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水縄山地の移民船 2

 その巨大な胴体からこれまた巨大な…体育館ほどの大きさのかまぼこ型をしたコンテナが飛び出して学校のグラウンド横に静かに着地する。かまぼこ型の口が開き中から2人の人間が出てきた。

「あれ、ねえあれ翔くんよ!もう1人は氷室さんね」

 新月さんが自分のモニターを見ながら大きな声で知らせてくる。

 地上はとてもきれいとは言えない空気に包まれていて連続的に続いている地震は終わる気配をみせていない。

「みなさんこの中に乗って下さい。ここはもうすぐ海に沈みますからこれに乗って避難します」

 コンテナの中から出て来た2人は声を張り上げて避難を促しているけど、実際の音声はコンテナ入口に取り付けてある仮設のトランペットスピーカーから大きすぎる声が声割れして出ていた。

 翔は必死の顔をしていてその手は宣子さんの手に繋がれている。

 必死の言葉を繰り返している間にグランドから1人の男性が走って来た。

「みんなこの中に乗って下さい…あっ、父さん、良かった無事で、怪我してないよね母さんや宣子さんの両親も一緒だよね」

「やっぱり翔かどうしてここに居る、宣子さんも一緒なのかハントザETに連れて行かれたんじゃなかったんだな」

 翔の父親は驚いた様子で近寄って来て言葉を掛ける。

 かぶと山のタヌキにお願いされてグラウンドに来たとは言うわけにはいかない。

 最初は無理だと言って断ったのだけど…

『空から下りてきた移送船の中から喋るタヌキが出てきたらパニックになって誰も移送船には乗ってはくれないと思う、最悪ボクが撲殺されてしまうかも知れないな、そしたらこの日本での救助は終わりになるね、それでもいいんだったら行くけどさ』なんて半分脅しに近いことを言われて断わるのが難しくなったので宣子さんと一緒に行けるのならお願いされてもいいよって言ったのさ。

 そしたら『わあ、急いでコールドスリープを中止しないと』って慌てたタヌキの返事だったね。

「父さんあのねかぶと山のタヌキ…じゃなくていい宇宙人が僕たちを助けようとしてるんだよ、詳しい話しは後からするからさ。今は僕の事を信じて皆で避難しようよ」

 翔の本心は自分と宣子さんの両親だけは何としてでも一緒に逃げると決めていた。

「これから先のことを今あれこれ考えてても前には進めないよ、ここで足踏みしてる間に海に沈んでしまうかもしれないんだよ、早く一緒に逃げようよ」

「この箱に乗ってか、このままこのみすぼらしい箱に入ってしまったら蓋がパタンと閉まっていつかどこかで行われた大量殺戮みたいに中に居た人は全員毒ガスで殺されるのではないか」

 父親は猜疑心を抱かずにはいられない。

 宣子さんがズイッと翔の前に出る。

 手は握りしめたままだけどその手のひらは汗ばんできていた。

「これはあの宇宙船まで避難する人たちを乗せて運ぶ移送船なのです、他の避難所に集まっている人たちも救助に向かうのですよ、そこへ移送船を下ろすために宇宙船は今も上昇続けています。移送船の数は限られてますのでこの箱もピストン輸送で救助するのに参加しますから、できるだけ早くここを飛び立ちたいのです。今はとりあえず安全な所へ逃げることを優先に行動しませんか」

 宣子さんは翔の父親を説得しようと必死になり過ぎて言葉遣いが変になっている。

「宣子さん、ここには体一つで来ている人ばかりだからなこのまま他所へ避難しようとする人はいないだろう。それにお前たちが海に沈むと言っているのを信じる者も少ないだろうし、それより皆は山を壊しながら空に浮かび上がったこの未確認飛行体に恐怖を感じている。当然お前たちにもな」

「なんて事なの!津波が押し寄せてからでは遅いのよ。UFOだろうと何だろうと助けてあげると言っているんだから『ありがとう』と言って助けられるべきじゃないの」

「宣子さんが言っていることは正しいよ、だけどねそれは普通の人にはなかなか出来ないことなんだよ」

 宣子さんは途方に暮れてしまった。

 日本にある移民船は久留米市の水縄山地に隠されてた1隻だけ、支部に残った少数の派遣員は47都道府県全てに配置されているわけではなく数人毎のグループで日本を7つの地区に分けて受け持っている。

 そして比較的規模が大きくて着陸スペースが取れる避難所で移送船への誘導ビーコンを持って待機している予定だった。

 翔と宣子さんが乗った移送船も最初は中央公園に下りる予定だったのをいろいろ無理を言って(本当はタヌキに駄々をこねて)筑水中学校へ変更してもらっている。

 そこが水縄山地の真横にあるので飛び上がった直後にコンテナを下ろし、短時間だけならと猶予を頂く。

 世界人口からみれば微々たる人数ではあるけれど、地球に残った支部の全員で助けを求める地球の人たちを救助する準備は東域宇宙和平維持連盟の計画の下で万端に整っていたはずだった。

 しかし人為的ミスによる手違いはどこでも起きる。

 最初は小さなミスにしか過ぎないのだけど。

 ドライアイスメテオの落下時刻が当初の予定より1日以上早まった。

 アリオンが任務を早く終わらせるための努力を怠らなかった結果に過ぎないのだけど、あえてそれを告知していない。

 アリオンはサプライズが好きだった。

 しかしそれは移民船の船長にとっては大きな迷惑となってのし掛かってきてくる。

 計画の変更は各人の判断に任せるとしか書かれてなかったのだから。

 そして1個目のドライアイスメテオはバラバラの状態になって大気圏へ突入しキラキラと美しく輝く。

 それを見た支部員が単純な思い込みや勘違いを起こす。

『スターキッドキャプテンアイリーンが人類を助けるために遣って来たんだ。月での宣言は狂言にしか過ぎなかったんだ』

 それを大声で他の人に言い回ることにより集団へと感染していく。

 全員の気が緩んだ所へ2個目のドライアイスメテオが衝突した。

 ドライアイスメテオの衝突を知ってた人や知らなかった人も大パニックへと陥っていく。

 非常事態のマニュアルが準備されていなかったことによって各支部の行動にバラツキが生じてしまい救助活動に弊害が発生してしまう。

 ただ日本支部では優秀なロボットタヌキの指揮の元で翔と宣子さんが頑張って救助活動をしている。

 その頃ドライアイスメテオと一緒に大気圏に突入した連盟艦隊が何をしているのか気になるところだけど、彼等には人命救助とは逆の行動が命令されていた。

 つまりメテオの威力が当初の予定より小さくなる場合は衝突面に重力砲を撃ち込むなどの、いくつかの計画に基づいて行動する予定になってるわけだが、移民船に乗り損なったり逃げ遅れた地球人に対する取り扱いは明記されていない。

 そこで連盟艦隊の総指揮官アリオンは命令通り重力砲をメテオより先に着水面に撃ち込みメテオが直接地表へ衝突出来るようにして、津波と地震の威力を増大させた。

 そしてその後は直ぐに地球人の救助活動を行うように事前に指示を出している。

 アリオンが率いてきた連盟艦隊の艦船はその殆んどが戦艦なので数多くの人々を乗船させることはできないのだけどそれでも1万人は救助したいと考えていた。

 しかし世界各地へと救助に向かった艦長は多くの場面で乗船拒否に合い散々な目に遭っている。

 昴くんのお父さんを説得しようとして失敗に終わった宣子さんは夜空を見上げていた。

(星が綺麗ね…今からあそこへ行くなんて実感が湧かないわ)

 空はよく晴れていて幾つもの星が輝き南南東の方向に冬の大三角の1点を担うオリオン座がきれいに見えている。

 しばらくすると台地のように低くなった水縄山地の向こうから湧き出るように白いもやが広がってきて、おおいぬ座のシリウスが見えなくなってしまう。

 空気が更に埃っぽくなり何だか呼吸も苦しくなっているような気がした。

(おじさんでさえあんなに懐疑心一杯で消極的なのに一体何人の人が移送船に乗ってくれるのかしら)

 宣子さんは、だんだんと居ても立っても居られなくなってくる。

「翔、私の両親を探して連れてくるわ、他の人にも声を掛けて来るからそこで待っててね」

 宣子さんはそう言って人が集まっている方へと走っていく。

「宣ちゃん、待って僕も行くから」

(宣ちゃん少しキレたかも知れないな)

「お父さんはその箱の中に入っていて、ベンチがあるから座ってハワイ沖に落ちた巨大隕石の映像でも見ててよ」

(うん、心は痛むけど今回は『嘘も方便』に賛成しよう、何も知らない人に本当の事を伝えて宇宙人を怨むより、宇宙人に救助されて感謝の気持ちを持ってもらう方が大事だから)

 翔にそう促された父親は移送船の大きく開いたハッチより中を覗き込むと正面の大きなスクリーンに今まさに地球に衝突して砕けていく巨大隕石ドライアイスメテオがアニメーションCGのように映し出されている。

(今も続いているこの地震がこの隕石によるものだとしたら)

 父親は血の気が引いた顔をひきつらせながら翔の後を追うように走っていく。

 辺りは星の光も届かない真の闇に包まれようとしていた。

挿絵(By みてみん)

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