバタしてやるわよ)
「まず最初は船内に向けた就任挨拶が定番になりますけどね、その次がこの船を含め各国9ヶ所から飛び立った移民船の代表者会議です」
(この船に乗っている一般人に挨拶なんて出来る訳ないじゃない、こんな中学2年生が船長と副船長やってるなんて知れたら暴動が起きるわ、絶対に嫌よ)
「そうね、最初は両親に会いに行くわ、翔ちゃんもそれでいいでしょう、ちょっと何をボーッとしてるのよしっかりしなさいよね」
翔は立ったままボーッと半分寝そうになって夢みたいに考えていた。
(地球上の何もかもなくなってしまったのか?家も学校も建物もこの船に乗らなかった人達も、じゃあ僕たちはこれから何のためにどこで生きていくんだろう、学校が無くなったんなら勉強をしなくて良いんだよな、永遠の冬休みってか…)
翔は宣子さんに話し掛けられて正気に戻る。
「ああそうだね父さんと母さんに会って説明しないとな、船長になったって」
(宣子さんは順応するのが早すぎないか)
「会いには行くけど船長になったって言ったらダメよ、翔ちゃんを船長にするくらいなら自分がなるって人がたくさん出てきて想像したくもないことが起きるわ、絶対にそうよ、だからそんなことは言ってはダメ、ただ、そうね昴くんの出生の経緯と迎えのことを簡単に説明して、私たちとは別の安全な所で保護されてにいるってことにしておこうと思うの、いいでしょう」
「うん、宣ちゃんがそう言うのなら間違いないと思うからいいよ」
「サティワンそう言うことになったので今から皆が居る所に連れて行ってくれるかしら」
「了解です、副船長命令として承ります。それと、翔さんのことを艦橋では船長と呼んでくださいね、ちゃん付けで呼んでも艦橋の皆は気にしないと思いすけど士気が低下しますのでお願いします。あと、そうですね私たちに対する敬称も付けないで下さい」
「わかりました」
宣子さんは素直に応じた。
(呼び方なんかどうでもいいわ、それよりこれからどうするかよ就任挨拶から始めて、その後は生徒会と同じ事をすればいいってことじゃないよね)
サティワンが『それでは案内いたします』と先頭に立って歩きだす。
艦橋から入って来た扉と反対側の扉を開けて出て行く。
避難してきた人たちがいる居住区へ向かっているのだろうと宣子さんは信じたい。
だけど自分が極端な方向音痴であることを知っているのでちょっと不安になったりする。
(方向音痴のロボットなんかいるわけないと思うけど、サティワンったら結構ふざけているところがあるから安心できないのよね)
さっき聞き流してた説明の中でこの船は全長15km 幅2.5km定員8千人とか言ってたのを思い出す。
宣子さんはまさか歩いて向かう気じゃないでしょうねと更なる不安に襲われた。
サティワンが次の扉を開けた時、翔と宣子さんはすくみ上がりお互いがつかんだ手の感触を再確認する。
目の前には果てしなく暗い宇宙が広がっていた。
「大丈夫ですよこれは艦橋防衛システムの1つですから、あと少し歩くと普通の廊下になります。ただし権限が付与されていない人が歩くと宇宙に放り出されますけどね」
サティワンが振り返りもせず平然と言う。
宣子さんは恐れていた事が現実になった気がして翔に寄り添う。




