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新月先生

 アイリーンの悪い言葉が宿った発言にピエロではなく新月さんが答えた。

「アイリーンさん冗談でもそういうことを言ってはいけませんよ」

(新月さんの表情が怖くなってる、逆らったらやばいかも知れないわね)

「ピエロさん、ごめんなさい悪いことを言いました。言葉を撤回します」

「謝るのはいいことですけど一度発っした言葉は撤回できませんから気をつけて下さいね」

 新月さんから当然のことを言われる。

(教師っていう人種はどうも当たり前のことを正義感ぶって突き付けてくるみたい、新月さんは『元』が付くと思うけどさ)

 アイリーンは少しだけムカついた。

「わかりました!」

(しおしおのぱーだぜ、まったく)

『ピエロさんやろうと思ったらできるんだよね』

 アイリーンは新月さんに聞かれないようにテレパシー会話を思い付いて続きを話し始めた。

『できますけどやりませんよ』

 ピエロはアイリーンとテレパシー会話を付き合ってやることにした。

「アイリーンあまり調子に乗ってしまって顔つきが悪徳商人みたいになっても知らないからな」

 九論が半分くらい冗談みたいにからかってくる。

(もう九論のわからず屋、うちの気持ちも考えてよ)

『ピエロさん九論に筒抜けだからこの話しは終わりにしますね』

 アイリーンはつまらなそうにテレパシー会話の終わりを告げた。

『愛鈴さん僕にも筒抜けなんだからね忘れないでよ』

 昴くんはやっぱり可愛とアイリーンは思ってしまう。

『わかってるわよ』

(そうか、テレパシー会話だと新月さんだけ仲間はずれになってしまうんだったわね)

「アイリーンさんには今度ちゃんとしたテレパシーの使い方を教えましょうか、今は無指向性で発信してますので問題があると思います」

 ピエロが不安げに言ってくる。

「そうかなぁ」

 アイリーンは別にいいんじゃないって思っている。

「「そうです!」」

 ピエロと九論が同時に念を押してきた。

「ピエロさんテレパシーって念話みたいなものでしたよね、訓練とかで身に付くものですか?」

 新月さんが興味津々といった表情でピエロに問い掛けてきた。

「適正があれば可能ですが、アイリーンさんと一緒で良ければ教えてあげましょうか」

 新月さんの表情が今までになくパアーっと明るくなる。

「宜しくお願いします」

 教師としての性だろうか知らないことへの探究心が強い。

「それとアイリーンさんだけど、あなた学校には通ってなかったでしょう。この際だから私が基礎の教育をしますね」

 どうも既知の事実として教師魂が甦ったみたいだ。

「新月さんいいです。別に不自由な生活してませんから今さら教育なんて時間の無駄ですって」

(もう二度とあくびを噛み殺しながら机にかじりつくのは嫌だ!)

 アイリーンは抵抗を決意した。

「あらそんなにびっしり長時間行うことはしませんよ、アイリーンさんが鼻唄を歌っているくらいの時間で済ませますから、毎日ちょこちょこっをずーっとね」

(短時間でも頭ごなしにずーっと言われ続けるのは嫌だ)

「それでうちに何を教えようってのよ、生きて行くために必要な知識は十分備わっていると思うけど」

「アイリーンさんは文法って知ってますか?」

「ウゲッ!」

 昴くんが隣で変な声を出す。

「あら、そういえば昴くんもまだ中学2年生途中だったですね、あと8年は教育が必要ですね」

 昴くんはしまったと思った。

 声を漏らすんじゃなかったと後悔したが後の祭りみたい。

「ぶんぽう?何かの法律なの?」

(そんな法律は聞いたことがないけど…なんとかして乗りきってみせるわ)

「アイリーンさんは今までどんな勉強してましたか」

 新月さんは、やはり思った通りアイリーンは必須5科目を全く知らないと確信した。

「地球を出たのは4才だったわ、それまではベトナム人のウオンさん達が勉強を教えてくれたわ、そしてテレビを見て世間の常識ってものを覚えたし、宇宙に出てからは地球防衛基地でゴートさんに宇宙理論や統計学について教えてくれたわ、ゴートさんはねヤギ頭の宇宙人で確かゼータ星人って言ってたわねドロンパ号の登録管理室補佐官だった人なのよ、物知りで厳しく教える人だったわ、うちは優しく教えてくれる人のほうが良かったのにね、そのあとは色々な宇宙人達から色々なことを教わったわ」

(形勢不利ねなんとか挽回する方法はないかしら)

「アイリーンさんは日本の学校教育を受けてないですね、私がそばに居る間は責任持って正しい教育をしてあげます。当然、昴くんも一緒よ2人とも頑張ってね」

「「そんな~」」

 アイリーンと昴くんから同時に落胆の声が漏れる。

 ルナ・ターミナルの賑やかな大通りを来た時とはうってかわって大人しく、新月さんが歩く後ろをうなだれて無言で付いて行く2人だった。

 ルナ・ターミナルの大通りをアイリーンと昴くんが並んで前を歩き、その後をピエロが歩く、そして最後を九論と新月さんが並んで歩いている。

 道幅は広いのだけど人通りが多くなってきているので歩きながらのウインドウショッピングは出来ない。

「何かみんなうち達を避けて歩いているみたいなんだけど気のせいかなぁ」

 人が混んでいるのにアイリーン達の周囲は空白地帯が出来ている。

「アイリーンの指名手配写真が出回ってるからな、いつの間にか地球人のスパイで地球防衛基地の破壊活動を行った張本人になってたりしてるかもな、おまけに最近は悪巧みばかりしてたから顔付きが悪人顔になってきたのではないか」

 九論から辛辣な言葉が放たれアイリーンの胸に突き刺さる。

「そんなことないもん、うちじゃなくてさ邪眼の新田がここに居るって事が広がったんじゃないかと思うよ、悪い噂は千里を走ると言うじゃない」

 アイリーンは胸に突き刺さった棘をそのままピエロに投げつけた、

「それではいかにも私が悪者みたいですけど私はここで20年近く普通に生活してますよ」

((絶対普通にじゃないよ))

 アイリーンと新月さんが心の中で指摘した。

「そう言えばここは法の支配を受けない地域なんだよね」

 アイリーンはピエロの目を見ながら問い掛ける。

「確かにどんな犯罪者もここまで逃げ切って生活してるのであれば拘束されることはないです」

 ピエロはアイリーンから目をそらさず答えることができた。

「ふ~ん、無法地帯なんだ」

「完全な無法地帯でもないです。自衛団みたいな組織があってルナ・ターミナルの住人や器物に損害を与えた人を捕まえて無害化して宇宙へ追放します。そんなことをする人はほぼ指名手配犯ですから宇宙に出た途端、公僕に拘束されますね」

(公僕って…お巡りさんを蔑視した呼び方だったように思うんだけど『化けの皮見たり』だね)

「へぇー、犯罪者が放り出されてくるのを待ってるだけでいいんだったら楽してるんだね」

「いいえ、ここへ逃げ込んでる犯罪者は死に物狂いですからそれを追いかけ回すのは並大抵のことではないですよ」

 ピエロは知っている、奴らが狂暴な犯罪者をルナ・ターミナルへ追い込んでいることを、そして無力化されて追放された犯罪者を捕まえ自分達の実績として報告し高い評価を得ていることを。

「わかったわ、話がだいぶ逸れてしまったわね最初の話題って何だったかしら」

「何で他のみんなが僕たちを避けて歩いているのか、だったよ」

 静かに聞き耳を立てていた昴くんが横から教えてくれた。

「アイリーン、周りを良く見てみろ何か気付かないか」

 今度は九論が質問する。

「食べ歩きしてる人がいるわ、この人混みの中で良く平気ね、でもどこで売ってるのかしら」

((違うだろう))

 九論と新月さんが心の中で指摘した。

「愛鈴さん地球人は僕たちだけみたいだよ」

 昴くんがアイリーンの代わりに答えてくれる。

 通行人のほとんどがエイリアンだ。

 地球人タイプも歩いているけどみんな宇宙服みたいなものを着用して判別が難しい。

 そんな中で昴くんは詰襟学生服を新月さんはブレザーを着ている。

 宇宙人の常識からは大きく外れた服装だった。

「そうね、これから殺戮の対象になろうとしている地球人の指名手配犯と邪眼の新田を伴ってこんな繁華街を歩いていたらみんな避けて通るはずだわ」

(理由がハッキリしたらスッキリして、お腹が空いたわね)

「良かったなお前が悪人顔に見えてるわけでなくて、安心して腹が減ったんじゃないか」

「九論ったらそんなんじゃないわよ、お腹は空いたけど」

「どこかに寄りましょうか」

 新月さんが『よし』と言いたげな表情をした。

「いや、この辺は出口に近いのでロクな店がないから入って食べるのはダメです。雑貨屋の隣におみやげ屋がありますのでそこで買って持ち帰りましょう」

 ピエロが正しい観光旅行のあり方を教えてくれる。

 アイリーンと新月さんは少し残念に思う。

(食べ歩きはやっぱり許してくれないのね、昔ジェラートを食べながら歩いたのが懐かしいわ)

 アイリーン達はおみやげ屋で買い物を済ませ雑貨屋で注文していた資材と共にリフト車へ便乗させてもらう。

 スターキッドの姿が近づくにつれて周囲の異変に気づく。

「あの人集りは何かしら」

「ここは観光地ですからアイリーンがスターキッドで来ているという噂が千里を走ったのでしょう。スターキッドはその名の通り辺境一速い宇宙艇としてスターの座に君臨してますからね、これから始まるイベントと合わせて見ておきたいと思っているのかも知れません」

 ピエロはつい観光案内のノリで話をしてしまいアイリーンの逆鱗に触れた。

「ピエロはこれから地球人を大量虐殺しようって攻撃をイベントと同じような感覚で見てるわけ、信じられないもういいわ、今すぐ車を降りて帰ってちょうだい、これ以上顔を見たくないわ」

 ピエロは心の底から失言したことを後悔した。

「アイリーンさんすみませんでした。心から謝りますので許してもらえないでしょうか。アイリーンさんと新月さんと昴くんがあまりにもここに馴染んでいるので地球から出てきたばかりだということを忘れてしまってました。ごめんなさい」

 ピエロの顔がメイクした時の様に青くなっていく。

「アイリーン、許してあげたらどうだ地球人類抹殺計画と口に出すのもはばかられるので仕方なくイベントと言ったのだと思うぞ」

 珍しく九論がピエロを庇う。

「まあ九論がそう言うのなら仕方ないわね、それにここの観光客全員が地球人類が絶滅する様子を見に来てるなんてストレートに言われたらうちは何をしでかすか分からないわ」

 横目でピエロを睨む。

「許してくれてありがとうございます」

 ピエロは貴族的なお辞儀で応じた。

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