昴くんは危機一髪
(おい、おばさん、うちの大事な昴くんに色目使うと殺すわよ!)
アイリーンはこそっと心の中で念を飛ばした。
「おばさんが昴くんの中学で学年主任だってのは分かったけど、何でうちのことを知っているのよ一体誰なのよ」
キキッーー!キュッ!ギュィーン
新月さんが暴走族も真っ青なコーナーリングをする。
「うおっと、本当にこの町の人たちは車の運転が危ないわね、それともこれが普通でうちがびびっているだけなのかしら」
「今のは、さっきの二人称に対する副作用よ、それでなくてもこの車は高い性能を持っているのだからちゃんと引き出してあげないと可哀想でしょう」
「何が可哀想だって?まあ、いいわ、それじゃあ何でうちのことを知っているのよ」
「どうしようかなぁ、教えてしまってはつまらないでしょう」
「そんなことを教師が言うのですか!」
「そうよー、昴くんは学校に来てないのに成績はいつも上位、一を聞いて十を知るような生徒なの人間離れした頭脳の持ち主っているのね、アイリーンさんは心当たりないかしら14年前に…病院で」
「待って、その事を今はまだ言わないであなた助けてくれたんだし味方だと信じていいのよね、敵だったら許さないからね」
「アイリーンさんは元気一杯に育ったのね、14年前と体型はあまり変わってないみたいだけど私には長かったなもっと早く戻って来ると思っていたのよ」
(体型が変わっていないとか言うのは余計なお世話よ、しかしうちの中ではあれから6年が経ってるのよね)
「昴くんが生まれたマリア病院…あの時の看護師はうちのことを知るはずないよね、もしかしたら支部の人でしょう。うちは知らなくても支部の人はうちのことを知ってるわ」
「正解よ私は支部長補佐をしていたの、だからいつも支部長と一緒に行動していた、あなたのことを知っているしあなたが居なくなってから色々調べて昴くんのことも知っているの」
「分かったわ…」
(支部長といつも一緒に居たのならうちも知ってるはずなんだけど記憶にないなぁ)
(この人たち何を話しているのだろう、僕が生まれた時に愛鈴さんも居たのかな1歳しか違わないのに?)
昴くんは自分が知らない話を目の前で繰り広げられてることに苛立ちを感じて落ち着かない。
「僕にはちっともわからないのですけど…それに新月先生、そっちは家の方向じゃないんだけど僕を家に送ってくれてるのですよね」
(もしかして新月先生こそが悪人で僕と愛鈴さんは騙されているんじゃないか?)
「さっきの人たち見たでしょう、昴くんが連れて行かれたらそれこそ二度と家に帰れなくなるかもしれないのよ、奴らはこれから家に押し掛けて来ると思います」
「僕が一体何をしたって言うの」
昴くんは気分が悪くなってきた。
これから起きることに対する不安なのか、車の運転が荒いせいなのかは分からない。
「昴くんが何も悪いことをしていないのはみんな知っていますよ。理不尽なことだともわかっています。ハントザETは自分たちの存在意義を認めてもらうためだけの目的で活動していますので実績が欲しいのでしょう。 地上に隠れ住んでいる宇宙人の仲間を捕らえれば宇宙人と取り引きが出来ると考えているのかも知れません。だから地位とか権力に守られていない弱い立場の人をかき集めて、少しでも印が見つかれば宇宙人に対して人質としているのだと思いますよ」
「そんなの宇宙人が知らないと言ったらどうなるの」
「昴くんは中世の魔女狩りって知っていますか?」
(うわっ、いきなり何を言い出すんだよ、想像するのもおぞましい無関係の人たちを魔女扱いして殺してたんじゃないか)
「そんなえげつない例え話を引用しないで欲しいよ、ハントザETは魔女狩りと同じつもりで宇宙人狩りとかをやってるとでも言うのですか、でも僕には関係ないことですよね」
「昴くんには印があるのよ、出生時の『奇跡の新生児』とか就学後の『天才児並みの頭脳』、『双子』ってのも印に含まれるの、昴くんには無いと思うけど星形のホクロとか瞳の色が変化するとか身体的に何か他の人と違った特徴を持っているとかね」
(星形のホクロは確か足の裏にあった筈だよ)
「それ全部本人の預かり知らないことですよね相当理不尽ですよ」
「わかっているわ、だから私たちで本当に宇宙人と係わりを持っている人たちを陰ながら守っているの、そうでない人たちは警察に守ってもらうしかないと考えているけど、私たちもそこまで手を回せる程の人員がいないから仕方がないことなのよ」
「だからそう言うのを僕に言ったって意味がないでしょうに、僕に例え印があったとしても宇宙人と関わったことはないです」
「昴くんは転生者なのよ宇宙で宇宙人と共に活動していた地球人の魂を宿してるのよ」
(あ~あ、とうとう言っちゃつたよこの人、しかしまあタイミング的には良かったのかもしれないわね)
アイリーンは諦めたように口を開く。
「昴くんうちのせいなの、ごめんなさい。本当は前世の記憶とかを持ったまま転生させられると思っていたのだけど間に合わなかったの、謝って許してもらえることでないのはわかっているけど許して欲しいのね、お願いしますから許して下さい」
(アイリーンの話しはいつ聞いても支離滅裂で新鮮だなぁ…って感心していいのか)
「それが『奇跡の新生児』とか呼ばれるようになった真相なんですか」
「そうなの保育器に入っていた赤ちゃんの命が消えた直後にうちが体内に持っていたうちの大切な人の魂を移して命を…繋いだのそれが昴くん」
(ダメだ限界、これ以上話をすると泣いてしまう。本当はイノマンがやったことなんだけどとても説明できないわ)
「いきなりそんなことを言われてもだよ、どこをどう聞いたらいいのか全くわからない、わかるように説明して欲しいのだけど」
「ごめんなさい、うちがもっと上手く説明できたらいいのだけど今はこれが精一杯だわ、本当はね昴くんを宇宙に連れ出して青い地球を眺めながらゆっくり話をしようと思っていたの、こんな急な話をするつもりは全く思ってもなかったわ」
(宇宙に連れ出すってどういうことよ、家に返してくれるんじゃなかったんですか)
「結局僕は家に帰れないのですね、それでは公園に残った宣子さんと翔兄さんはハントザETに連れていかれたんじゃないですか、僕の家族とかも危険が及ぶのではないですか」
(ハントザETは僕たちを追って来てるはずたから宣子さんと翔兄さんは無事家に帰ったと思いたいけど心配でたまらないよ)
「私があなた達の所へ向かう途中で仲間に応援を依頼したので間に合っていると思うけど、仲間の警察官も向かっているはずだからきっと大丈夫よ、ハントザETはね権力に弱いの、自分たちが違法行為している自覚を持っているのかも知れない。少し落ち着いたら仲間に連絡取ってから状況を教えます」
(今の状況を教えてくれと言っても無理だろうな、連絡の取りようもないみたいだし)
「これからどこに行こうとしてるのですか」
(この道で星野村に行けたはず、確かあそこには天文台があるって聞いている。宇宙に行くのが本当ならそこからだろうか)
「高良山を上っているでしょう、昴くんはこの先に神籠石のミステリーサークルがあるの知ってますか」
(何で今この状況でミステリーサークルが出てくるの観光案内でもする気なのかな、ああイライラしてくる)
「神籠石があると言う話は知っているけどどこにあるのかは知らない。それがミステリーサークルになっているってのも知らない」
話し方が乱雑になっているのが自分でも分かるけど、自制が効かない。
「ミステリーサークルと言うのは方便だけどね分かりやすく表現したのよ、もう少し詳しく言うとね神籠石が同心円状に配置されているの、その中心にあるのが高良大社奥之院よもう直ぐ着くわ」
(かなりきわどい山道走行したんだけどこの子たち結構タフね、訓練次第では良いコスモファィターになれるかもね)
「満月先生うち気分が悪くなってきたみたい、たった数年地球を離れてただけなのに重力に振り回されているわ、我ながら情けなく思うよ」
アイリーンは車が右に左にカーブを切る度に身体を昴くんに支えてもらっている。
「愛鈴さんだけじゃないから大丈夫だよ僕も車酔いしたみたいだから、父も結構運転が荒いほうだけど初月先生はそれより酷いよ」
「あなた達、人の名前で遊ぶと酷い目に遭うと言うことを体で覚えてもらおうかしら」
「「先生ご免なさい」」
「謝るから許して、スピード落として…下さい」
「仕方ないわね、車の性能を限界まで引き出してあげたかったのにね」
「先生お願いしますから、そんな事は1人の時に…いえ、1人の時でもやらないで下さい」
「そうね、でも、もう着いたからお仕舞いみたい車から降りて、アイリーンさんはスターキッドをここに呼んでもらえるかしら」
「うちのことを呼ぶときにはさん付けしないでいいわよ、スターキッドなら最初からうちの頭上を見えないようにして飛んでいるわ…盗み聞きもしてるみたいだし」
〈九論バレてるよどうしよう〉
「どうもしなくていいんじゃないか、寧ろ感謝してもらいたいね、ほらぐずぐずしないで3名様をご案内しなさい」
「ありがとう、お陰さまで無事キッドに入れたわ」
「僕は全然無事な気がしないのだけどね」
「これがかの有名なスターキッドなのですね、一度は乗ってみたいと思ってました」
「天王星で仕入れた海王星名物の極楽ティーを煎れてきたぞ」
「九論それ本当に地球人用なのよね、飲んだら本当の極楽に行ったりしないよね」
「アイリーン本当の極楽とはどういう所か教えてくれないか」
(普通の大人の人も乗ってるんだ、この人がキャプテン…なんだろうか)




