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昴くんは思春期 1

 アイリーンはルナ・ターミナルへ降りる前に飛行訓練を行うと言い出してる。

〈アイリーン無茶はダメだよ~、お客さんが2人もいるんだよ〉

「新月さんにはリザーブシートをセッティングしてそれに座ってもらうわ、昴くんはうちと一緒に座っていいよね、うちは宇宙服に着替えてくるから九論はリザーブシートのセッティングお願いね」

「シートのセッティング手伝いますわ」

「ありがとう力仕事は苦手でな」

(それにしても最初からリザーブシートに座ってもらえば良かったんだな、二度手間にならずに済んだし)

 九論は心の中で呟いた。

〈アイリーンは大丈夫ですかね〉

「不安しかないな」

「僕は愛鈴さんと一緒に座るってどこに」

(どこをどう見たって、並んで座れそうにないんだけど…)

 昴くんはアイリーンが出ていったほうを見て不安を募らせている。

 ルナ・ターミナルと反対側の月面を掠めるスターキッドの中に一人を除いた全員の不安な気持ちが広がっていった。

 アイリーンの操縦するスターキッドは月の裏側の宙域で宙返りや錐揉み飛行を繰り返す。

 アイリーンを抱っこした状態で操縦席に座っていた昴くんはとっくに限界が来ている。


挿絵(By みてみん)


「愛鈴さん、やっぱりきついよ」

「このくらい我慢出来ないの男の子でしょう」

「アイリーン操縦は私が代わろう」

〈僕も出来るよもう〈30パーセントの確率で爆散します〉なんて言わないからさ〉

「あなた達の誰が操縦してもいいけど、捕まったり怪我したりするのは嫌よ」

(新月さんは思ってた以上にタフだわね、スターキッドの性能確認飛行中に一切音を上げてないもんね)

〈そもそも昴くんの上にアイリーンが座るのが無理なんですよ、いくらアイリーンが軽くても加速時にはそれなりの加速度が加わりますから、せっかく宇宙服に着替えたんだから僕はてっきり服内気圧を高めた状態で昴くんを抱いて座るのかと思っていましたよ〉

「それじゃぁ操縦出来ないじゃない、宇宙服に着替えたのは汗臭い服を着たまま一緒に座ったら昴くんが嫌かなって思ったのよ、これでも思春期の2人なんだからね最初は昴くんの足の間に座って操縦出来ると思っていたのだけどこんなに加速Gがきついとは思わなかったわ、重力制御装置は正常に作動してるのよね」

「重力制御装置に問題はないな普通にこんなもんだろう、そろそろ諦めて権限をこっちに譲ったらどうだ。それから思春期の2人らしく抱きしめ合って私の操縦を堪能すればいいだろう」

「そんなことするわけないでしょう、どうしてこううちの回りの男共はおやじギャグしか言わないのかしらね」

 アイリーンは呆れて意気消沈してしまう。

「あなたが可愛い娘みたいに思えるからでしょう、きっと保護者気取りなのよ」

 新月さんは何を言っても駄目なんでしょうと諦めモードみたいになっている。

「うちの親ね…そうねそうだったらお小遣いを貰える権利くらいあるかしら、もういいわ昴くんちょっとどいてくれるAちゃんがああ言ってるから入れ替わってみるわよ、操縦も九論に代わるわ」

「僕が上に乗ったら今度は愛鈴さんが苦しくならない」

「大丈夫よこの宇宙服はかなりの衝撃も吸収できるのだから平気よ、それにうちがシートに沈んでしまえば昴くんまで完全ホールド出来てより安全だわ、でもそうなるとうちはヘルメットのモニターでしか外の状況が見れなくなるのよね本当にジレンマだわ、でも仕方のないことなのよね」

「よし管理権限を頂いた…切り替え完了。私も少し感覚を掴むとするか」

(九論の錐揉みと宙返り、機体のあしらい方はうちより上手いわ、こうなるのが嫌だったのよね権限を返してくれなくなるんじゃないかと不安になるわ)

「昴くん大丈夫、今度は苦しくないよね」

「全然平気みたい最初からこうすれば良かったと思うよ。だけどね、僕は今日初めてここに座るのだけど前にも座ってた気がするんだよな…デジャブって言うのかな」

〈「……」〉

(よし2人共ちゃんと言い付け守って黙ってくれてるよね。よしよし)

「昴くんの中でキャプテンライトの自我が目覚めてきてるのかも知れませんね」

「あちゃー、新月さんなんで知ってるのよ」

「私たちは15年前に支部長からアイリーンさんが戻って来るまで昴くんを守るように命令を受けて地球に残っていたのですよ、あと久留米市内ではまだ10人の仲間が活動しています」

「うちしか知らないはずよ」

「アイリーンさんがお母さんを訪ねて病院へ行った後で行方不明になったと連絡が来てから足取りをたどって探し回ったのですよ、その途中で病院での出来事を知りました。支部長はアイリーンさんは絶対に戻って来ると信じてましたから、その時が来たら助けになってあげられるよう私に昴くんを見守りながら待機せよと命令されたのです。だからアイリーンさんと昴くんについては想像できる範囲のことを知っています、奥の手を使って筑水中学校の学年主任にもなれましたしね」

「何のことですか僕には全く意味不明なのですけど、僕の中でキャプテンライトの自我が目覚めてるって新月先生が僕のことを守るために地球に残ってたってどう言うことか教えて下さい。新月先生今度は何も知らないほうが身の為だとか言わないで下さいよ」

「仕方ないわね…」

「新月さん言わないで、昴くんごめんなさい全部うちのせいなの、だからうちから説明させて、でも今は時間がないから今度時間を取って必ず納得するまで話すからそれまで待って、いいでしょうお願いします」

「仕方ないわね…」

 昴くんは妥協するしかないと思って、新月さんの口真似をして諦めた。

 その言葉を聞いたアイリーンは少し心が安らぐ。

 効果はあったようだ。

「昴くんありがとう、ねえAちゃんうち達がこれだけルナ・ターミナル上空で好き勝手やっているのに誰もやってこない所をみるとAちゃんの分析通り連盟艦隊は全部トンネルのほうへ行ってうち達に構ってられないみたいね、それ程重要な事があっちにはあるってことよねなんだと思う?」

〈僕と九論の見解だけどねルナ・ターミナルは中立地帯になっていて犯罪者がここへ逃げ込んだら司法の手から離れてしまうので手出しが出来なくなる。でもルナ・ターミナル内で愚行を働くと治安員に拘束されてカプセルに入れられ宇宙へと放り出される。それを連盟艦隊の船が回収して法の裁きを受けさせる。だから必ず連盟艦隊1個小隊が駐屯してるはずなんだけど…居ないね。それだけ重要な任務がトンネル付近で行われているんじゃないかな〉

(分かったわ、結局のところ何が起きてるのかわからないって事ね)

「だったらうち達を捕まえようとする人たちが居ない内にルナ・ターミナルに降りましょうよ、下で暴れたりしなければ捕まったりしないのよね」

「そうだな物資の追加補充も必要だからな、どのみち降りるしかないな」

 九論がスターキッドAIの音声が流れ出るスピーカーを見つめながら言う。

(こいつも近々何とかしないとな)

九論がこそこそっと思っている。

「あっそうですよね私が乗るのは予定に入ってなかったからですね、私にかかった費用分は自分で支払うから教えて下さいね」

「えっ、新月さんここでのお金持っているんですか?」

「お金は場所場所で種類が違うから換金出来る物を常に身に付けているようにしてるのですよ、ほら…」

「それプラチナですか、金の延べ棒…じゃなくてプラチナカードなんですね、ちなみに全部でいくら位になるんでしょうか」

「昴くんは意外とお金に弱そうだわね、弱点を1つ発見ねうちも何か換金出来る物を探してみようかしら」

「アイリーンには倉庫に酒があるではないか、天王星の氷パンも一般人では手に入る物ではないから換金率は高いはずだ。全部時価だからな…AIと情報リンクしたまま私が交渉したほうがいいだろう」

〈そのほうが断然いいよ、アイリーン達だけだと足元見られて大損しそうだからね、それと僕のことAIって呼ばないでくれる〉

「そうねうちは値切りには自信あるけど、吹っ掛けるって事はまだしたことがないからね」

「ねえ、僕も一緒に月に降りていいんでしょう」

 昴くんが居残りを言われるのではないかと不安そうに言う。

「もちろんよ、うちと一緒にショッピングしましょうね」

(新月さんがさっき普通に買い物できるように言ってたわよね)

 アイリーンが安請け合いいちゃったかなと思って新月さんを見るけど表情に変化はない。

(大丈夫みたいね)

〈ちっ、また僕だけが留守番か悔しいよ〉

「仕方ないでしょ全長150メートルもある宇宙艇をマイカー代わりには使えないもんね、宇宙港で大人しく待ってなさいね」

「リアルタイムで情報リンクすると言ったではないか、一緒に行動するのと変わらないはずだ」

〈リアルタイム発言が出来ない〉

「我慢しろ!」

「うちに取っては12年ぶりの月だけど…もしも月に知り合いがいたら20年ぶりの再会になるのよね」

(知り合いなんかいるわけないけどね)

「私は初めてよ20年前って言ったら私が15歳の頃でちょうど迎えに連れられてアステロイドの基地へ行った頃ですね」

(新月さんは初めてなんだ…それよりそんなこと言っちゃって年がバレてしまったじゃない…ってここには気にするような人はいないわね)

〈僕も月面着陸は初めてだよ20年前はドロンパ号のハンガーで寝てたよ〉

「20年前なんて僕はまだ生まれてもいなかったよ」

(愛鈴の本当の年って幾つなんだろう)

「さあ下りるぞ何やら出迎えが来てるみたいだしな」

「ねえ九論、下に降りた途端に拘束って事はないよね」

「さっきも言った通りたとえ指名手配中の犯罪者であってもここでの規則を守って生活していれば捕まることはないな」

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