超能力少女なんちゃったりして 1
マウス星人ハツカ教官はアイリーンが操縦する練習機の後部座席から指示を出していたのだけど繰り返し行なわれる急旋回のせいでついには失神してしまった。
アイリーンはハツカ教官を見舞うためにライフスター第4層にある商店街まで下りてお土産用のチーズケーキを仕入れてる。
主任教官室から出てきた所で声を掛けてきた、日頃から仲良くしてくれている女性教官の助言に従って行動しているところだった。
(何で表層の模擬野戦病院なんかに居るのよ、気付け薬だけで回復したってことよね大したことがなくて良かったんたけどさ、お陰でだいぶ時間を食ってしまったわ)
時間が思ってた以上に掛かったので急ぎ足で向かう。
病室のドアを開けると同時にハツカ教官のお説教が始まった。
「アイリーンさんあなたには十分反省してもらいまちゅよ、まず教官の言うことをしっかり聞いて確実に実行出来るようになってもらうっちゅ。あなたはまだ幼いので座学による学識の詰め込み教育は可愛そうだっちゅう意見が多かったでちゅから免除されていたのでちゅけど、こんなに自由奔放されては何人もの教官が自信喪失になるだっちゅ。だから、これからは座学で常識を身に付けてもらうちゅ。あなたは、常識を身に付ける前に操縦技術を覚えてしまったでちゅから、ここからが大変でちゅね。辛いと思った時は今回の事を思い出し反省して乗り越えるっちゅ、それが出来たら大人の仲間入りでちゅね。しかし、このカリキュラムには不自然な点が幾つかある見たいでちゅから私はちょっと調べようと思うちゅ、あっ、アイリーンさんには関係ないことでちゅから関心を持たないちゅよ」
「言い訳はしたいけどしません。この次は指示をちゃんと守りますのでこれからも教えて下さい。ごめんなさい」
「それは上が決める事っちゅ、機会があれば再会出来るっちゅよ」
(あーあ、お見舞いのお土産はやっぱりレア・パンチーズケーキにしとけば良かったのかなぁ、このままじゃぁどうしても自室軟禁は避けられそうにないかぁ、嫌だなぁ最近1人でいると初めて宇宙から見た地球の事ばかりを思い出すんだよな… お兄ちゃんと一緒に見た暗い宇宙の中で青く光り輝く地球だよ、懐かしいなー今すぐにでも行きたいなーあの場所へあれ… 立ちくらみ?目が回る…)
「き、キッドぉ~助けて…」
バイオロイドキッドはスターキッドの副操縦席で縮こまって耐えていた。
「水圧2400気圧に上昇、大丈夫ですか~」
検査員が情け容赦なくインカムから問い掛けてくる。
「健康診断でこんな事をするって聞いてないよ~」
バイオキッドは涙目になっていた。
朝から3時間ぶっ続けでいろんな事をやらされ最後は気密プールの中でこんな目に合っている。
「今日はスターキッド本体の耐久力診断すると連絡してた筈ですけど聞いてないですか、でもまああと1時間で終わる予定ですので頑張って下さい」
「え~っ、あと1時間も続けるのですか12時には終わるって聞いていたのですけど、もしかしたら僕は違う所に来てしまってるのと違いますか…同性同名?とか」
「アハハ、宇宙広しと言えども完全人型バイオロイドを外部端末に持つ宇宙艇スターキッドはあなただけです。間違いないですから安心して続きを受けて下さい。水中に居るのはあと30分だけです。最後の30分は質疑応答になります。さっさと終わらせましよう。次は3000気圧まで上昇」
「え~っ、アイリーン助け…」
バイオロイドキッドはインカムが切れてない事に気付き言葉を切ったけど、何が言いたかったか検査員は悟ったみたいで。
「アイリーン訓練生も今頃は訓練宙域で泣いていることでしょうよ、下手すればバラバ…バン…プー」
唐突にインカムの切れる音がした。
「口を慎め大馬鹿者!全てを台無しにする気か裏切り者として処分するぞ」
軽口を叩いていた検査官が上司と思われる男性に胸ぐらを捕まれ怒鳴られている。
「ちょっと、場を和ませようとしただけじゃないですか、そんなにキリキリしていたら却って怪しまれますよ」
「今アイリーンがバラバラって言った?」
「ごめんごめん、だからジョークだって、おじさんジョークじゃ笑えなかった?」
言い争いを始めようとした二人の検査官はバイオロイドキッドの言葉を聞き逃し上手くかわすことが出来なかった。
「ジョークなんかじゃないでしょう。今朝から嫌な予感がしてたんだ。あんた達アイリーンにもしもの事があった時はタダなんてそんなに安く済まされないと思ってろよ」
バイオキッドの激昂によりスターキッド本体がたちまちのうちに赤く加熱していく。
「助けに行くからねアイリーーン!!!」
「スターキッド周囲で加圧水が沸騰してます! 水圧急上昇4000気圧!! 5… いや8000、1万、さらに上昇中、試験室プール耐圧限界突破します。避難指示を出して下さい」
検査官たちが騒ぎ出す中1人の検査主任はモニターに表示される数値を読み解きながら興奮している。
「凄いぞ、素晴らしいどうすればこんなものを造れるんだ、私はどんな手段を使ってでも手に入れるぞ!」
「全員避難!試験室プールで耐圧測定中事故発生、あと数分で爆発します。プールに近い者は衝撃と落下物から身を守ることシェルターの緊急使用も許可します」
さっき怒られていた検査員が火災警報盤の非常マイクを手に取り状況報告と避難を促す。
「ほら私たちもシェルターに入りますよ」
試験プールの水圧は測定限界値を越えていたがスターキッドの加熱は止まらない。
やがて真昼の太陽の様に白く輝き出してその時ついにスターキッドの周囲で水蒸気爆発が起きた。
耐圧試験プールを含む施設全体が加熱中の圧力鍋の蓋を開けた時の様に中身をぶちまけていく。
水蒸気爆発が辺り一面に内容物をぶちまける少し前スターキッドの姿が突然消えた事に気付いた人は誰もいなかった。
暗い宇宙の真っ只中で青く光り輝く地球の姿をアイリーンはボーッと眺めている。
(ここはお兄ちゃんと一緒に宇宙艇の中から地球を初めて見た場所だよね。夢かしら?息してないし裸だし…何で裸なのよ!もし夢じゃなかったらうちはここで死ぬの…裸のまま?そんなの嫌よ!何でキッドがいないのよひどすぎない!)
「キッドーぉーなんでいないのよー!今すぐ来てよー!」
《ジュワッシー》
地球と反対側アイリーンの後ろから聞こえるはずのない音がして振り向くと氷まみれのスターキッドが小刻みに震えていた。
スターキッドの表面では氷と水蒸気の昇華が繰り返されている様子が見える。
氷を一気に蒸発させ発生した水蒸気を回収する事で氷の層を薄くしている様に思う。
「スターキッドだぁバイオキッドも居るんでしょ?」
スターキッドのほうへ泳いで行こうと体を開いたところでハッとしてグッと身を縮め丸くなる。
「バイオキッド!居るんでしょう、こっちに来なさいよって…聞こえる訳ないか」
(テレパシーって…う~んどうやるんだっけ、もうちょっと真面目に勉強しとけば良かったよ~)
『キッドさっさと助けに来なさいよ!』
アイリーンが必死に念じている。
『・・・』
何も起きない。
〈キッドさん… 様、お願いしますから助けに来て下さい〉
スターキッドがじわりと近付いて来た。
(よかったよー本当に良かった)
キッドのお腹の昇降口を外から開けて中に入り辺りを見渡す。
「キッドー、バスローブかバスタオルを持って来てよぉー、気が利かない奴やの~」
喉元過ぎて熱さを忘れるの典型的な態度をわざと取っている様にも見える。
(照れ隠しよ、照れ隠し)
心の中で呟く。
「バスタオルとバスローブ両方必要でしょう。はいどうぞ、それにしても凄いですね僕の莫大なデーターを持ってしても宇宙空間をハダカで泳ぐことが出来る人間が居るなんて知りませんでしたよ、新発見ですね」
「キッド君…記憶を これからも正常に保っていたいなら、さっきのハダカの部分だけでいいから削除しなさいよね、分かりましたか?」
「はい、本件削除済みです」
(秘密の小部屋にしっかり保存しましたとアシュラも言っています)
当然音声にはしていない。
「キッド目が赤いけどそんなにうちの事心配してくれたんだ。嬉しいわー」
「あ、うん、まあそうですね」
(水圧テストが怖くて涙ぐんでましたなんて言える訳がない)
「アイリーンはどうしてここへ、まさか青い鳥になって地球を見に来たとかではないでしょうね、実は僕もどうやって来たのか分からないのですけど、お心当たりがあるんじゃないですか?」
バイオロイドキッドは真っ直ぐアイリーンを見つめている。
(アイリーンが宇宙に出てから5年が経つのかぁ、身体は少しだけ大きくなったみたいだけど地球人の髪の毛の色って成長と共に変化したかなぁ、何かだいぶ脱色したような気がするんだけどいつからかな?)
「アイリーン髪の毛の色いつからそんなになってた?気づかなかったけど」
バイオキッドの言葉が聞こえていないようで別の話しを始めた。
「やっぱりさっきのってテレポートだったのかなぁ、そしてスターキッドはうちがアポーツで呼び寄せたんだよ、きっとそうなんだよね、ごめんねまた迷惑掛けてしまって、でもうち超能力少女になっちゃったかも知れないわね… 謎が解けて安心したら凄く眠くなってきたわ、おやすみなさい」
「アイリーンちょっと床で寝ないで、私にどうしろって言うのですか」
アイリーンは床に猫の様に丸くなって完全に眠ってしまって寝言まで言っている。
「ベンガルのばかにゃろう… むにゃむにゃ」
ちなみにバスローブの下は裸のままだにゃ。




