恒星間宇宙 2
レッドフラックス5名の隊長はそれぞれに与えられた4隻の艦船に乗り先行していると思われる1番艦シルバーシップを追っていた。
4番艦が先頭で3、5、6番艦と雁行陣形で航行している。
「ほうら、やっぱり先に居たでしょう」
3番艦のサイトウがシルバーシップを現認すると得意気に言った。
「皆も同じ事を言っていたじゃないですか」
5番艦タケダが神経質気味にサイトウを窘める。
「我はその様な些事なことに意見した覚えはないがな」
4番隊イシカワ隊長が一緒にしないで欲しいと言いたげに睨む。
「そちらへ行っても良いかな」
3番艦のサイトウ隊長は主語を抜いたが、何処へ行こうとするのか分からないようなボンクラ隊長は誰一人いない。
「我も行くぞ」
「皆も行くに決まっているでしょう」
今は自分の艦を持っていない名前だけのバッハ隊長代理は『お前は来なくて良い』と言われるのが怖かった。
乗艦を失い隊員の数も減ったけど2番隊はまだ健在だし何よりナガクラ隊長の意志を繋ぎたい。
隊長代理の肩書きは他の誰かと交代してもいいから2番隊だけは存続させたいと願っている。
強く願っていたからだろう知らない内にうつむいて立ち尽くしていた。
どのくらい時間が過ぎたのだろうか近くでイシカワ隊長の声が聞こえて来る。
「ほら行きますぞ、何時までも立ち尽くしておると電柱と間違われて犬にションベン引っ掛けられますぞ」
(艦橋の中でそんな事ある訳がないでしょう)
そう思いながら顔を上げるとイシカワ隊長が、いつの間にかバッハ隊員代理の隣に立っていてごつい手を差し出してくる。
その手に白いタオルが握られているのを見て我慢できずに笑いを吹き出してしまった。
「失礼であろう」
イシカワ隊長が憤慨する。
「だって、普通はハンカチでしょう」
大粒の涙がさっきから頬を流れ落ちていく。
俯いていた時の涙で足元が丸く濡れていて、さっきの言葉を思い出し犬のおしっこ見たいだなぁと思う。
「そんな、ハイカラな物は持ち合わせておらんよ、ほらこれでさっさと涙を拭かれよ、我が泣かしたと思われては叶わなんからな」
イシカワ隊長が渡してくれたタオルから優しい香りが漂っている。
(嘘でしょう)
僕のために持ってきてくれたのかなと思って見上げるけど見事なポーカーフェイスを崩していない。
「僕も一緒に行っていいのかなぁ」
涙を拭きながら上目遣いに見上げる。
「あ、あ、当たり前の事を言うでない」
イシカワ隊長のポーカーフェイスが崩れて頬が赤くなっていく。
涙を拭き終えたタオルを渡しながら勝利の笑顔が広がっていくのが分かる。
「洗って戻さなくていいよね」
(僕にはタオルをあそこまで、ふわふわでいい香りがする様に仕上げる事は不可能だからね)
「構わぬともさ」
2人して連絡艇に乗り込みサロメが待つ旗艦シルバーシップへ向かう。
「遅かったな」
シルバーシップの娯楽室に先に着いて待っていた3人の仲間が其々の思惑を込めた眼差しで射貫いてくる。
シルバーシップは攻撃艦でありながら食堂、娯楽室、個室等を備えた贅沢な造りをしていた。
「待たせて仕舞いましたかな、皆さん方は私的な集まりと心得ていました故、時間を気にしませんでした」
イシカワはしれっとしていれば流してくれないかなと期待する。
「そうだな特に召集を掛けなかったが皆は心得ていると勝手に思い込んでいたけど…な」
サロメは辛辣だった。
「まあいいみんな無事に揃ったことだし、お二人を除いた者には説明が終わったところなので掻い摘んで話すと、2番隊の戦死した者達へ改めて哀悼の意を伝えた。あとイノマンが詳しく教えてくれないのだが時間をくれと言って部屋に籠っている。何をする気か分からないけど私は許可するつもりだ。意見があるなら聞こう」
サロメは二人を交互に見詰めたが自主的に発言する者達でないことを思い出して改めてイシカワを見て促す。
「我は総隊長に従うのみ」
次は自分の番だろうと思ってバッハが口を開く。
「イノマンが考えている事なんか僕には理解できないから、人殺しをする企みでないなら構わないと思う」
「戦争なんだから人殺しはするだろうよ、そしてそれを効率よく実行するための計画を考えることを戦略を練ると言う、イノマンが籠っている理由はそれさ…多分」
サロメにはイノマンが何を考えて何をやろうとしているのかさっぱり分からないけど、裏切られた事実を突き付けられるまでは絶対に信じ通すことにしている。
「僕は自由解放活動をしませんかと言う街角勧誘に共感して入隊したんだけど」
バッハは、人を効率よく殺す為の計画を立てる事とかには係わりたくなかった。
「ああそうだった、自由解放活動だ思い出させてくれてありがとう初心を忘れていたよ」
「私がどうしたって」
突然扉が開いてイノマンが現れた。
イノマンの言葉に重なって子供の声がする。
「ここが秘密結社組織ダークネブラの本拠地ホースヘッドネブラだわ!やっぱりムチ女あんたがボスだったのね!ここが年貢の納め時ようちがこらしめてあげるんだから観念しなさいな!」
イノマンの後ろに隠れたままアイリーンが叫ぶ。
皆が予期せぬ出来事にド肝を抜かれる中サロメは平然としている。
「ここは私達自由解放組織レッド・フラックスの旗艦、高速戦艦シルバーシップの中よ私はサロメ幹部の1人だからね、今度ムチ女なんて言ったらタダじゃあ済まさないからね。お嬢ちゃんもここに居たいのなら私に従うことね」
残りの4人は顔を見合わせ、勝手にひそひそ話を始める。
(我らはいつ自由解放組織に名称変更したのかな、それにあの可愛い女の子は誰なのか誰ぞ知り得ないか)
残りの3人は首をブンブンと横に振り意思表示した。
「分かったわおに、パ、イノマンも居ることだし大人しく仲間になるわフン。それでうちの任務は何?ヘンリエッタが持っているようなサブマシンガンを与えてくれるってんなら誰でもヤルわよ」
イノマンは少し慌てた。
(頼むからこんな所でお兄ちゃんとかパパとか絶対に口走らないでくれよと心の中で叫ぶ『誰でも殺るわよ』は他愛ない戯れ言と思っていいだろう)
「お前にはいつか玩具のPS90を買ってやろう」
イノマンが焦って口を滑らせてしまう。
アイリーンは少しふてくされた。
(この人も、うちのことを子供扱いするのね、早めにうちが大人であることを教えてあげないと駄目ね)
「イノマン、どういうことなのか私に分かるように説明して下さる」
サロメは体調不良が振り返すのではないかと不安になっている。
「お前達が理解出来るように説明するなど難しい…無理だな。だけどこれから行おうとしている事を強引に言葉にすると4番艦を1、3、6番艦で撃ち抜いた次の瞬間、残り四つの艦は冥王星に到着している。これで分かるかな」
今回の発言はイノマン名言集のトップ3に入るのではないかと思われるくらい難解、奇抜、意味不明だった。
「何を言っているのかさっぱり分からない、多分説明されたとしても理解出来ないだろう。簡単に言ってしまえば4番艦を爆破したら冥王星に着くと言うことで良いんだな。このままの速度だと到着まであと7年は掛かってしまう。コールドスリープで年は取らないが太陽系の情勢は大きく変化しているだろう。時すでに遅しになるのは嫌だ。太陽系に向けた時差が発生しないワームホールでも見つかると良いのだけど」
「私達にとってそんなに都合のいいことはヤルダバオトが許さないだろうよ」
「あんたは『善行を積んでいれば神が味方をしてくれたんだろうがな』とか言い出すんじゃないのか?」
サロメはイノマンがやろうとしている事を悟ったように思う。
「その通りだ。いつも神を身近に感じていると全ては結構上手く行く。無理だと思う前に実行してみることだな今回はワームホールを人工的に発生させる。そのためには6番艦の主砲で撃った陽子エネルギーを5番艦主砲で渦磁束発生させて4番艦を指向性爆発させる。似た物は既に存在していて奴等は〖うずしお〗とか呼んでいたがな」
(やっぱり何を言ってるのかチンプンカンプンだ。だけとイノマンのことは信じてる…彼は私に取っての神かも知れない)
イノマンはサロメの気性をよく知っていてこの話には乗ってくると確信している。
実はもうアイリーンを連れ戻す時に光子ロケットの自爆タイマーをセットしてきてるので後戻りは出来ない。
サロメはこの広大な宇宙を闊歩するのに普通の人間の歩幅で考えては駄目だなと改めて認識させられている。




