さよならバイオキッド 1
アイリーンはケンタウルス座アルファ星Cの惑星軌道上に造られた地球人の移民先で偽の情報により全員避難完了した後のエム08艦橋で艦内環境モニターを操作している。
〈今は余計なことは考えないで下さい。モニター操作出来たんですね凄いです〉
「環境管理士のラマンチャさんと仲良しになって見せてもらっていたからいつか自分で見ようと思って操作方法覚えたの」
〈そうですか、場所によっては見たくもないものを見るハメになるから注意して下さいね。バイオロイドがメディカルルームでコールドスリープしている筈なんですけど見つけられますか?メディカルルームのシステムが完全独立になっていてアクセス出来ないのです〉
「メディカルルームっと…バイオロイドっと…駄目ねここからでも検索エンジンには引っ掛からないわ、でも、モニターで見る限り一番奥のNo.99で間違いないと思うのよねー、あれだけ経過年数が古いの他のはここに来て入れ替わったようだわまだカウントが少ないもの、ただNo.100は稼働しているのに表示が出てないの何故かしら」
〈またもう余計なことは考えないでって言ったでしょう、時間がないからこのまま出航しますよ、No.99はバイオロイドってことにします。後で確認しましょうそれでいいですね〉
「出航するのはいいけど誰が操縦するのよバイオキッドは起こせないの」
〈解凍している間に奴らが戻ってきますって、いつまでもこの船が爆発しなければ誰でも不審に思いますよ、アイリーンはマニュアルに切り替わっているスイッチを見付けて全てリモートにして下さい。コマンド入力で切り替えられる分は僕がしますから〉
「これとあれと…これも、かな?切り替えたわよもう少し探すけど」
〈アイリーン主機関起動はマニュアル操作でしか受け付けないみたいです。わかりますか?〉
(フフ~ン、うちの出番ってわけね、主機関って確か操舵士のハナコさんが叫んでたわよね、そうそうこのレバーだった。ヘッヘッへ1度でいいから言ってみたかったのよね)
「主機関始動ーっ!微速前進~」
〈アイリーン楽しそうなところ悪いんですけど全速にしてもらえますか〉
「わかったー、主機関全速…うわっ船が震え出したわよ」
〈いい具合です。このままこの人工惑星の裏側に回って、格納庫開けて… 僕の主砲でエネルギー弾と石礫弾を地表に向けて撃つ〉
「凄い!この船が墜落爆発した様に見えたわ」
〈これで少しは時間が稼げますのでオートパイロットにして目的地を冥王星にセット〉
「戻りもコスモホールを使うんでしょうね」
〈まだギリギリ間に合いそうですね〉
「来る時はスターキッドで1年半、帰りは移民船で7年半掛かるのね…遠いわ」
〈あれからコスモホールが伸びてきていますのでその分時間が短縮されます。この船でも最高速度を維持して進めば3年で到着出来ますよ〉
「それでも3年かぁ~、あっ、バイオキッドを起こしに行かなくっちゃだわ奴らが追って来たら教えてくれるよね」
〈わかってますって。後部倉庫のメディカルルームでコールドスリープしてます。結構遠いので時間短縮の方法を取らなくてはいけません。アンチボードの位置は分かりますか?〉
「分かるわよでももう少しましなネーミングにして欲しかったわ、ラブリーボードなんてどうよ?」
〈………〉
「あなたの意見はわかったわ、アンチボードはだいたい出入口の横壁に備え付けられているのよね、ここだわ、真っ直ぐ伸ばした手の平を壁に付けて、その上を叩いて自分に合った長さを決める、次にななめ下を蹴って幅を決めるの、そうするとボードが飛び出す仕組みなのね、あいた穴の奥からハンドルを取り出して長さを調整してボードに差し込んで出来上がり。そのまんまキックボードってのも有りなんじゃない?」
〈いいと思いますよ… さあ行きましょう〉
「どうでもいいって聞こえた気がする… うわっ、これって自転車よりもバランス取るの難しいわ… よっと!」
〈アイリーン乗るの初めてですか?〉
「後ろに乗せてもらった事ならあったわね、うちには危ないから一人で乗ったら駄目だって言われたの」
(『お前は危ないから、一人で乗るんじゃない』だったかしら、まあこの際どっちでもいいわよね)
「…… さあ、飛ばすわよ」
〈アイリーン! それは通路上を少し浮かして滑らす物です。飛ばしたら危ないですよ! … 絶対に危ないです… あっ、通信機… 切りやがった〉
幅が広く白く長く続く円筒形の通路に螺旋を書きながらアイリーンを乗せたアンチボードは飛んで行く。
アイリーンとスターキッドが制圧した移民船エム08はずんずんとアルファ星系から遠ざかっていた。
エム08から追い出された人達の追手は何故か来ない。
アイリーンはいいことだと思っているし、まだ真っ直ぐな考え方しか出来ないAIはどす黒い人間の思惑を見抜けずにいる。
「着いたわここがコールドスリープ室ね、あれれ、扉が勝手に開いたわ誰でも自由に出入りできるのかなあ」
〈この船のセキュリティーは殆ど僕の手中ですから当たり前だの… です〉
「何のこと? No.99は一番奥だったわよね」
〈アイリーンその前に一通り見渡して下さい。この部屋は情報隔離されているのでヘルメットのカメラで情報収集してみますから〉
(棺桶みたいなのが5列20台並んでいるわ、この中に人が寝てるのかと思うとちょっとオカルトっぽいかしら)
〈アイリーンそんなこと言っては不謹慎ですよ〉
「わかったわ、ここはもういいでしょうこっちの部屋に入るわよ、多分制御室だと思うのよね」
〈アイリーンちょっとまって、それ…携帯無線機だと思いますのでどれでもいいから1台制御盤に繋げてみてくれますか〉
(どれでもいいってのが一番迷うのよね、一番手前のでいいか)
「これでいいんでしょう」
〈そうそれでOK、スイッチ入れましたよね周波数はこっちで合わせて、よし、この部屋もコントロールできるようになりましたからNo.99のバイオキッドを解凍させますね、この装置だと30分で解凍完了です〉
「そんなに早く出来るんだ」
〈電子調理器と同じ要領ですからね〉
(ふ~ん、この制御盤1つで100人の命を…?)
「ねぇ、あのNo.100は誰か入っていると思うデーターは何も入力されていないの、でも機械は作動してるわ」
〈触らぬ神に祟りなしと思いますけど〉
「AIのくせに神様を怖がっているのだったわね…ねえ…」
〈いくら瞳を輝かせてもNo.100はここでは解凍しませんからね、トラブルが発生したらバイオキッドの命に係わるかもですよ〉
(それは嫌ね、うん?ここではと言っているってことは、別の場所では解凍するのよね、多分冥王星のイノマン研究所あたりでかしら、そういえばイノマンにはアシュラの事もお願いするのよね、もうイノマン様々だよ神様みたいに拝み倒さないといけないのだけど…)
「ねぇキッド、イノマンは今どこに居ると思う)
〈イノマンなら何とかできるかも知れませんけど…そう言えば最近音沙汰がないですね〉
「たぶん仲間ができたからうちに構わなくても暇潰しができてるんじゃないかしら」
(あのまま冥王星の研究所に居るといいんだけど、4年前?になるんだよねジベルは無事に復活出来たかしら…)
〈今こそ助けて貰いたいのですけど、アイリーンから呼び出しできませんか?〉
「イノマンをうちが呼び出すのって何か嫌だわ…」
〈精神的嫌悪感があるでしょうけど、ここは一つ我慢して下さいよー〉
(生姜はあっても仕方がないか…)
「じゃあちょっと外でイノマンに念を飛ばしてみるわね」
〈直ぐに解凍終わりますからね早く戻って来て下さいよ、くれぐれも自分が飛んで行かないで下さいね〉
「五月蝿いわね集中出来なくなるでしょう、扉の直ぐ外に居るから何かあったら声を掛けなさいよ…聞こえると思うから」
(イノマンに念を飛ばしてその後どうすればいいんだっけ…)
〈アイリーン、解凍終わりますよそろそろ戻って来てくれませんか〉
『本当にお前達は私が居ない時に限って面白い事をしている。最近流行りのイジメと言うものか?』
アイリーンの姿のまま扉を開けて入ってきた人物は1オクターブ低い声で話し醸し出す雰囲気も変化してる。
〈ドクターイノマン? … アイリーンの中に精神体だけ飛ばして来たんですか、テレポートして来なかったんですね?〉
『私はここの場所を知らない。だからテレポートで来ることはできない。私はこの娘のような無鉄砲なことはしない。それにまだこの中には私の居場所が微かにだが残っているので強く呼ばれれば楽にやって来れる。精神体だけ飛ばして来たのではなく… まあいいか… それで用件は私の娘が言っていることだけで良いのかな』
〈アイリーンの申し出は、地球防衛基地メインコンピューターアシュラの心を助けて欲しいのと、コールドスリープしているNo.100をここで解凍しても大丈夫なのか判断して貰いたいの2つです。そして僕からはこの船をもっと早く冥王星に着くようにする方法がないか聞きたいです〉
『私は科学者であって船乗りではない。何でも屋と一緒にしてもらっては甚だ不愉快だ。まあ可愛い私の娘が言ってることは考えてみる。その前にまず先にNo.100を見てみるとするか』
〈申し訳ないことを言いました。すみません〉
(イノマンを不愉快なんかにしたら何をされるか分かったものじゃないからな。カエルとかにされるんじゃないかと思うだけでも恐ろしい)




