みんなの思惑 1
艦橋に居る皆の不思議な視線が気になる。
「アイリーンさん大丈夫ですか? スターキッドは宇宙艇の名前です。操縦士の名前を呼んだほうが良くないですか」
(ああそうか、ここの皆はバイオキッドの事を知らないんだ。そりゃぁそうか)
「そうよね何かが引っ掛かるのよねータロウ船長は気付かないですか。スターキッドは今エネルギーカットして慣性飛行してるんじゃぁないかしら、もしかしなくてもトラブルが起きてると思うのよねー、ちょっと見に行ってもいいですか」
(いいですかじゃなくて、行きますだけどね、出きれば穏便にしたいから…お願いします)
「そうだね、あの宇宙艇が正常な状態でない事は確かだ。ビーコンもナビゲーションライトも出していないからね。でもどうやって行く気ですか」
「もっと近づいてもらえますか、そしたらマグネットアンカーを打って綱渡りの訓練通りにやります」
「アイリーンさん駄目ですよ、あの訓練は地上での緊急脱出方法だった筈です」
「大丈夫、うちはもっと危険なこともクリアしてるから」
「意味が良く分からないけど他に考えてる時間もないようだしそれで遣ってみますか、レスキュー隊の出番だな」
(タロウ船長は頭の回転が早くて助かるわ)
「うちがやるよ言い出しっぺだからね、それに生体認証とかもあるからさっさと終わらせて戻ってこれるよ…お願いします。やらせて下さい」
(言い方間違ってないよね、うちが行ってバイオキッドに直接謝らないといけない気がする)
「そこまで言うのなら仕方がないですね。レスキュー初級ライセンスの授業は受けてましたね、あと綱渡りの経験はありますか」
「倉庫でスラックラインしたことがありますから絶対大丈夫です」
「スラックラインはちょっと違うけど、まあ良いでしょう。それでは宇宙服とかの準備をして下さい。こちらはマグネットアンカーの準備が出来次第スターキッドへ射出し連結しておきますね」
「ありがとうございます」
(何か、さっきから艦橋の皆の視線が気になるのよね、何なのこの気の毒そうな眼差しは)
このエムナンバー宇宙船の特徴は船体が普通以上に大きいこと、船内居住区画が1キロメートル毎に区切られ、それぞれが独立した機能構造になっていてエアハッチも各ブロック毎に設けられている。
あとは諸々の母船としての機能が備わっている分だけ戦闘能力が低い。
艦橋に居たアイリーンは艦橋ブロックのエアハッチから出て行った。
宇宙遊泳は訓練で何回も遣らされたが実践はこれが初めてなので少し緊張する。
「移動用マグネットアンカー射出完了、これよりスターキッドへ入ります」
(テレポート使えたら良いんだけどまだ時々失敗するのよね、1つの事だけに集中するってのがあんなに難しいとは思わなかったよ。うちはもしかしたら気が多い乙女なのかもしれないわねって何よこれ、完全停止状態なんてもんじゃないわ完全氷漬け状態じゃないコクピットの操縦席は…良かった見えるわね)
「ブレイン音声入力緊急解除指令、パスワード〖アイリーン〗テレポート禁止解除パスワード〖跳びます〗」
(跳んで中へ入らないと手間と時間が掛かり過ぎるわ)
〈ブレイン入力確認パスワード確認、承認実行します。完了しました〉
(あれだけしっかり見えてれば大丈夫よね…)
『うちはキッドの操縦桿を握っている!』
(うん、スターキッドの操縦桿よね間違いないわ良かったっと。AIの再起動開始してっとキッドだからキット大丈夫よね、なんちゃって… 一人だと思った以上につまらないわね)
〈ぴぴヴィーン、あ、あ、アメンボ赤いな赤トンボ… そこに居るのは愛ちゃんですか?キャィ~~ン〉
「AIキッドよねあんた大丈夫? うちのこと分かるよね、アイリーンだよ」
〈その呼び方はやめて下さいと何回もお願いしましたよね。あれ? 何時のことでしたかな〉
「大丈夫みたいだね」
〈ちょっとアイリーン何処をどう見たら大丈夫って判断出来るんですか!〉
「ほら、大丈夫じゃないバイオキッドはどこに居るのよこんなにしてから、もうとっちめてやらないと気が済まないわ」
〈僕の人型外部端末はここには居ませんよ話せば長くなりますが…〉
「ちょっと待って、緊急通信が入ったわ」
(ヘッドセットはいつもの場所に、あったわ、良かった昔のままで)
〈はい、こちらアイリーン感度良好、はいメリット5です〉
〈・・・〉
〈えっ! もう1度お願いします〉
〈・・・〉
〈そんな事は絶対にありません。何でそうなるんですか〉
〈・・・〉
〈何かの誤解、大きな間違いです〉
〈・・・〉
〈えっ! 絶対に嫌です〉
〈・・・〉
〈そうですか…それでは仕方ないですね。大変お世話になりました〉
「キッド 緊急離脱 全速力で!アンカーは切っちゃって! 早くして」
〈ラジャー、でも今はまだ半分の出力も出ませんけどそれでも全速力で頑張ります〉
スターキッドはアイン星人のエム78を蹴飛ばすようにして離れて行く。
その光景は宇宙の深淵へ沈んで行く戦いに敗れた落ち武者の様にも見えた。
アイン星人が所有する冥王星所属母船、エム78の艦橋でひそひそ声がしている。
「アイリーンは無事に離脱したかい」
タロウ船長が小声で索敵士のラビット星人ウインに問い合わせた。
「本船のほぼ真下方向へ加速中、距離21… 22… 25万km」
ウインは淡々とスターキッドの位置を読み上げる。
「可哀想、彼女は泣いていましたよ」
通信士のダック星人カナルさんが同情一杯の声で独り言を言う。
「仕方ないさこれが最善の方法だ。これで我々の連盟に対する義理は果たした。拘束するようにとの命令は果たせなかったがね、私も船長の座を剥奪されて何処へ飛ばされるのやら」
アイン星人タロウ船長は『さて、これからが面白くなりそうだ』と目を輝かせた。
「そこまでしたのですから後でアイリーンさんには恩を着せましょうよ」
アイン星人操舵士ハナコはアイリーンとスターキッドを仲間に引き入れる算段を始めている。
「聡い彼女の事だ私たちの言い回し方に気付いている頃だろうよ」
タロウ船長はそう言いながら船外モニターを見詰めていたが、暗い宇宙の中でアイリーンが飛び去って行った軌跡を見つけることは出来なかった。
バイオキッドがいないスターキッドの操縦席でアイリーンは泣き伏している。
〈アイリーン…エム78との通信聞いてましたけど、いつまでも泣いていては駄目ですよ彼らには大人の事情があったと思いますよ。だから追って来ないでしょう〉
「誰が来たってキッドに追い付ける訳ないでしょうエネルギーの無駄遣いだって分かっているから来ないのよ」
(一体誰ようちの事を地球人類のスパイだなんて言い出したのは、タロウ船長も何でもっと早く言わなかったの2年も経ってからなんてスターキッドに乗り込んでから言うなんて、言い訳もままならないじゃない?もしかしてスターキッドに乗り込んだからなの、うちがスパイになったのって)
「うちが悪かったのよ、テレポートだけを封印すれば大丈夫だと思っていたからね、アポーツのことをすっかり忘れ去ってたなんてもっと真剣に考えるべきだったんだわ」
〈いいえ、あのまま地球方面へ進んでいたらエム78の人達と一緒に地球側に寝返った反逆罪で拘束されていたかもしれないです。早目のタイミングでアイリーンがエム78から逃げ出すのが一番良かったんですよ〉
「どうしてこんな目に合わないといけないのよ、うちが何をしたって言うの」
〈成富支部長が言ってましたよね、宇宙人狩りが行われているって、その情報は宇宙基地へ伝わってなかったんですよだから僕たちも知らなかった。知っていればもっと注意してました〉
「だからどうしたって言うのよ」
〈あの時、日本支部へ降下した軌跡が地上の地球人類のレーダー監視網に引っ掛かって、日本支部が宇宙人狩りの標的になって壊滅したんです〉
「えっ、どうしてさ支部の皆は地球人で日本人だったよね、誤解だって直ぐに分かりそうなものだけど」
〈宇宙人狩りをしている人間は狂犬と同じでした。説明も何もないままいきなり破壊行動から始まったのです。弁明なんかする暇はありませんでした。本当に逃げるので精一杯って感じでした〉
「だからうちがスパイだって事になったのね、悔しいわ…それでみんなは無事だったの支部長は?」
アイリーンは拳を握りしめたまま涙を流し出す。
〈アイリーンが久留米市内へ出掛けたあと成富支部長はスターキッドを見学しようと来ていたんです。結構楽しそうでしたよ〉
『ふ~ん、これが世にも名高いスターキッドと呼ばれる光速宇宙艇ですか、外観もだけど中も今一つパッとしないですね、あの娘の性格からしてもっと煌びやかにしてるかと思ってました』
コクピットに入った成富支部長が独り言を言う。
《あふれる機能美、優れた性能、感情豊かな人工知能を備えたスターキッドへようこそ成富支部長》
スターキッドAIがおべっかで返事する。
『あなたがAIキッドね。宜しく』
《 僕こそがスターキッドのAI宇宙唯一の光速宇宙艇スターキッドの頭脳、そのようなオモチャみたいな名前で呼ばないで下さい。僕の人型端末は同行してないのですか》
『あのバイオロイドがあなたの自立型外部端末だとは納得出来たけど、あの子がするこれ見よがしの演技には耐えられなかったの、だから部下に相手をさせているわ、バイオロイドに演技をさせたら駄目ね裏目に出て後が大変になるわよ。そうねあの子…ああ、アイリーンちゃんのほうねここに来るまでに色々あったみたいだけど何か言ってなかった?』




