ドライアイスメテオ作戦 2
「ピエロの言いたい事は分かったわ解り易く解説してくれてありがとう。お礼は言ったからね、それじゃ攻撃を開始する。目標は前方のドライアイスメテオよ」
「ちょっと待ってアイリーン!分かってくれたんですよね、それなのに何故攻撃するのですか」
ピエロが焦って言う。
「目の前に地球人類を絶滅させようとしている物体があるじゃない。うち達だけがそれを破壊できるのよ、ここで遣らないと一生後悔すると思うの、そんな人生うちは嫌だから遣るのよ」
アイリーンの怒りのボルテージが上がっていく。
もう誰にも止められないのではないかと思えるレベルになっている。
「全てを理解した上での判断ならこれ以上私は何も言わない。後はキャプテンに従いましょう」
ピエロはお手上げのポーズをしてみせた。
「ありがとうじゃあ集中するから、キッド目標までの距離と時間を教えて」
〈うしろから攻撃するより横で並走した方がやり易いでしょうから並びますね〉
「じゃあお願いするわ、並んだら合図してね」
〈了解、5秒後ですよ〉
(意識をさっき見たトンネル出口で作成中のドライアイスメテオの核に集中してと全部で5個だったわね…1個、2個、3個…重いわ…に、2個が精一杯だわ、これを1個に合成して…飛んで来い!)
〈並んだ!〉
スクリーンにはドライアイスメテオの全体像が入らない。
画面はドライアイスメテオ表面で気化した高濃度ガスが白一色のまま流れていく様子が映し出されている。
白いガスの奥に硬いドライアイスの塊がありその中心にある5つ核を意識しながら、アポーツで引き寄せた核を四つ玉ビリヤードみたいなイメージでぶつける。
その瞬間アイリーンには『パカーン』と澄みきった音が聞こえた。
「離脱!」
アイリーンが叫ぶ。
スターキッドは地球の衛星軌道面を目指して矢のように飛ぶ。
「ウグッッ!」
昴くんが悲鳴にならない声を漏らす。
「みんなぁー、僕が居ることを忘れてるよーあれ?」
昴くんは、たった今まで味わっていた胸を締め付けられるような苦痛がいきなり消滅したのを不思議に思ったと同時にアイリーンが1人で操縦席に座っている姿が目に入る。
(えっ、僕はいつの間にアイリーンの側を離れたんだ)
昴くんが不思議な気持ちで横を向くと優しい目をして見下ろしているピエロさんの顔に出くわした。
「これって、どういう状況なの」
思わずピエロさんに聞いてしまう。
今まで直接ピエロさんに問い掛けたことはあまりない。
「昴くんが急加速や急減速をするたびに苦しんでいるのを見てるのが辛くなったからね、訓練は別の機会にすればいいと思ったからさ、私が作る隔離空間の中に招待したんだ。迷惑だったかな?」
「とんでもありません、ありがとうございます。こんなことなら最初からお願いすれば良かったですね」
(ピエロさんは僕が思っている以上に優しい人なのかも知れないな)
「ははは、それはどうかな」
ピエロは昴くんの心の声が聞こえてる様な返事をした。
スターキッドは全力加速により一瞬で地球の反対側へ来てそのまま大気圏へ進入してる。
「ごめんね昴くん一瞬だから耐えられると思ったのよ」
「そうですね、ダンプカーに撥ね飛ばされる時も一瞬でしょうけど耐えてみせますよ」
昴くんは珍しく皮肉を言ってみた。
「ごめんなさいドライアイスメテオの爆発の波動からギリギリでの回避はしたくなくて苦しい思いをさせる事になってしまったわ、今度からは昴くんに苦しい思いをさせない方法を一番に考えるわね」
「そうしてもらえると助かるよ、僕としても正面の操作パネルをゲロまみれにしたくないからさ」
昴くんは口元を腕で拭く仕草をしながら脅す。
〈ウゲゲ、冗談でもそういう事は言わないで下さいよ想像するだけで気分が滅入ってしまいますから〉
スターキッドAIが普通の人間なら言いそうなことを言う。
「うん僕も努力するね」
「ドライアイスメテオが粉々になって霧散してくれたら良かったのですけど、そう都合よくはいかなかったみたいです。それに…」
外部環境用カメラを見ていた新月さんは口ごもった様に話す。
「バラバラになった欠片が加速しながら地球に向かっていてあと30分で大気圏に突入予定です。それとこれも言いにくいことなんですけど2個目のドライアイスメテオが地球目掛けて飛んで来ていて現在加速中です。連盟艦隊が周りを取り囲んでいて何か特別な方法で加速させている様です。こちらを近づけさせない目的もあるのでしょうね。このまま加速を続ければあと1時間30分で地球に衝突します」
「これじゃあ近付けないな」
九論が何か他に良い方法がないか考え込むようにして言う。
「Aちゃん聞いて、連盟艦隊との接触はしたくないわ気付かれないように大回りして…できれば連盟艦隊の後に付けて欲しいんだけどOKかなぁ」
〈了解です。ステルス状態にすれば何でも出来ますよ、さっきの10分の1加速で到着まで5分弱ですね〉
スターキッドAIが口笛を吹き出すんじゃないかと思われるくらいの気軽い声を出す。
『何でも出来る訳がないでしょう』と誰もが思ったけど誰も口にはしない。
「僕のことならピエロさんに守ってもらっているから気にしないで下さい」
昴くんはやっと余裕が出たみたいな声を出す。
〈じゃ、3分後の予定に変更しますね〉
「ちょっと待って下さいませんか、私のことも昴くんの次くらいには気を使って欲しいのですけど、だからその…お願いします」
新月さんが苦笑いしながらスターキッドAIに言う。
「ねえ先生、新月先生の仲間が僕たちの家族を助けてくれるって話があったじゃないですか、あれってどのタイミングで救助に向かうんですか」
昴くんは移民船の話を聞いてからずっと気になっていた事をやっと尋ねた。
(話を聞いたのが昼前でスターキッドに乗って僕の意識を兄さんに飛ばしたのと先生が地球の仲間に連絡してからまだ2時間くらいしか経ってないけど、ドライアイスメテオが地球に落ちなければ救助もなくなるんだろうか)
「それがどうもあなたのお兄さんと氷室宣子さんは昨日の夕方には移民船からの迎えが来て乗船してるそうなんだ、既にコールドスリープに入っているかもしれない」
副操縦席から九論が昴くんを見ながら返事をする。
「昨日の夕方って僕たちがスターキッドに乗った頃だよね」
昴くんは昨日の記憶を辿った。
「そう、スターキッドに乗る時にちょうど移民船の真上にいたんだな、その時のビーコンを移民船のメインコンピューターが救助信号と誤判断して翔くんたちを迎えに行ってしまったんだ」
「あれでも変だよ、さっき僕はお兄…いや翔の意識とリンクしてなかったかなあ」
昴くんは『時間の帳尻が合わないよ』ってな感じがして落ち着かない。
「そうなんだ、さっき昴くんの意識を翔くんの中に飛ばしたのだけど、こちらの意に反してタイムラグが発生し昨日の翔くんとリンクしたみたいなんだな、これはアイリーンの中に来てたイノマンが帰り際に言ったことなんだが『条件の重ね合わせが起きてしまったな』と言ってたんだ」
昴くんは気付いてしまったか、スルーしてくれたら良かったんだけどと思いながら言った。
「えっ、一体何が起きたと言うのですか」
昴くんが食い下がってくる。
「そうだなある程度は想像になってしまうんだが、さっきこちら側から翔くんに意識を飛ばしてる時に昨日学校から帰った翔くんも昴くんに意識を飛ばしてたんだ、翔くんは無意識で行っていたのだろうけどな。同じ頃に移民船AIも翔くんをソナー信号を使って探し始めた。この3つがうまいこと重なって時間のもつれが発生したんじゃないかと考えているのだ」
これでも九論はイノマンから聞いた内容をかなり割愛して話してた。
(さっきの念話って過去にも遡れるんだ)
「わかりやすく話ししてくれたんだろうと思うよ、ありがとうでも僕の頭じゃあ理解が追い付かないよ、それじゃ結局ところ僕と宣子さんの両親は一緒じゃないのですね」
昴くんは落胆しながら話をする。
今度は新月さんが割り込んで話し出しす。
「巨大隕石が地球に落下すると人々がパニックに陥った時に宇宙連盟の地区担当職員が移民船を出して多くの住民を救助させる予定だったのです。本当の危機が目前に迫らないと誰も信じないし動かないと判断されたからなのですけど、その時に昴くんの関係者を最優先で乗せてもらうようにお願いしようと連絡した時に翔くんと宣子さんだけを昨日の夕方乗船させたと聞いたの、地上は今パニックの中で避難が始まってると思うわ、昴くんの家にも職員が向かっているはずですけどご家族の方が何処か別の場所へ避難されていたら移民船に乗せるのは諦めてもらうしかないです」
新月さんが『ドライアイスメテオの投下予定がかなり早まった影響でこちらのタイムスケジュールに狂いが生じて大変なのよ』とボヤいたのが聞こえた。
3個目のドライアイスメテオは月の裏側で核を中心に拡大していたのだけどアイリーンが核の一部をアポーツで取り去ったので縮小を始めてる。
2個目のドライアイスメテオは連盟艦隊に守られて地球に向かっているので手出しが出来なくなってしまう。
1個目のアイリーンによってバラバラに砕かれたドライアイスメテオの欠片は煌めきながら地球の大気に溶け込んで行く。
あと1時間ちょっとで2個目のドライアイスメテオが地球に衝突しようとしている。
地上に居るどれ程の人類が自分たちの危機を知っているのだろうか。
スターキッドに乗って飛んでいるアイリーンは不安な気持ちを持ったまま地球の大気圏を離れ連盟艦隊の最後尾を目指して行く。




