恒星間宇宙 1
いて座オメガ星のアルカトラ刑務所からジベルを無事に救出したのはいいけれど、ビックローのスパイ活動により2番隊5人の命を失いその後も不利な状況に追い込まれつつあるサロメたちは起死回生を目指して次なる作戦行動に移っていた。
蛇使い座バーナード星にある本拠地へ帰る途中の集合場所で後続艦の到着を待っていた1、3、6番隊はその場に1番隊のシルバーシップだけを残して後続艦に合流するためアルカトラ刑務所方面へ航行している。
全速力で航行している低速の2番艦、固有名称なしの揚陸艦を護衛しながら全速力の半分以下のスピードで皆が待つ集合場所へと向かっている5番隊隊長のタケダは高速通信で新たな命令を受けていた。
『作戦変更についての連絡、6番隊通信士のビックローが連盟のスパイだった事が判明して問い詰めたところ、ここに連盟の大艦隊が包囲網を築く様に進行してきているとの情報が得られた。そこで全艦隊はアルカトラ刑務所へ向けて全速力で戻る。 逃げるのではなくあくまで作戦上のユーターンであることを肝に命じ士気を落とさないように。その際、敵の攻撃が刑務所に向くように航行し後ろから易々と攻撃されないようにする。アルカトラ刑務所到着までに2番艦に積載されている物資の中から絶対必要とされるものだけを4番艦と5番艦へ分けて積み込み乗組員も操舵士を除いて分乗させる。2番艦操舵士ホンダはアルカトラ刑務所上空まで操船して、その後2番艦を刑務所突入コースへセット後にポットで脱出する。3番艦隊長イシカワは確実にホンダが乗っているポットを回収して速やかに艦隊へ合流すること。
連盟艦隊がアラカトラ刑務所へ特攻している2番艦、これは揚陸艦なので無視出来ない筈だ。だから我々への追尾が中断される…と思いたい。連盟の追撃を逃れた後は太陽系冥王星に向かう。以上の事を理解して今後長距離無線は使わないこと』
新たな命令発令後2番艦内では必要な物とそうでない物を分別しながら5番艦に移動する作業に追われているのだが、それぞれの担当者間で、いる、いらないの問答が始まり喧騒な状態になってバッハ隊長代理を呼ぶ声があっちこっちで上がりだす。
サロメが乗艦する1番艦シルバーシップはそのまま集合場所に留まり、3番6番艦より排出した廃棄物を上手い具合に並べてダミー艦隊を造り連盟艦隊の進行を少しでも遅らせる算段をしていた。
その間最後の遠距離通信を行いバーナード星系にあるレッドフラックスの本拠地である人工惑星の軌道修正用エンジンを起動させ基地の移動を命じる。
(敵に攻撃されてなければ逃げ延びるだろうし、そうでなければ諦めるしかない、これはもう戦争だ)
2番艦の乗員10名はバラバラになりたくないと上申して来たので4番艦に全員受け入れ、資機材は全て5番艦に運び込む事になった。
乗員が2倍近くになった4番艦内では、人手に余裕が出来てお喋りが増えてしまう。
「あのコウモリ顔のビックローがスパイだったのか」
「いや、奴は顔の造形手術を受けて相当な美男子になっていたらしいぞ」
「じゃぁ最初からキャプテンに取り入る腹だったんだな」
「キャプテンが面食いと言った話は聞いたことがないな」
とか。
「アルカトラに着く前に連盟艦隊が追い付いてきて艦隊同士の接近戦、ヘタをすれば白兵戦になるんじゃないか」
「1番隊が後方で連盟艦隊を撹乱して時間稼ぎしてくれるから大丈夫らしいぞ、何しろ銀河一早い装甲攻撃艦シルバーシップだからな」
「2番艦とはお別れだな、やっぱり揚陸艦の寿命は短いや」
「鈍足だからな、仕方ないさ敵中にあっては良い的になるしね」
とか、様々なささやき声があっちこっちから聞こえてくる。
「あーあ、みんな、静粛に我は4番隊隊長のイシカワである、皆のお喋りが艦橋まで聞こえて五月蝿いので対処して貰いたい。それとこれより1年間の準光速に入るので皆も熊の様な冬眠の準備に入ること。以上」
イシカワにしては珍しく冗談を言ったつもりなのだが意味不明すぎて誰も反応してくれない。
結局、何だったのかと言えばどこかの誰かが艦内放送のマイクスイッチを切り忘れてるのでスピーカーから取り留めなくささやき声が流れ込んで来るから切り忘れているスイッチを見つけて切って欲しいと言う事と、各自カプセルに入ってコールドスリープするようにと言いたかったのだった。
「イシカワ隊長、誰も理解してないようですから言い直して下さい」
ダイスケ参謀が横からもっともらしく進言しながら皆が分かってくれてたら良いんだけどと思う。
そして今から3時間程前連盟艦隊が包囲網を展開させながらサロメたちの集合場所にアメーバが補食するときの様に覆い被さってきた瞬間、シルバーシップは解き放された矢の如く飛翔しアルカトラ刑務所に向けて加速を続けた。
連盟艦隊がシルバーシップの後を追ってアラカトラ刑務所の様子が探知出来る範囲に入った頃、2番艦の操舵士ホンダは突入開始のスイッチを入れて脱出ポットに乗り込み3番艦に回収される。
揚陸艦が刑務所へ特攻している事を知った連盟艦隊の隊長は青ざめた。
大気の薄いオメガ星にあんな物を落とされた日には、どれ程の被害が出るか分かったものじゃない、隊長の責任問題で艦隊の解体の危機にまで発展しかねない。
そんな矢面には立たされたくない、サロメたちには逃げられましたで言い訳出来るが、宇宙連盟の共同刑務所があるオメガ星が破壊されましたと言って済まされるわけがない、だから全艦隊をもって攻撃して地表に落ちる前に粉々になってもらう。
「全艦隊、前方の揚陸艦に向けて一斉射撃開始!ボルトの1本たりとも地表に落とすな!」
連盟艦隊隊長は、ありったけの声を張り上げて命令を下した。
連盟艦隊が2番艦、名もなき揚陸艦の破壊に手間取っている間にシルバーシップは悠々オメガ星より遠く離れ準光速航行の最中にある。
この時はまだ誰もシルバーシップが他の艦隊を悠々と追い越して行ってしまった事を知らない。
道程は極めて順調だったけど各艦共に準光速での恒星間航行など想定していなかったので、1年を目安に点検する事にしていた。
シルバーシップが丁度1年を航行して通常速度に移った時、周囲に盟友が見当たらずコールドスリープから目覚めたばかりのサロメは少し焦る。
『光速の87%速度で良かったよな』
ボソリと独り言を漏らしたのを、参謀は聞き逃さない。
「サロメ隊長、航行速度は光速の78%と記憶しているのですが、もしかして87%にセットしましたか」
「まったくその通りだな、しかし、体制に影響はないはず、暫く待てば良いのだ」
「違いますって、途中で追い越すようなことがあると、シルバーシップの進路上に盟友が居ても回避不可能なんですから、ぶつかって原子に還ってしまうところだったんですよ、私はそんな死にかた嫌ですからね」
「お釜にこびりついた飯粒みたいに過ぎたことをねちねち言うんじゃないよ、結果良ければ全て良しでいいではないか、さて、私はジベルを見舞って来るから後を頼む」
(隊長らしいと言えばそれまでですかね)
参謀は独り愚痴る。
レッドフラックスの面々は準光速で1年間航行した集合場所にジベルとサロメが乗艦してる1番艦シルバーシップが居ないことに不安を感じた。
「何か事故に巻き込まれたんじゃないだろうか」
神経質で心配性の5番隊タケダ隊長がみんなの不安を煽ってくる。
「シルバーシップの事だから先に行ってるんじゃあないですかね。まあ私達より後から来ることなんか考えられませんから。然もなければ…っと口が滑ってしまいました。」
何でも彼んでもスパッと切って捨ててしまう3番隊サイトウ隊長らしい言い草だ。
「さあ皆、ここでじっとしとる訳にはいかんだろう先に進もうではないか」
4番隊イシカワ隊長が提案し恒星間巡航速度で前進することになる。
待機状態で待っているシルバーシップが各部の点検を2日間かけて念入りに行い、何処にも不具合は見つからず安堵して待つ事40日、漸く盟友たちがやって来た。




