昴くんは終業式
宣子さんと昴くんで楽しそうに夢の話をしている。
翔は仲間外れ感を抱き面白くない。
「私もこの夏に経験したわ夢の中で青年の姿をした昴くんが(昴お前は宣ちゃんの夢の中に現れたのか許さんぞ!)一緒に宇宙に行こうよって言って来たの、嫌だって言ったのに無理矢理引っ張られて気が付いたら丸い地球が見えている宇宙空間に居て息が出来なかった。ああ私はここで死ぬんだと本気で思ったわ、そして同時にこれは夢だとも思った。現実ではあり得ない事が起きている夢をたまに見ていたのよね、だから起きなきゃって思って全力で跳ね起きたのよ、そしたら凄い汗をかいていてびしょ濡れでハアハアって息をしていて本当に今まで呼吸が止まっていたのだと真剣に思ったわ、若くて健康な人が布団の中で死んだって話を聞いたことがあったけど、自分が経験して初めて現実に起きることなんだと思った。昴くんも全身汗まみれでハアハアって起きなかった?」
「どうだったかな?最後の方を良く覚えていないんだ。僕も夢の中でこれは夢だからって起きようとしたんだけど起きれなかった。目が覚めなかったんだよ、そしたらものすごく怖くなって、だから叫んだんだ『行かない!』って、そしたら目の前がパアーッって光ってから意識が遠くなって、そのまま夢の中で深い眠りに落ちたんだと思う、朝目が覚めてからも何か忘れ物をして来たみたいに落ち着かなくてさ、何でだろう」
(あれは絶対に夢だったよな、アイリーンって女の子はかなり現実ぽかったけど)
「良く覚えているじゃあないか、とりあえず夢の中で夢を見ていたと言う夢落ちの話でいいんだよな」
「翔ちゃんややこしい、昴くんはアイリーンって女の子がどうなったのか心配してるのでしょう。本当に優しいんだから夢の中の女の子に恋でもしちゃったんじゃないの、多分大丈夫よ昴くんの夢だから可愛い女の子だったんでしょう、だったら昴くんが殺してしまう訳がないわ」
(どういう意味だろう?)
「そうだといいんだけど、彼女が光の中で僕に何か言いながら粉々になって消えていったように思えたから気になって」
「気にすんなって、そんなに気になるなら今晩その女の子を夢の中で召喚すればいいじゃないか、詳細な姿を覚えているのだろう、可愛かったんだろう」
「昴くんのエッチ!」
(宣子さんの顔が何を想像したのか知らないけれど赤くなって可愛いなぁ、でも誤解だよ)
「ひどいよ宣子さん、今言ったのって翔兄だよそれにそんなんじゃないから、もう忘れたもう言わない夢の中でも会わないから」
「それじゃ宣ちゃん帰りも一緒に帰りましょう」
翔が話を終わらせようと軽いタッチで言う。
「いいわよどこで待ち合わせる、昴くんも一緒よね」
「いいえ僕はいいですから、ニ人で帰って下さいよ」
「いいじゃん、いいじゃん昴も一緒に帰りましょ」
「……」
「それじゃあ帰りは校門で待つようにしましょうね、先に帰ったりしたらダメだよ」
「わかってるって、僕が宣子さんより先に帰るわけないじゃん」
(翔兄は相当浮かれてる、宣子さんと終業式とのダブル効果かもな、しかしまあ成績表をもらった後もあの笑顔が続くといいけど)
「宣子さんは無理をしてまで僕達に合わせなくてもいいからね」
(宣子さんが一緒に帰れなくなった時の予防線を張っておかなくっちゃね)
「大丈夫よ、他からの誘いを断る理由にさせてもらうわ早く帰って本の続きを読みたいのよ、でも宇宙人狩りって発想は何かSFみたいで面白いわね」
キーン・コーン・カーン・コーン
晴天の筑後平野に1時間目のチャイムが鳴り響いている中、全校生徒318人が体育館へぞろぞろと集まっている。
《只今より福岡県立筑水中学校2021年度第2学期終業式を執り行います…》
(ああ、とうとう退屈な終業式が始まってしまった)
「ふあぁ~~~ 」
静寂な体育館に誰のものか分からない大きな欠伸が木霊した。
終業式も大爆笑の内に無事終わり?翔と宣子さんで昴くんが出てくるのを寒風吹き抜ける正門の片隅で待っている。
(昴よ俺は怨み言を言おうなんて全く思ってないからな)
下校中の学生達が男女を問わず翔たちニ人を横目でチラ見しながら浮かべる羨ましそうな表情に翔は優越感を得ることができて感謝の気持ちさえ持っていた。
いい加減に待たされて下校する生徒の姿も疎らになった頃、昴くんが小さく手を振りながら駆けてくる。
「ごめんよ~待たせたね」
「やあ昴、相変わらす期待を裏切らない弟でいてくれて俺は嬉しいよ」
「昴くんあれだけのことで生徒指導室へ呼び出されたの」
「いやそれだけじゃなくてさ、二学期の出席日数が7日間しかないのに成績がトップ10に入っていることに対する嫌味を散々言われたよ、成績では県上位の進学校に合格出来るレベルなのにこのままでは内申で落ちるだろうって、三学期は休まず出席しなさいってさ、それだけのために遅くなってしまってごめんね」
「俺はちっとも構わないさ、もっとゆっくりしてきても良かったんだぜ」
「えっ、どういうわけ?」
「翔ちゃんは寒い中待っていたので脳ミソ凍っちゃったみたいね」
「その割りにはホクホクした表情してるけどまあいいか、かぁ~エロかぁ~エロ、カラスは泣かないけど帰りましょう」
昴くんがふざけた歌を歌い出す。
「でもすごいね昴くんはそれで結局何番だったの」
「ラッキー7…に一歩届かない8番だったよ」
「当然学年でよね、テストがある時しか登校してないんでしょう、すごいことだと思うよ」
「全ては翔兄が学校での授業内容を見せてくれているお陰だから、翔兄には感謝してるよ」
「そこで教えてくれているって言わない所がミソな訳ね」
「宣ちゃんそれどういう意味かなぁ」
「別に深い意味なんかないわよ、それより先生方も自分達の存在意義がなくなるんじゃないかって不安になって昴くんがスケープゴートにされるんじゃないかって心配よ」
「宣子さんそれは考え過ぎだよ、そんなことを考えていたら世の中何も出来なくなってしまうよ」
(どうでも良いけど昴くっつき過ぎだぞ、もう少し離れろ…)
翔が昴くんと宣子さんの間に割り込んでいく。
筑水中学校の田畑教頭は一人になった教頭室から電話を掛けていた。
その顔は青く薄く禿げ上がった頭から額にかけて汗が流れている。
「筑水中学校教頭の田畑と申します。その通りです…以前にお問い合わせがありました豊福昴14才の事ですが…はい、その通りです…ほぼ間違いないと思います…あっ、すみませんその通りです…間違いありません。明日から冬休みですからその辺は大丈夫だと思います…いえ、大丈夫です。はい、失礼致します」
(これで委員会からの無理難題もひとまず解決したな、HTETからの要請か何かは知らないが学校に在籍する者の中から教師、生徒を問わず宇宙人と接触したと思われる人間を最低一名以上リストアップして報告しろとか何なんだよ一体、最初は『居ません』で報告したら『誰でも良いから名前を一名出せと言うし』うちの学校で目立つ存在と言ったら豊福昴くんしか居ないだろう、彼は出生時から『奇跡の新生児』とか呼ばれて目立っていたからなHTETも満足するだろうよ)
田畑教頭は胸を撫で下ろした後ひときわ大きな独り言をつく。
「豊福昴くん悪く思わんでくれよな…」
「教頭先生、昴くんが来てるのですか?あれ誰も居ませんね失礼しました。今日の教頭先生はまた一段とお疲れのご様子で何かあったんですか」
「ああ、学年主任の新月先生か何か用でもありましたか」
「はい、第2学年分の連絡書を連絡箱へ入れに来たのですけど教頭先生が昴くんの名前を呼んでいたので、ここでも嫌味いや…指導を受けているのかなと思いましてつい覗いてしまいました。すみません」
「君は学年主任なんだから、仮に扉が開いていてもノックをしてから声を掛ける位の常識を持たないとHTETと関わりを持つ事になってしまうよ」
「それでは昴くんはHTETと関わりを持ってしまったと言う事ですか」
「ああ、HTETから冬休み前に各学校から一名差し出せと言われててな、悪いけど当校からは彼にした。何も問題なければ一日で…運が悪くても正月前には解放されるだろう。ただ最悪の場合を考えると昴くんは特待生として転校することになるから君も準備はしといてくれないか」
教頭先生が額の汗を拭いなから言う。
「各学校から一名ですか、HTETも余程暇を持て余しているのかその逆かですね、しかし昴くんも災難ですね彼が体育館で欠伸なんかをしなかったら抜擢されなかったでしょうに、その時は誰に白羽の矢が当たっていたんでしょうか」
「君だと言うかも知れんぞ、あっちは誰でも良かったんだから、名前を一名理由は必要なしだ、大した困り者だが全国民が番号管理されるようになって通学ルートから寄り道先までHTETは全ての個人情報を把握してる。だから名前を聞いただけで直ぐにでも挨拶に行くだろうよ」
「嫌な世の中になってますね。私もHTETの人たちがどんな人間か見てみたくなりましたわ、彼等こそ宇宙人かも知れませんね」
「面倒事は起こさないで下さいよ、この年末から家族旅行に行く予定なんですから」
「それでは失礼します」
(昴くんはさっき帰ってましたね、追い付けるかきわどいですわ)
翔と宣子さんが並んでお喋りしながら歩いている後ろを昴くんが付いていく。
宣子さんと話してたら翔が間に入ってきたので後ろに下がってる。
(横並びは駄目だよって声を掛けるのはヤボってもんなんだろうなあ)
「24時間に寄って行こうよ」
(兄ちゃんが宣子さんを悪の道に誘ってるよー)
「ファミマよね、明日から休みだし、おやつの買い溜めしとこうかな」
(そうか、お使いをして帰るのなら問題ないのか)




