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アイリーンは9歳だよ 1

 アイリーンがスターキッドを駆って一人でライフスターにやって来てから5年の月日が流れてる。

「起きて、おきてアイリーン起きて」

 バイオキッドの温もりのある手の平が優しくアイリーンの頬を包む。

「ううん~、あんたねー毎朝毎朝乙女の寝室に無断で立ち入って、分かってるうちがどれだけ嫌な思いをしているのか」

 本当はそれ程嫌ではないのだけど少しはきつく言っとかないと限りなく付け上がってくるから釘を刺しとかないとね。


挿絵(By みてみん)


「そのわりには清々しい目覚めをしてるし僕が起こした日は一日中調子が良いって言ってなかったですか」

(アイリーンは僕がバイオロイドの身体を貰ってから一緒に住むようになって(これも同棲って言うのかなあ)少し態度が固くなったような気がするんだ。去年の4月1日7才のアイリーンが初めて一人暮らしを始めたコンパートメントのドアをノックして君の前に立った僕に『あんた誰、何かご用ですか』って言ったんだよね。久しぶりに会えた君にそんな言葉を投げ掛けられた僕は凄く悲しくなったよ、だってエイプリルフールのサプライズで驚かしてやろうと人型思考のテストをたったの4ヶ月で全部終わらせて天にも昇る思いでやって来たってのに、不審者を見る目で僕を見るんだもの。地獄の釜にまっしぐらさ、まあ確かに驚かそうとしたんだからアイリーンは僕の事を知らなかったけれど…あれ?まあ仕方ないかそんな訳で僕はバイオロイドの身体を手に入れたスターキッドAIなのさ)

「キッド、ねえ、キッド聞こえている? キッドあなた人の体になってからボーッとしてる時が増えたんじゃない、人の心を知りたくて人間らしくなるのはいいけれどさAIとしてもちゃんと働いてよね、今の状態は全てオールグリーンでいいんだよねそして今日の予定にも変更はないよね、だったら朝食の準備をお願いしても良いかしら、その間にトイレ行ってくるから」

(いくら僕がバイオロイドの体を貰ったスターキッドAIだとしてもさあ、目の前で平然と着替えながら話し掛けないで欲しいな『あと少しで10才の乙女なんでしょう僕は確かに頼りないバイオロイドだと思うよ、だけど男なんだし少しくらい意識してくれてもいいんじゃないかなぁ』と、口に出して言いたい)

「ゴートさんから朝の身支度について、起床、トイレ、洗顔、朝食、歯磨きの順番を習慣にするようにって散々言われてたでしょう、先に顔を洗ったほうがいいと思いますよ」

(アイリーンがゴートさんの言うことには『ハイ』と真顔で返事をしてそれを実行しないのは特技のひとつに数えてもいいんじゃないかなあ)

「誰が考えても朝食の後に洗顔と歯磨きを一緒にしたほうが合理的でしょう、何で分かってくれないのか不思議よそれにもう細かい事を言うゴートさんはいないし、代わりにキッド君がいるけど可愛いだけだし」

(どうしてみんな自分の価値観が絶対正しいと思って押し通すのかなぁ、信じられないよ)

「僕の事は可愛いなんて言わずに男らしいと言って下さいとお願いしているのに、それと集団生活の中に身を置くのであれば皆と同じ行動をするのが合理的なのですよ、朝食はいつも通り、トースト、ハムエッグ、オレンジジュースで変更はないですよね」

 アイリーンがテーブルに着いたので朝食を並べてイスに座る。

 自分の前には水が入ったコップとウエハースが並んでいる。

(今朝は何だか食欲がないわね)

「何だか今日は1日中不機嫌な気分で過ごすんじゃないかって気がするわ」

 アイリーンがトーストを噛りながら呟く。

「たまにはそんな日も必要でしょう」

 バイオキッドがウエハースを噛りながら答える。

「毎日毎日お日様のように明るく振る舞っていたら、曇った時に天変地異の前触れじゃないかと皆が心配しても困りますからね」

「大袈裟すぎるわよ」

 バイオキッドがアイリーンの部屋で一緒に暮らすようになった時、食事をするのはアイリーン一人だけでそれをバイオキッドが羨ましそうに子犬のような目で見ていた。

『キッドは食べられないのよねエネルギー補充は何か別の方法を取ってるのよね、でも目の前でそんな物欲しそうな瞳で見つめられると喉を通らなくなるわダイエットには良いかも知れないけど』

 最初に食卓を挟んだ日にアイリーンが自分だけ食べて悪いわねって表情をしながら聞く。

『そんなに気になるほど物欲しそうな表情をしていますか』

 アイリーンの食べている姿を見ていて『幸せな気持ちってこんな感じなのか』なって噛み締めていただけなのに。

『今にもよだれを垂らしそうに見えるわね、一緒に食べないんだったら横を向くとか別の所へ行くとかしてもらえるかなぁ』

『えっ、一緒に食べても良いんですか『あなたはあくまでもスターキッドAIの端末バイオロイドとして生きていくのです。あまりアイリーンと馴れ馴れしくしてはダメですよ。自分を対等の人間と思い込んでしまうようになって面倒な事になりますからね』って僕を造ってくれた主任研究員のコウネリアさんに言われていたので、食事は一緒にしない方がいいと考えたんですけど』

『食べれるの?』

『嫌だなぁ僕がせんべい噛ってたのを見てるじゃないですか、まあ主食はビタミン剤にしてますけど』

(あれはせんべい噛ってたのか、何か別の事をしているのかと思っていたよ、はてな、せんべいならうちにも分けてくれて良かったんじゃない、たとえ一枚しかなくったってよ半分あげるわって分けてくれてもいいんじゃないかしら、それをキッドの奴め一人占めしやがったな)

『うちにも分けてくれたら良かったのに』

『アイリーンは太るから間食はしないって言っていたでしょう。だから隠れて食べてたんです。だけど直ぐ見つかってしまって、気まずくなるのが嫌で黙ってたんです』

『分かったわ今度から食事は一緒に取りましょうね、おやつも分けるのよ』

 そんなやり取りがあったのがずいぶん前のことみたいに感じてる。

「ほら、ウエハースの粉が散らばってるよ、もっと丁寧に食べなさいよね」

(バイオキッドは結構不器用なのかも知れないな、こいつは一人で今日の定期検査から無事に帰って来れるのだろうか少し心配になってきたんだけど)

「う~っ、やっぱり1人で食べようかなぁ」

 バイオキッドはアイリーンの近くで人間の感情をモニタリングしたいと考えていた。

 地球防衛基地のメインコンピューターアシュラとの共通の欲望に駆られて、アシュラと共に共謀して現在の状況を手中に収めたのだから本当は側にいたいのだけど、ひねくれた性格(アイリーンのせいだ!)なので直ぐにこんなことを言ってしまう。

「うちは別に構わないわよ、一人のほうが気楽だし、それにキッドがいつ目の前のコップを倒すんだろうと心配しながら食べてると消化に悪そうだわ」

 そう思い出すと今にもキッドの肘がコップをヒットしそうに思えてきたのでコップを動かす。

「ごめんなさい、もう我がまま言いませんから一緒に食べさせて下さい。それはそうとして今日の予定で夕方には久しぶりにスターキッド、僕の本体を操縦出来ますね、本当は宇宙域訓練も僕に乗ってすればいいんですよ」

 スターキッドは宇宙船キャメロットから地球防衛基地行動調査チーム専用小型艇溜まりに拠点を変更したので、もうキャメロット搭載艇とは呼べずアイリーンが勝手に光速宇宙艇スターキッドと呼んでいる。

 しかし現実にアイリーンの専属艇みたいになっているのも確かだ。

 スターキッドAIがアイリーンの言うことしか聞かない傾向が強くなってきたからなのだが、これは一部の人達に危機感を募らせる原因にもなっている。

「それは何回も聞いたし何回も同じ返事をしたわ、更に繰り返して言ってあげると経費とリスクを考えての事、練習機のほうがエネルギー消費と修理代が安いからよ、キッドも訓練中に大破なんかしたら嫌でしょう」

 キッドが大破するなんて想像もしたくないんだからね。

「そうですね、何回も聞きました僕の健康診断は午前9時からでしたね」

(こいつ強引に何回も話題の転換しやがって)

「そうね3ヶ月に1度の定期検査日だったわね今日で何回目かしら6回目かな」

(そう言えば地球防衛基地に来てからもう5年かぁ、早いものだな。最初の3年10ヶ月は宇宙船キャメロットの中でゴートさんにしごかれまくってたよな、辛かったけど今では本当に感謝しているし懐かしい思い出になつたよ。最初の頃に『光速飛行訓練に行ってきます』とか言って冥王星まで往復したのがゴートさんにバレて凄く怒られたのはキャメロットで生活するようになってから半年後だったかな。結局、冥王星のイノマン研究所はもぬけの殻だったんだけどね。思い返して良く考えると…考えなくても分らなくてはいけなかったのだけど、とても危険な行為だった訳なのね、あの時うちの頭からはレッドソックス?…レッドフラックスのサロメとその仲間たちの存在が完全に抜け落ちていたみたいなのね。そう、あの時うち達を襲ってドクターイノマンを引きずり出そうとした連中はレッドフラックスって名前の東の辺境宇宙最大の過激派組織だったんだって。あの時の痛みを忘れるためにまとめて記憶を封印してたんだわ。

 ドクターイノマンに会ってお兄ちゃんのことを聞かなくっちゃと思う気持ちだけが強く残ってて行動を起こしたんじゃないかって気がするの)

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