夢オチなんかにはしないでよね
アイリーンはペガサス族テンマさんの背中で縮こまってる。
何てったって真っ暗闇ではないにしろ着の身着のままで宇宙に出てるのだから。
(えっ、本当だ息ができる。普通に居られる、それにこの感覚には覚えがあるわ…思い出したくないけど)
アイリーンは以前、宇宙空間へテレポートして裸で泳いだことがあるのでその時の記憶が掠めたのだろう。
「敵は1機だけみたいです。おっ、警告もなしに撃ってきましたね、これで完全に敵になりました。分かり易くて好きですよこういうの」
この状況を好きだと言うこの人のことを危険な人なんじゃないかと思ったけれど、背中に縛られているんじゃあどうしようもない。
「大丈夫かなぁタロウ船長」
「大丈夫ですよバリア張っていますからね。短時間で先制攻撃をさせる手腕を持っている方なんてそうそう居ませんよ。有効な挑発の仕方を心得ている歴戦の強者かも知れませんね、今の攻撃も牽制攻撃みたいだったでしょう」
「分かるの?船の向う側だったでしょう」
テンマは昇降口から宇宙へテレポートした後、直ぐに船壁に沿って敵と反対側に回り込んでいた。
「宇宙の色がオレンジに光ったでしょう、あの色は爆発時のエネルギー拡散が低い時なんですよ『早く降参しないと今度は本当に痛い目に合わすぞ』と脅しているのです」
「ちょっとだけ見れないかなぁ」
(危険なのは十分わかっているしテンマさんがうちの護衛をしているのも分かってる。ここは母船を盾にして見つからないように逃げるのがセオリーなのも分かっているのだけど一目見たいと心が騒ぐの、こう言う時は心の赴くままに行動したほうがいいって知っているの)
「ちょっとだけよ…ですよ」
テンマさんはそう言って船底に移動して行く。
敵は伏角45度で迫って来ているので多分、上方に掠めて行く公算が高い。
船底から覗いた時に、敵はちょうど急上昇に転じている所だった。
アイリーンは一目見て叫んだ。
「キッドォーー? ! あんたこんな所で何やってるのー、こっちに来なさい!!!」
力一杯叫んだものだから目の奥がスパークしてチカチカしていく。
「起きて、おきて起きなさいアイリーン」
頭が痛い遠くから誰かが呼ぶ声がする。
薄ぼんやりした声がだんだんはっきり聞こえてきて『ああ、起きなきゃ』と思う。
「いい加減に起きなさい!アイリーンさん!叩きますよ」
(イタタ・・・)
キツネ顔のフォックス先生の手には竹製の定規が握られていた。
「頭が痛いのですけど」
「気のせいですよ顔を洗ってきますか」
「大丈夫です」
「だったら、せめて涎の跡を拭いて下さい」
「あわわ、何故かしら」
(夢?だったんだよねさっきの…スターキッドが悪の組織に入っているの?騙されているんじゃないのかしらとても気になるわ)
「ちょっと目を離すと直ぐ寝てしまうのは悪い癖ですよ直すように努力して下さいね。では質問の答えを言って下さい」
「三平方の定理とピタゴラスの定理についてなら同じものですから『違わない』です」
「アイリーンさん何を言っているのですか」
「先生がさっき私に質問した答えですけど何か」
「ちょっとあなた、夢の中で別の授業を受けていたのね少し詰め込みすぎたのが悪かったのかも知れないわ、今日の授業は終わりにしましょう。夕食までゆっくりリラックスして休みなさい。それじゃあまた明日」
そう言うとフォックス先生はバタバタと教壇の上を片付けてしまった。
「ありがとうございました。また明日」
(うちには今日と同じ明日がまた来るけどキッドはどうしているかしら、うちに捨てられたと思ってダークサイドに堕ちていなければいいけど)
〈緊急連絡、全乗組員へ連絡する。所属不明機が当船と並走中です。突然… いきなり出現しました。現在所属を確認中ですが緊急対応シフトBを取って下さい。繰り返します……〕
(予知夢? 正夢だったらどうしよう)
辺りを見渡すけど誰も居ないし気配もない。
空をはたいたり蹴ったりしても反応がない。
(ペガサスのテンマさんは夢の産物だったのかしら、走っていたら声を掛けてくれないかな~)
アイリーンは走り出す。
(これは現実なんだ。3キロなんて直ぐじゃない毎朝ランニングしてるでしょ)
「ハア、ハア少しスピード上げただけでかなり疲れるわね、ハア」
「乗って行くかい?」
(来たーやぁぱり正夢、あれ?でもこの声って)
横を見ると宇宙科学を教えてくれているバード星人のアウルさんがスノーボード見たいな板に乗って浮いた状態で並走している。
走るのをやめるとアウルさんも止まってくれた。
(止まっても浮いているよ、どんな仕掛けなんだろう)
余程物珍しそうに見ていたんだと思う。
「初めて見ますか、これはアンチボードですよ」
手を引かれたのでボードに乗りながら尋ねる。
「どうして浮いてるの?」
アウルさんは少し躊躇ってから答えた。
「詳しくは物理学のエリダ先生に聞いて欲しいのですが、簡単に言うと私達が宇宙船の中で普通に立っていられるのは重力制御装置の働きによるものだとは知っていますね、この板はそれに反発するんです。その制御装置を組み込んでコントロールしているのですよ」
「ふ~ん、おっとっとこれってバランス取るの自転車より難しいね」
「自転車の荷台に乗ったつもりで逆らわないで下さいね。行き先は艦橋で良かったですよね」
「お願いします」
(まあまあ、乗り心地は良いけど立ちっぱなしは少し足が痛くなるわね)
などと愚痴ってる間に艦橋へ着く。
「それじゃあ私はこれで失礼するよ、艦橋に入る資格を持っていないからね。何をする気か知らないけれど無茶な事だけはしないでくれよな。頑張れ!」
「うんわかったー、ありがとう努力するよ」
艦橋に入るとかなり慌ただしかったのだけど、うちの姿を確認すると急に静かになった。
(部外者が勝手に入って来たものね、摘まみ出される前にタロウ船長を見つけないといけないわ、さてどこだろう)
「アイリーンさん? いまここに来られると邪… あ、危ないですよ。いくら相手が小型艇でも脅威には違いないのですら」
(あっ居た、そしてすごく邪魔者扱いされた。 その通りなんだけど。え~っと外部モニターはっと)
「あっ、やっぱりスターキッドだわ!」
思わず叫んでしまう。
夢の中でスターキッドを呼び付けたのが本当になったんだと思う。
「タロウ船長あれは連盟の… キャプテンライトが船長をやっていた時のドロンパ号の搭載機スターキッドなんです。うちと地球で生き別れになってしまってたんです。うちがさっき呼び寄せたみたいなんです。この船に着艦させてもらえませんか。どうかお願いします」
(スターキッドだ、スターキッド、キッド会いたかったよ~)
頭の中がスターキッドで一杯になってしまって船長に何て言ったのか良く覚えていない。
ただ、バイオキッドに早く会って抱き付いて謝りたい、そして許してもらいたい。
「生き別れ? 呼び寄せた? 噂に違わずアイリーンさんは本当に奇抜なお方なのですね。これまでの2年間とこれからの3年間は相変わらず私を悩ませてくれるのでしょうかね」
「弟みたいに可愛がっていたのですよ~、優れたAI搭載機なのです。うちの命令は良く聞きますのでどこか適当な発着場借りれませんか」
「操縦者が誰か分かりますか」
「ちょっと呼び出してみたいのですけどヘッドセット借りれますか」
「カナル通信士アイリーンさんが外の飛行艇の操縦士と知り合いらしい。通信を宜しく頼む」
タロウ船長が指差すほうを見ると手を振っている女性がいる。
(あの人が通信士のカナルさんよね、アヒル口の所を見るともしかしたらダック星人ねグース小隊長と知合いかも知れないわ、後で聞いてみるとして… 仲良くなったらあの嘴に触らせてくれるかしら)
「オールグリーンで~す船長。アイリーンさん私の側にどうぞ来て下さい。呼び出しは私がします。少し待ってて下さい」
〈こちらはアイン星人冥王星駐屯所所属マザーシップエム・78、スター・キッド応答せよ〉
〈……〉
何も返って来ない。
「変ですね、返事がありませんよ」
「うちに貸してもらえますか」
通信士のカナルさんはヘッドセットではなく固定マイクロフォンで少し大きめの声で話していた。
このほうが艦橋に居るほぼ全員にやり取りの内容が伝わるので初動遅れの防止に繋がる。
小柄なアイリーンはカナルさんの前に潜り込みマイクの前に立つ。
「こちらアイリーン、スターキッドどうぞ…こちらアイリーンよ何してるの聞こえてるんでしょう返事しなさいよ…キッド聞こえているんでしょ!」
アイリーンの顔に不安の色が広がっていく。
ほぼ毎朝、顔を洗って歯を磨きながら手作りのカレンダーをチェックしている。
(日本支部で別れてうちの体内経過時間は2年半なんだけど、キッドとは6年半も別れたままになっているのよね、おまけにかなり不利な状況で置いてけぼりにしちゃったからなぁ、更に… なのよねキッドがここに居るのは多分うちがアポーツで引き寄せたに違いないのよね、キッドが何かしていたかもしれないのにいきなり強制召喚させられて怒っているのかも知れないわ、これはかなりやばいわね)
「キッドご免なさい謝るから許して下さい。機嫌直して下さい…?」
(おかしいわ何か絶対におかしい)
アイリーンが一度カナルさんの前から抜け出してスクリーンに写し出されているスターキッドをじっくり唸りながら見ていた時、自分に向けられている視線に気付いた。
(何で皆うちを見てるのかしら、それも悲しい目をして?)




