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ルナ・ターミナル観光

 アイリーンの中から『私』が居なくなったら身体の硬直が解けたので、床に倒れ込んでるアイリーンを抱え起こす。

 熱は平熱に戻ってて顔色もいいし安らかな寝息をしているので副操縦席に座らせホールドさせる。

「一体全体何だったんだ~」

 精神安定剤かアルコールが欲しいなと思いながら操縦席に沈み込んだ時、音声ガイダンスが流れだす。

〈Ⅲ型ジャンプ開始60秒前〉

 これからルナ・ターミナル到着までの6時間、アイリーンが目覚めない事を、そして6時間後アイリーンがいつものアイリーンで安らかに目覚めてくれる事を祈りながら、私も深い眠りに落ちていく。

 目が覚めると宇宙艇は月面上空の周回軌道に入っていた。

 今は私とアイリーンでルナ・ターミナルに降り立つ準備のために、宇宙艇の休憩室で悪戦苦闘している。

 予定通り宇宙母船に入っていれば何も問題はなかったのだけど、この宇宙艇の中には観光地を歩いて回るような服を乗せていなかった。

 フリーサイズの宇宙下着と宇宙スーツそれと護身用器具は地上に出る時必要なので標準装備されている。

 今回はそれに着替えるのだが、宇宙スーツは身体にピッタリフィットしてボディーラインがしっかり出てしまうのでそのまま人前に出るのにはかなり抵抗がある。

 ただ最近宇宙スーツのみで出歩き周囲の人々から「見て、変態よ!」と罵られることに快感を覚える本物の変態が増えているのも事実。

 そんな中いくらアイリーンが4才の幼子と言っても、ボディーラインがしっかり出てる宇宙スーツだけで一緒に出歩くと、私は本物の変態ですと言っているようなので絶対にいやだ。

 そんな訳でアイリーンのバックの中から宇宙スーツの上に着れる服を探そうとしたが……嫌な予感がしてアイリーンのほうへバックを押しやる。

「その上から着れる服が何か無いかなぁ」

 当然アイリーンには背中を向けている。

 渡す時も背中越しにこれが下着、スーツ、と言って渡した。

「とりあえず説明するね最初に渡したのが下着だから、今着ているのは全部脱いで裸になって…当たり前かな、渡した下着の首の穴を広げて、絶対に破れないから大丈夫だよ、そして足首の所まで縮める、次に足を入れそのまま上へするすると引きずり上げる感じで着込んでいくんだ、分かる?分かるよね」

 これは下着だから手伝えないから!一人で悶々としている。

「出来たよ、これでいいんでしょ?見てみる」

「見れる訳ないでしょう!」

「お父さんならいいでしょう?」

「本当のお父さんでもダメでしょう」

「光兄ちゃんは思った程変態さんではなかったみたいね」

「ほら、やっぱり罠があったそれにお父さんでしょう」

「お兄ちゃんじゃ通らないかしら」

「どこの世界に26才も年が離れた兄妹がいるものですか、伯父さんでも良いですから」

「わかったわ、気分次第で使い分けるから」

「どちらかに統一して下さいね」

「わかったわ、これでどうかしら」

 どうやらコーディネートが終わったようだ、私は何も疑わずに振り向いた。

「キャッ!!」

 アイリーンが短く悲鳴を上げる。

 わざと言ったんだと分かっていも、思わず背を向けた。

 悲しい性分だ。

「アイリーンどうしたのかな?何かいけない事があった?」

「これで、お兄ちゃんが小心者の恥ずかり屋さんなのが確認出来たわ、ダメよ、例え大人の女の人が裸で立っていても平然と見て、危ないと思った瞬間に反撃か回避かを判断する事が出来ないと下り立った途端殺されてしまうかも知れないわよ。うちはねぇこう見えても毎日のようにあの公園で戦っていたんだからね」

 恐ろしい事を平然と言ってのける怖い子供だと思ったが、その通りだとも思う。

 公園で戦っているアイリーンの姿を想像して笑い出しそうになったところで。

「ご忠告ありがとうアイリーン、ところで着替え終わったんだろう?出掛けようか」

 今度は振り返らずに声だけ掛ける。

「仕方ないわね、うちの負けを認めるわ」

 アイリーンが僕の背中に手を添えながら言った言葉の意味を考えるが何も思い付く事はない。

「わからないな~、一体何の勝負だったんだい?」

「お兄ちゃんとの変態度一本勝負よ!」

 ますますわからない。

 あまり追及しないでおこう。

 アイリーンが背中に当てて来た手に押し出されるようにして前へ進む。

 エアーエレベーターは使わずに、タラップを一歩一歩安全を確認しながら降りる。

「裸の女の人はいないなぁー」

「良かったじゃない変態さんと言われなくて」

「……」

 少し後ろから降りてくるアイリーンの言葉が突き刺さる。

「ところでさあ、お兄ちゃん、ずーっと気になっているんだけどさ、お兄ちゃんはいつ服を着替えたの? いつも同じだし、うちは別に構わないんだけど、気になり出したら気が散って困るのね、大事な時に集中出来なくなったら困るから、教えてもらえますか?」

 とーとつに、何を言い出すのかと思えば着替え?『しないよ』なんて返事したらどうなる事かわかったものじゃない!

「前にも少し言ったと思うけど、僕は新陳代謝が殆んどないから、一週間位は(もっと長いけど)着替えなくても大丈夫だから、上着の埃は払えば良いし汚れは光学擬態の応用で目立たなく出来るので、これも問題ないから」

「何が大丈夫なのか分からないけどOKよ、着替えない人種に分類したからそう言えばお兄ちゃん改造…いえ失言、それでもうちの気分を悪くさせたくないなら下着は毎日、上着は3日で着替えて下さいね『はい』と返事してくれたらいいですから」

 アイリーンが精神衛生上耐えられないと言うのだったら仕方ない。

「はい、今日の夜は着替えるからほら手を握って迷子になるからね」

『迷子になるのは、お兄ちゃんでしょう!』とか言いだすんじゃないかと思って心構えてたら。

「お兄ちゃん、匂わないよね!」

 もっと酷い事を言われてしまう。

 タラップを降りた先には迎えのリムジンが来ていた。

 宇宙港は広いし他の宇宙船も停泊している。

 ここに来る宇宙人が皆、善良な人とは限らないので最初はそれなりの人が出迎えて初期対応や入場手続きをする事になっていた。

 僕達を出迎えた宇宙人は2人で見た目は2人共地球出身者の様に見える。

 着陸前の通信で僕達が地球出身でアイリーンは初めての宇宙だとか色々な情報を伝えていたので、対応はかなり良かった。

 言葉は標準宇宙語を使用しているが、自動翻訳機能付きブレインをまだ装着していないアイリーンに分かるはずがなく、私が要約して伝えている。

 私はブレインを装着済みなので、東域宇宙の言語なら問題なく会話出来た。

 私たちは担当官が良かったんだろう、全ての審査がリムジンの中で完了して滞在カードまで発行してもらい、そのままルナ・ターミナル観光案内所まで送ってもらった。

「お帰りの際には街の中に設置されているターミナルデバイスにカードを入れて精算をタッチして下さい。お迎え到着時間が表示されますのでその時間は必ずそこに居て下さい。もし誰もいなくて連絡も無い場合は、あなた方の一斉捜査が有償で行われますので気をつけて下さい。それでは良い観光を」

 え~有料かよと思いながら、私たちを観光案内所の玄関前に降ろし走り去って行くリムジンの後ろ姿を見送って、これからどうしたものかなと、考えを巡らしていたら、アイリーンが強く手を握り絞めてくる。

「お父さん、行こう!」

 辺りには既に見知らぬ宇宙人でひしめき合っていた。

 アイリーンに手を引かれ、観光案内所の中に入って行く。

 路上もそうだったけど、中もアイリーンにとっては見馴れない宇宙人で一杯じゃないかなと少し心配になった。

 アイリーンの握る手に力が入る。

「うちは平気だからね心配しないで!」

 まるで自分に言い聞かせるため独り言の様に言い放ったアイリーンが愛らしい。

 まず最初にカウンターに向かいインフォメーションガールと思われる短い嘴を持つ、鳥人間だけど多分女性だろうに声を掛けて見る。

「あのー、すみません?(この場合も謝っているのだろうか)この近くに小さい子連れの地球出身者が安心して食事ができるような大衆食堂はありますか?」

「250ポンタになります」

 有料?かと思い、辺りを見渡すと確かにインフォメーションパネルに(250ポンタ)と表示されていた。

 もしかしてなんでもかんでも有料かよと思いながらカードを提示する。

「現金でお願いします。そちらに現金引き出し機があります」

 インフォメーションガールはニコニコ笑顔で?言いながら指で指し示す。

 指されたほうを見ると両替機があって『店内は全てニコニコ現金支払』みたいな内容を電光掲示板が垂れ流している。

 しかしここはそんなに田舎でもあるまいにとボヤキながらカードを入れ、あとどのくらい現金が必要だろうかと皮算用し40,250ポンタを引き出す。

 インフォメーションガールにお金を渡すと端末機に向かって操作を始めた。

「ありがとうございます、地球からお越しの石井光一様と愛鈴お嬢様、先程の条件でご案内出来ますお店は……」

「ちょっと待って下さい!何で僕達の名前を知っているんですか?」

「その件でしたら、こちらの端末機は保安局とリンクしていますので上陸されたお客様のほとんどがこの観光案内所にお立ち寄りになりますから、安全対策の一環でございます。皆様平等のお立場になっていますのでご了承下さいませ」

 今まで私は仕事でしか来たことがなかったから観光案内所を利用するのは初めてで、そんな事になってるとは知らない。

「ふ~んそうなんですか、わかりました」

 私たちは観光案内所でリストアップされた食堂の内、歩いて30分以内で行ける店の案内地図をプリントしてもらいメインストリートをジェラートをなめながら歩いている。


挿絵(By みてみん)


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